デビュー配信まで、あと二日。「本日より放映開始です。」雅臣がスマートフォンを掲げた。街頭ビジョン広告。十五秒間だけ流れる、『魔法のシャーベット』のCMだった。「本当に始まるんだ……。」琴子は画面を見つめた。まだ実感が湧かない。玲司が腕時計を見る。「配信準備を優先するぞ。」「うん。」「今日は発声だけで終える。」「え?」雅臣が眉をひそめる。「もっと踊らせろよ。」「本番二日前だ。」玲司は落ち着いた口調で答える。「怪我をしたら終わりだ。」「……それもそうか。」珍しく雅臣が素直に引き下がった。その日の昼。琴子はいつものように歯科医院で患者さんを迎えていた。「こんにちは。」診療台へ案内したのは、三十代くらいの女性だった。クリーニングを終え、説明をしていると、女性が笑顔で話しかけてきた。「先生。」「はい?」「駅前の大型ビジョン見ました?」琴子の心臓が跳ねた。「え……?」「なんかね、アイドルのCMが流れてたんです。」「へぇ……。」必死に平静を装う。「すごく可愛かった!」「最近のVTuberってすごいですね。」「歌も少し流れてましたよ。」琴子は笑顔を崩さないように頑張った。「そうなんですね。」「私も今度見てみます。」患者さんが帰ったあと。「ふぅ……。」思わず大きく息を吐く。まだバレていない。でも、確実に近づいている。仕事が終わり、スタジオへ向かうと、真帆子が満面の笑みで飛びついてきた。「琴子ー!」「どうしたの?」「広告見たってコメントがいっぱい!」スマートフォンには、『駅前で見ました!』『デビュー楽しみ!』『歌が気になる!』そんなコメントが次々と届いていた。「本当だ……。」琴子の目が潤む。たった十五秒。それだけなのに、知らない誰かが自分たちを見つけてくれた。玲司は静かに画面を確認する。「予約数。」雅臣が得意げに胸を張る。「驚くなよ。」玲司が予約画面を開いた。『デビュー配信予約 258件』「えっ……。」琴子は言葉を失う。「二百……五十八?」真帆子は思わず琴子の手を握った。「夢じゃないよね?」「夢じゃない。」雅臣はニヤリと笑う。「広告は成功だ。」玲司も小さくうなずく。「だが、本当に勝負なのはここからだ。」「ここから?」「見に来る人を、次も見
Last Updated : 2026-07-17 Read more