All Chapters of 魔法のシャーベットー昼間は歯科衛生士、夜はVTuberアイドルが溺愛彼氏が出来るまでー: Chapter 21 - Chapter 30

51 Chapters

第20話 街に流れた十五秒

デビュー配信まで、あと二日。「本日より放映開始です。」雅臣がスマートフォンを掲げた。街頭ビジョン広告。十五秒間だけ流れる、『魔法のシャーベット』のCMだった。「本当に始まるんだ……。」琴子は画面を見つめた。まだ実感が湧かない。玲司が腕時計を見る。「配信準備を優先するぞ。」「うん。」「今日は発声だけで終える。」「え?」雅臣が眉をひそめる。「もっと踊らせろよ。」「本番二日前だ。」玲司は落ち着いた口調で答える。「怪我をしたら終わりだ。」「……それもそうか。」珍しく雅臣が素直に引き下がった。その日の昼。琴子はいつものように歯科医院で患者さんを迎えていた。「こんにちは。」診療台へ案内したのは、三十代くらいの女性だった。クリーニングを終え、説明をしていると、女性が笑顔で話しかけてきた。「先生。」「はい?」「駅前の大型ビジョン見ました?」琴子の心臓が跳ねた。「え……?」「なんかね、アイドルのCMが流れてたんです。」「へぇ……。」必死に平静を装う。「すごく可愛かった!」「最近のVTuberってすごいですね。」「歌も少し流れてましたよ。」琴子は笑顔を崩さないように頑張った。「そうなんですね。」「私も今度見てみます。」患者さんが帰ったあと。「ふぅ……。」思わず大きく息を吐く。まだバレていない。でも、確実に近づいている。仕事が終わり、スタジオへ向かうと、真帆子が満面の笑みで飛びついてきた。「琴子ー!」「どうしたの?」「広告見たってコメントがいっぱい!」スマートフォンには、『駅前で見ました!』『デビュー楽しみ!』『歌が気になる!』そんなコメントが次々と届いていた。「本当だ……。」琴子の目が潤む。たった十五秒。それだけなのに、知らない誰かが自分たちを見つけてくれた。玲司は静かに画面を確認する。「予約数。」雅臣が得意げに胸を張る。「驚くなよ。」玲司が予約画面を開いた。『デビュー配信予約 258件』「えっ……。」琴子は言葉を失う。「二百……五十八?」真帆子は思わず琴子の手を握った。「夢じゃないよね?」「夢じゃない。」雅臣はニヤリと笑う。「広告は成功だ。」玲司も小さくうなずく。「だが、本当に勝負なのはここからだ。」「ここから?」「見に来る人を、次も見
last updateLast Updated : 2026-07-17
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第21話 配信前夜

デビュー配信まで、あと一日。「いよいよ明日だね。」真帆子は鏡の前で衣装を整えながら笑った。「うん。」琴子は返事をしたものの、どこか上の空だった。予約人数は二百五十八人。昨日まで嬉しかった数字が、今日は重たく感じる。(二百五十八人も見に来る……。)失敗したら。歌詞を忘れたら。声が震えたら。そんな不安ばかりが頭をよぎる。「琴子。」玲司が静かに声をかけた。「今日は練習はここまでだ。」「えっ?」「もう?」「明日に疲れを残すな。」「でも……。」「不安だから練習したいんだろ。」琴子は黙ってうなずいた。玲司は優しく笑う。「だからこそ終わり。」「今日は歌うより寝る。」「それも仕事だ。」その言葉に、琴子の肩から少し力が抜けた。「……はい。」その様子を見ていた雅臣が腕を組む。「相変わらず過保護だな。」「管理だ。」「恋人じゃあるまいし。」玲司は雅臣を見た。「お前は真帆子を甘やかしすぎだ。」「俺はスポンサーだからな。」「そういう問題じゃない。」二人が睨み合う。その空気を壊したのは真帆子だった。「あっ!」全員が振り向く。「明日のお菓子買ってない!」「……。」「配信終わったら食べようと思ってたの!」雅臣は思わず額を押さえる。「そこかよ!」「打ち上げは大事!」「今は配信だ!」「でも甘いもの食べたいもん!」スタジオに笑いが広がる。琴子もつられて笑ってしまった。さっきまで胸を締めつけていた緊張が、少しだけほどけていく。「ありがとう。」「え?」真帆子は首をかしげる。「なんでもない。」「変な琴子。」「ふふっ。」その時、玲司のスマートフォンが鳴った。「……。」画面を見た玲司の表情が少し変わる。「どうした?」雅臣が覗き込む。「コメントだ。」玲司は画面を二人へ向けた。『明日の配信、絶対見ます!』『仕事終わったらすぐ帰ります!』『すごく楽しみにしています!』『魔法のシャーベットに出会えてよかった。』琴子は画面を見つめたまま、小さく息をのんだ。まだ一曲も歌っていない。それなのに、待ってくれている人がいる。「……頑張ろう。」その一言に、真帆子は力強くうなずいた。「うん!」雅臣はニヤリと笑う。「派手にデビューしようぜ。」玲司は四人を見渡し、静かに言った。「明日は最高
last updateLast Updated : 2026-07-18
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第22話 夢の始まり

デビュー配信当日。琴子は朝から落ち着かなかった。歯科医院で患者さんのクリーニングを終えても、時計ばかり見てしまう。(今日なんだ……。)昼は歯科衛生士。夜はアイドル。ずっと憧れていた二つの世界が、今夜交わる。「先生、今日もありがとうございました。」「こちらこそ、ありがとうございました。」最後の患者さんを見送り、急いでロッカールームへ向かう。「お疲れさま!」真帆子も制服姿のまま笑顔で飛び込んできた。「終わった!」「うん!」二人は顔を見合わせ、小さく拳を合わせた。「行こう!」スタジオへ着くと、玲司がすでに機材を確認していた。「お疲れ。」「遅くなりました!」「時間どおりだ。」玲司は穏やかに微笑む。その一言だけで、不思議と緊張が和らいだ。一方、雅臣は腕を組みながらソワソワしていた。「まだ始まらねぇのか。」「スポンサーが一番落ち着きないね。」真帆子が笑う。「うるさい。」「だって待ちきれない。」「俺が見つけた才能だからな。」その言葉に琴子は少し照れた。「ありがとうございます。」「礼なら売れてからでいい。」雅臣は照れ隠しのようにそっぽを向く。玲司が時計を見た。「五分前。」スタジオの空気が一変する。マイク。照明。カメラ。配信用モニター。すべての準備が整った。玲司が二人の前に立つ。「ここまで本当によく頑張った。」「……。」「今日の配信は成功してもしなくても終わる。」「だから結果より、自分たちが楽しめ。」琴子は大きく息を吸う。「はい。」真帆子も元気よく返事をした。「はい!」配信開始、一分前。コメント欄には次々と文字が流れていく。『待機!』『いよいよ!』『広告から来ました!』『楽しみ!』『緊張する!』「見て……。」琴子の声が震えた。「こんなに……。」画面には、三百人を超える待機人数が表示されていた。昨日より増えている。玲司が小さく笑う。「君たちを待っていた人たちだ。」その言葉を胸に、琴子はマイクを握りしめた。そして、カウントダウンが始まる。「五。」「四。」「三。」「二。」「一。」配信開始――。画面が切り替わり、二人の姿が世界へ映し出された。「みなさん、こんばんは!」「魔法のシャーベットです!」その瞬間、コメント欄は一気に流れ始めた。『かわ
last updateLast Updated : 2026-07-19
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第23話 君だけの特等席

「配信終了です!」真帆子の元気な声と同時に、スタジオは拍手に包まれた。「お疲れさまでした!」コメント欄には、『最高だった!』『また来ます!』『歌で泣いた』『次の配信が待ち遠しい!』温かい言葉が次々と流れていく。琴子は画面を見つめながら、小さく笑った。「終わった……。」その瞬間だった。緊張の糸が切れたように、足元がふらつく。「きゃっ……。」倒れそうになった体を、大きな腕がそっと支えた。「大丈夫か。」玲司だった。「れ、玲司さん……。」「無理をしたな。」「すみません……。」「謝ることじゃない。」玲司は琴子を近くの椅子へ座らせる。「初配信でここまで歌えたんだ。」「十分すぎるくらい頑張った。」その優しい声に、琴子の胸は高鳴った。(近い……。)こんなに近くで見た玲司は、いつもより少しだけ柔らかい表情をしていた。「水、飲めるか?」「は、はい。」ペットボトルを受け取ろうとした瞬間。二人の指先が触れ合う。「……!」琴子は慌てて手を引っ込めた。「ご、ごめんなさい!」玲司は少し驚いた顔をしたあと、小さく笑う。「そんなに慌てなくてもいい。」その笑顔を見た瞬間、琴子の鼓動はさらに速くなった。(どうしよう……。)(最近、玲司さんを見るだけで……。)一方その頃。「真帆子!」雅臣が勢いよく近寄ってきた。「今日も最高だった!」「ほんと?」「もちろんだ。」「俺の見る目に間違いはなかった。」真帆子は照れくさそうに笑う。「えへへ、ありがとう!」「だから……。」雅臣は少しだけ声を落とした。「好きだ。」「うん!」真帆子は満面の笑みでうなずく。「私も雅臣好き!」雅臣の表情がぱっと明るくなる。しかし次の一言で固まった。「スポンサーとして!」「……。」「こんなに応援してくれる人、初めてだもん!」「…………。」玲司はその様子を見て、小さくため息をついた。「またか。」「まただ。」雅臣は天井を見上げる。「いつになったら伝わるんだ……。」真帆子は首をかしげた。「何が?」「いや、なんでもない……。」スタジオには笑い声が響いた。その夜。帰り道。玲司は琴子を駅まで送っていた。「今日はありがとう。」「こちらこそ。」少しだけ沈黙が流れる。「……琴子。」「はい?」「今日のお前は、誰
last updateLast Updated : 2026-07-19
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第24話 初めてのヤキモチ

初配信から三日。『魔法のシャーベット』の切り抜き動画は、少しずつ再生回数を伸ばしていた。「おはようございます!」琴子と真帆子はいつものように歯科医院へ出勤する。「昨日の配信、すごかったね!」真帆子が嬉しそうにスマートフォンを見せた。「コメントも増えてる!」琴子も画面をのぞき込み、思わず笑顔になる。「本当だ……。」その日の昼休み。「琴子先生。」受付スタッフが声をかけてきた。「はい?」「待合室の患者さんが、先生って歌上手そうって話してましたよ。」「えっ!?」心臓が跳ねる。「どうしてですか?」「なんとなく雰囲気がアイドルみたいって。」「そ、そうなんですね……。」琴子は苦笑いを浮かべながら胸をなで下ろした。(まだバレてない……。)仕事を終え、二人はスタジオへ向かう。「今日は新曲の打ち合わせだ。」玲司が資料を配る。「今回のテーマは『背中を押す歌』。」「歌詞は二人にも考えてほしい。」「私たちも?」「自分たちの言葉だからこそ届く。」琴子はうなずいた。(私の言葉で……。)その時、スタジオの扉が開いた。「失礼しまーす!」現れたのは人気女性インフルエンサーの美月だった。「今度コラボする美月さんだ。」雅臣が紹介する。「よろしくお願いします!」美月は気さくに笑い、玲司へ歩み寄る。「玲司さん、今日も頼りになりますね。」「ありがとうございます。」自然に会話を続ける二人。その様子を見た琴子は、胸が少しだけチクリと痛んだ。(……あれ?)どうしてだろう。玲司は仕事の話をしているだけ。それなのに、笑い合う姿が気になってしまう。「琴子?」真帆子が小声で耳打ちする。「どうしたの?」「え?」「さっきから玲司さんばっかり見てる。」「み、見てない!」「顔赤いよ?」「ち、違うもん!」慌てて否定する琴子。その反応を見て、真帆子はくすっと笑った。一方その頃。雅臣は真帆子の隣へ腰を下ろす。「真帆子。」「なぁに?」「今日も好きだ。」「ありがとう!」「私も好き!」雅臣の表情が一瞬明るくなる。「……配信仲間として!」「またそれか……。」肩を落とす雅臣に、玲司が静かに近づいた。「何回目だ。」「四回目。」「まだ四回か。」「まだって何だ。」玲司は珍しく口元を緩める。「百回くらい言えば伝わる
last updateLast Updated : 2026-07-20
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第25話 歌に込めた想い

デビュー配信から一週間。『魔法のシャーベット』のチャンネル登録者数は、毎日のように少しずつ増えていた。「三千人突破!」真帆子がスマートフォンを掲げる。「やったぁ!」「まだ始まったばかりだけど……。」琴子も嬉しそうに笑った。「一人ひとりが応援してくれてるんだね。」その日のレッスン後。玲司が一冊のノートを机へ置く。「今日は新曲の歌詞を考えてもらう。」「私たちが?」「そうだ。」「君たち自身の言葉が、一番心に届く。」琴子はゆっくりノートを開いた。何を書けばいいんだろう。歯科衛生士として働く毎日。夢を諦めた二十歳。そして今、もう一度夢を追いかけている自分。自然と、ペンが動き始めた。『お願い 助けてほしいのあなたが私に必要なのもう一度だけ夢を見てもいいですか──』「……。」書き終えた琴子は少し恥ずかしくなり、ノートを閉じようとした。「見せて。」玲司だった。「えっ!?」「まだ途中です!」「途中でもいい。」恐る恐るノートを差し出す。玲司は静かに最後まで読み終えると、小さく微笑んだ。「いい歌詞だ。」「本当に……?」「ああ。」「飾っていない。」「だから届く。」その一言だけで、琴子の胸はいっぱいになった。「ありがとうございます。」「自信を持て。」玲司は優しくノートを返した。その様子を少し離れた場所から見ていた真帆子は、にやりと笑う。「ねぇ雅臣。」「なんだ。」「玲司さん、琴子にだけ優しくない?」雅臣は腕を組んで苦笑した。「今さら気付いたのか。」「え?」「本人たちだけ気付いてない。」「えぇーっ!」真帆子は目を丸くする。「そうなの?」「そうだ。」「じゃあ付き合ってるの?」「いや、そこまではいってない。」「なんで?」「玲司が慎重すぎる。」「ふーん。」真帆子は納得したような、していないような顔で首をかしげた。雅臣はそんな姿を見つめながら笑う。「真帆子。」「なぁに?」「好きだ。」「ありがとう!」「私も好き!」雅臣は少し期待した表情になる。「……大切な仲間として!」「……また仲間か。」肩を落とす雅臣を見て、真帆子は不思議そうに笑った。「雅臣、最近落ち込むこと多くない?」「誰のせいだと思ってる。」「仕事忙しいもんね!」「……。」思わず天井を見上げる雅臣。そ
last updateLast Updated : 2026-07-21
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第26話 気づいてしまった気持ち

「お疲れさまでした!」レッスンが終わり、四人はスタジオのソファへ腰を下ろした。今日の練習は新曲。琴子が書いた歌詞をもとに、少しずつメロディーが形になってきていた。「このサビ、好き!」真帆子が目を輝かせる。「歌っていて元気になれる!」「ありがとう。」琴子は照れくさそうに笑った。玲司は譜面を閉じる。「この曲なら、きっとライブでも届く。」その一言に、琴子の胸が温かくなる。(また褒めてもらえた……。)自然と笑みがこぼれた。その様子を見た真帆子が、小さく肩をつつく。「ねぇ、琴子。」「ん?」「最近さ。」「玲司さんに褒められると、すっごく嬉しそう。」「えっ!?」琴子は慌てて真帆子の口をふさぐ。「しーっ!」「どうしたの?」「聞こえちゃう!」「聞こえたらダメなの?」「ダメ!」顔を真っ赤にする琴子を見て、真帆子はくすくす笑った。「やっぱり好きなんだ。」「ち、違う!」「違わないよ。」「だって顔が全部答えてるもん。」琴子は何も言い返せなかった。(……好き。)その言葉を頭の中で繰り返した瞬間、自分の気持ちをはっきり自覚してしまう。(私……玲司さんが好きなんだ。)胸が苦しくて、でも少しだけ嬉しかった。その頃、スタジオの外では。雅臣が缶コーヒーを片手に玲司へ話しかける。「お前さ。」「なんだ。」「いつまで我慢する?」玲司は苦笑した。「何の話だ。」「琴子ちゃんのこと。」「……。」返事はない。雅臣はニヤリと笑う。「否定しないってことは当たりか。」玲司は静かに夜空を見上げた。「大事だからこそ急げない。」「俺はマネージャーだ。」「立場を間違えたくない。」雅臣は肩をすくめる。「真面目すぎる。」「お前ならどうする。」「俺?」雅臣は即答した。「毎日好きって言う。」「それで伝わってないが。」「……。」玲司の一言が突き刺さる。「今日も言ったのか?」「ああ。」「結果は?」「『スポンサーとして大好き!』だった。」玲司は思わず吹き出した。「笑うな。」「悪い。」「でも、お前もそのうち笑えなくなるぞ。」「なぜだ。」「恋をすると、みんな不器用になる。」玲司は少しだけ目を細めた。「そうかもしれないな。」その頃。真帆子は帰り支度をしながら雅臣へ笑いかけた。「雅臣!」「ん?」「今
last updateLast Updated : 2026-07-24
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第27話 約束の新曲

デビュー配信から二週間。『魔法のシャーベット』の登録者数は少しずつ増え、コメント欄には常連の名前も並ぶようになっていた。『今日も癒やされた!』『次の新曲楽しみです!』『毎週金曜日が待ち遠しい!』琴子は画面を見つめながら、優しく微笑んだ。「同じ人がまた来てくれてる……。」玲司もうなずく。「一度見て終わりじゃない。」「また来たいと思ってもらえた証拠だ。」その言葉は、琴子の胸に深く響いた。「じゃあ……。」真帆子が勢いよく立ち上がる。「次はもっと喜んでもらいたい!」「そのために。」雅臣が机へ一枚の資料を置いた。「初のオリジナル楽曲を正式リリースする。」「えっ!?」二人は顔を見合わせた。「もう?」「もうだ。」雅臣は自信満々に笑う。「勢いは止めない。」「今しかない。」玲司も静かに続けた。「歌詞は琴子。」「振り付けのアイデアは真帆子。」「二人の作品にしよう。」琴子は驚きながらノートを抱きしめた。「私で……いいんですか?」「君だから頼む。」玲司の真っ直ぐな瞳に、琴子は力強くうなずく。「頑張ります。」その夜。レッスンが終わり、四人でコンビニへ向かった。「アイス食べたい!」真帆子が冷凍ケースをのぞき込む。「またか。」雅臣は笑いながら二つ手に取る。「ほら。」「わぁ!ありがとう!」「……好きだ。」「ありがとう!」「私も好き!」雅臣の口元がゆるむ。「……アイス買ってくれるスポンサーとして!」「またスポンサーか!」店内に雅臣の声が響き、真帆子はきょとんと首をかしげた。「違った?」玲司は思わず吹き出す。「今日は七回目。」「数えるな!」四人は笑いながら店を出た。帰り道。少しだけ前を歩く真帆子と雅臣。少し遅れて歩く琴子と玲司。夏の夜風が心地いい。「今日の歌詞。」玲司が口を開く。「楽しみにしている。」「プレッシャーです。」琴子は照れ笑いを浮かべた。「でも……。」「玲司さんに届く歌を書きたいです。」言った瞬間、自分でも驚いた。「えっ……。」思わず口を押さえる。(今、私……。)玲司は少し目を見開いたあと、優しく微笑んだ。「ありがとう。」「俺も、一番最初の読者になる。」その言葉だけで十分だった。琴子は胸がいっぱいになり、小さく笑う。(この人に聴いてもらいたい。)
last updateLast Updated : 2026-07-24
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第28話 君だけに聴いてほしい

「できました。」琴子は一冊のノートを玲司へ差し出した。仕事が終わったあと。歯科医院からそのままスタジオへ向かい、何度も書き直した歌詞だった。玲司は静かにページをめくる。スタジオには誰も話さない時間が流れた。その数分が、琴子には何時間にも感じられる。(どうしよう……。)(もしダメだったら。)不安で胸がいっぱいになる。「……。」玲司は最後のページまで読み終えると、ゆっくりノートを閉じた。「琴子。」「はい。」「君は、どうしてこの歌を書いた?」突然の質問だった。琴子は少し考えてから、小さく笑った。「最初は……。」「夢のためでした。」「でも。」「今は違います。」玲司は静かに続きを待つ。「応援してくれる人。」「真帆子。」「雅臣さん。」「そして……。」琴子は玲司を見つめた。「玲司さんに、聴いてほしかった。」その一言に、玲司は目を見開く。「一番最初に。」「一番近くで。」「この歌を聴いてほしいって思いました。」静かな沈黙。やがて玲司は優しく微笑んだ。「ありがとう。」「君の歌は届く。」「必ず。」その言葉だけで十分だった。琴子の瞳に涙が浮かぶ。「泣くな。」玲司はハンカチを差し出す。「……はい。」その様子を、少し離れた場所から見ていた二人。「雅臣。」「なんだ。」「やっぱりあの二人、お似合いだよね。」真帆子は嬉しそうに笑う。「そうだな。」雅臣は苦笑した。「でも、まだ付き合ってない。」「えー?」「早く付き合えばいいのに。」「簡単じゃない。」「恋って難しいんだよ。」真帆子は腕を組んで考え込む。「ふーん。」「じゃあ雅臣。」「ん?」「好きって言ってみたら?」「……。」「毎日言ってる。」「えっ!?」真帆子は驚いて目を丸くした。「誰に?」「お前。」「私?」「そう。」真帆子は首をかしげる。「知らなかった。」雅臣は思わず頭を抱えた。「知らなかったのかよ……。」「だってスポンサーとして応援してくれてるのかと。」「違う!」「俺は男として好きなんだ!」スタジオが静まり返る。「……え?」真帆子は固まった。玲司と琴子も驚いて振り返る。雅臣は自分の口を押さえた。(しまった。)勢いで、本音を言ってしまった。真帆子は頬を赤くしながら、小さくつぶやく。「……そう
last updateLast Updated : 2026-07-25
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第29話 初めての告白

「俺は男として好きなんだ!」スタジオに響いた雅臣の声。誰も動けなかった。「……え?」真帆子は目をぱちぱちさせる。「男として……?」「そうだ。」雅臣は観念したように笑った。「スポンサーだから応援してたんじゃない。」「最初に会った日から、お前に惹かれてた。」真帆子は頬を赤く染める。「え、えっと……。」「ごめん。」「今すぐ返事はいらない。」「ただ、知っていてほしかった。」そう言って雅臣は少しだけ照れくさそうに笑った。その笑顔を見た真帆子の胸が、ドキンと鳴る。(なんだろう……。)(このドキドキ。)いつもとは違う。いつもなら「ありがとう!」と笑って終わるはずなのに。今日は言葉が出てこない。玲司は静かにその様子を見守っていた。「……。」琴子が小声で尋ねる。「玲司さん。」「はい。」「真帆子、大丈夫でしょうか。」玲司は優しく微笑む。「恋は急がなくていい。」「答えは、自分の心が教えてくれる。」その言葉に、琴子は玲司を見つめる。(私の心も……。)帰り道。珍しく真帆子は静かだった。「どうした?」琴子が隣を歩く。「ねぇ、琴子。」「うん?」「好きって言われると……あんなにドキドキするんだね。」琴子の足が止まる。「え?」「私ね。」「今日初めて、雅臣を男の人として見ちゃった。」その一言に、琴子は思わず笑みをこぼした。「そっか。」「恋って急に始まるんだね。」真帆子は自分の胸へそっと手を当てる。「ここがずっとドキドキしてる。」「どうしたらいいんだろう。」「そのままでいいと思う。」琴子は優しく答えた。「焦らなくていい。」「真帆子らしく答えを見つければ。」「うん!」ようやく真帆子に笑顔が戻る。その頃。玲司と雅臣は自動販売機の前にいた。缶コーヒーを開けながら、玲司が口を開く。「勢いで言ったな。」「ああ。」「後悔してるか?」雅臣は少し考え、首を横に振った。「いや。」「伝えられてよかった。」「返事は怖いけどな。」玲司は静かに笑う。「お前らしい。」「お前は?」雅臣が聞き返す。「いつ告白する。」玲司は夜空を見上げた。「まだだ。」「琴子には、まず夢を叶えてほしい。」「その隣に俺がいられたら、それでいい。」雅臣は苦笑した。「本当に不器用だな。」「お互い様だ。」二
last updateLast Updated : 2026-07-26
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