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All Chapters of Real: Chapter 81 - Chapter 90

146 Chapters

83話

 § ――闇夜を照らす月をバックに、無数の鉄の塊が空を翔る。 旋回音に目を醒ました彼等は、騒々しい天を仰ぎ見た。 己の眠りを妨げる異物。 己の領空を犯す邪魔者。 辺りのビルを根城としていた彼等は、雄叫びを上げ、その四枚の翼を広げた。 §「押し合わないで‼次のヘリを待ってください‼」「この子だけでもっ‼」「おい抜かすんじゃねぇ‼」「押すなよ‼」「私が先だったでしょ‼」 ライトアップされた皇居広場には五台のヘリが着陸し、避難民が我先にと押し寄せる。 上空には待機中の大型輸送ヘリ十五台と、それ等を囲むように護衛する二十五台の戦闘ヘリが周りを警戒していた。「陛下、こちらへ」「ありがとうね、我道さん」  国の重要人物達が、続々とヘリに乗りこんでいく。 それを見た民間人は、野次を飛ばし、暴言を吐き、口汚く罵った。 自分の身がそんなに可愛いか、と。 しかし彼等は口を噤み、浴びせられる罵詈雑言を一身に受け止める。 怒る気持ちも、不平不満もよく分かる。 日夜モンスターの声と銃声を聞き、明日が来るのかも不安な状況で閉じ込められていたのだ。 全員の精神が限界のはずだ。 だが悲しいことに、命とは平等ではない。 誰が生き残り、誰が何を成すか。 命の重さを一番理解しているのは、他でもない彼等なのである。 最初の五台が浮かび上がり、遂に脱出作戦が始まった。
last updateLast Updated : 2026-07-27
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84話

  § 戦闘ヘリに乗る隊員の目が、前方から迫る黒い塊を捕える。『敵生体確認。数は……多数』 それは一匹の生物ではない。夥しい数の群れである。『一匹たりとも近づけさせるな!ファイア‼』『『『ファイア‼』』』 重機関銃の暴威が怪鳥をミンチにし、血の雨を降らせる。 しかし、奴らは止まらない。『散開‼』 モンスターの視線を集めるべく、隊が分かれ陣形が組まれる。 本作戦の要、決死の空中戦が幕を上げた。 § モンスターが攻めて来るのは、何も空だけではない。 音に釣られ、血の臭いに釣られ、奴らは地を駆け姿を現す。「撃てぇッ‼」 銃口が火を噴き、薬莢が地を跳ね夜を吹き飛ばした。 ――着々と作戦が進む中、しかし予想外の早さで防衛ラインが押しこまれていた。 煩くし過ぎたのだろう、モンスターの数が多すぎる。 現在第二防衛ラインの水を抜いた堀まで下がった軍。 その堀も今やモンスターが積み重なり、ほぼ機能を失っている。『C-4を起爆する。各員第三防衛ラインまで下がれ』『『『了解』』』 一斉に動き出す全隊員。 ――一分後。 堀の壁面に張り巡らされたC-4が、大爆音を上げ血肉を空へ巻き上げた。 ――四十分後、何度目かのヘリの落下音を耳に、ようやく待ち望んだ命令が下される。『全隊に告ぐ。民間人の乗り込み完了。撤退を開始せよ』 総員、予定地へと走り、次々とヘリに乗り込んでいく。 弾幕を張りながら後退し、遂に最後のヘリが離陸した。 ――現場で最後まで指揮を執り続けた亜門も、ヘリに乗り込み汗を拭う。 最早これは戦争であった。 戦死者も沢山出た。しかし、何とかやり遂げた。 後は怪鳥を躱し、帰還できるかどうか。「戦闘ヘリは後何機のこ――ッ⁉」 言いかけ、物凄い振動が機体を襲った。
last updateLast Updated : 2026-07-27
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85話

亜門の真横、ヘリの胴体部を土の柱が貫通している。「なん「ボルァアッ‼」――っ⁉」 動かなくなったヘリの窓から遠目に見える、地に手をつく三mはある一つ目の巨人。 此方を見るや否や、叫び全力で迫ってきた。「――っ全員降りろ‼」 考えている暇ではない。 反対側のドアをこじ開け、次々と飛び降りていく。「急げ‼機体から離れろ――ォッ⁉」 走る彼等の背中を、拳で叩き割られたヘリの爆風が襲った。 生き残った者は咽ながらもすぐに起き上がり、揺らめく炎と砂塵の中に、鉛玉をこれでもかと打ち込む。 連続する銃声と共に響く、金属同士が衝突するような音。 風圧で煙が晴れた後の光景を見て、彼等は瞠目した。「……魔法か」 巨人の持つ土の盾には、傷の一切がついていなかったのだから。「ボルァッ‼」「――っ」 そこから始まったのは、無慈悲なる蹂躙であった。 一人、また一人と、殴り飛ばされ、打ち上げられ、圧殺されていく。 時折銃弾が巨人に命中するが、それでも少し血が出る程度。 そしてその後には必ず殺される。 人間、モンスター、見境なく殺しまわる巨人の隙をついて逃げる者もいるが、その先にはまた別のモンスターがいる。 待つのは等しく、死、のみ。「――はぁっ、はぁっ」 何とか逃げ回る亜門は、首を回し避難できる場所を懸命に探す。 そこで、「コゲェェェェッ」 突如現れた、尾から蛇の生えたバカデカい鶏が、大跳躍し大型輸送ヘリの一つを蹴り飛ばした。 物凄い速さで墜落する鉄塊は、煙を上げ森の奥へと消えて行く。 よく見れば、その向こうでは巨大な両生類がヘリの一つに舌を絡ませ揺すっている。「……地獄か……」 茫然と立ち止まってしまった亜門が、ポツリと零す。 目の前に広がる光景は、疑いようのない地獄だ。 他に形容のしようがない程の、美しいまでの地獄だ。 辺りには血の臭いが充満し、鳴き声と啼き声が響き渡る。 強い物が生き残り、弱い者は死に絶える。 本来あるべき生態系の縮図。 人が忘れた自然の摂理。 あぁ、ここは…… 地獄だ。「――ぶグッ⁉」 亜門の半身を強烈な衝撃が襲う。 ちらりと見えた、地面から伸びる土柱。(……突き飛ばされたのか) 明滅する思考の中、自分に起きたことを理解する。 そのままゴロゴロと転がり、木にぶつかり止まった。
last updateLast Updated : 2026-07-28
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86話

 「……」 巨人は彼を飛ばしそのまま、鶏を追いかけ走り去った。逃げるなら今。 しかし、……動かない。手も、脚も、首も……何も。 今にも手放してしまいそうな意識を、ただ、燃えるような痛みが繋ぎ止める。 静寂に支配されていく脳内を、自分の鼓動が、響き渡る人々の悲鳴が、やけに鮮明に反響する。(……死ぬのか) 己の死を悟った彼は、最後の整理だとでも言うように、過去の記憶を巡っていく。 彼は無類の犬好きだった。 東京郊外に大きな一軒家を持ち、その九割を何十匹ものペットの為に改造した稀代の犬バカ。 死に瀕して尚心配なのは、家で待つ彼等の無事である。 辛く厳しい訓練も、彼等の無条件の愛があったから頑張れた。 人を助けるという信念が折れてしまいそうな時も、彼等の寄り添いがあったから頑張れた。「グルァッ」「――っ」 ――死肉を漁る獣型の群れが、彼の腕を噛み引き摺る。 亜門は思う。 彼等は今も、自分の帰りを待ち続けているだろう。 モンスターに怯え、自分の助けを求めているだろう。 ……ならば今度は、自分の番じゃないか。 ――皮膚が裂かれ、肉を貫かれ、彼の身体は血に染まっていく。 守らなければ……人を。 守らなければ……信念を。 守らなければ………………家族を。「……貴様らじゃ、ない」 獣じみた手が一匹の頭を掴み、握り潰す。 彼を囲んでいたモンスターが一斉に飛び退いた。 立ち上がる亜門の身体は一回り大きくなり、全身が銀灰色の体毛に覆われていく。 顎の形状と耳の位置が変わり、腰下に生える一本の尾がゆらりと揺れた。「ガロロロロ……」 黄色の瞳孔が有象無象を射抜く。「グルァッ――ギゃべ⁉」「ギョぶッ」「べっ」「ガッ」「ッ」―― 亜門は飛び掛かってくる傍から、切り裂き、噛み千切り、へし折り、撲殺する。 その惨劇を見て当然逃げる者もいるが、数倍に跳ね上がった脚力は彼を風に変える。 一匹たりとも逃がさない。 目についた悉くを血祭りにあげていく。「ガロァアッ‼」「ぶギャべっ」 振り下ろされた両の拳が、大地を陥没させモンスターを染みに変える。 逃げることなど許さない、圧倒的暴力。 一瞬でひっくり返った、生態系の立場。 風に靡く荘厳たる体毛が、月光に照らされ赤く煌めいた。「ぐぅっ、これ以上の負荷は危険です‼」「全速を維持
last updateLast Updated : 2026-07-28
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87話

 『現段階で判明している、東京での死傷者数は――』 ピっ『主にネットを中心に呼ばれている、魔法という超常の力ですが、モンスターへの新たな対抗策として研究が――』 ピっ『今日の天気は晴れ――』 ピっ『自衛隊の活躍により、全国各地の被災地は徐々に回復の傾向にあると――』 ピピっ『ブンブン、ハローX tube、どーもGIRAKINです。 世界を襲った大災害の傷は、一か月以上経った今でも、私達の居場所を脅かし続けています。 今日の動画の概要欄にも、募金サイトのリンクを貼っておきます。皆さん一人一人の力で、この日本を救いましょう! こんな時だからこそ、今の自分に出来ることを。 ……さて、今日の企画は?最近ハマってる慈善活動、トップスリ~~――』 ――明るいチャンネル音が響く、あるデパートの電化製品売り場。 八十五インチのテレビが一台だけ稼働し、その前にソファーが置かれている。 天井を貫き下に伸びる無数の根が、やけに物寂しい空間を紛らわせていた。「……便所」 ボソりと呟いたこの空間の、いや、この建物の主は、辺りに散らばるゴミや空き缶を踏み潰し、のそのそと立ち上がる。 全身に漆黒を纏う、人の形をした何か。 他人が見れば、モンスターなのかと疑う様相。 彼は下腹部に感じる便意の赴くまま、便所に歩を進めた。 ――「……ふぅ」 用を済ませた彼は、鏡の前に立ち手を洗い、顔を洗う。「……」 生え放題な髭。 濃いクマ。 長く伸びて目にかかる髪。 部分的にはだけた漆黒の下、鏡に映る自分は、いつもと変わらず酷い顔をしていた。 あの後、成長した木々に囲まれて目を覚ました東条は、僅かな希望に縋りデパート内を探し回った。 諦めきれずに同じ場所を何度何度も回り、目についたモンスターは皆殺しにした。 一日、二日と同じことを繰り返し、そしてようやく理解した。 生き残ったのは、自分だけなのだ、と。 それからはただただ自堕落に生活を送っている。 別に好きでもない酒を飲み、感情をぼやけさせる毎日。 ……冒険に夢焦がれていた彼は、もう、ここにはいない。 再び漆黒を纏った東条は、久しぶりに屋上へと足を向けた。 ――壊れた扉を潜ると、鬱蒼と茂る緑が目に飛び込んでくる。 穴だらけになった地面は、張り巡らされた根によって修繕されている。 鼻を抜け
last updateLast Updated : 2026-07-28
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88話

  ――「……ん」 いつの間に眠ってしまっていたことに気付き、辺りを見回す。 太陽も早々に姿を隠していた。 意識していないと自動的に身に纏ってしまうようになった漆黒だが、如何せん熱も光も吸収するせいで、真冬に外で寝ていても気温の低下に気付かない。 今では、日向ぼっこと風呂の時以外はずっと真っ黒人間状態だ。 起き上がり、伸びを一つ。 そこで重大な事実に気付く。「……あ、今日金ローじゃん」 足早にテレビの元へ向かった。 § 何かが地面を這う音が、ゆっくり、ゆっくりと、眠りこける東条に近づく。「……シュルル」 臭いに釣られて化物の住処に忍び込んだ彼女は、鎌首を擡げ、得物をその瞳に映した。 ――「……んぁ?」「(ンゴっ、ンゴっ――)」 若干寝苦しい感覚に襲われ、寝惚け眼を擦る。「……」「(ンゴっ、ンゴっ――)」 ……これは、どういう状況だ? デカくて白い蛇が、自分の下半身を飲み込もうとしている。 こうしている間にも、既に腰まで口の中だ。 ……とりあえず、と足を開いた。「(ンガ……?)」 喉につっかえた白蛇と、腕を組む東条の目が合う。「……よっ」「……」 言っても彼の顔は、目が何処にあるのか分からない相貌なのだが、彼女にもこの状況は理解できたらしい。「(ンゴっ、ンゴっ――)」 ゆっくりと東条を吐き出し始めた。「……お前、面白いな」「シュルル」 デュロデュロになった下半身の無事を確かめ、どうしてやるか考える。 ジッと此方を見つめる白蛇には、襲ってくる雰囲気もない。「うん、殺さないどいてやるよ」 シッシ、と手を振り、そのままソファーに腰を落としテレビをつける。 負けることはないだろうし、いざとなれば殺せばいい。 すぐに何処かに行くと思っていた東条だが、何故か白蛇は動こうとしなかった。「……お前、変わってんな」「シュルル」 テレビを食い入るように見つめる白蛇を、見つめる東条。(何だ?モンスターってのはテレビで大人しくなんのか?) そうなら和平を結ぶことも夢ではないのでは?などと、思ってもいない事を考えていると、「マジかよ……」 彼の傍に置いてあったリモコンを、ツンツンと口先で押し始めた。 チャンネルが変わるごとに画面を確認し、また押す。 その行動はまるで、規則性を探っている様にも見える。
last updateLast Updated : 2026-07-28
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89話

  ――少々の仮眠を取った東条は、現在リュック片手に本売り場を回っていた。 夜通し白蛇と一緒にテレビを見ていた彼は、既に彼女の学習能力の高さに興味を掻き立てられている。 手取り足取り色々と教えた結果、最後の方には、X tube内でお気に入りの動画をチャンネル登録するまでに至ったのだ。 間違いなく、他のモンスターと比べ頭の出来が頭抜けている。「……あとは、文房具か」 低学年レベルの問題集を片っ端から詰めた東条は、筆記用具を適当に掴み帰路に就いた。 因みに彼女のお気に入り動画は、グルメ系のものが大半であった。 ――「またそれ見てんのか」「……シュルル」 Tubereが美味そうに啜るラーメンを、恨めしそうにチロチロと舐める彼女。 そこに味は無いだろうに……。「そうだ、お前も食うかこれ?」 見ていて可哀想になるその光景に、東条は別のリュックを漁りカレー味のカップ麺を取り出す。「?」「作ったる。ちゃんと見てろよ」 寄ってきた彼女の目の前で、複雑な工程を一つ一つ見せていった。 ――ピピピっ、ピピピっ。「この音がなったら、完成。ほい」 差し出されるラーメンから立ち昇る湯気をチロチロと舐め、ゆっくりと口をつける。「ファシュっ」「なはは、熱ちぃか」 先に食べ進める東条を、ジッと見つめる彼女。「何だ、……ちょい待ち」 箸は無理か、とフォークに持ち替え、実践して見せる。「やってみ」「……シュルル」 彼女は尻尾の先端を巻き付け、器用に麺を持ち上げた。「ファフシュ、シュルル」「うめぇか、そりゃよかった」 共にラーメンを啜る、化物と化物の異種族コンビ。 この日から、彼等の不思議な勉強生活が始まった。 ――平仮名。「これが、あ」「シュルル」「い」「シュルル」「う」「シュルル」「……しゅ、る、る」「シュルル」「そう、良くできました」 ――算数。「んじゃ昨日の応用から。『二+四-三=?』」「『三』」「おけ。『五+十一+二-九=?』」「『九』」「おし、んじゃ次掛け算いくか」 ――理科。「なになに……生き物の特徴や、太陽の光と影の関係性。は~、そんなことやんのか」 ――「とりあえず、これが動物、っぽいモンスター」「(ンゴっ)」「虫、っぽいモンスター」「(ンゴっ)」「植物、っぽいモンスター」「(
last updateLast Updated : 2026-07-29
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90話

  ――五日後。 仲良くソファーに寝っ転がり、X tubeを見る二人。 プロ顔負けの豆ラップを聞いていると、サッ、とリモコンが盗られスイーツ紹介にチャンネルが変わった。「な、お前勝手に変えんなよ!」「『ケーキ 食べたい』」「しゃーねーだろ、ここらの全部腐って食われちまってたんだから。あとチャンネル戻せ」「シュルル『うるさい』」「……いい度胸だな。お前今日飯抜きな」「シュルル『ごめんなさい』」「許す」 今や彼女は日本語を完璧に覚え、ペンと画用紙で会話すら可能とする。 控えめに言っても、モンスターの域を軽く超えていた。 § テレビを付けっぱなしにしたまま寝る東条の横で、彼女はいつも通り本をペラペラと捲る。 今読んでいるのは、人体構造の書かれた医学書だ。 最早彼に教えられることは何一つなくなってしまったのが現状。 勉強は一人でこなし、二人ではもっぱらボードゲームをするのが日課となっている。 あれは頭を使うから楽しいのだ。「……シュルル」 彼との生活は楽しい。 モンスターや人間を殺して食うだけの日々より、この数日間の方がよっぽど充実している。 様々な知識を得る機会をくれた事に、感謝もしている。 気紛れだったが、ここに来て本当に良かった。 ……ただ、不満なことがたった一つだけある。 ――彼女は自分の身体を見つめ、もう一度医学書に写る人体に目を落とした。 この身体では、人間の文化を全身で享受することが出来ない。 目の前にあるのに、触れることも出来るのに、手が無い、脚が無いという理由で諦めざるを得ない事実。 彼女にはそれが我慢ならなかった。 ……だから、 ――彼女は本をパタンと閉じ、背筋を伸ばす。 ……無いなら、望み焦がれればいい。 ……無いなら、創ってしまえばいい。 ……無いなら、変えてしまえばいい。 自分自身を。 彼女の身体が発光し、原子レベルで分解、再構築が始まる。 三mあった身体はみるみる小さくなり、百㎝程度に収まる。 光が落ち着き、徐々に露わになるその姿。 純白の長髪。 雪の様に柔らかく、儚げな肢体。 高貴な美しさを孕む、真紫の双眸。 その上にちょこんと乗っかる、丸眉。 ――彼女はぐっぱぐっぱと新しい身体を確かめ、成功に頬を緩める。「……あ、あー。あめんぼあかいなあいうえお。うきもに
last updateLast Updated : 2026-07-29
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91話

 「まさ、まさっ」 先の発光でもピクリともしなかった東条を、揺すって起こそうとする。 しかし当然、運動エネルギーは全て吸収される。 故に全く動かない。「まさっ、起きてっ、……むー」 早く自慢したいというのに、この男は……。 殴る蹴るの暴行を一旦やめ、考える。 そしてある策を思いついた彼女は、リモコンを拾いテレビを付け、音量をマックスにした。 とりあえずリモコンは顔面にぶん投げておく。「…………ぁあ?うるさ」 ようやく目を覚ました彼は、のそのそと起き上がり、 ……逆光を浴び仁王立ちする裸の少女を、その視界に捉えた。「よっ」「…………え、誰?」 当然の反応。 当然の疑問。 情報量の多さに彼の頭が高速で回転し、そして一つの結論を導く。『事案』(おい嘘だろ?俺酔ってこんな子に手ぇ出したのか⁉そもそも俺のタイプは年上と紗命以外に……いや待て、考えれば紗命も童顔の節が……。いいやまだだ、夢、そう夢!) 東条は顔をはだけさせ、一縷の望みに賭け衝撃波を放った。「ブぼぇッ」 ……当然、ぶっ飛ぶ。 ゴミの中をスライディングしていく彼に、呆れかえる彼女であった。「……」「……殺せ」 本当に殺してやろうか、と一瞬思うが、彼女は最後のチャンスを与えることにした。「よっ!」 腕を前に出し、渾身の挨拶。「……」 訳の分からない行動に再度固まる東条だが、彼女の全身を見て気付く。 髪も、顔も、睫毛も、身体も、たった一つ、目だけを除き、異常なまでに白い。 白すぎる。 そして今の挨拶……。「……まさかお前、白蛇か?」「ん。正解」 サムズアップする幼女に、今度こそ東条は目を見開いた。 ――「とりあえず服着とけ」「ん」 彼女には大きすぎるコートを投げ渡し、ソファに座らせる。 自分は地べたに胡坐を掻き、その変貌ぶりをもう一度眺めた。「で、何がどうなってる?」「変身した」「どうやって?」「身体創り変えた」「……それがお前の能力か?」「違う」「他のモンスターもそれできんの?」「分かんない。けど、私とあれは違うから」「何が?」「んー、格?」 いまいち要領の得ない回答に頭を掻く。 正直、白蛇の姿形が変わろうがどうでもいいのだが……。 一応、一番重要な、今だから聞けるようになったことを聞いておく。「お前、俺を殺
last updateLast Updated : 2026-07-29
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92話

 「……お前、一日中それやってたのか?」「ん」 パソコンを慣れた手つきでタップする彼女。 生えた腕をもう完璧に操っている。「何調べてんだ?」「モンスター」「何で?」「バレたらどうなるか」「あぁ、なるほどね」 要するに、自分の本当の姿がバレたらどうなるかを、モンスターが人間に与えた損害から予想していたのだろう。 実に周到なことだ。「で、どうなる?」「死ぬ」「だろうな」 当然だ。擬態できるモンスターがいると知られれば、それはもう酷い目に合うに決まってる。 東条は然して気にした風もなく、伸びをして眠気を払った。「朝飯何食うよ」「ラーメン!」 彼女は画面から顔を上げ、待ってましたと笑顔を作る。「それまたどうして」「もう箸持てる」「あぁ~」 手でチョキを作る彼女に納得する。色々試したくてしょうがないのだろう。「おっしゃ、んじゃあの店行くか」「賛成」 二人してレストラン街へ歩を進めた。 ――冷凍麺を取り出し、湯に掛ける。同時に冷凍庫からスープの入った寸胴を取り出し、コンロに置いた。 二人は解凍が終わるまで、しばしテーブルで待つ。 カタカタとキーボードを叩く音が、ボロボロの店内によく響く。「……お前これからどうすんの?」「動画投稿者になる」「…………は?」 いきなり飛び出すビックリワードに、目が点になる。「動画出して、お金稼いで、美味しい物食べる」 X tubeを見て育ってしまったが故の現代病。 画面の向こうに無限の可能性を信じて疑っていない。 そこに至るまでに、どれだけの苦行があるとも知らずに……。(俺のせいか?俺の育て方が悪かったのか?) 何故か世の親と同じ責任を感じる東条。対して目の前の少女は、どんなもんだい、と胸を張っている。 ……そこはかとなくムカつく。「お前なぁ、大変なんだぞtuberは?」「ん」「ジャンルはどうする?そもそも口座ないだろ」「……これから考える」「ああ」 頭を抱える東条には、彼女のtuber人生が一瞬で潰える未来が見えた。 ――「ずるるる。見へ、ちゃんほ啜えは」「口に入れたまま喋んな」「ん」 人型になったお祝いとして、彼女の器には山の様にチャーシューが盛られている。 慣れない箸を使い、懸命に麺を啜る姿に、何かが芽生えそうになった。「……何で動画投稿
last updateLast Updated : 2026-07-29
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