「真帆子。」雅臣は駅まで送る帰り道、小さく彼女の名前を呼んだ。「なぁに?」真帆子はいつもと変わらない笑顔を向ける。でも、その笑顔を見るたびに胸が苦しくなる。(もうスポンサーとしては見られたくない。)「この前の返事。」「急がなくていい。」「ゆっくり考えてくれ。」真帆子は少しだけ歩く速度を落とした。「……うん。」「ありがとう。」その声は、いつもより少しだけ小さかった。初めて、雅臣を一人の男性として意識してしまったから。その頃。スタジオでは、玲司と琴子が新曲のレコーディングを続けていた。「もう一度サビだけ。」「はい。」琴子はマイクの前に立つ。目を閉じ、玲司だけを思い浮かべながら歌う。『あなたに届けたい──』『この歌も、この気持ちも。』歌い終えた瞬間。ガラス越しに玲司と目が合った。玲司は静かに拍手を送る。「今のテイクだ。」「えっ?」「今の歌が一番よかった。」「本当ですか?」「ああ。」「想いがちゃんと乗っていた。」その言葉だけで、琴子は胸がいっぱいになる。「ありがとうございます。」レコーディングが終わる頃には、夜十時を過ぎていた。「遅くなったな。」玲司が時計を見る。「送る。」「えっ、大丈夫です!」「夜道は危ない。」「……はい。」二人は並んで歩き始めた。夏の夜風が心地よい。「今日はありがとうございました。」「歌詞も歌も。」「君だから書けた曲だ。」琴子は照れくさそうに笑う。「玲司さん。」「ん?」「私……。」言葉が喉まで出かかった。(好きです。)その一言だけが言えない。代わりに出たのは、違う言葉だった。「これからも、一緒に頑張りたいです。」玲司は優しく微笑む。「ああ。」「俺もだ。」その笑顔を見た瞬間。琴子の胸はまた大きく高鳴る。(やっぱり好き。)もう、ごまかせなかった。その頃。駅前のベンチでは、真帆子が一人夜空を見上げていた。「男として……好き。」雅臣の言葉を何度も思い出してしまう。「なんでこんなにドキドキするんだろう。」胸に手を当てる。するとスマートフォンが震えた。雅臣からのメッセージだった。『今日はありがとう。返事は急がなくていい。でも、おやすみくらいは送ってくれ。』思わず真帆子は笑ってしまう。『おやすみ、雅臣😊』送信ボタンを押
Last Updated : 2026-07-27 Read more