ワインが運ばれてくると、桐生は私のグラスに注いだ。 「翼さんは飲まないの?」 「うん。先日、飲みすぎたからね」 「あのこと、気にしてたの?」 「知英ちゃんに迷惑かけてしまったし。これまで一度も、酒で失敗したことなかったのに。それに、知英ちゃんを家に送り届けるまでがデートだからね」 「でも、私だけ飲んでしまって申し訳ないわ」 「それなら心配しないで」 すると、もう一本ワインがテーブルに運ばれてきた。そのラベルに私は見覚えがあった。 「あ!このワイン、八神さんのお店で頂いたわ。ノンアルコールワインなのに、とっても美味しかった」 「八神さん、気が利くね」 「あの時は私、怖くて震えてて。八神さんがこのワインをくださったの。そのお陰で、気分が少し落ち着いた」 桐生は私の右手に自分の手を添えた。 「あの時は本当にごめん。知英ちゃんを怖い目に遭わせてしまった。もう二度と、あんな思いはさせないから。必ず、俺が知英ちゃんを守るよ」 「ありがとう。だけど、翼さんは悪くない。それに、翼さんは私のためにあの人たちに復讐してくれた。それで十分よ。だから辛そうな顔しないで?」 私は桐生に微笑んだ。桐生は私のためなら、自分の命すらいとわない。傷つくことも恐れずに、相手をとことん追い詰める。私は桐生の狂気に満ちた姿も好きだ。むしろ、桐生の本質に触れた気がして嬉しくなる。桐生は底なし沼だ。彼に捕まったら最後、這い上がることはできない。 「知英ちゃんは、俺と居て幸せ?」 「幸せよ」 だからこそ怖くなる。もう二度と大切な人を失いたくない。桐生と私とでは、身分が不釣り合いなことは分かっている。私のせいで、桐生に迷惑をかけてしまうかもしれない。だけど、私は誰の言葉でもなく、桐生の言葉を信じると決めた。私のためならば、残酷になれる桐生を手放せるわけがない。 「俺も幸せ。あの日、知英ちゃんと出会えてよかった」 私はずっと疑問に思っていたことを桐生に尋ねた。 「どうして、あの日、私に恋人のふりを頼んだの?」 「それは……」 桐生は口ごもった。聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない。私は慌てた。 「あの……話したくなかったら、話さなくて大丈夫だから」 「ううん、大丈夫。でも、知英ちゃんの気分を害したらと思うと……」 「私なら何を聞いても大丈夫」 私の
Última actualización : 2026-08-20 Leer más