Semua Bab 魔法のシャーベットー昼間は歯科衛生士、夜はVTuberアイドルが溺愛彼氏が出来るまでー: Bab 1 - Bab 10

51 Bab

第1話 溶けない夢

ステージの光は、いつだって残酷だ。誰かに届くために歌っていたはずなのに、気づけば、その光は自分の届かなかった夢だけを照らしていた。「琴子さん、次の患者さんお願いします」その声で、琴子は現実に引き戻された。「はい」昼間の歯科医院。白衣を整え、笑顔を作る。歯科衛生士八年目。患者の歯を守るこの仕事は嫌いじゃない。むしろ誇りを持っている。けれど、たまに思う。あの頃の私は、もっと違う未来を見ていたんじゃないかって。「琴子さんって昔、配信してたんですよね?」新人スタッフの一言に、手が止まった。「え?」「受付の先輩が言ってました。歌、すごかったって」琴子は苦笑する。「昔の話だよ」二十歳の頃。“ことこ”という名前で、ネットで歌っていた。毎晩マイクを握り、画面越しの知らない誰かへ歌を届けていた。ファンもいた。応援してくれる人もいた。本気でプロを夢見たこともあった。でも。現実は甘くなかった。数字に追われ、生活に追われ、気づけば歌うことが苦しくなった。配信を閉じたあの日、夢も一緒にログアウトした。そう思っていた。仕事を終えた帰り道。駅前の大型ビジョンに映った映像に、琴子は思わず立ち止まる。『新ユニット・魔法のシャーベット、始動——!』華やかな映像。その中心にいたのは。「……真帆子?」昔、一緒に歌っていた相棒だった。今は人気配信者で、顔出しアイドルとしても活躍している。驚きで固まる琴子の背後から、懐かしい声がした。「久しぶり、琴子」振り返る。紫色のリボンを揺らしながら、真帆子が笑っていた。「あんた、勝手に消えたよね」「……そっちこそ、有名人じゃん」「会いたかった」真帆子はそう言って、小さなカップを差し出した。淡い水色のシャーベット。「なにこれ?」「魔法のシャーベット」「怪しい」「いいから食べて」半信半疑で一口。冷たい。甘い。その瞬間——ぶわっと胸の奥が熱くなった。ライト。歓声。イヤホン越しのコメント。画面の向こうの「好き」の文字。忘れたはずの景色が、一気に押し寄せる。「……っ!」息が詰まる。「まだ、溶けてなかったでしょ?」真帆子が優しく笑った。その時だった。「勝手に連れ回すな」低い男の声。振り向く。黒髪。鋭い目。無駄のないスーツ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-01
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第2話 冷たい人

「無理」駅前を歩きながら、琴子は即答した。「いやいや即答早くない?」真帆子が笑う。「復帰なんてしない。私はもう歌やってない」さっき食べたシャーベットのせいで、忘れたはずの熱がまだ胸に残っている。それが嫌だった。苦しいから。「琴子」真帆子の声が少し真剣になる。「私、本気なんだ」その瞬間。隣にいた玲司が口を開いた。「無理に誘うな」低く冷たい声。真帆子がむっとする。「なによ」「気持ちが残ってるやつほど厄介だ」琴子の胸が痛んだ。図星だった。「ほらね」真帆子が琴子を見る。「まだ残ってるんだよ」「……ない」否定したかった。でもできない。玲司は腕時計を見る。「真帆子、次の打ち合わせだ」「えー」真帆子は名刺を琴子に押しつけた。『魔法のシャーベット』そこには連絡先が書いてある。「気が向いたら連絡して」そう言って去っていく。玲司もそのまま歩き出した——と思ったのに。数歩先で止まった。振り返る。「送る」「え?」「家、こっちだろ」「なんで知ってるの?」玲司は少しだけ目を細めた。「真帆子が心配してた」それだけ言って歩き出す。無愛想。冷たい。でも。歩幅だけは、琴子に合わせていた。マンション前。「ありがとう」玲司は答えない。代わりに言った。「明日、休みか?」「え?」「ライブ見に来い」「は?」「見ればわかる」それだけ言って背を向ける。「なんで私に?」玲司は止まらない。「真帆子が、お前を待ってる」そう言いながら、小さな保冷バッグを琴子に投げた。「これ」中には、今日と同じ水色のシャーベット。「……なにこれ」「食いたくなったら食え」「なんで」玲司は振り返らない。「捨てるなら勝手にしろ」冷たい。本当に冷たい。なのに。どうしてこんなに、優しいんだろう。琴子は冷たいカップを握りしめた。その甘さを、まだ忘れられなかった。
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第3話 甘くて冷たい世界

翌日。琴子は迷っていた。仕事は休み。テーブルの上には、昨夜もらったチケットと、食べかけのチョコミントシャーベット。——見に来い。玲司の言葉が頭から離れない。「……見るだけ」誰に言い訳するでもなく、琴子は会場へ向かった。小さなライブハウス。だけど熱気はすごかった。歓声。ペンライト。名前を呼ぶ声。懐かしい。ステージの上に立つ真帆子は、昔よりずっと輝いていた。『みんなー!今日は特別なお知らせがありまーす!』客席が沸く。『新ユニット、魔法のシャーベット始動です!』映像が流れる。真帆子の隣、ぽっかり空いた“もう一人”の立ち位置。琴子は息を呑んだ。「……最初から、私?」その時。「来たか」隣から声。玲司だった。黒いシャツ姿。相変わらず冷たい顔。「仕事中じゃないの?」「仕事中だ」「なら持ち場行けば?」玲司は淡々と言う。「逃げるかと思った」「……失礼」「図星だろ」ムカつく。でも否定できない。ステージが終わり、真帆子が駆け寄ってくる。「来てくれた!」「見るだけって言ったでしょ」「うん。でも見たならわかるでしょ?」その時だった。大きな拍手とともに、男が楽屋へ入ってきた。高級スーツ。派手な香水。圧のある笑顔。「へぇ。これが例の子?」真帆子が眉をひそめる。「雅臣」九条雅臣。大口スポンサー。雅臣は琴子を見て、にやりと笑った。「思ったよりいいね」「は?」「顔も声も素材も悪くない」失礼すぎる。玲司が一歩前に出る。「触るな」雅臣が笑う。「まだ触ってない」「そのつもりだろ」空気が冷える。真帆子がため息をつく。「もう始まった」琴子だけが置いていかれる。「……なにこれ」雅臣は琴子の顎を軽く持ち上げた。「君、面白い」その手を、玲司が払い落とした。「近い」雅臣が笑う。「へぇ」そして面白そうに言った。「なるほどね」玲司の冷たい目が、今だけ少し熱を帯びていた。その意味を、琴子はまだ知らない。
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第4話 二つの顔

「無理無理無理!」翌日。琴子は真帆子の前で頭を抱えていた。「なんで私なの!?」真帆子はケロッとしている。「だって空いてるし」「そういう問題じゃない!」ライブハウス裏の控室。昨日見たステージの熱が、まだ身体に残っている。あの空いた場所。あれが自分のために用意されていたなんて。「私、もう歌ってない」「でも歌える」「歌えるのと戻るのは違う!」真帆子がじっと琴子を見る。「怖いんでしょ?」その一言に詰まった。怖い。また届かなかったら。また捨てることになったら。「……そういうのずるい」真帆子が笑う。「知ってる」その時。「時間切れ」玲司が入ってきた。冷たい声。「次の打ち合わせ行くぞ」真帆子がむっとする。「はいはい」玲司は琴子を見る。「返事は三日以内」「え?」「ライブの穴は埋める必要がある」「そんな簡単に決められない」玲司は無表情。「なら断れ」「……っ」その言い方が腹立つ。真帆子がため息をついた。「ほんと冷たい」その帰り。琴子はそのまま仕事へ向かった。昼の歯科医院。白衣に着替えると、さっきまでの世界が嘘みたいだった。「琴子さん今日なんか顔赤いですよ?」同僚に言われる。「気のせい」患者対応中も、頭の中は昨日のことばかり。キュイイイイン……器具の音。「痛かったら手上げてくださいね」仕事に集中しなきゃ。そう思った時だった。受付がざわつく。「え、すごいイケメン……」「誰?」振り返る。そこにいたのは——玲司。「……は?」スーツ姿のまま、待合室に立っていた。「忘れ物」差し出されたのは、昨日の名刺ケース。「なんでここ」「落とした」それだけ。患者もスタッフもざわつく。「彼氏?」「違う!」即答した瞬間。玲司がぼそっと言った。「昼間はちゃんとしてるんだな」「なにそれ」「昨日よりマシ」ムカつく。なのに。帰り際、玲司は受付にいた新人へ冷たく一礼しただけなのに。琴子にだけ小声で言った。「昼飯、食ってないだろ」「……なんで」紙袋を押しつけられる。中にはサンドイッチ。「倒れるな」それだけ言って去っていく。冷たい。本当に冷たい。なのに——なんで私だけ、こんなに気にするの?
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-02
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第5話 甘さの正体

その夜。仕事を終えた琴子は、玲司にもらったサンドイッチの袋を見つめていた。食べ損ねた昼食。気づけば全部食べていた。「……なんなの、あの人」冷たい。口悪い。無愛想。なのに。気づけば必要なものを渡してくる。視線が落ちる。冷蔵庫の中には、昨日もらったチョコミントシャーベット。真帆子が作ったって言ってたやつ。琴子はため息をついて、ふたを開けた。ひとくち。冷たい甘さが舌に広がる。その瞬間——ぶわっ。頭の奥に、知らない景色が流れ込んできた。真っ暗なライブ会場。スタッフたちが慌ただしく動く中、玲司の低い声が響く。『真帆子、水飲め』冷たい声。真帆子が口を尖らせる。『冷たいなぁ』『時間ない』そのまま別のスタッフへ。『照明ズレてる。直せ』『え、今!?』『今だ』全員に厳しい。冷たい。無駄がない。だけど——場面が変わる。玲司がスマホを見ていた。画面には。琴子の昔の配信アーカイブ。『……え?』玲司が小さく呟く。『この声、まだ死んでない』心臓が跳ねる。その時、映像が途切れた。「っ……!」琴子は立ち上がる。息が荒い。「なに……今の」ただのシャーベットじゃない。あれは。“見えた”。玲司の記憶。いや。玲司の温度。冷たいはずなのに。私の歌だけ、見てた……?スマホが鳴る。真帆子からだった。『どう?食べた?』『あれ、なに?』すぐ返事が来る。『魔法だよ』『意味わかんない』『シャーベットってね、その人に向けられた特別な感情が見えるの』琴子の指が止まる。『……特別?』『うん』続けて送られてきた。『だから気をつけて』『え?』『玲司、ああ見えて重いから』「はぁ!?」その瞬間。インターホンが鳴った。こんな時間に?ドアを開ける。そこにいたのは——玲司。無表情。保冷バッグを持っていた。「真帆子が渡し忘れた」またシャーベット。「……なんであなたが来るの」玲司は琴子を見る。「食ったか?」「え?」「チョコミント」心臓が跳ねた。なんでそんなこと聞くの。玲司は少しだけ目を細めた。「顔、赤い」近い。冷たいくせに。どうして私にだけ、こんな顔するの——。
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第6話 熱すぎる男

翌日。昼休み。琴子が休憩室でサンドイッチを食べていると、受付がざわついた。「え、またイケメン……」「今日多くない?」嫌な予感。振り向いた瞬間。「やあ、琴子ちゃん」「……なんで」九条雅臣だった。真っ赤なバラを抱えている。目立つ。目立ちすぎる。「迎えに来た」「来てない」「今から来る」意味がわからない。「仕事中なんだけど」雅臣は歯科医院を見回した。「へぇ。ちゃんと働いてるんだ」「失礼すぎる」笑いながら、雅臣はぐっと顔を寄せた。「でも、その手じゃ足りないだろ」「……は?」「夢」心臓が止まりそうになる。「なんで」「真帆子から聞いた」余計なことを。雅臣は楽しそうに笑った。「君、戻るべきだよ」「簡単に言わないで」「簡単じゃないから面白い」その時。「邪魔だ」低い声。振り返る。玲司だった。「レイジ〜」雅臣が笑う。玲司の目が冷たい。いや、今日は少し怖い。「仕事場に来るな」「スポンサーの営業活動だけど?」「帰れ」「やだ」子どもか。雅臣は琴子を見る。「今夜空いてる?」「空いてない」即答。「じゃあ空けて」「空けない」「ディナー」「行かない」雅臣は笑った。「好きだな、その強さ」その瞬間。玲司が琴子の腕を引いた。ぐっと後ろへ。近い。「断ってる」玲司の声が低い。雅臣が面白そうに目を細める。「へぇ」空気がぴりつく。玲司は琴子に小さく言った。「昼休み終わるぞ」「……うん」玲司はそのまま去る。雅臣も笑いながらバラを置いて帰った。静かになった休憩室。琴子は腕を見る。さっき掴まれた場所が、まだ熱い。冷たいはずなのに。あの人の手だけ、どうしてこんなに熱いんだろう。
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第7話 必要な人

夜の合同ライブ。琴子は客席の端で、真帆子のステージを見ていた。眩しい。楽しそうに笑って、歌って、踊って。昔のまま。いや。昔よりずっと綺麗だった。「戻りたくなったか?」隣に立つ玲司が言う。「……別に」玲司は鼻で笑う。「嘘つけ」ムカつく。でも、今日はその冷たさが少しだけ心地いい。ステージ上の真帆子が、一瞬よろけた。「……え?」次の瞬間。倒れた。ざわつく会場。「真帆子!」琴子が立ち上がる。玲司はすでに走っていた。楽屋裏。真帆子は椅子に座らされていた。顔色が悪い。「大丈夫だって」笑うけど、明らかに無理してる。玲司が冷たく言う。「嘘つくな」「大丈夫」「倒れた」空気が張り詰める。琴子が近づく。「真帆子、病院行こう」真帆子は首を振った。「行けない」「なんで」沈黙。玲司が代わりに言った。「喉だ」琴子が息を呑む。「え?」「酷使しすぎてる」真帆子は目を逸らす。「まだ歌える」玲司の声が低くなる。「このままだと歌えなくなる」琴子の胸が締めつけられる。そんな状態で、ずっと笑ってたの?真帆子が小さく笑った。「だからさ」琴子を見る。「私の代わり、やってよ」「……っ」重い。あまりにも。玲司が琴子を見た。真っ直ぐに。冷たい目なのに、今だけ熱があった。「お前が必要だ」その言葉に、心臓が止まりそうになる。夢のため?真帆子のため?それとも——わからない。わからないのに、その言葉だけが胸に刺さる。その時。外で雷が鳴った。大雨。玲司が立ち上がる。「送る」「え?」「風邪ひく」またそれ。冷たいくせに。なんでいつも私だけ。真帆子が笑う。「行ってきな」その笑顔が、少しだけ寂しそうに見えた。
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第8話 雨の中で

ライブハウスを出た瞬間、激しい雨がアスファルトを叩いていた。「うわ……すご」琴子は思わず立ち止まる。傘なんて持ってきていない。真帆子のことが気になって、それどころじゃなかった。喉を壊しているなんて知らなかった。ずっと笑って、ずっと歌って。あんなふうに無理していたなんて。胸が苦しくなる。「帰るぞ」隣で玲司が言った。「え?」いつの間にか、黒い傘が差し出されていた。「送る」またそれ。「大丈夫。電車で帰れる」「この雨で?」「……」玲司はため息をついた。「風邪ひいたら困る」「私が?」「真帆子が」その言い方。冷たい。なのに。どうして少し安心するんだろう。二人で傘に入る。距離が近い。肩が触れそうなくらい。玲司は無言で歩く。琴子も黙ったまま。聞きたいことが、多すぎた。「真帆子の喉……」先に口を開いた。玲司は前を見たまま答える。「限界に近い」「どうして止めないの?」「止めても歌う」即答だった。それが余計につらい。「だから私?」玲司の足が少し止まる。「……そうだ」「代わりってこと?」その言葉に、玲司の目が冷えた。「違う」強い声。琴子が驚く。玲司は少しだけ視線を落とした。「真帆子が選んだのもある」雨音が強くなる。でもその次の言葉が、はっきり聞こえた。「俺も、お前の歌が必要だ」心臓が跳ねた。「……なんで」玲司は少し黙って、低く言う。「消えたのが惜しかった」その一言だけで、胸の奥が熱くなる。八年前。諦めた夢。誰にも必要とされてないと思っていた。でも。この人は。「……玲司って」琴子が立ち止まる。「みんなには冷たいよね」「そうかもな」「なのに、なんで私にだけこんな……」言いかけた瞬間。足元が滑った。「っ!」倒れる。そう思った瞬間、強く腕を引かれた。玲司の胸にぶつかる。近い。息が止まりそうなくらい。雨の匂いと、冷たいシャツの感触。玲司が低く言った。「危なっかしい」顔を上げる。近すぎる。目が合う。冷たいはずのその瞳が、今だけ熱を持っていた。「……他のやつなら放ってる」その言葉に、琴子の胸が大きく鳴った。どうして。どうして私だけ——。
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-02
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第9話 最初の一歩

「……やります」その一言を口にした瞬間、自分でも驚いた。真帆子が目を丸くする。「えっ、本当に?」「でも条件がある」琴子は真っ直ぐ玲司を見た。「歯科衛生士は辞めない」玲司は即答した。「ああ」「配信も仕事に支障が出るならやめる」「ああ」「顔出しもしない」「最初はな」「最初は?」玲司は答えず、手元の書類を机に置いた。「契約書だ」「早っ!」真帆子が笑い転げる。「さすが玲司!」「準備だけはしておく主義だ」琴子は契約書をめくる。『VTuberユニット魔法のシャーベット』その文字を見ただけで胸が高鳴った。夢が、少しだけ現実になった気がした。「まずは歌のレッスンと配信準備だ」玲司は淡々と説明を始める。「顔出しはしない。二人ともアバターで活動する」「よかったぁ……」琴子は胸をなで下ろした。「これなら患者さんにもバレないよね」玲司は少しだけ黙る。「……たぶんな」「その間が気になる!」真帆子が吹き出した。「琴子、絶対バレるって!」「やめてよ!」そこへ勢いよく扉が開いた。「みんなー!」雅臣だった。両手いっぱいに紙袋を抱えている。「差し入れ!」「いらん」玲司が即答する。「冷たいなぁ」雅臣は気にせずテーブルへ並べ始めた。高級プリン。フルーツ。マカロン。焼き菓子。「……食べきれないでしょ」琴子が呆れる。「食べる」「誰が?」「お前ら」真帆子は目を輝かせた。「プリン!」「はい、お前の」「わーい!」雅臣はもう一つ箱を差し出した。「で、これは琴子」「私?」開けると、小さなチョコミントシャーベットが入っていた。「え?」「好きなんだろ?」「なんで知ってるの?」「調べた」「怖い怖い!」思わず一歩下がる。真帆子が笑い転げる。「雅臣、それ引かれるやつ!」「え?」雅臣は本気で首をかしげた。「喜ぶと思った」「普通は調べない!」部屋中に笑いが広がる。その様子を見ていた玲司が、小さくため息をついた。「気持ち悪い」「おい!」雅臣が抗議する。「愛だ」「執着だ」「違いは?」「紙一重だ」また笑いが起きた。琴子も思わず笑ってしまう。こんなふうに笑ったのは、いつ以来だろう。その時だった。玲司がノートパソコンを開く。「笑ってる暇はない」画面には数字が並んで
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第10話 売れない理由

「予約三枚……」琴子は画面を見つめたまま固まった。「これ、本当?」玲司は静かにうなずく。「本当だ」真帆子が両手で頭を抱えた。「うそーっ! 私たち、そんなに人気ない?」「真帆子、お前個人なら知名度はある」玲司は淡々と続けた。「だが、『魔法のシャーベット』は今日生まれたばかりのユニットだ」「なるほど……」琴子は少し安心した。それでも三枚は少ない。「このままじゃライブできないよね?」玲司はノートパソコンを閉じた。「だから考える」「何を?」「売れる方法だ」その瞬間、雅臣が勢いよく立ち上がる。「俺に任せろ!」嫌な予感しかしない。「駅前ビジョンに広告!」「却下」玲司が即答する。「テレビCM!」「却下」「新聞!」「却下」「飛行船!」「却下」「なんでだよ!」雅臣が机を叩いた。「宣伝は必要だろ!」玲司は冷静だった。「今は中身が先だ」「中身?」「歌だ」部屋が静かになる。玲司は琴子を見る。「歌に自信はあるか」突然の質問だった。琴子は言葉に詰まる。「……昔なら」「今は?」「わからない」八年間、人前で歌っていない。配信もしていない。自信なんて、とっくになくなっていた。玲司は小さくうなずく。「なら作る」「え?」「自信は、歌って作るものだ」その言葉に胸が熱くなる。真帆子も笑顔になった。「よーし! レッスンだ!」「まずは一曲」玲司が楽譜を差し出す。「デビュー曲」タイトルは――『魔法のシャーベット』琴子は楽譜を受け取る。「この曲……」メロディーを口ずさんだ瞬間、不思議なくらい自然に歌えた。身体が覚えている。歌うことを。玲司は初めて少しだけ微笑んだ。「やっぱりな」「え?」「お前は歌を忘れてない」その一言だけで、涙が出そうになった。雅臣は腕を組みながら笑う。「歌はいい。」「だろ?」「だから宣伝しよう。」「まだ言うか」「絶対売れる!」雅臣は目を輝かせた。「歯医者の待合室で流そう!」真帆子が吹き出す。「患者さんしか来ないじゃん!」「口コミは強いぞ?」琴子も思わず笑った。「そんなので売れるの?」雅臣は胸を張る。「世の中、何がきっかけになるかわからない。」その言葉を聞いた玲司は珍しく否定しなかった。「……それは間違ってない」琴子は二人を見
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