朝が来る前に、わたしは玲二の書斎にいた。今度は、招かれて。「兄を殺してなんかいない」玲二は窓の外、白み始めた空を見ていた。背を向けたまま。「アリバイがあるの?」「ある。完璧に」彼が振り返った。「だが七年前、お前の父親にも完璧なアリバイがあった。そしてそれは——握り潰された」部屋が、しんと冷えた。「同じ手口だ」玲二が言った。「アリバイを葬る。証拠を捏造する。検察を動かす。世論を作る。七年前、お前の父親を獄に送った"仕組み"が、寸分違わず、今、俺に向けられている」わたしは、机に広げた二つの事件記録を見比べていた。父の事件と、玲二の事件。骨格が、同じだった。「父を嵌めた人間と、あなたを嵌めようとしている人間は、同一」わたしは顔を上げた。「ようやく追いついたな」玲二が言った。「俺たちは、共犯者だ。澪」初めて、彼がわたしの名を呼んだ。そのとき、わたしのスマホが鳴った。非通知。「もしもし」声を変えてあった。低く、こもった、加工された声。だが聞き覚えがあった。『余計なことに、首を突っ込んでいるね。氷室の弁護なんて、おやめなさい。降りろ。さもなきゃ、お前も父親と同じ末路だ』通話が、切れた。わたしは答えられなかった。その声の、話し方に——わたしは、聞き覚えがあったからだ。加工された声の向こうにいたのは、見知らぬ敵ではなかった。七年前、父の葬儀で泣きじゃくるわたしの肩を抱いた、あの人の——声だった。
Last Updated : 2026-06-27 Read more