Semua Bab Real: Bab 101 - Bab 110

146 Bab

103話

  ――ステーキを頬張りながら、キーボードを叩くノエル。 長い間忙しくなく鳴っていた音が突然止み、東条がそちらに顔を向けた。「……よろしくおねがいします」 カチッ、とエンターキーが押され、一息吐き椅子に凭れる彼女。 達成感に満ち溢れた顔が、此方を向いた。「できたか?」「でけた」 皿を置き、興奮気味に歩み寄る東条。彼女の後ろからパソコンを覗き見ると、そこには歴とした動画投稿サイトが出来上がっていた。 真っ白なホームは、これから自分達が足跡を刻む場所である。「ノエル」「ん」 パチン、とハイタッチの音が、ボロボロの室内に気持ち良く響いた。「荷物は纏めといたぜ。下着類数着。雨靴。救急用品。キャンプ用具一式。その他もろもろ。あとこいつね」 ドガン、とドラム式洗濯乾燥機を地面に置く。「飯類は現地調達でいいだろ」「ん。いざとなったらあいつら食えばいい。動画伸びそう」「ハハハっ、投稿者らしくなってきたじゃねぇか」 殺戮スプラッタ動画の中にも、やはりユーモアは必要だろう。やってる方も見てる方も、面白いのが一番いい。「他に何かいるか?」「これと、ビデオカメラと、アダプター類と、予備バッテリーと、SDカード沢山」 事前に用意していた機械類を並べる。 既にパンパンな巨大リュックではあるが、「まぁ、押しこめば入るか」 たぶん入るだろう。「リュックはノエルが持つ。洗濯機は任せる」「それはいいけど、重くないか?」「余裕」 ヒョイ、と片手で持ち上げるその姿に、そう言えばこいつ人外だった。という事実を思い出す。 漆黒に乗せてしまえば済む話ではあるが、戦闘時のリソースを無駄に裂くことになるのも事実。ここは素直に甘えようと考えた。「それで、準備は完璧に整ったわけだが……いつ出る?」「今」「却下」「明日」「おけ。……いよいよだな」「ん。楽しみ」 遂に迫る冒険の門出に、二人は無邪気に笑い合った。 § ――静謐が包む夜の屋上。瞬く星空の下で、東条は墓を作っていた。 ノエルに作って貰った大きめの木の杭。そこに、共に過ごした皆の名前を、一人一人丁寧に彫っていく。 名前を覚えるのが苦手な自分が、彼等の名前だけは鮮明に思い出せる。 それほどまでに濃く、美しかったあの時間。 出会い、 打ち解け、 遊び、 喧嘩し、 恋をした。
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104話

  ――暦は二月。 まだまだ肌寒さが消えぬ月ではあるが、土の下では、春を待ちわび新芽が顔を出す支度を始める。 自然も、人間も、モンスターも、仄かに香る冬明けに備え、ゆっくりと動き出す。 そんな中、一足先に準備を終え、今まさに飛び立とうとしている者達がいた。「リュックよし」「よし」「洗濯機よし」「よし」「カメラよし」「よし」 場所は屋上。指差し確認で忘れ物がないか確かめ、最後に自分達の前に立つ三脚を見据える。「回していいぞ」「おけ」 今から撮るのは、記念すべき最初の動画。自分達の活動方針の説明と意思表明だ。「今はとれば?」 ノエルが東条の頭を覆う漆黒を指さす。「セルフモザイク」「なる」 身バレして親類に迷惑をかけるのは違う。そう考えた東条は、世に出回る自分の顔は全て隠そうと決めたのだ。 元々常時外す気は無かったし、何より外せば一人の時動きやすくなる。 ノエルがリモコンを押し、ビデオの録画が始まる。 堂々としている彼女の横で、東条は少しだけ緊張に身体を固めた。「ノエルはノエル。今から山手線の中を冒険して回る。欲しい情報があったら言って。沢山のお金と交換。あと国はノエルの口座作って。動画上げるから見て。血はいっぱい出る」 言いたいことを最短で列挙していく彼女に、思わず苦笑が漏れてしまう。「……最後に忠告。ノエル達はやりたくない事はやらない。やりたい事だけをやる。法律はなるべく遵守するけど、それ以外に従うつもりはない。応援よろしく」 そう言って彼女は録画停止のボタンを押した。 視聴者のへの配慮など一切考えない、実に独善的で、彼等らしいスピーチ。 ノエルは早速パソコンとビデオを繋ぎ、拡散の準備を始める。「どんくらいかかる?」「すぐ。アプリは作った。後は今の動画と一緒にSNSにばら撒く……だけ……、終わった」「はや」「じゃ、行こ?」 飛びつく彼女を抱え直し、にやりと笑う。 遂に来た。この時が。「新たなる旅路にっ」「しゅっぱーーつ」 燦燦と降り注ぐ陽光をバックに、助走をつけ思いっきり屋上から飛び降りた。 今日は絶好の冒険日和だ。 § ――ネットサーフィン中の男。 会社で休憩中のビジネスマン。 お昼休みのオーエル。 講義中、スマホを弄る大学生。 力を手に入れた、余裕のある被災者達。 
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105話

  罅割れた道路をひょいと跨ぎ、呑気な鼻歌が二人の足取りを軽くする。 頑丈な壁の隙間を蔦が這い、屋根から大樹が顔を出す、コンクリート+ジャングル化したポストアポカリプス。そんな場所を彼等は現在、進路を東へと向けて進んでいた。 それもこれも、ノエルの『見たい』を叶える為。「水族館行って何が一番見てぇ?」「ニモ」「あ~皆好きだよな、あれ」 あの映画で一躍海のアイドルとなったカクレクマノミ。 イソギンチャクの中に住む生態は愛嬌があるが、イソギンチャクの方が見ていて面白いと思うのは自分だけだろうか。「まさは?」「クラゲ」「えー」 ゆらりゆらりと漂うあの姿に、漠然とした安心と情緒的何かを感じるのだ。 あれが侘び寂びというものだろう。「いいじゃんクラゲ」「つまんない」「かー、分かってねぇな。俺くらいになるとな、見るからに可愛いもんよりも、ダンゴウオとかブロブフィッシュみたいな何考えてんのか分かんない奴が好きになってくんだよ」「ふーん」 自分も彼くらいの年になったら分かるのだろうか? そんなことを考えながら、乗り捨てられ、木と一体化してしまっている車から飛び降りた。「あーでも、シャチは好きだな。色カッコいいし、何より強ぇ」「白黒。ノエル達みたい」「確かに」 言わずと知れた海の王。小さい頃見たショーには興奮したものだ。「シャチいる?」「いやー、流石にいないだろ。もっとデカい水族館じゃなきゃ」「……残念」「今後の楽しみにしときな」「ん」 やけに静かな道程に疑問は抱かず、彼等は目的地へと順調に進んでいった。 ――「しっかし人いねーな」 サンシャイン六十通りの入口に立つ二人は、不気味なほど静かに立ち並ぶ商店をつまらなそうに見つめる。 やはり最凶エリアというだけあって、殆どの建物がトレントと一体化してる。 道中もそれは変わりなかった。 他の被災地を見ていないから分からないが、これ程の終末世界、やはりここでなければお目に掛かれないのではなかろうか。「てかずっと撮ってんのか?」 ここまで一度もビデオカメラを下ろしていないノエルに、呆れたように話しかける。 黒いレンズは、依然東条を睨んだまま。「当たり前。冒険記録する」「まぁいいけどよ。……いつかリュック一つSDカードで埋まりそうだな」 想像できてしまう未来に溜息が
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106話

「グルアァ」「ゲッゲッ」「ゲアッ」石器を打ち鳴らし威嚇するその姿は、自分が食物連鎖の頂点であるとまるで疑っていない。ノエルは一歩下がり、四体の化物がしっかり映るよう、画角を調節した。「懐かしいな」一番最初に殺りあった種族であり、強くなった後も東条を死に追いやった難敵。しかし、そんな奴等に近づく彼の歩調には、警戒など微塵も感じられない。「グルアッ‼」「大将が先に出てきちゃ、いかんでしょ」突進から振り抜かれた鈍器をゆらりと躱し、追従する二体に向けて地を蹴る。「ギぶっ⁉」「ガっ――」武器を構える暇すらない。一体は顔面を蹴り抜かれコンクリの壁に突き刺さり、一体は頭部を掴まれ道路に叩きつけられた。……両者、ピクリとも動かない。「グガァッ‼」無視されたことに切れたホブが鈍器を振り回すも、東条はステップだけで躱していく。あの時死ぬ気で応じていた攻撃はどんなものか、と試してみたものの、今となっては有象無象と何も変わらない。ホブが大きく振り被るのを見て、腕を曲げガードの態勢に入った。「グルゥウッ‼」ゴンッ、と鈍い音が鳴り、東条の身体が少しだけスライドする。確かな手応えにホブが鼻を鳴らす。が、「……痛くもない、か」身体強化の上からでは、最早ホブとて彼に傷を負わせるのは不可能となっていた。「――っグガァッ、っガ⁉」咄嗟に追撃を入れようと動く相手の懐に一瞬で潜り込み、肘関節を殴り折る。取り落とした鈍器を空中で掴み、迫る拳を躱しざま、身体を捻り、「オルァッ‼」「ボグぉエッ――」全力でバットを振り抜いた。直撃したホブの胸部は大きく陥没し、衝撃に内臓が破裂、目は飛び出て身体がぶっ飛んでいく。轟音を立てガラスを割り、壁にぶつかり、ようやく止まった。「……ま、ちゃんと強くなってるってことで」東条は血濡れた鈍器を放り投げ、改めて自分の成長を自覚した。「おつかれ」「おう。ちゃんと撮れたか?」「もち」ホクホク顔のノエルに、見てる此方も何だか嬉しくなる。「何か戦い方の要望あれば言えよ?出来る限り従ってやるから」「ん。……でも、まさが怪我しないならそれでいい」「……そうかい」純粋な彼女の頭をワシャワシャと混ぜ、さっさと目的地へ歩き出す。「まさ、ジャンパーに返り血ついてる」「あ?マジじゃん!ショックだわ」「いいアクセント」「
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107話

  ――都会のビルの上階にあるという、珍しい水族館。 道中店内は当然の如く荒らされていたが、やはりというか、モンスターは襲ってこなかった。 そして目の前にノエル念願の入口が見え、……まぁそうだよな、と肩を落とす。 装飾ははボロボロに剥がれ、植物は中まで浸食している。モンスターが来た証拠だ。「一応入ってみようぜ。魚は無事かもよ?」「ん」 暖簾の様になっている蔦を潜り、少し進む。 ……そこで二人は目を剥いた。 確かに至る所から木が生えてるが、薄暗い室内にズラリと並ぶ水槽は、どれも美しくライトアップされている。 その中で元気に泳ぐ魚達は、人がいた時よりもどこかリラックスして見えるほどだ。「わー」 初めて見る魚類に興奮し、大きな水槽に抱きつき、ビデオで撮るのも忘れかぶりつく様に見るノエル。 そんな年相応の姿に、東条は連れてきて良かったと親心を滲ませた。彼女が何歳なのかは知らないが。「あれ美味しい?」「イワシか、美味いぞ。蒲焼かなー」「おー。あれは?」「刺身だな」「あれは?」「煮つけ」 走り回るノエルの疑問に答えながら、東条も館内を見て回る。 不思議なほどに綺麗な水槽に、水。……人の手が入っているとしか思えないのだが。「はやくっ」 ノエルに手を引かれ、そんな疑問も霧散してしまった。 ――上階は水辺の生物コーナー。熱帯地域に生息するモノも多いこの階には、歪に生えるトレントがよく映える。「まさ。この蛙動かない」 ノエルに見つめられ、片足を上げたまま硬直するカラフルな蛙。見れば水槽内の全ての蛙が、思い思いの形で硬直していた。 絶対的捕食者を前に、己の生を悟ったかの様な顔つきで。「蛇に睨まれた蛙ってな」「あー。……わっ!」(((ビクゥッ)))「あははは」「あんま虐めてやんなよ?」「ん。バイバイ」 恐怖に動けなくなってしまった彼等の姿は、走り去る彼女に手を振っている様にも見えた。「わー、まるまる」「バイカルアザラシ、だってさ」 久しぶりに現れた人間に驚いているのか、パチクリとこちらを見ている。 まさかここまで大型の生物も生き残っているとは、ウルフとか喜んで食いそうだけど。 そんなことを考えていると、突然水槽内の扉が開き、 中から小太りの飼育員がバケツを持って入ってきた。「はーい、御飯ですよー。よしよし、
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108話

  飼育員の彼の頭の中は、只今絶賛混乱中であった。(え、人?人……ですか?顔見えないんですけど。でも女の子は人ですし、何であんな大きなリュックしょってるんですか?重くないんですか?……いいえ、落ち着きなさい。落ち着きなさい私。多分人です。人ならお客様です。おもてなし、そう、おもてなしをしなければっ) 我に返った彼は、顎を戻し二人に向き直る。そこで、少女が何かを訴えているのに気付いた。「え?なんです?……あっ」 指さす先に視線を移すと、アザラシが最後の餌を飲み込む瞬間だった。 ――「ようこそお越し下さいましたっ」 慌てて二人の前に顔を出す飼育員は、改めて歓迎のお辞儀をする。胸には平仮名で書かれた、かとう、のプレート。「驚かしてすみません。館内がとても綺麗でしたので、つい散策してしまいました」 東条に話しかけられ、一瞬ギョッ、と肩が跳ねる。「そう言って貰えると嬉しいです。綺麗にしていた甲斐があります」「その、ここにはお一人で?」「はい。……皆殺されてしまいました。今は私一人です」 そう言う彼の目は、どこか達観していて、悲しみはさほど浮かんでいない。「こんな時にいらしてくれたんです。立ち話も何ですし、案内でもさせてもらえませんか?」「勿論。いいよなノエル」「ん。かとう、動画映ってもいい?」 ビデオカメラを指さし、一応許可を取る。「動画、ですか?」「ここ近辺の状況を配信して、金稼ごうとしてるんです」「それはそれは、何とも強かなお嬢さんだ。勿論構いませんよ」「ん。ありがと」 笑って承諾する飼育員に案内され、彼等は再び水の神秘を知るべく歩を進めた。 ――「私はここの館長をやっていましてね、あの時は一人奥の部屋で休んでいたんです」 東条と二人並びながら、彼はクリスマスの日の事を思い出す。「それは突然でした。下から悲鳴が聞こえ、気付いた時には、見たことのない獣や、犬の頭をした小人みたいのが人間を襲っていたんです」(犬の頭……コボルトか?) まだ見ぬモンスターに予想をつける。「その犬頭の力量とか分かります?」「力はそれほど強くないですね。ただ数が多いです。武器は爪や道具で、ほら、私も引っ掻かれました」 彼が腕を捲ると、治ってはいるが四本の爪痕が残っていた。「それでですね、私は怖くて、鍵を閉めて閉じ籠ったんです」「見てま
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-02
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109話

  ――背面がガラス張りになったペンギンの水槽は、本来街を泳ぐペンギンという題で人気を博していた。 今は街並みの変化もあり、森を泳ぐペンギンと言った方が似合う。「加藤さんは、この後どうするか、とか考えてるんですか?」 ペンギンの泳ぐ向きに合わせて走るノエルを見ながら、椅子に腰かける二人。「これから、ですか……。私は最後までここにいようと思いますよ」 自分が育ててきた国を見回し、決意に満ちた優しい笑みを浮かべる。「この子達を放ってはおけませんし、何より、この子達以上に大切なものもありません。……それに、いつかは餌が尽きてどうしようもなくなる時が来ます。 せめて、その時までは一緒にいてあげたいんですよ」「……」 この状況下で他者を、それも異種族を愛することの出来る彼の目を、東条は素直に美しいと思った。「まささんも大変だと思いますが、ノエルさんを守ってあげて下さいね」「ははは、あれは俺がいなくても生きていけるような豪傑ですよ」「なんと」 ペンギンに攪乱される少女を、加藤は驚いた顔で見つめる。「……でも、貴方から沢山の事を学んでいるようにも見えます。いつの時代も、子供と稚魚は宝です」「……まぁ、善処しますよ」 歯切れの悪い返事を返し、よっこらせ、と立ち上がる。「そうだ、最後にショーでも見ていきませんか?」「ショーですか?」「見たいっ」 飛びつくノエルにカメラを返し、加藤に連れられ屋上へ出た。 ――観客席に座り、優雅に泳ぐアシカやアザラシのショーを楽しむ。 訓練された彼等のキュートな芸は、ブロブフィッシュ好きの東条の心ですら、いとも簡単に打ち抜いた。 最後の演目となり、加藤が空を眺める。「……来ましたね」 見つめる先には、一匹の小型の怪鳥。 東条が立ち上がろうとすると、大丈夫だと目線でそれを制した。「さぁいきますよ」 怪鳥が餌の魚を狙って降下した瞬間、加藤は水を操り一匹のアザラシを天へと持ち上げた。 それはさながら、空を翔る水龍の様で、「「おー」」 バクリ、と齧り付かれた怪鳥は、成す術無く水の中へ引き摺り込まれていった。 お辞儀する加藤に、二人は惜しみない拍手を贈ったのだった。 ――「楽しかった」「そりゃ良かった」 冒険に出て初めての生存者に別れを告げ、彼等はビルを出る為歩き出す。「まさの名前にはモザ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-03
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110話

  水族館からそう遠くないコンビニ内、二つの寝袋がもぞもぞと動く。「ふぁ~……おやよ」「おやよ」 テントの設営が面倒くさくなった二人は、手近な建物に入って夜を明かしていた。 頭ボサボサの寝惚け眼で寝袋を片付けるノエルが、アザラシと触れ合い海水臭くなった身体を気にする。「……シャワー浴びたい」「……あぁ、確かになぁ」 一日でも風呂のお預けをくらうと、どうにも身体がむず痒くなってしまうのが日本人の性。 考えてみれば、今は高級ホテル、高級施設が使い放題なのだ。野宿する必要とか無かったかもしれない。 東条はスマホを取り出し、近場のスーパー銭湯を検索した。「お、近くにいいとこあんじゃん」「お風呂?」「おう。いろんな種類の風呂がある銭湯」「お~」 水浴びとシャワーしか体験したことのないノエルの瞳が輝く。「んじゃ行くか」「よしゃ」 適当に缶詰をパクって食いながら、彼等は呑気な入店音を背にコンビニを出た。 ――温かい光で照らされた木々が生える美しいフロントは、ホテルと言っても何ら遜色ない。 昨今のスーパー銭湯は、値段も手ごろでホテル以上にリラックスできる場所も多い。 風呂好きからすると嬉しい楽しい万々歳。「早く行こっ」「あぁ」 東条は待ち切れないとばかりに走るノエルを、速足で追いながら落ち着けと宥めた。「……お前風呂にまでカメラ持ってくつもり?」 服を脱ぐ東条が、呆れ混じりに彼女の手元を見る。「ダメ?」「いや、まぁ、ルール的にアウトじゃね?」「わかた」 なるべくルールには従っていこうと決めたのだ。人の文化を体感してこそ、旅に意味が生まれるというもの。 ノエルはぽい、とカメラをロッカーに放り投げた。 そして、初めて目にした東条の裸体をガンミする。「……まさ、ボロボロ」「んー?」 刻み込まれた、大小夥しい数の戦闘痕。 今まで彼が通ってきた道の険しさを、彼自身の身体が体現している。 東条は洗濯機のコンセントを繋ぎ、脱ぎ散らかされた服を放り込んで洗剤を適当にぶち込む。 火傷後をなぞり、サムズアップした。「かっけーだろ?」「……ん」 全てを乗り越え尚笑う彼は、確かにカッコよかった。 ――「おー」 ノエルは目の前にひらける大浴場に興奮し、タオルを靡かせ走り出す。「まてまて、風呂は身体洗ってからだ」 東条
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111話

 「リンスって何?」「髪さらさらにするやつじゃね?……あ、おい、そっちが頭用でこっちが身体だ。ボディとシャンプーって書いてあんだろ」「ほんとだ。あ、目に入った。沁みる」「バカ野郎」 悶えるノエルにシャワーをぶっかける。 東条も慌ただしい彼女を救助した後、さっさと身体を流し立ち上がった。「先ずどれから入るよ」「ぶくぶくしてるやつ」「ジャグジーか。確かにあれは気持ち、い、い……」「……」 風呂の縁に立ち、プカプカと浮かぶそれ等を見る。 ジャグジーの水流になすがままのその生物は、時々同じ場所でくるくると回っている。 此方を見返してくる円つぶらな瞳は、戦意などない愛くるしい小動物のもの。 身体は茶色い毛で覆われ、お腹を上にして気持ちよさそうに漂っている。「魔力が低すぎて気付かなかったぞ」「かわいい」 茫然と立つ彼等を目にしたそのモンスターは、ゆっくりとオールの様な尻尾を使って泳ぎ、二人分のスペースを開けた。 まるで場所を譲るように。「おぉ……」「ありがと」「お邪魔します」と一声かけ、噴き出る泡にその身を委ねた。 それから回った行く先々に、必ずという頻度で浮かんでいるそのモンスター。 どれも穏やかな性格をしており、お腹の上にタオルを乗っけているモノまでいた。 相当な温泉好きなのだろう。 仲良くなった彼等に案内され、最後は露天風呂への扉を開ける。 熱く火照った身体を、吹き抜ける風が一気に冷ましていく。 全員で身震いして湯船に避難した。「はぁ~、この瞬間がたまらねぇ」「ごくらく」「きゅぅ~」 だらしなくほどける表情に、冷たい風が心地いい。「やっぱ冬の露天は至高だよな。ここに雪が降ってりゃ尚良しなんだが」「いつかの楽しみにとっとこ」「だな」「きゅぅ~」 ノエルの言う通り。 今は只、湧き上がる至福を堪能しようではないか。「……てかお前さ、一応メスだよな」「メスじゃない。女」「……どっちでもいいけどよ。何で俺と風呂入ってんの?」「ダメ?」「いや、どうなんだろ」 身長差的には傍から見れば親と子だ。「そういやお前何歳よ」「んー、二か月くらい」「じゃあだいじょぶか」「ん」 年齢的にも親と子だった。「かーうめぇ」「うめぇ!」「「「きゅあっ」」」 片手を腰に添え、珈琲牛乳を煽る二人と十数匹の
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-03
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112話

 § ――雑談を交わしながら、四人の若い男達がとある建物に入っていく。 場所は大石川植物園近くのネットカフェ。 しかし今やそこは只のネットカフェではない。建物の周りには棘状に大地が隆起し、堅牢なバリケードを造っている。 入口は一か所のみ。下手なモンスターでは建物まで辿り着くことも出来ない。 彼等はそこで、しぶとく生き残っている者達だ。 ……ただ、「ちゃんと食料取ってきた?」 一人の強者のご機嫌を取りながら。 そう聞く男の外見はいたって普通。特徴のない顔に、特徴のない体形。人ごみに紛れてしまえば途端に消える、大勢の中の一人。「あ、あぁ。これで三日は持つんじゃないか?」 四人が肩から降ろした戦利品を、男は不満気に物色していく。「少ないな。……今は、あそこのコンビニだっけか。食料どれくらい残ってた?」「っ、も、もう殆ど無かったぜ。なぁお前ら?」「「あぁ」」「うん」 顎に手を置き一考する男は、後ろを向きそこに立つ四人の男女に冷めた視線を送る。 見ればその更に後ろには、二十人程度の老若男女が恐る恐る九人を見つめていた。彼等は九人と比べ、見るからに気力が無く、痩せてしまっている。「調達場所を変える。次はβ隊にもう少し先に行ってもらう」 男の言葉に息を呑む四人。その中の一人、中年の男性が慌てて口を開いた。「わ、私達よりも彼等の方が戦闘に秀でています。初めて行く場所なら彼等の方が適任ではないでしょうか?」「んだとクソジジイ!」「恐えぇからってなすりつけてんじゃねぇよ!」 それに異を唱えるのは、今しがた帰ってきたばかりのα隊の四人。行きたくもない未知の場所に送り込まれるなど、堪ったものではない。 それに、今まで偵察と称して送り込まれた人間がどうなってきたかを、彼等はその目で見ているのだ。必死に抵抗するのも必然。 男はそんな光景に苛立たし気に床を鳴らし、中年を睨みつける。「変更はない。それに君達の方が弱いからって、だからに決まってるじゃないか。僕はここを守らなきゃいけないし、最大戦力の彼等を失うわけにもいかない」 お前達は死んでも構わない。そうとしか取れない言葉に、四人は歯嚙みする。「なんの為に強化魔法まで教えてあげたと思ってるの?……まぁ、君達は最低限魔法使えるし、役にはたってくれてるからいいよ。 ここの九人以外は碌に魔法も使
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-04
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