「どうぞ」店に着くと、桐生は助手席のドアを開け、私をエスコートした。その姿は様になっており、思わず見惚れてしまった。「ありがとうございます」「こちらです」桐生は店のドアを開けた。桐生のレディーファーストはいつも完璧だ。だからこそ、私は不安になった。桐生は女性の扱いに慣れている。このルックスと財力を持ち合わせている彼を世の女性が放っておくわけがない。「知英さん?」「あ、すみません」「大丈夫?」「はい」私は心の中に芽生えた感情を無理やり飲みこんだ。面倒な女にはなりたくない。桐生の前では彼の理想の女性でいたい。「いらっしゃい」「マスター久しぶりです」「桐生くんか。いつもの席でいいかな?」「はい」私はマスターに案内された窓際のテーブル席に、桐生と向かい合って座った。小さな酒場だけれど落ち着いた雰囲気の店内が私はすっかり気に入った。「お店素敵ですね」「この店は僕の特別な場所なんです。だから、今まで誰も連れてきた事がありません」「特別な場所に私を?」「特別な場所だからです。僕のことを知って欲しいと言ったでしょ?」桐生は私の目を見て優しく微笑んだ。桐生に見つめられると胸の奥が熱くなる。私は恥ずかしさのあまり目を逸らした。「ははっ、知英さんは可愛いですね」「もう!//」「照れた顔も可愛いですよ」「桐生さんって、時々、意地悪ですよね/」「そうかな?構いたくなるんです。知英さんにだけ」「だからそういう所ですよ。私だからいいですけど、他の女性に言ったら勘違いされますよ」「勘違い?」「分かってて言ってますよね?」「いや、分からないから聞いてます」桐生は試すような目で私を見た。残念ながら、私は駆け引きができる程、恋愛経験を積んでいない。この場合、なんと言えば正解なのだろう。きっと、どんな答えでも桐生には敵わないのかもしれない。「だから……」「ん?」「ずるい」「僕も知英さんを振り向かせるために必死ですから」結局、私は何も言えなかった。言えないどころか桐生の一語一句に動揺し、私は頬が熱くなるのを感じた。「お待たせしました」ちょうどその時、マスターが私たちのテーブルにワインを運んできてくれた。「いつものでよかったかな?」「もちろんです。ありがとうございます」「それではごゆっくり」桐生はマスターからワインを受け取ると、
Last Updated : 2026-07-17 Read more