ライブ本番まで、あと五日。今日は会場を借りての実地リハーサルだった。大きなステージ。客席はまだ誰もいない。それでも舞台裏は、本番さながらの緊張感に包まれていた。「照明、スタンバイ!」「音響、オープニングSE確認!」「映像、カウントダウン同期します!」インカム越しに飛び交う指示。スタッフたちは一秒単位で動いていた。「すごい……。」琴子は舞台袖から、その光景を見つめる。「こんなにたくさんの人が動いてるんですね。」隣に立つ玲司が静かに頷いた。「ライブで目立つのは出演者だ。」「でも、ライブを成功させるのは裏方だ。」その言葉どおりだった。照明スタッフは曲ごとに何十台ものライトを切り替える。音響スタッフはマイクの音量やBGMを細かく調整する。舞台監督はストップウォッチを片手に、全体の進行を確認している。「みんな、本当にすごい……。」真帆子も思わず見入っていた。そこへ舞台監督が声をかける。「五分後、本番と同じ流れで始めます!」「出演者、スタンバイ!」「はい!」四人は返事をして舞台袖へ並んだ。客席は空っぽ。それなのに、琴子の手は少し震えていた。「緊張してる?」玲司が小さな声で尋ねる。「……少しだけ。」正直に答えると、玲司は優しく笑う。「それでいい。」「緊張するのは、本気だからだ。」その言葉で、不思議と肩の力が抜けた。一方、反対側の舞台袖では——。「真帆子。」雅臣が一本のペットボトルを差し出した。「水分補給。」「ありがとうございます!」受け取ろうとした瞬間、手が触れる。「……っ。」真帆子は慌てて手を引っ込めた。「まだ照れるのか?」「照れますよ!」「毎回そんなこと言われたら心臓がもちません!」雅臣は声を立てて笑う。「その反応が可愛い。」「もう!」そのやり取りを見ていたスタッフたちも、思わず笑みをこぼした。「仲がいいですね。」「本当に。」そんな声が聞こえてきて、真帆子はさらに真っ赤になる。その頃、客席では照明スタッフが最後の調整をしていた。一本のスポットライトが、静かなステージを照らす。誰もいない舞台。でも数日後には、この場所が歓声で埋め尽くされる。舞台袖からその光を見つめる琴子。(あの光の中へ立つんだ。)期待と不安。その両方を胸に抱きながら、そっと拳を握り締めた。
Last Updated : 2026-07-30 Read more