Semua Bab Real: Bab 61 - Bab 70

146 Bab

61話

  ――医療テントの中から、罵り合う様な騒がしい声が響いている。「そっちはババじゃねぇ!こっちだ、こっちを引け!」「……ふっ、読めたぜ」 東条は並べられる二枚の内、萩が指定しなかった一枚を華麗に引き抜いた。「チェックメイト」「くっそォォっ」 膝から崩れ落ちる萩に、先に上がった荒木と因幡は憐れみの目を向ける。「お前は馬鹿正直すぎるんだ、黙った方がまだ勝機がある」「んだとコラ?」「やんのかコラ?」 睨み合う二人の肩に、東条は仏の顔で手を添えた。「争いは何も生みません、皆違って皆いい、それでいいじゃないですか?」「よくねぇよぶっ殺すぞ」「……一理あるな」「ねぇよ黙ってろ最下位」 取っ組み合いを始める彼等を放って、三位は悠々と茶を啜る。「海は頭は良いんすけどね、短気なのが玉に瑕っす」「刀祢は?」「バカなのが取り柄っす」「これ以上ない誉め言葉だな」 因幡が散らばったトランプを集め、上下きっちり揃えて仕舞う。 成り行きから始めたカードゲームが、思いの外盛り上がってしまった。「……それは置いとくとして、彼女の事はいいんすか?公衆の面前で告っといて」 ちらりと見るも、当の本人も悩ましさから頭を抱えていた。「……言うなよ。……正直、どんな顔して会えばいいのか分かんねぇんだよ」「その場のノリで言っちゃったけど、後になってジワジワきてる感じっすか」「感じっすわ」 今まで散々フランクに接してきたというのに、いざ気持ちに正直になると、途端にそれまでの経験を見失ってしまう。 人ってのは、なんて難しい生き物なのだろうか。「はぁ、めんどくさい人っすね。刀祢を見習ってほしいっす」「……それはやだ」「うじうじ言ってないでさっさと失せろっす。……きっと待ってるっすよ」「…………、あいよ」 頬をペチペチと叩いて気合を入れ、立ち上がった。「そんなんじゃ気合入んねぇぞ?どれ、貸してみ、ろッ‼」 本気で繰り出された萩の平手打ちに合わせて、カウンターの平手打ちをぶち込む。「バふひゅっ!?」「ありがとう、おかげで気合が入ったよ。行ってくる」 そのまま出ていく彼を、二人はシッシ、と見送った。「……悪い奴ではなかったな」「……ムカつく終わり方っすけどね」「まったくだ」 痙攣する萩を置いて外に出た彼等は、すっかり雲の晴れた夕焼を見上げ
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62話

  ――小鳥の囀りに覚醒を促され、緑葉の隙間から差し込む光に目を窄める。 それから、隣に感じる温もりに顔を向けた。「……おはよ」「ふふっ、おはよ」 ピッタリと肌を寄せる紗命が、優しい声で朝の訪れを告げた。 ――「んじゃ報告に行くか」「結婚の挨拶みたいやなぁ」「まぁ似たようなもんだ」 着替え終わり、東条は紗命を抱えて飛び降りる。 準備は終わった。 覚悟も出来た。 別れの時だ。 ――「……本気なのか?」 驚きに固まる葵獅が、二人の顔を見つめる。周りで聞いていた他の人等も、概ね同じ反応だ。「あぁ、俺はその為に強くなったからな」「……いつだ?」「明日にでも」 東条の顔に迷いはない。「紗命はいいの?」「えぇ、その為に頑張ったんやもの」「……そう、……決めたのね」 凜は寂しそうな表情を浮かべるも、諦めたように笑った。「あたしは別にいいと思うわよ」「寂しいですが、私も止める気はありませんよ。彼等がそう決めたのならば、私は口を挟みません」 佐藤も首を縦に振った。 皆の視線が葵獅に向く。何せ、現最強とリーダーの一人が抜けるのだ。只事では済まされない。「……はぁ、俺も別に否定はせん。お前なら何を言ってもどうせ出ていくだろうしな」「よく分かってる」「しかしだ、唐突過ぎるだろう?事前に教えてくれても良かっただろうに」 冒険に出るなど、いきなりそんなことを言われても焦るだけだ。「それに、即戦力が抜けるんだ。お前達が抜けた後の陣形も組み直さなきゃいけない。これからの危険も増すんだ、皆の心の準備も必要になる。そこらへんの事もちゃんと考えてくれ」 要としての自覚を持てと、そう問う葵獅。 自分を優先し、自分の決めた目標の為に動いてきた二人。 他を気にせず、我を貫いてきた二人。 一見、全く響かなそうな言葉。 しかし、そんな彼等の中にも、共感と申し訳なさが込み上げていた。「……すまない。正直、ここの皆とこんなに仲間意識を持つとは俺も思わなかった。 初めは満足出来次第、勝手に出ていこうと思ってたんだ。でも知らず内に、ここに居心地の良さを感じていたみたいだ。 ……うん、……確かに少し考え足らずだった、謝る」 自分でも気づかぬ内に、大切な者が増えていたらしい。 それは紗命一人ではなく、この場所で手に入れた繋がりそのものだ。 
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63話

          § 今までと何も変わらぬ七日間を、確かな意味を持って過ごしていく。――鍛錬はより深く。――魔力を溜め、外に出す、もう一度溜め、外に出す――感覚に慣れてきたら、溜めと出しの間を無くし――「ぶはぁッ」いつの間に止めていた息を吐き出し、どっと汗がふきでる。隣で、ぶっ倒れるまで付き合ってくれる紗命から飲物を受け取った。「あんがと、――ぷはっ……むっず……」今、この領域に手を伸ばせるのは彼一人。しかし、細かな魔力操作に、魔力を逃さず全身に巡らせる集中力、それらを継続させる精神力。一つ一つが高難度の技。彼とて一朝一夕でできるものではない。ホブゴブリンとの戦いでは、身体強化の時間制限に死の気配を見た。今やっているのはその制限を取っ払う鍛錬だ。習得した暁には、発動しさえすれば絶えず体内と体外の魔力が循環することになる。一定の魔力が常に『ある』状態になるのだから、溜めも減りも考えなくて済む。いかに楽をするか、という思考から生まれた技の極地。技術の進化とは、常に楽から生まれるものなのだ。★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
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64話

――交遊もより深く。――「六だ。煉瓦と木で、道を造る」「おまっ、そこに置くんじゃねぇ!俺の道が遮られんだろ!」「そーゆーゲームだ。次、東条」夜の帳が降りる中、テントの一つから、男達の賑やかな談笑が聞こえてくる。「あー、これと、これと、これで、発展三回」「発展ばっかして何がしたいんすか?」「ギャンブルが辞められねえのさ。とりあえず騎士カードで、騎士をここに」「てめぇっ!俺に何の恨みがあんだ⁉」「ほれ、手札引かせろ」刀祢の苦渋の表情をせせら笑う。「……よし刀祢、もしカードをもう二枚くれるなら、この騎士を退かそう」「本当か⁉いいぞやる!」東条は頷いてカードを受け取り、騎士をずらし、「恭祐」因幡の手札を引き、……そしてまたさっきのマスへ戻した。唖然とする刀祢から、残り一枚となった手札を抜き取る。「羊か、いらんな」荒木が腹を抱えて笑い、因幡が外道すぎる手に戦慄する。「えぐいっすね」「俺は好きだぜ?ひひひひっ、腹いてぇ」日課となった夜のボードゲーム大会、彼等は夜な夜な一つのテントに集まり、中からパクってきたものを賭けて日々ゲームを繰り広げている。強力なモンスターが見られなくなり、東条がいなくなると分かった今、彼等の中でも戦闘に秀でた者は、今後の為にも探索に慣れておくことを推奨された。この三人もその中に入っている。そこで自分で取ってきた何かが、いつも賭けとして使われる。若い内から賭け事に嵌ってしまった四人のテントは、毎晩呑気な笑いを響かせるのだ。
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65話

――そして愛は、さらに深く。――「むぅ、最近帰るの遅ない?」「いや、言ってもまだ二十一時だぞ?」マイホームの根元に引っ越した紗命のテントを開けると、膨れっ面の彼女が不貞腐れていた。「うちより男友達とのゲームなんや、ふーん、そーなんや」「悪かったってぁ⁉」勢いよく押し倒され、馬乗られる。「……許さない、体で払いなさい」見上げた先で、小さな悪魔が艶美に微笑んだ。「……いいぜ」「きゃっ」彼女等の夜はまだ長い……。♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
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66話

  それから一週間、彼等は互いに手を取り合い、力を合わせ、たまに殴り合い、怒り、笑い、しかし涙を流すことはなかった。 明日には東条と紗命がこの場所を去る。 今日は二人の送別会である。 時刻は昼の十二時。 生憎の曇りではあるが、豪勢な食事が並び、ぼろ切れに書かれた手製の横断幕が掲げられている。 佐藤がマイクを持ち、前に出た。「えー、代表として話させていただきます。佐藤 優です。あ、有難うございます」 花の拍手を皮切りに、大勢の拍手が佐藤を迎える。「……そうですね。世界が変わってしまってから、色々なことがありました。 死にかけて、生き延びて、目の前で沢山の人が亡くなって、それでも生き延びて、私達は今ここに立っています。 ……私達も、足掻き、藻掻き、努力し、手繰り寄せた。 しかし、そこに彼等の力が無ければ、疾うに私達は木の養分でしょう」 全員の視線が二人に向き、照れ臭そうな表情に歓声を送る。「紗命さんは、どうしていいか分からない私達四人を纏め上げました。 水の魔法で、沢山の命を守り切りました。 そして、自慢の笑顔で、数々の男を虜にしてきました」「もぅ」 男衆の口笛が響き、因幡達三人が誉め言葉を並び立てる。「対して東条さんを初めて見た時は、新手のモンスターかと疑ったほどでした」「まったくじゃ、危うく刺しそうになった」 頷く若葉に笑いが起きる。「しかし彼は強かった。 途轍もないほどに強かった。 モンスターを蹴散らし、屠る彼の勇姿に、憧れを抱いた者も少なくないはずです。 斯く言う私もそのその一人ですから。 ……そして、その勢いのまま紗命さんを手に入れた」 先とは裏腹に、大ブーイングと三人からの罵詈雑言が乱れ飛ぶ。「そんな二人が、明日この拠点を去ります。 まだ見ぬ地を踏む為に、まだ見ぬ空を仰ぐ為に。 いいじゃないですか! 男なら誰しも憧れる、冒険に彼等は行くのです!」 今日一番の歓声が、彼等の祝福を称える。「確かに、寂しいし、戦力も大幅に落ちます。 しかし、いつまでも彼等に頼っていては前に進めない。 いつかこの地を脱出する為にも、私達は更に強くならなければなりません。 なに、心配しなくても私達は強いですし、彼等ともう会えなくなるわけでもありません。 スマホも通じる。その時は気兼ねなく二人を呼び、助けてもら
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67話

  午後三時を回り、腹も膨れてきた皆。 大したプログラムも決められていないこのパーティを、誰もが思い思いの過ごし方で楽しんでいた。 そんな時、「……何じゃ?」 若葉の耳が微かな音を拾った。 雄叫びのような、足音のような。 直後、柵から眼下を眺めていた青年が叫ぶ。「モンスターの大群だ‼みんな来い‼」 一斉に切り替え、柵の周りに集まる皆。「……四十匹前後ってとこか?先頭に知らんのがいるな」 鬼気迫る勢いで走る彼等の先頭、豚頭のモンスターが六匹、明確に屋上を見上げ、雄叫びを上げた。 そのままデパートの中へ入っていく。「臭いに釣られたか?」「確かに鼻がよさそうな顔はしていましたね」 軽口を言いながらも、素早く戦闘態勢を整えていく。「先ずは俺と佐藤で豚頭を相手する。ゴブリンは任せていいか?」「あぁ、あの数ならば問題ない。若いもんだけでもすぐ終わるだろう」 後ろから東条が声を掛ける。「俺は戦っていいのか?」「……最初は見ててくれないか?俺達だけでも心配いらないと、そう判断したら暴れてくれて構わない」「分かった。……黄色いのが一匹いたろ?強個体かもしれないから気を付けな」 他の豚頭に比べ、先頭にいた一体は色が違っていた。 ゴブリン戦の後にも教えたが、一応忠告しておく。「あぁ、覚えてる。特殊個体というやつだろ?油断はしない」「おけ、じゃぁ俺と紗命はゆっくり見てるよ」 東条は戦線の後ろへ椅子を持っていき、気楽に座った。その横に紗命も並ぶ。 ――危険が迫ったら迷わず助けに入るつもりだが、彼等の姿を見ているとそれも杞憂に思う。 数で言えば以前の方が多いし、これ以上の奇襲にも幾度となく対処してきた。 しかし誰一人として油断していない。 さっきまでの緩んだ空気は消え失せ、剣呑な闘気が辺りを包んでいる。「……環境ってここまで人を変えるんだな」「恐ろしいと同時に、頼もしくもあるなぁ」 自分達もその中の一人であると自覚し、彼等にエールを送った。 ――「……来たわね」 エスカレーターを上り続々と九階に現れるゴブリン。その光景を、以前ぶち抜かれた壁から確認する。 ゴブリンを盾にするつもりなのか、豚頭は彼等が全員突撃するまで近づく気配がない。「……まぁいい」「ギゲェッ‼」 群れて穴を通ってくるゴブリンは、しかし人工的に造られ
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68話

 「ブギェェェッッ⁉」 跨っていた葵獅は、目を焼かれ滅茶苦茶に暴れる黄オークに振り落とされる。 そのまま飛び跳ね、佐藤の隣へと戻ってきた。「……上手くいったな」「ふぅ、やっぱり疲れますこれ」 どんな生物も、目が見えなくなってしまえば大体は詰む。 黄オークとてそれは例外ではない。 幾ら高い魔力を持っていても、天変地異でも起こせない限りこの現状をひっくり返すのは無理である。 辺りに撒き散らされる風塊が、四方八方に瓦礫を巻き上げる。「どうする?近づけんぞ」「魔力切れを待つのがベストかと」 このまま暴れさせておけば、いずれ動けなくなるのは明白。 佐藤が風魔法で相殺していると、 ピクリ、 オーク達の鼻が何かを感じ取った。 しかし、人間達の中にその微かな反応に気付く者はいない。 代わりに、異常なほどの豪風が室内に吹き荒れた。「――っなんだ⁉」「――ッ」 その全てが、両手で掲げられた棍棒に収束していく。 はち切れんばかりのそれは、明らかに自分でも制御しきれていないのが見て分かる。 あんなものを放てば使用者も無事では済まないだろう。「お二人共ッ‼逃げろ‼それはマズいッ‼」 既に外の戦いを終え、中を見ていた若葉が叫ぶ。「「――ッ」」「ブㇽォオッッ‼」 二人が若葉の声に反応するのと同時に、棍棒が地面に衝突。 無理矢理一点に集められた風が拡散し、脆くなっていた床を爆砕した。 オーク三体、人間三人、成す術無く下階へ落ちていく。 途中、「――っぬぁ⁉」「――ッ東条さん⁉」 空中で二人を捕まえた東条が、全力で彼等を穴までぶん投げた。 ――落下後、東条は漆黒の球体の中から、何事もなかったかのように顔を出す。(この程度の高さなら、わざわざ助けなくても大丈夫だったか……) 瓦礫を退かし上を見上げると、次々と沢山の顔が現れる。「――っ桐将⁉桐将っ‼」「無事か東条っ⁉」「あぁっ、無事だ!」 手を振るその姿に、紗命は安堵の溜息を吐く。 彼の能力を知っていても、心配せずにはいられなかった。 辺りを見回し、奴等を探す東条。 今の衝撃で死ぬほど軟ではないはずだ。「……あ」 十m程先を疾走する黄オークと、遅れて走る二体のオークを見つけた。「トドメ刺してくるッ――」「あっ、ちょい!」 すかさず弾丸の様に飛び出す彼
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69話

 「だいぶ離れたな……」 九階から落ち、八階を駆け抜け、レストラン街の途中でまた落ちた。 自分は今七階にいることになる。 とりあえず、と漆黒に乗り頭上の穴を目指す。 漆黒は消してから出すのはコンマの内に収まるが、縦横移動になると途端にカタツムリ並みの速度になる。乗ったまま高速で移動できないのがネックだ。 八階に降り、元来た道を進む。 ――オークの死体を避け、進む。 ――やけに静かな帰り道。 ……ふ、と足を止め、彼はある一点を注視した。 そこは、八階から屋上への直通路。 一番最初の避難時以外、一度も使われていない通路。 メンバー間で、モンスターに悟られぬよう、出入口は一つに絞ろうと決めた。 だからホブ達もここに気付かず、人間の出入りが盛んだった九階の経路を使ったのだ。 ――彼の目の前には、圧倒的な力で捻じ切られた防火扉が静かに項垂れている。 心臓が早鐘を打ち始め、言い知れない不安が湧き上がってくる。 ありえない。 いつだ? まだ最初に落ちてから五分も経ってないぞ。 行きはどうだった? 見てなかった。「――ふぅ、ふぅ、……落ち着け……」 扉を潜り、上り階段に足を掛ける。 大丈夫だ。 葵さんも、佐藤さんも、紗命も、源爺も、因幡も、刀祢も、海も、皆強い。 もし知らないモンスターが攻めてきてたとしても、彼等なら問題ないはずだ。 ――自分に言い聞かせるにつれ、反対に上る速さは増していく。 見ていてくれと彼等は言った。 任せてくれと彼等は言った。 ならば信じるだけだろう。 仲間として、彼等を信じるだけだろう! ――潰れたドアを押し開け、へし折れたバリケード用の木を飛び越えた。 クチャ、くちゃ、クチャクチャ、バリっ、――「…………」 ――視界を埋めるのは、本来は違う色だったはずの、赤いペンキをぶちまけた様な床。 地面は罅割れ、テントは吹き飛び、木々も抉り倒されている。 凡そ居住地と呼べる風景は、跡形もなく消え去っていた。
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70話

 ――中心に、ドス黒い緑をした何かが、十数人の人の死体の上に座り背中を向けている。 耳を澄ますと、奇妙な音はそこから聞こえてくる。 クチャっ、バリバリッ、グチャクチャ―― まるで、何かを食っているような……「――っ」 見てしまった。見えてしまった。あれは、 ……腕だ。 それもよく知っている腕。 筋骨隆々な、何度も手合わせした、逞しい腕。「――っ紗命ッ‼皆ッ‼」 ――返事はない。「葵さんッ‼佐藤さんッ‼」 ――返事はない。 ……そうだ、隠れてるのかもしれない。きっとそうだ。そうに違いない。そうに…… こつん。 靴に何かが当たり、下を見る。 ……そこには、赤く染まった花飾りと、罅割れた菊のブローチが転がっていた。「――ッッッッ‼‼‼」 大地を蹴り砕き、一瞬で肉薄する。 脚から腕へ漆黒を移し、醜い顔を全力でぶん殴った。「ばガぁァっ⁉」 ゴブリンの王は衝撃で飛んでいくが、すぐに起き上がり殺意を滾たぎらせる。「――ッッ‼」「グガァァッ‼グぅっ」 唸る拳を地面ギリギリで躱し、脇腹を殴り飛ばす。 強引な追撃を後ろに飛んで躱した。 外れた拳は地面に小さなクレーターを作っている。「……」「ゲェェェェアァッ‼」 両者同時に地面を踏み抜いた。 ――右から来る剛拳を躱し、鳩尾を殴る。 ――左下からくる蹴りを屈んで躱し、右膝の関節を横から殴る。 ――崩れ落ち低くなった顔面に、回し蹴りをぶち込む。 ――倒れる前に顎あごを蹴り上げ、顔面を殴り地面に叩きつける。 ――蹴り飛ばし、殴り、弾き、抉り、突き刺し、また殴る。 ――殴り、殴り、躱し、殴り、躱し殴り殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴――「グゲァァァアアッッッ‼」 ゴブリンの王の怒りが頂点に達した。 キングは自分のプライドを傷つける者を許さない。 万全の状態を整え復讐を決行した。 その復讐も完了し、気持ち良く食事をしていたら、いきなり殴られた。 羽虫の一匹、一撃当てれば終わるのに、それなのに、どうしても当たらない。 ちょこまかと避けては突いてくる。 痛くはないが、その一方的な攻撃が、キングのプライドを傷つけた。「ゴルァッ‼」「……」 東条は突っ込んできたキングを避け、後ろから攻撃しようとし、 キングが狙い拾った大戦斧の大薙ぎにブレーキをかけた
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