「知英ちゃん、こっちおいで?」「ここでいいです/」私は桐生と部屋の露天風呂に入っていた。しかし、明るい上に、恥ずかしさが募り、私は桐生から背を向けた。「全部見てるのに」「それとこれとは話が違うの//」とは言ったものの、折角の旅行だ。離れていては寂しい気もする。私は少しずつ桐生に近づいた。「え、ちょっと//」「捕まえた」「翼さん、びっくりした」「ごめん。でもこっちの方が落ち着く」桐生は私を後ろから抱き締めた。桐生の逞しい腕が私の腰に回った。「ここに知英ちゃんと来れて良かった」「私も。連れてきてくれてありがとう」「実は、この旅館は、仕事人間の父親が年に一度だけ俺と過ごした場所なんだ」「翼さんにとっての思い出の場所なのね」「うん、その頃は母親も一緒に来てたな」なんとなく、桐生の声が震えた気がした。桐生の様子が気になるが、彼にしっかり抱き締められている為、振り向くことが出来なかった。「今思えば、その頃から俺の家族は偽物だったけどね」桐生が自嘲気味に笑った。私の胸は苦しくなった。ここは、桐生にとっての思い出の場所のはずなのに、辛い顔はさせたくなかった。私は桐生の腕の力が弱まった隙を見計らって、彼と向き合った。「今、翼さんの傍には私が居る。私が翼さんを大事にするし、寂しい想いもさせない。だから悲しそうな顔しないで」「ありがとう。本当に知英ちゃんは理想の奥さんだね」「その呼び方は照れます//」「どうして?今から練習したらきっとすぐ慣れるよ」「だとしても、まだ先でしょ?/」「俺は今すぐでもいいけどね。覚悟は出来てるから。でも、待つよ。知英ちゃんのこと」今日の桐生の言葉は、どれも破壊力がありすぎて、平静を装うことで精一杯だった。このまま話していたら、さすがに逆上せてしまいそうだ。「翼さん、先に出るわ」私は立ち上がろうとしたが、上手く身体に力が入らず、そのままふらついてしまった。そんな私を桐生が支え、抱きかかえた。「知英ちゃん、大丈夫!?」心配そうに私の顔を覗き込む桐生が見えた。桐生にそんな顔をさせたい訳じゃないのに、私は何をしているのだろう。自分の間の悪さに嫌気がさした。 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄「気分はどう?」 「翼さんのお陰で良くなったわ。ありがとう」桐生は露天風呂で逆上せた私を、ベッドまで運びう
Last Updated : 2026-09-10 Read more