ステージの光は、いつだって残酷だ。誰かに届くために歌っていたはずなのに、気づけば、その光は自分の届かなかった夢だけを照らしていた。「琴子さん、次の患者さんお願いします」その声で、琴子は現実に引き戻された。「はい」昼間の歯科医院。白衣を整え、笑顔を作る。歯科衛生士八年目。患者の歯を守るこの仕事は嫌いじゃない。むしろ誇りを持っている。けれど、たまに思う。あの頃の私は、もっと違う未来を見ていたんじゃないかって。「琴子さんって昔、配信してたんですよね?」新人スタッフの一言に、手が止まった。「え?」「受付の先輩が言ってました。歌、すごかったって」琴子は苦笑する。「昔の話だよ」二十歳の頃。“ことこ”という名前で、ネットで歌っていた。毎晩マイクを握り、画面越しの知らない誰かへ歌を届けていた。ファンもいた。応援してくれる人もいた。本気でプロを夢見たこともあった。でも。現実は甘くなかった。数字に追われ、生活に追われ、気づけば歌うことが苦しくなった。配信を閉じたあの日、夢も一緒にログアウトした。そう思っていた。仕事を終えた帰り道。駅前の大型ビジョンに映った映像に、琴子は思わず立ち止まる。『新ユニット・魔法のシャーベット、始動——!』華やかな映像。その中心にいたのは。「……真帆子?」昔、一緒に歌っていた相棒だった。今は人気配信者で、顔出しアイドルとしても活躍している。驚きで固まる琴子の背後から、懐かしい声がした。「久しぶり、琴子」振り返る。紫色のリボンを揺らしながら、真帆子が笑っていた。「あんた、勝手に消えたよね」「……そっちこそ、有名人じゃん」「会いたかった」真帆子はそう言って、小さなカップを差し出した。淡い水色のシャーベット。「なにこれ?」「魔法のシャーベット」「怪しい」「いいから食べて」半信半疑で一口。冷たい。甘い。その瞬間——ぶわっと胸の奥が熱くなった。ライト。歓声。イヤホン越しのコメント。画面の向こうの「好き」の文字。忘れたはずの景色が、一気に押し寄せる。「……っ!」息が詰まる。「まだ、溶けてなかったでしょ?」真帆子が優しく笑った。その時だった。「勝手に連れ回すな」低い男の声。振り向く。黒髪。鋭い目。無駄のないスーツ
Terakhir Diperbarui : 2026-07-01 Baca selengkapnya