Semua Bab Real: Bab 71 - Bab 80

146 Bab

71話

  ――(……死んだな) 霞みがかる脳裏で、自分の敗北を理解する。 もう指の一本も動かない。このまま握り潰されるか、食われるかのどちらかだろう。 彼は諦め、最後に唾でも吐いてやろうとキングの顔を見る。          笑っていた ようやく見れた敵の悶える姿にか、自分の勝利を予感してか、キングの顔にはべったりとした笑みが張り付いていた。(……あ?) 状況も忘れ、唖然としてしまう。(……何、笑ってんだ?)(……俺が、笑われてんのか?) 極限の身体状況の中、思考が暗い闇に呑まれ、感情の濁流に意識を持っていかれる。      緊張?                        焦り?                                 恨み?                       後悔?(……なぜ?)自分という定義の境界が曖昧になっていく。不安?              自責?     嫌悪?(……俺が、守れなかったからか?)    諦念?                    絶望?    憎悪?                      悲しみ?(……俺が、皆を、死なせたからか?) 自分の中にある願望が、欲望が、無理矢理広げられていく。(………………違うだろ)                                 怒り?(……悪いのは、お前だろ)(俺から奪ったのは……お前だろ) 自分が抱いてきた大切な感情、想い、記憶は漆黒の中へ消え、『奪われた』という他者からの干渉のみに強烈な執着が纏わりつく。 (……笑うな) 思い通りにならない世界に対しての、                  放心? 容認?                                拒絶? (その顔を……) 自分をを阻む全てに対しての、                         恐怖?(……やめろ) 不可侵な程に自己中心的な、            殺意 ――――「……」 ゆらりともたげた東条の貌は、のっぺりとした漆黒に包まれ表情が無かった。
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72話

  貌だけでなく全身黒に包まれる彼の両腕は、歪な程に肥大化している。 一瞬の内の急変にキングが動揺し、笑みを止めた。 握り潰そうと力むも、全く力が入らない。「グゲァッ‼ゲァッ‼ゲァッ‼――」 気持ちの悪い感覚に雄叫びを上げ、黒い人型の何かを、これでもかと地面に叩きつける。 しかし、 感触がない。 壊れない。 音がならない。 変化のない世界に怖気を感じ、そのままぶん投げた。「……ゴルルㇽㇽㇽ」 キングはむくりと立ち上がる『それ』に大戦斧を構え、「ゴルァアッ‼」 大跳躍。 全力で振り下ろした一撃は、 しかし、『それ』に当たってピタリと止まってしまう。「――ッゴア⁉」 瞬間、驚愕に硬直した身体を、ガバりと肥大化した両手で掴まれる。 同時に、纏っていた魔力が一瞬で消え去った。 いや、吸われた。 焦りと恐怖に、キングの額から汗が噴き出る。 全魔力を集め抜け出そうとするも、全く力が入らない。 跳ねる様に顔を上げるキングが最後に見た光景は、 敵にべったりと張り付いた、獰猛な笑みだった。 ――両側からの尋常でない衝撃にプレスされたキングは、下半身を残して肉片の雨と化す。「あはははははははっおぼぇっひっあはははははははっばふぁッ」 再び貌を黒く染めた東条は、血を吐きながらその中を笑い転げていた。 何を思って笑うのか、何を嘆いて嗤うのか、それは彼にすら分からない。 ただ止めどなく溢れてくる感情に、彼は身を委ねているだけだ。「…………」 凄惨な雨が止むと同時に笑い声は止み、今度は目に入った下半身を蹴り飛ばす。 ――殴り、蹴り、引き千切り、ぶん投げる。「…………」 肉片しか残らなくなると、彼はまた止まった。 ――ゆらりゆらりと歩いては止まり、歩いては止まる。 ――と笑った場所。 ――と食事した場所。 ――と遊んだ場所。 ――と暮らした場所。 何か目的があるわけでもなく、ただ歩き、ただ止まる。 そこに理由は無いし、当然意味もない。 cellというのは、本当の自分であり、もう一つの自分である。 今の彼は、己のcellに呑み込まれた結果。 言わば、彼を形作る概念そのものだ。
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一巻〜最終話〜

   ――何時間経ったのか、再び彼が一歩を踏み出すと、  パリン  足元から乾いた音が響いた。 反射的に飛び退き、音の出所に拳を放つ。 ――彼の動きがビタリ、と止まった。 辛うじて原形をとどめている菊のブローチが、そこにはあった。「あぁあ、ああぁぁあぁぁぁ」 慎重に、慎重に、ブローチを掬い上げる。 のっぺりとした貌が徐々に剥がれ落ち、大粒の涙が紫の宝石を濡らす。「あぁぁぁあぅっ」 全身を包んでいた漆黒が霧散すると同時に、自重に耐え切れず東条が崩れ落ちた。 彼を蝕む損傷は、既に許容できる限界値を越えている。「勝ったよ、紗命ぁ。ちゃんと勝てたよ、ははっおぽっ……」 愛しい人を思い浮かべ、勝利の報告を告げる。 ブローチを掻き抱き、湧いてくる記憶を一つ一つ確かめる。 今なら鮮明に思い出せる仲間の顔に、彼は安堵した。 「……そうか、勝てたのか……俺は、勝てたんだ…………勝っちまったっ、勝ったッ、勝てちまったッ、俺がいればッ、俺ガはッいればっ!がでだっ‼、がでたッ‼  ――ックッッソガァァァァァァアッッッッッ‼……――」  響き渡る慟哭は、自責と懺悔の色に染まっていた。 彼が抱くのは、後悔、取り返しのつかない、絶望的なまでの、後悔。 ……こんなことならば、ずっと、一人でいれば良かった。ずっと、自分の好きなことだけしていればよかった。 ずっと、楽しいままでいたかった、楽しいままで……、 脳裏に、微笑む少女の顔が過よぎる。「……ちくしょうっ、ちくしょうッ」 丸まって己を攻め続ける東条の頬を、ポツリ、ポツリと降り出した雨が叩く。 空を見上げれば、汚らしい曇り空だった。 「…………ははっ、もぅいいや」  次第に強くなる雨露は、彼の頬に線を作る。「……………………疲れたわ」 発した言葉は、行きつく先を求めて、……薄く、……儚く、……寂しく、……無情に、  雨音に流された。             § いつ、どこで、誰が死のうと、私達には関係ない。 苦しみ、嘆き、絶望する人がいても、世界は大して変わらない。  あなたは、今この時誰かが泣いてるとして、手を差し伸べられるか? あなたは、今この時誰かの命が消えたとして、涙を流せるか?  無理だろう。  あなたはそれを知ることもない。  一つ一
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2巻〜76話〜

  時は遡り十二月二十四日、クリスマスイヴ。 世界が変わった、あの日。 モンスターの出現も一旦収まった真夜中。  池袋駅東口は、不気味な静けさに覆われていた。 聖なる日を祝福するクリスマスツリーは根元からへし折られ、光の象徴たる星は見るも無残に踏み潰され輝きを失っている。 辺り一面に車が横転し、倒壊した建物の断片が各所に傷を残す。 そしてまだ掃除屋がいないこの日は、冷風に乗って何処からともなく血の臭いが漂い、充満していた。  閑寂な宵闇に光を落とす満月。 一縷の希望も許さない汚濁した球体。 幻想的なコントラストを映す情景は、一つの終末の完成形だ。 何者も邪魔となり得るその空間に、 しかし次の瞬間、それら二つが霞むほどの『白』が生まれ落ちた。 純白の鱗は、寒月の下、月光を受け淡く煌めく。 手も足もない三m弱の細長い体は、余計な物の一切を削ぎ落した流麗さを感じさせる。「……シュルル」 舌をチロチロと出し入れした後、アメジストの様な瞳が一つの建物を見つめた。「……シュルルル」 数秒、目を逸らした白蛇は、ゆっくりと夜の中へ消えて行った。♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
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77話

  ((((……何だ、あれ……)))) ――日本時間十二月二十四日午後八時同時刻、四十七都道府県のみならず、世界各国至る所で、『それ』は出現した。 予期などできるはずもない急襲に、民間人に成す術はない。 瞬く間にそれは、ありふれた平穏を暴力と血で染め上げ、蹂躙していった。  ――「クソッ、どうなってるっ‼」「総理、言葉遣いが崩れています。それと防衛大臣の岩国様からお電話です」 場所は東京、首相官邸。彼が仕事を終わらせ寛いでいると、突然緊急の連絡が国中から入ってきた。内容はどれも同じ、突拍子のないものばかり。 しかし、秘書が見せてくれたSNSの中では、聞かされた状況と同じことが起こっている。  もしこれが嘘ではないとしたら、日本始まって以来の大厄災だ。「繋げッ……岩国かっ」「おぉ総理ッ‼無事でしたか」「お前も無事だったか、今どこにいる?」「丁度防衛省に」「いい所にいる。官邸まで来れるか?」「この中を?全くこの総理は、ジジイ使いが荒いから困る」 受話器の奥から溜息が漏れてくる。「それで?来れるか来れないのか」「ご命令とあらば例え火の中へでも」「よし。……岩国、全部隊の出動許可を出す。作戦決定まで各駐屯地周辺、半径二㎞内の敵を殲滅、住民を保護しろ」「いいので?会議もなしに決めてしまって」「構わん、そんな暇があるか。それと第一空挺団を半分、特殊作戦群、中央即応連隊、装甲車、衛生部隊をすぐに皇居へ向かわせろ、防衛線を敷いてほしい。  ……いや、待て、……やはりお前も皇居へ向かえ。私もそこへ向かう。近辺にいる閣員は居場所が分かり次第ヘリコプターで保護して向かわせろ。  皇族の方々には悪いが、守るべき拠点は一つの方がいい」 皇居からは既に、市民の避難の為門を開放したとの連絡が入っていた。その厚意を、最大限利用させてもらう。「ならば我々が迎えに「いらん。私を乗せる空きがあるなら逃げ惑う市民を保護しろ」……御意」 防衛大臣である、岩国 守と、総理、我道 英次郎は長い付き合いだが、我道が自分の意見を曲げたのを見たことがない。 本来は万全の状態で護送するべきなのだろうが、言うだけ無駄だと分かっていた岩国は渋々引き下がった。「ではな。無事を祈る」「総理も、ご無事で」 我道は受話器を置き、秘書へ指示を出そうとして、「皇居に
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78話

   ――数十分後、近場にいた国を牽引する者達が、招集に応じ続々と皇居へ到着する。 まだ来れない者はテレビ通話での参加とし、緊急の会議が開かれた。 無駄に話し合っている時間は無い。今確保しなければいけないのは、民間人の安全ただ一つ。 しかし現状は、既に敵に攻め入られ虐殺を許している状況。 民が訴える嘆きが、痛みが、彼らの胸を抉る。  絶望的なまでの戦況差に、  しかし卓を囲む顔ぶれに、一切の怯え無し。  総理自らが先頭に立ち、的確に指示を出していく。  誰もそれに意見せず、各セクションに伝達していく。 この命令系統の早さを実現させているのは、偏に総理への絶対的信頼、常軌を逸したカリスマ性が成せる業だ。 過去最高と謳われる圧倒的指導者を前に、現在の日本はある種の独裁国家となっている。  それで国が成り立っているのも、王を補佐する大臣に恵まれたから。 ここはもう、日本であって、日本ではない。 そんな国が保有する軍隊が、普通であるはずがない。 § ――モンスターは知らなかった。 今自分達が手を出している場所に、何が潜んでいるのかを。 モンスターは知らなかった。 今自分達がいる場所が、どれ程危険な場所かということを。 モンスターは知らなかった。  太陽を背負う戦闘集団の、底知れない恐ろしさを。 § ――会議とは名ばかりの、司令本部と化した一室から、重要機関へ指令が送られる。 国家の主要人物が集まるこの場所を本陣とし、到着しつつある日本最強の戦闘部隊で防衛を敷く。 それ以外、日本全国の部隊は、駐屯地防衛隊を三分の一残し、避難場所となっている学校や病院へ駆けつけるよう指示が出た。 そこから近場の避難場所を繋げていくように、自陣を広げる戦術を作戦とする。 警視庁下の部隊は、主に人命の救助を優先し駆け回ってもらう。  一先ず落ち着いた本部は、各所からの報告を待つ形となった。 ――「……ふぅ」 我道が総勢千を超える部隊を窓から見ていると、慌ただしい部屋にドアをノックする音が響いた。「失礼いたしますっ。第一空挺団所属、亜門一等陸佐、隷下、Α隊からΔ隊隊長でありますっ」「入れ」 岩国が入室の許可を出す。「失礼いたしますっ」 挨拶と共に、一糸乱れぬ動きで計五名の男女が入室し、亜門の後ろに四人が整列
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79話

  よく見れば戦闘服には幾つも血痕が付き、血の臭いを漂わせている。「はっ。我々が相対したのは、既存の動物に似た生物、小型の人型生物、昆虫型生物、鳥型の生物など、種類に規則性はありませんでした。  加えて個々で行動しているモノが多く、統率形態も無いと思われます」「手こずるか?」「いえ、銃火器で容易に殺傷できます。ただ、非常に凶暴で人間を見ると襲ってきます。武器を持っていない状況ですと、我々でも対処できない場合があるかと」「……それほどか」 皇居に避難した民が皆軽少なのにも納得がいった。  要するに、モンスターと邂逅した者は軒並み殺されているのだ。「奴らの目的は分かるか?」「……恐らく、目的はありません。奴らは只狩をし、食料を確保しているだけなのだと思われます」 部屋にいた人間達の顔が歪む。 長い事忘れていた、被捕食者としての立場。  自分達が直面している状況は、まさにそれなのだと理解した。「それと、皆様に見てもらいたいモノが」 一人が端末を取り出し、机の上に置く。 そこに映っていたのは、例のドブ色の球体であった。「……何だこれは」「私の班が六本木駅周辺で見つけた物体です。……見ていて下さい」「「「……――っ⁉」」 一拍の後、ボトボトと数十匹の似た形の異形が生まれ落ち、そして球体は消えた。 悍ましい光景に絶句し、そして確信する。「……あれが根源か」「恐らく。しかし次どこに現れるのか予測できません」「……分かった。引き続きお前達はモンスターの駆除、及び周辺の情報を集めてくれ。生き残っている民間人がいたら保護も頼む」「「「「はっ」」」」 岩国は一息つき、一度切り替え姿勢を正す。「それでは……傾聴ッ‼」 元々引き締まっている空気が、さらに引き締まった。「貴様らは今っ、冗談抜きで国一つ背負っていることを忘れるなッ‼  貴様らの一角が崩れた時、それはこの国が滅びる時だッ‼  死んでも守り抜けッ‼そして絶対に死ぬなッ‼  我が国を踏み荒らしているあのクソ共にっ、一歩たりともこの地を踏ませるなッ‼  我が国の強さを、恐ろしさをっ、奴らに見せてやれッ‼頼んだぞッ‼」「「「「はッ‼」」」」 岩国の渾身の激励により、隊長達の士気はマックスになる。  隊長達だけではない、その場にいた国の重役達にも、その意思は伝播した。
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80話

  §「何だ、これは……」 夜が明けてまだ早く、我道その他は岩国から渡された動画と写真を手に瞠目する。 一つは、夥しい数の鳥型モンスターに襲われ、次々と落ちていく偵察用ヘリコプター。 もう一つは、路上、建物、至る所から生える木々。 ヘリコプターを襲う行動はまだ分かる。 しかし、この植物は何だ?一体いつの間に現れた?「分かりません。この木が現れた瞬間を誰も見ていないと」「……そんなバカな。皇居内に入られてはないだろうな?」「はい。見張りからそのような報告は貰っておりません。木の分布も不気味なほど綺麗に皇居を避けています」「それなら今はいい。防衛ラインの状況は?」「第一から第三の防衛ライン、構築完了です。現時点、地、空、両敵性生物は第一と外からのスナイパーで対処可能とのことです」「分かった。引き続き警戒を頼む。それとヘリは今後使わせるな」「分かりました」 部屋を出ていく岩国を見届け、背凭れに体重を預ける。 夜通し状況の把握と整理に勤めていた我道は、疲労がたまって重い目を揉み解した。 § 皇居南方。 警視庁隷下の特殊部隊班により、数人の生存者が保護されていた。「もう大丈夫です。今から我々が安全な場所へ送り届けます」「有難うございます、有難うございます――」 涙ながらに感謝する民間人を連れ、木々を抜けていく。 しかし皇居までは中々距離がある。精神的にも肉体的にも疲れている一般人からすると、その道のりは例外なく険しいものであった。 歩くペースは次第に遅くなり、モンスターに見つかる危険も自ずと増していく。(……車両が使えないのは厄介だな) 何故か土へと変化した地面を踏みしめ、極端に移動手段が限られてしまう事への不満を内心吐き出した。 そこへ、「キチチチチ――」 皆の足が止まり、四人は銃を構える。 何処からか聞こえてくる奇妙な音。林に反響して場所が分かり辛い。 まるで固い物を高速で打ち付けている様な、これ以上来るなと警告している様な。「……九時の方向だ。構えろ」 班長の指示に一斉に銃が向いた。途端、「キシェェェエッ、ゲギゲゲゲ……」 樹冠の中に隠れていた巨大なムカデが彼等に襲い掛かった、と同時に短機関銃の掃射を喰らいムカデはハチの巣になる。 一瞬の攻防。民間人は叫ぶ暇すらない 安堵する彼等だが、しかし本当
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81話

  § 皇居東方。 昨夜の内に東京駅を通過したΑ隊・第一班の十人。 皇居避難民をこの地獄から救い出す糸口となり得る彼等は今、人形町付近で派手な銃声を轟かせていた。「六時の方向、獣型接近!数は五」「九時、昆虫型!多数!」 絶え間なく襲い来るモンスターを撃ち殺しながら、合流地点へとひた走る。 複数の手榴弾が爆音を上げ、奴らの甲殻が粉々に弾け飛んだ。「隊長、弾数が持ちません」「あと少しだ。弾が無いなら殴り殺せ」「っ了解」 大通りに出た彼等は、乗り捨てられた車の上を駆けながら小型爆弾を投げ捨てていく。 最後の一人が飛び降り、木の後ろに隠れた瞬間――「起爆!」 一斉に起爆装置のボタンを押す。 人間を追いかけ、一本道に雪崩れ込むモンスターの足元。 ――滅殺の光が瞬いた。 空気が膨張し、音が消える。 車に引火し、連鎖大爆発を引き起こした赤色の死は、人敵の悉くを滅ぼし黒煙を靡かせた。「今だ、走れ!」 地を蹴り、土を飛ばす。 隅田川を目に映した辺りで、再び四方八方から音に釣られモンスターが集まって来た。「グルァッ!」「――ッ」「バギャ⁉」 横から飛び掛かってくる獣を銃身で殴り飛ばし、ナイフで切り裂き、走る、走る、走る――。 前方で待っていた集団の間に、全力で飛び込んだ。 地に転がる彼等の後方で連続した銃声が鳴り響く。「お疲れ様です」 荒い息を吐く十人に、そっとタオルと水が差し出された。 場所は隅田川を横断する、清洲橋が上。 α隊・第一班の目的は、進路上のモンスターの確認、加えて彼等との合流であった。 彼等はこちら側のモンスターを、あちら側に行かせないための部隊。 そこから分かるのは、あちら側には戦力を裂く余裕があるということ。 隊長は一度後ろを向き、自分達が通ってきた場所を見る。 コンクリート群から歪に生える、魔の緑化地帯。 ――対して対岸の街は、茜色の空の下、何も変わらない穏やかな時間が流れている。 橋一つ隔てただけ。 されど両者は、空間も、時間も、恐怖も、安寧も、何もかもが隔絶してしまっていた。
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82話

  § ヒリついた空気が充満する部屋の中、重役達が全国から集められた情報に目を通していた。 彼等の胸中に満ちるのは、安心と焦り。 相反する感情の同居に苛まれながら、これからの行動に頭を悩ませる。 曰く、北は北海道、南は沖縄まで、球体は満遍なく全国に現れた。 曰く、他県でもスタンピードや緑化が頻発しているが、大半が小規模。現在はモンスターが現れた際も、民間人の被害を抑え制圧が可能の域。 曰く、外から見た山手線内は、正に伏魔殿である。「……日本は無事みたいですね」「あぁ」「一応安心、でいいのですかね」「どれも『ここよりは』という枕詞が付くがな」 総理は顎に手を添え熟考する。『ここよりは』被害が軽微。『ここよりは』緑に呑まれた場所が少ない。『ここよりは』多少安全。 そんな場所が全国を埋め尽くしているのだ。 大規模すぎる損害に感覚が麻痺しかけているが、安心していいことなど何もないのが事実。 そして何より、改めて理解した自分達が置かれている場所のヤバさ。 今最も考えなければならないのは、ここからの脱出に他ならない。「……岩国、もう一度先の調査報告を頼む」 全員の表情が沈痛さに歪んだ。 彼等は全国の状況を確認する前に、ある報告を耳に入れていた。 対策が何も浮かばなかった彼等は、一度そこから眼を逸らし、頭を冷やしたのだ。「はい。……皇居北方を調査していたΔ隊の全班が壊滅。総勢七十五人中、五十人の死亡が報告されました」 それあまりに悲惨で、恐ろしい結果であった。 命からがら帰還した彼等が、口を揃えて言った。『あれは魔法だ』 一人の隊員が持ち帰った動画。 そこには、森を焼き、水を繰り、雷光を閃かせ、大地を隆起させる、今までとは一線を隔す化物共が映っていた。 初めは誰もが目を疑った。しかし、避難民や自衛隊の中から似た力を発現する者が現れたのを見て、信じざるを得なくなった。 そして最も彼等を絶望させた情報。『特別な力を使うモンスターは、総じて現代兵器の効果が薄い』 現段階で銃が使えないとなると、対抗策がほぼ皆無となる。 得体の知れない魔法とやらに頼るのもリスクが大きすぎる。 そもそも民間人を戦場に出すなど言語道断。「時間が経つにつれ、強力なモンスターの出現報告が増加しています。……猶予はないかと」「……あぁ」 
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