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91話

last update Date de publication: 2026-07-29 13:54:16

「まさ、まさっ」

 先の発光でもピクリともしなかった東条を、揺すって起こそうとする。

 しかし当然、運動エネルギーは全て吸収される。

 故に全く動かない。

「まさっ、起きてっ、……むー」

 早く自慢したいというのに、この男は……。

 殴る蹴るの暴行を一旦やめ、考える。

 そしてある策を思いついた彼女は、リモコンを拾いテレビを付け、音量をマックスにした。

 とりあえずリモコンは顔面にぶん投げておく。

「…………ぁあ?うるさ」

 ようやく目を覚ました彼は、のそのそと起き上がり、

 ……逆光を浴び仁王立ちする裸の少女を、その視界に捉えた。

「よっ」

「…………え、誰?」

 当然の反応。

 当然の疑問。

 情報量の多さに彼の頭が高速で回転し、そして一つの結論を導く。

『事案』

(おい嘘だろ?俺酔ってこんな子に手ぇ出したのか⁉そもそも俺のタイプは年上と紗命以外に……いや待て、考えれば紗命も童顔の節が……。いいやまだだ、夢、そう夢!)

 東条は顔をはだけさせ、一縷の望みに賭け衝撃波を放った。

「ブぼぇッ」

 ……当然、ぶっ飛ぶ。

 ゴミの中をスライディングしていく彼に、呆れかえる彼女であった
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  • Real   9話

      焚き火が燻る広場では、コカトリスを残さずに平らげた二人が、膨れた腹を摩りながらへそ天していた。 沢山食べた後に運動する気など起きるはずもなく、こうして一休みしているのだ。「ケプっ。あとどれくらい休む?」「ん~十分くらい」「り」 口数少なく、ボケ~、と揺蕩う雲を眺める。 人間たまにはこういう時間を作らないと、自分が今まで抱え込んできたものに圧し潰されてしまう。 東条はいいとして彼女に抱えるものがあるのかは甚だ疑問ではあるが、思考の放棄こそ、最高の整理術なのだ。 冷えた空気にお日様が気持ちいい。……そんな中、「……なんの音だ?」「何か来る」 遠くの方から、バタバタ――、と小さいながらも疾駆音が聞こえる。段々と大きくなるそれは、確実にここに向かって近づいてきている。 じー、と木々の間を見ていると、「……なんだあれ。人か?」「モンスターいっぱい連れてる」 涙を流しながら半笑いで全力疾走する金髪オールバック黒スーツの男が、大量のモンスターを連れて此方に迫ってきていた。 その必死さは尋常ではなく、何かを謀っている様には到底思えない。それほどまでに、惨め。「笑ってるぞ」「泣いてる」「なんでこっち来んだ?」「肉食べたかったのかな」 そうこうしている内に男は死体の壁を飛び越え、二人の下に顔面から転がり込んできた。 男が慌てて後ろを振り返るも、追って来ていたモンスターは全て壁の外で急停止し、唸り、睨みつけるだけである。 数秒もすると、諦めたのか悔しそうに去って行った。「たす、かったぁ」 緊張の解放からがっくしと地面に手をつく男に、じー、と向けられる視線。 そんな男と二人の視線が、交差する。「っ……ごほんっ。……初めまして、藜組の平塚 康と申します。この度は救っていただき感謝します」(別に救ってねぇんだが……) いきなり顔面スライディングをかまし、引き攣った半笑いで九十度に腰を折る目の前の男に、東条とノエルは懐疑の目を向ける。 まるで準備してきたかの様な切り替えの早さ、怪しい。……それに何より、この男は今聞き捨てならないことを言った。「あ、こちら私の名s「止まれ」っ……」 懐に手を忍ばせた康の身体が、東条の威圧を受けビクり、と固まる。(……え、何⁉俺なんかまずいことした⁉ヤベェ殺されるっ。てか

  • Real   8話

      §「…………ははっ。……ぅえ、ぅぼぇっ……ふぅ、ふぅ……」 一連の戦闘を木の上から直視していた男は、衝突する埒外の魔力と殺気に晒され、落下した後胃の中の物をぶちまけていた。 彼女の質量を持った圧力に耐えられる生物は、キュクロプスと東条を除いてこの庭園の中にはいない。 異様な程の静けさが辺りを包んでいる。 生きとし生けるものが、息を殺し、命を潜めている。「ぅっ、おぶぇっ……」 男は一凛の薔薇を思い出し、又も嘔吐く。 色々な死に目や死体を見てきたが、あれ程悪意に満ち、害意極まりない殺し方は初めて見た。 そしてそれを行ったのが、幼気な少女だという事も悍ましさに拍車をかけている。 何より、その横で笑顔で談笑している彼等が、怖くて、恐くて、仕方がない。 男は震える手で携帯を取り出し、今日何度目かの番号にかける。『デカい音したけど、何かあったか?……おい……泣いてんのかお前?』「もぅ怖いです。帰っていいですか?」 涙ながらに訴えるも、『何情けないこと言ってんだ。報告』「うぅ、はい」 聞き入れられることはない。「あの二人、キュクロプスを殺しました」 携帯の奥から、少しだけ驚いた雰囲気が漏れた。『……あの単眼の化物か。それはまた凄いな』「凄いとか言うレベルじゃないですってっ。この数時間で、俺がここにいる理由無くなりましたからね」『喜ばしいことだな』「……まぁ、そうですけど」 良い方に捉えれば確かに、自分は今日を以てこの危険な仕事を引退できるだろう。『で?どっちが殺ったんだ?二人でか?』「……少女です。それも、五分とかかっていません」『ハハっ』「……笑い事じゃないですって。何なんですかあの二人、魔王か死神の類ですよ絶対」 男は、(見ていないから笑えるんだ)、と心の中で一人ごちる。『そうだ。仕事の無くなったお前に新しい任務をやる』「な、なんですか」『その二人をここに連れてこい』「俺の話聞いてました⁉」 予想外の任務内容に、身体中から冷汗が噴き出る。『うるせぇな。さっきボスが帰ってきた。会いたいって言ってんだよ』「嫌ですよ!殺されちゃいますよ!」『……私がそこまで行って殺してやろうか?』 ドスの効いた声に、男の身体がビクりと固まる。慣れ親しんだ恐怖。 しかし先のものと比べれば、心地良ささえ感じる。自分が

  • Real   7話

     「……えっぐ……」 凄惨な現場を目の当たりにした東条は、肉を食うのを止め、此方に歩いてくる少女に戦慄する。「おまた」「お、おう。お疲れさん」「あーっ、先に食べてる!」「いや、これはあれだ、映画にコーラとポップコーンがないとダメな感じの、あれだ。ノエルの姿がカッコよすぎてつい、な?」 焦り気味に弁明する東条の視界の端では、常に一凛の大きな薔薇が存在を主張している。「むー。許す」「あざす」 優しい少女で本当に良かった。……本当に。 ――「うめぇうめぇ」「うみゃいうみゃい」 持ってきた塩を振り掛け、パリパリの皮と程良くしまった肉に舌鼓を打つ。 骨を持ってかぶりつき、捨ててはもぎ取りかぶりつく。口の周りを汚しながら手掴みで噛み千切るのが、骨付き肉の一番おいしい食べ方である。「そういやあの技何よ?」「んむんむ、ンぐ、必殺技」 しっかりと呑み込んだ後、油べとべとの手でピースを作る。「かっこいいだしょ」「かっこいいだわ。いつの間に?」「一日一個作ってた」「めっちゃあるじゃん」 必殺技とはそんなに簡単に作れるものなのだろうか……。疑問は尽きないが、東条もそのロマンには大いに共感できる。だからこそ、「いいな~。俺も考えたことあるけどよぉ、派手な技がねぇんだよぉ」「まさのパンチは充分派手」「華がねぇ」「確かに」 自分の技に名前をつけるとなると、『ぶっ飛ばし』とか『ぶん殴り』になってしまう。それではあまりにダサい、ダサすぎる。なのにノエルときたら、「『ロゼ』ってなんだよ~めっちゃカッコいいじゃ~ん」「うぇへへ」 ゴロゴロと転がりバタつく東条に、頬を緩ませ照れるノエル。「他にどんなのあんのよ」「秘密~」 血が滴る一凛の薔薇の横で、肉を片手に談笑する二人であった。

  • Real   6話

     「ぶはっ、大丈夫か?ひひっ」「…………」 地面に倒れ伏すノエルを笑いつつも、森の奥から近づいてくる何かを警戒する。 感じる威圧から察するに、今日一番の大物だ。「ボルルルル……」 木々の暗がり現れたそれは、大きな手で死肉を掴み、バリバリと噛み千切り咀嚼する。 四mに届きそうな体躯は筋肉で覆われ、何より特徴的なのが、顔の半分を占める程の単眼だ。 一つ目の巨人は東条の持っている巨肉を瞳に映し、三日月型に牙を覗かせた。「キュクロプスってとこか。すげー迫力だな」 肉を肩に担ぎ、ベヒモスを除いた過去一の威容と向き合う。 東条は、あの象とノエルを理解という枠組みから外している。 そうして作られたランキングの中で、目の前の化物はパッと見の魔力量、肉体能力共に間違いなくトップに君臨するだろう。 因みに現在の東条の位置は、ライノスより上、ヒポポタより下と言ったところだ。 人間の中では、潜った修羅場の数が違いすぎるせいでずば抜けているだけであり、強者の中では特段高いというわけではない。 何度も言うように、強くなればなるほど魔力量は増大するが、一概にそれが全てとは言い切れないのだ。 技量や、それこそcellによって、いくらでも戦況は変わる。 彼がキュクロプスを分析している隣で、ノエルがゆらりと立ち上がった。「……まさは手出さなくていい。持ってて」「んぁ?生きてたんか」 先のお返しと冗談を言うが、ノエルは何も言わず、カメラを投げ渡し歩いていく。(……あちゃ~、怒ってらっしゃる) 確かにあんなことをされれば切れるのも当然だ。 東条は邪魔にならないよう、出来るだけ二人から離れ始めた。「一応気ぃつけろよ。強ぇぞ」「ん」「冷めねぇ内に終わらし」「ん」「ボルァア‼」 肉が去って行くのを見たキュクロプスは、全身のバネを使い突進。前方に立つ小さな邪魔を無視して地を蹴った。 瞬間、「ルっ⁉――ッ」 足元から連続で生える土棘を、巨体からは想像のつかない驚異的な身体能力で躱し、自分を追って迫ってくる分を殴り壊す。「……ルオォ」 睨む先には、一人の少女。邪魔と判断した少女が、此方を見ている。「ノエルを見ろ」 縦に割れた紫眼が、瞬きもせずにキュクロプスを射抜く。「ノエルは怒っている」 風に髪を靡かせ、空気が揺れる程の殺気を滾らせて、「

  • Real   5話

      ――「ふぅ」「できたか?」「ん。そっちは?」「完璧」 ノエルは立ち上がり、土の棒で串刺しにしたコカトリス、だったものを肩に担いだ。 首と尻尾を落とし、逆さに吊るし、羽を毟り、内臓を取り除く。初めての下処理ではあったが、上手くできたのではないだろうか。 その証拠に、見た目はよく見る食用の鶏だ。サイズ感がおかしいだけの……。「よいしょ」 ドスン、と支えに置かれ、東条が用意した巨大な焚き火の上に掲げられる。 チャッカマンでトレントに火をつけるのは、中々骨の折れる作業だったのだろう。 黒い顔に慣れた今、ノエルには漆黒の上からでも精神的な疲労が見て取れる。 しかし準備は終わった。あとは回しながら待つだけだ。「どれくらいかなー?」「結構かかるだろ。火力もまああるし、気長に待とうや」「ん~」 ぐるぐるぐるぐる――「まさの黒いので回せないの?」「無理無理。持ち上げる、とか握る、とか、簡単な操作しかできないのよ」「ん~」 ぐるぐるぐるぐる――「こ~たい~~」「まだ五分だぞ。……たくっ」 寝っ転がってブローチを弄っていた東条は立ち上がり、駄々をこねるノエルと場所を交代する。 あと何分かかるのか……。腹の虫を聞きながら、彼は獣の唸り声をBGMに作業に入った。 ぐるぐるぐるぐる二十分後――「……モンスター襲ってこないな」「あれだけ殺せば身の程を知る」「それもそうか」 パチパチと油の弾ける音を聞きながら、漂ってくる香ばしい香りに二人の涎が湧き出る。 鼻が良く、且つ彼等に襲い掛かるような怖いもの知らずのモンスターが、この香りに引き付けられないわけがない。 しかし準備から今まで、唸り声を上げるだけで一向に飛び掛かってこない。なぜか、 理由は然して単純。 二人の周りを、無造作に積み重ねられた死体が円状に囲っているからだ。 引き裂かれ、撲殺され、原形を留めていない同胞の死体が、壁となり生き残ったモノを阻んでいた。 要するに、見せしめである。 貴様らも近寄ればこうなる、という、弱者への警告。 三大欲求という本能を上回るだけの、恐怖という本能を、新たに刻み込んだのだ。「おなかすいた~~」「うん。そろそろ、できたかなっ」 死体から溢れる膨大な血に囲まれ、濃厚な鉄臭さの中、食事に笑顔を向ける彼等は、はなから常人の感性など持

  • Real   4話

      § 皇居を囲む巨大なトレントの一柱。その頂上付近。 手で丸を作り、森の中へ進んで行く二人を眺める男がいた。 男は焦るように携帯を取り出し、冷汗で湿った手でボタンを押す。 数秒の呼び出し音の後、「何だい?」 気怠そうな女性の声がマイクの奥から響いた。「あ、姉御っ。ヤベェ奴がいる!ヤベェ奴が来た!」『落ち着きな、デカい声出したら食われちまうよ』 男は小声で叫ぶという器用なことをしながら、足りない語彙力でたった今自分が見た非常識な光景を説明する。「あいつらヤベェんす。男は笑いながら銃乱射してたし、小学生くらいの女が装甲車運転してた。一番はあの男、コカトリスを一撃で殺しやがった!」『コカ?……あぁ、あの鶏か』 男は先の衝撃を思い出し、再び戦慄する。驚きすぎて危うく木から落ちるとこだった。『それで?そいつらの目的は分かるかい?』「詳しくは分からないっす。けど、女はビデオカメラ持ってました」『カメラ?……その女、白髪だったか?』「は、はい。恐ろしいくらいの美人でした。何か知ってるんすか?」 数秒の沈黙。『……いや、まだ分からん。ボスには私から言っとく』「わ、分かりました」『そいつらの行動、逐一私に報告しろ。お前なら見えるだろ?』「はい。俺の『望遠』なら、木に隠れなければ皇居全域カバーできます」「ならいい。切るぞ」「はい。お忙しい中失礼しましたっ」「はいはい」 男は切られた携帯をポケットにしまい、一度深呼吸をし、再度手で丸を作った。「――っ」 件の二人は、踊るようにモンスターを殺し続けていた。 §

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