All Chapters of 魔法のシャーベットー昼間は歯科衛生士、夜はVTuberアイドルが溺愛彼氏が出来るまでー: Chapter 31 - Chapter 40

51 Chapters

第30話 初めて名前を呼んだ夜

「真帆子。」雅臣は駅まで送る帰り道、小さく彼女の名前を呼んだ。「なぁに?」真帆子はいつもと変わらない笑顔を向ける。でも、その笑顔を見るたびに胸が苦しくなる。(もうスポンサーとしては見られたくない。)「この前の返事。」「急がなくていい。」「ゆっくり考えてくれ。」真帆子は少しだけ歩く速度を落とした。「……うん。」「ありがとう。」その声は、いつもより少しだけ小さかった。初めて、雅臣を一人の男性として意識してしまったから。その頃。スタジオでは、玲司と琴子が新曲のレコーディングを続けていた。「もう一度サビだけ。」「はい。」琴子はマイクの前に立つ。目を閉じ、玲司だけを思い浮かべながら歌う。『あなたに届けたい──』『この歌も、この気持ちも。』歌い終えた瞬間。ガラス越しに玲司と目が合った。玲司は静かに拍手を送る。「今のテイクだ。」「えっ?」「今の歌が一番よかった。」「本当ですか?」「ああ。」「想いがちゃんと乗っていた。」その言葉だけで、琴子は胸がいっぱいになる。「ありがとうございます。」レコーディングが終わる頃には、夜十時を過ぎていた。「遅くなったな。」玲司が時計を見る。「送る。」「えっ、大丈夫です!」「夜道は危ない。」「……はい。」二人は並んで歩き始めた。夏の夜風が心地よい。「今日はありがとうございました。」「歌詞も歌も。」「君だから書けた曲だ。」琴子は照れくさそうに笑う。「玲司さん。」「ん?」「私……。」言葉が喉まで出かかった。(好きです。)その一言だけが言えない。代わりに出たのは、違う言葉だった。「これからも、一緒に頑張りたいです。」玲司は優しく微笑む。「ああ。」「俺もだ。」その笑顔を見た瞬間。琴子の胸はまた大きく高鳴る。(やっぱり好き。)もう、ごまかせなかった。その頃。駅前のベンチでは、真帆子が一人夜空を見上げていた。「男として……好き。」雅臣の言葉を何度も思い出してしまう。「なんでこんなにドキドキするんだろう。」胸に手を当てる。するとスマートフォンが震えた。雅臣からのメッセージだった。『今日はありがとう。返事は急がなくていい。でも、おやすみくらいは送ってくれ。』思わず真帆子は笑ってしまう。『おやすみ、雅臣😊』送信ボタンを押
last updateLast Updated : 2026-07-27
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第31話 手を伸ばせば、届きそうなのに

「おはようございます!」翌朝。琴子は事務所へ入るなり、玲司の姿を探してしまった。(昨日の帰り道……。)「俺もだ。」たった四文字。それだけなのに、何度思い返しても胸が熱くなる。「おはよう。」不意に後ろから声がした。「ひゃっ!」振り返ると、コーヒーを片手にした玲司が立っていた。「そんなに驚くか?」「す、すみません!」「考え事をしていて……。」玲司は少しだけ笑う。「今日の撮影、よろしくな。」「はい!」その笑顔を見るだけで、琴子の一日が始まる。その頃、隣の控室では——。「雅臣さん、おはようございます。」真帆子がぎこちなく頭を下げる。「おはよう。」雅臣はいつも通り笑うが、どこか嬉しそうだった。「昨日、おやすみ送ってくれてありがとう。」「えっ……。」「すごく嬉しかった。」真帆子の顔が一気に赤くなる。「そ、それくらい普通ですよ!」「俺には普通じゃなかった。」さらりと言われ、真帆子は何も返せなくなる。(またドキドキしてる……。)スタッフが声をかけた。「撮影始めます!」今日の企画は、夏限定シャーベットのCM撮影だった。四人は並んで立ち位置につく。「はい、もっと距離を近づけてください!」カメラマンの指示が飛ぶ。「えっ。」琴子は玲司との距離が急に縮まり、思わず息を止めた。肩が触れそうなくらい近い。「大丈夫か。」玲司が小さな声で尋ねる。「は、はい……。」近すぎる。香水ではない、玲司の優しい香りがふわりと届く。(無理……心臓がもたない。)一方。「雅臣さんも、真帆子さんの肩に軽く手を。」「了解。」「えっ!?」雅臣の手が、そっと真帆子の肩へ。「これくらいか?」「は、はい……。」真帆子は固まったまま動けない。「自然に見つめ合ってください!」「見つめ合う?」雅臣は迷わず真帆子を見つめる。真帆子も視線を返した瞬間——。「……っ!」先に目を逸らした。「真帆子。」「はい!」「俺は逃げないぞ。」その一言に、胸がまた高鳴る。撮影は無事終了した。スタッフたちはモニターを見ながら歓声を上げる。「この二組、恋人みたい!」「すごく空気感がいい!」その言葉に、琴子と真帆子は顔を真っ赤にした。玲司は静かに咳払いをし、雅臣は満足そうに笑っている。誰も口にはしない。でも。手を伸ばせ
last updateLast Updated : 2026-07-28
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第32話 恋人みたい、だなんて

CM撮影から数日後。魔法のシャーベットの公式Xに、新しい動画が公開された。『夏限定シャーベットCM』公開からわずか数時間。「すごい!」真帆子がスマートフォンを見つめながら声を上げる。「もう十万再生ですよ!」「コメントもいっぱい!」琴子も画面を覗き込む。『本物の恋人みたい。』『黒髪マネージャーと琴子ちゃん、お似合いすぎる!』『スポンサーさん、真帆子ちゃん見る目が優しすぎる。』『この二組、本当に付き合ってる?』そのコメントを見た瞬間。「ぶっ!」真帆子が思わず吹き出した。「つ、付き合ってません!」誰に言うでもなく否定する。その様子を見て、雅臣が肩を揺らして笑う。「残念だな。」「まだ、だから。」「ま、まだ!?」「そこ否定してください!」顔を真っ赤にする真帆子に、スタッフまで笑い始めた。一方。玲司は静かにコメント欄を見つめていた。『琴子ちゃんを見る目が甘すぎる。』『あの視線、演技じゃないよね?』(……鋭いな。)思わず苦笑する。隣に立つ琴子も、同じコメントを見つけてしまった。「あっ……。」二人の間に、少しだけ気まずい沈黙が流れる。「気にしなくていい。」玲司は穏やかに言った。「見ている人は自由に想像する。」「でも。」「それだけ自然な映像だったってことだ。」その言葉に、琴子は小さく笑う。「そうですね。」午後。四人は次回ライブの打ち合わせをしていた。「次はファン参加型企画にしましょう!」真帆子が元気よく提案する。「恋愛相談コーナーとか!」「却下。」玲司が即答した。「えぇー!」「恋愛相談は炎上しやすい。」「現実的……。」雅臣は腕を組みながら笑う。「でも面白そうだ。」「俺は恋愛相談、受けるぞ。」「雅臣さん!」真帆子が慌てる。「絶対ダメです!」「なんで?」「だって……。」(本人が一番恋愛してるじゃないですか。)その言葉は胸の中だけにしまった。打ち合わせが終わり、帰る支度をしていると。「琴子。」玲司が静かに呼び止めた。「少し寄り道しないか。」「え?」「見せたい場所がある。」突然の誘いに、琴子の心臓が大きく跳ねる。「……はい。」その様子を見送る真帆子。「デートみたい。」小さく呟くと、隣から雅臣の声がした。「じゃあ俺たちも行くか。」「どこへ?」「デー
last updateLast Updated : 2026-07-28
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第33話 二人だけの寄り道

「見せたい場所がある。」玲司にそう言われた琴子は、小さく頷いた。事務所を出る頃には、街は夕暮れから夜へと色を変え始めていた。「どこへ行くんですか?」「着いてからのお楽しみだ。」玲司は穏やかに笑う。その横顔を見ているだけで、琴子の胸は落ち着かない。(これって……本当に寄り道だけ?)電車を降り、少し歩く。辿り着いたのは、小高い丘の上にある展望公園だった。眼下には、街中の灯りが宝石のように輝いている。「わぁ……!」琴子は思わず息を呑んだ。「綺麗……。」「ここは、俺が行き詰まった時によく来る場所なんだ。」玲司は夜景を見つめながら静かに話し始めた。「仕事で迷った時も。」「自分を見失いそうになった時も。」「ここへ来ると、不思議と前を向ける。」そんな弱音にも似た言葉を聞いたのは初めてだった。いつも冷静で、何でも完璧にこなす玲司。そんな彼にも、苦しい時間があったのだと知る。「玲司さんでも……迷うことがあるんですね。」「ああ。」「人間だからな。」少し照れたように笑う玲司を見て、琴子も笑みをこぼした。「安心しました。」「私だけじゃないんですね。」玲司は琴子を見つめる。「君はどうだ?」「夢は怖くないか?」突然の問いに、琴子は夜景へ視線を戻した。「怖いです。」「歌が届かなかったらどうしよう。」「誰にも必要とされなかったらどうしようって……毎日考えます。」その声は少し震えていた。すると玲司は、優しく言った。「大丈夫。」「君の歌は届く。」「俺が保証する。」その一言だけで、琴子の瞳に涙が滲んだ。「ありがとうございます……。」風が吹き、琴子の髪が揺れる。玲司は反射的に髪をそっと耳へかけようとして——「あ……。」手を止めた。(危ない。)マネージャーとして越えてはいけない一線。理性が彼を引き戻した。その仕草だけで、琴子の鼓動は跳ね上がる。(今……触れようとしてくれた?)二人は何も言えないまま夜景を見つめる。手を伸ばせば届く距離。でも、誰もその一歩を踏み出せない。その頃。「ねぇ雅臣さん!」真帆子はスーパーで買い物袋を抱えながら歩いていた。「スポンサーなのに荷物持たせちゃって、ごめんなさい!」「気にするな。」雅臣は軽々と袋を持ち上げる。「好きな女の荷物くらい持つ。」「またそういうこと
last updateLast Updated : 2026-07-29
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第34話 触れられなかった指先

展望公園からの帰り道。玲司と琴子は並んで歩いていた。さっきまで話していたはずなのに、不思議なくらい静かだった。沈黙が気まずいわけではない。むしろ心地いい。そんな時間だった。「今日は……ありがとうございました。」琴子が小さく頭を下げる。「あの場所、本当に素敵でした。」「気に入ってくれたならよかった。」玲司は穏やかに微笑む。「また行きたいです。」その一言に、玲司の胸が静かに高鳴る。「そうだな。」「機会があれば。」その"機会"が仕事なのか、それとも二人きりなのか。互いに聞くことはできなかった。駅へ向かう途中。突然、強い風が吹き抜ける。「あっ!」琴子の帽子が風にさらわれた。歩道へ転がっていく帽子。その先には、自転車が走ってきていた。「危ない!」玲司は反射的に琴子の腕を引き寄せる。ふわり、と身体が玲司の胸へ倒れ込んだ。「……っ!」二人の距離が、一気に縮まる。玲司の腕の中。鼓動が聞こえそうなくらい近い。「大丈夫か。」低く優しい声。「は、はい……。」琴子は顔を真っ赤にしながら頷いた。玲司はすぐに身体を離す。「すまない。」「いや、その……。」「反射で。」帽子を拾い上げると、何事もなかったように琴子へ差し出した。「ありがとう……ございます。」帽子を受け取る指先が、一瞬だけ触れ合う。ほんの一秒。それだけなのに。二人とも、時間が止まったような気がした。「じゃあ、また明日。」玲司は照れ隠しのように背を向ける。「はい!」琴子は大きく手を振った。玲司の姿が見えなくなるまで。その夜。ベッドへ入っても眠れない琴子は、今日の出来事を思い返していた。(腕を引いてくれた。)(守ってくれた。)胸へ手を当てる。「もう……。」「好き。」誰にも聞こえないように、小さく呟く。一方。雅臣は真帆子へ一本の電話をかけていた。「もしもし?」『雅臣さん?』「明後日の休み、空いてるか?」「え?」『空いてますけど……。』「買い物に付き合ってほしい。」「仕事ですか?」「半分仕事。」「半分は?」少しだけ間が空く。「デート。」『えぇぇぇ!?』電話の向こうで真帆子の大きな声が響いた。雅臣は思わず笑う。「冗談……半分な。」「半分なんですか!」「全部冗談とは言ってない。」「もう!」真帆
last updateLast Updated : 2026-07-29
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第35話 はじめての休日

「デート。」雅臣のその一言が、真帆子の頭から離れなかった。迎えた休日。待ち合わせ場所へ向かう真帆子は、鏡の前で何度も服を着替えていた。「仕事……だよね。」そう自分に言い聞かせながら選んだのは、淡いラベンダー色のワンピース。「お待たせしました!」待ち合わせ場所には、私服姿の雅臣が立っていた。「待ってない。」そう言いながらも、目を細める。「その服、似合ってる。」「ありがとうございます!」褒められただけなのに、胸がくすぐったい。「今日は新しいライブ衣装の小物を見に行く。」「だから半分仕事。」「もう半分は?」真帆子が恐る恐る尋ねる。雅臣は少しだけ笑った。「君と過ごす時間。」その一言に、真帆子は固まった。「またそういうこと言う!」「本当だからな。」逃げるように歩き出す真帆子を、雅臣は楽しそうに追いかけた。ショッピングモールでは、アクセサリーショップへ入る。「このイヤリング、琴子ちゃんに似合いそう。」「こっちは玲司向きかな。」真帆子は楽しそうに選び始める。そんな姿を、雅臣は優しく見つめていた。「雅臣さん?」「どうしたんですか?」「いや。」「君は人のことばかり考えるんだな。」「え?」「自分の欲しい物は?」そう聞かれ、真帆子は少し困ったように笑う。「私は……。」「みんなが喜んでくれたら、それで十分です。」その言葉に、雅臣は小さくため息をついた。「それじゃ駄目だ。」「え?」「君自身も幸せにならないと。」真帆子は返事ができなかった。そんなことを言われたのは初めてだった。買い物を終えた帰り道。二人は噴水広場のベンチに腰を下ろす。子どもたちの笑い声。風に揺れる木々。穏やかな時間が流れていた。「真帆子。」雅臣が静かに呼ぶ。「俺は待つ。」「返事を急がせるつもりはない。」「でも。」「好きな気持ちは変わらない。」真っ直ぐな瞳だった。冗談ではない。本気だからこそ、逃げ道を作ってくれている。真帆子は胸に手を当てた。ドキドキが止まらない。「……ありがとうございます。」今は、それしか言えなかった。一方その頃。玲司は一人、事務所でライブ資料を整理していた。そこへ琴子が差し入れを持って現れる。「玲司さん、お疲れさまです。」「休みなのに来たのか?」「はい。」「一人で頑張ってると
last updateLast Updated : 2026-07-29
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第36話 二人きりの事務所

休日の午後。静かな事務所に、コーヒーの香りが広がっていた。「玲司さん、お疲れさまです。」琴子が差し入れを机に置く。「ありがとう。」玲司は資料から顔を上げ、小さく微笑んだ。「せっかくの休みなのに。」「ゆっくりしていればよかったのに。」琴子は首を横に振る。「家にいても、ライブのことばかり考えちゃって。」「だったら、お手伝いしたいなって。」その言葉に玲司は少し驚いたような表情を見せた。「……君らしいな。」二人は並んで、ライブのパンフレットやセットリストを確認していく。「この曲順なら、最後は新曲ですね。」「ああ。」「観客の余韻を残したい。」真剣に話し合う時間は、仕事のはずなのに不思議と楽しかった。夕方になり、作業も一段落する。「少し休憩しよう。」玲司が冷凍庫から試作品のシャーベットを取り出した。「新作ですか?」「まだ試食段階だけどな。」淡いミントブルーのシャーベット。スプーンを口へ運ぶと、ひんやりとした甘さが広がった。「おいしい……。」琴子が目を輝かせる。「どこか懐かしい味がします。」「子どもの頃、夏祭りで食べたアイスみたい。」玲司は嬉しそうに頷いた。「それを目指した。」「夢を思い出せる味。」その瞬間。シャーベットがほのかに光を放つ。「えっ?」琴子が目を丸くした。魔法のシャーベット。心が素直になった時だけ、小さな魔法を見せる不思議なデザート。ふわり、と涼しい風が吹き抜ける。「綺麗……。」思わず笑顔になる琴子。その笑顔を見つめながら、玲司は心の中で呟く。(その笑顔を、ずっと守りたい。)しかし口には出さない。今はまだ、マネージャーとして支える立場だから。その頃。「雅臣さん、これどうですか?」真帆子はライブ衣装に合わせるブレスレットを手に取っていた。「似合う。」雅臣は即答する。「でも。」「俺は何も着けていない君も好きだ。」「もう!」真帆子は思わず笑ってしまう。「そんなに毎日好きって言って、疲れません?」「疲れない。」「本当のことだから。」照れながらも笑い合う二人。以前のようなぎこちなさは、少しずつ消えていた。夜。帰り際、事務所の玄関で玲司が空を見上げる。「星が綺麗だ。」琴子も隣に立つ。「本当ですね。」肩が触れそうで触れない距離。でも、その沈黙は心地よ
last updateLast Updated : 2026-07-29
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第37話 願いを映す星空

「星が綺麗だ。」玲司のその一言に、琴子は夜空を見上げた。都会では珍しいほど、たくさんの星が瞬いている。「本当ですね。」二人は事務所の前で並んだまま、しばらく空を眺めていた。言葉はなくても、不思議と居心地がいい。「昔。」玲司が静かに口を開く。「歌手を目指していた友人がいた。」「えっ?」「才能はあった。でも、夢を諦めた。」その横顔は少し寂しそうだった。「その時思ったんだ。」「夢を追う人を支える仕事も、悪くないって。」だからマネージャーになった。その言葉を聞き、琴子は玲司の想いの深さを知る。「玲司さんは……。」「誰かの夢を叶えるために、この仕事を選んだんですね。」玲司は照れくさそうに笑う。「そんな立派なものじゃない。」「でも今は。」「君たち四人の夢を叶えたい。」その言葉が胸に染みる。琴子は思わず小さく呟いた。「ありがとうございます。」「私、もっと頑張ります。」「ライブ、絶対成功させます。」玲司は優しく頷いた。「ああ。」「一緒に成功させよう。」その"一緒に"という言葉だけで、琴子は十分幸せだった。翌日。事務所ではライブリハーサルが始まっていた。「ワン、ツー、スリー!」ダンス講師の掛け声に合わせ、四人がステップを踏む。「真帆子、笑顔!」「は、はい!」「琴子、ターンをもう少し大きく!」「はい!」何度も繰り返すうちに、額には汗が滲んでいた。休憩時間。「はい。」雅臣がスポーツドリンクを差し出す。「ありがとうございます!」真帆子は受け取ると、一口飲んで大きく息を吐いた。「疲れた?」「でも楽しいです!」その笑顔を見て、雅臣も自然と笑う。「その笑顔なら、本番も大丈夫だ。」「本当ですか?」「ああ。」「俺が保証する。」少し離れた場所で、その様子を見ていた玲司が小さく笑った。「雅臣。」「なんだ?」「最近、顔が緩みすぎだ。」「お互い様だろ。」「……。」玲司は否定できなかった。「玲司さん?」琴子が首を傾げる。「何でもない。」そう言って視線を逸らす玲司を見て、雅臣は肩を揺らして笑う。「恋する男は大変だな。」「うるさい。」珍しく言い返した玲司に、事務所は笑いに包まれた。その夜。ライブまで、あと一週間。期待と不安を胸に抱えながら、それぞれが帰路につく。誰も知らない。
last updateLast Updated : 2026-07-29
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第38話 ライブまで、あと7日

「ライブまで、あと一週間か。」事務所のホワイトボードに書かれた文字を見つめながら、琴子は大きく息を吸った。ついに、この日が近づいてきた。デビューライブ。夢だったステージ。「緊張してる?」隣に立った真帆子が笑顔で尋ねる。「少しだけ。」「……嘘。」「すごく緊張してる。」そう言うと、真帆子はくすっと笑った。「実は私も。」「昨日なんて眠れなくて。」「えっ!」「羊を百匹数えても眠れなかったよ。」「それ、逆に目が冴えません?」二人は顔を見合わせて笑う。その様子を少し離れた場所から見ていた玲司が、小さく頷いた。「笑えているなら大丈夫だな。」雅臣も腕を組みながら言う。「本番で笑える奴は強い。」「でも。」玲司は真剣な表情になった。「今日からリハーサルは本番と同じ気持ちでやる。」「照明。」「立ち位置。」「MC。」「全部、本番仕様だ。」「はい!」四人の返事が事務所に響く。最初の通しリハーサルが始まった。新曲。デビュー曲。そして最後の挨拶まで。本番を想定して、一つひとつ確認していく。しかし——。「止めよう。」玲司の声で音楽が止まった。「琴子。」「サビで半拍早い。」「すみません!」「真帆子。」「最後の笑顔が少し硬い。」「はい!」厳しい。だけど、その言葉に責めるような響きはない。もっと良くなると信じているからこその指摘だった。休憩時間。「はい。」玲司が琴子へ一本のスポーツドリンクを渡す。「ありがとうございます。」「無理はするな。」「緊張すると呼吸が浅くなる。」「歌う前は深呼吸を。」「……はい。」その優しさに、琴子の肩の力が少し抜けた。一方、真帆子は床へ座り込んでいた。「はぁ……。」「笑顔って難しい。」すると雅臣が目の前へしゃがみ込む。「一つだけ教えてやる。」「本番で笑おうとするな。」「え?」「客を楽しませたいと思え。」「そうすれば自然に笑える。」その言葉に、真帆子は目を丸くした。「なるほど……!」「ありがとうございます!」「素直だな。」雅臣は頭をぽん、と軽く撫でる。「わっ!」突然のことに真帆子は固まった。「ご、ご褒美だ。」「子ども扱いしないでください!」顔を真っ赤にしながら抗議する真帆子を見て、雅臣は楽しそうに笑う。その光景を見た琴子も思わず笑
last updateLast Updated : 2026-07-29
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第39話 届けたい、この歌を

ライブ本番まで、あと六日。事務所には朝早くから、多くのスタッフが集まっていた。「おはようございます!」琴子と真帆子が元気よく挨拶をすると、スタッフたちも笑顔で応える。「おはよう!」「今日もよろしく!」今まで見えていなかった景色が、少しずつ見え始めていた。ステージの上に立つのは四人だけ。でも、その舞台を支えている人は何十人もいる。「照明チェック入りまーす!」「音響、マイク一本お願いします!」「映像データ確認完了!」あちこちから飛び交う声。インカム越しに連携するスタッフたち。その姿に、琴子は思わず足を止めた。「こんなにたくさんの人が……。」玲司が静かに頷く。「ライブは、アイドルだけじゃ作れない。」「照明。」「音響。」「舞台監督。」「映像。」「ヘアメイク。」「衣装。」「受付。」「物販。」「警備。」「誰か一人欠けても成り立たない。」琴子はゆっくり周囲を見渡した。誰も目立とうとしていない。それでも全員が、最高のライブを作るために動いている。「歯科医院と同じ……。」思わず口からこぼれた。「え?」真帆子が振り返る。「患者さんから見えるのは先生だけかもしれない。」「でも、その裏では歯科衛生士さんや受付さん、助手さんが支えてる。」「誰が欠けても診療は回らない。」玲司は優しく微笑んだ。「だから君たちは、そのことに気づけるんだな。」その言葉が嬉しかった。昼休み。琴子はスタッフルームへ向かった。「いつもありがとうございます。」差し入れのお菓子を机へ置く。「ライブ、よろしくお願いします。」一人ひとりへ頭を下げる琴子。「こちらこそ!」「当日は最高の照明にするから!」「泣ける映像を流しますよ!」笑いながら応えるスタッフたち。その様子を遠くから見ていた玲司は、小さく笑った。「やっぱり君は、人の心を掴むのが上手い。」一方。雅臣はスポンサー席ではなく、舞台裏を歩いていた。「困っていることはありませんか?」スタッフ一人ひとりへ声をかける。「ケータリング、足りてますか?」「休憩は取れてます?」舞台監督が苦笑する。「スポンサーなのに、現場監督みたいですね。」雅臣も笑った。「いいライブは、裏方が笑顔じゃないと作れませんから。」その言葉を聞いた真帆子は、胸が温かくなる。(だから、この
last updateLast Updated : 2026-07-29
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