翌朝。 白玖が薄く目を開けると、いつものように腕の中にすっぽりと収まっているはずの〝抱き枕〟がいなくなっていることに気がついた。 シーツの隣のスペースはすでに熱を失っており、彼女がベッドを抜け出してからそれなりの時間が経っていることがわかる。 昨日の川での出来事――スイカの果汁を舐めとったことで、少し距離を詰めすぎただろうか。気まずくなって早く起きてしまったのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えながら、白玖は寝癖のついた髪を掻き回して身を起こした。 特別室のキッチンや居間を探しても、緋依の姿はなかった。「どこ行ったんだ……」 白玖は軽い羽織を肩に掛け、特務軍本部の中を歩き回り、やがて中庭へと続くガラス扉の向こうに、深い藍色の髪を見つけた。 夏の強い朝日が照りつける中、本部の大きな花壇の前にしゃがみ込み、緋依がせっせとジョウロで水をあげていたのだ。花壇には、彼女の背丈ほどもある大輪の向日葵が、太陽に向かって真っ直ぐに咲き誇っている。「君はついに、僕の世話係だけでなく、特務軍の雑用係まで始めたのかい?」 背後から呆れたように声をかけると、緋依はビクッと肩を震わせて振り返った。「あ、白玖様……おはようございます。あはは……すみません。なんだか今朝はちょっと早く目が覚めてしまったので、日課のお散歩ついでに、お花にお水をあげていました」 緋依はジョウロを置き、少し恥ずかしそうに微笑んだ。 その視線の先にある大きな向日葵を見上げ、緋依は眩しそうに目を細める。「向日葵って、太陽の方を向いて咲くんですよね。どんなに暑い日でも、真っ直ぐに上を向いて。とっても前向きで、見ているだけでたくさん力を貰えて……私、昔から大好きな花なんです」 そう言ってふわりと微笑む彼女の藍色の髪には、春の日に白玖が買ってあげた、薄紅色の桜を象ったガラス細工の髪飾りが、朝の光を浴びてキラキラときらめいていた。 夏を象徴する向日葵の黄金色と、春を留めたような薄紅色の桜。その鮮やかなコントラストが、白玖の目をひどく惹きつけた。「君は、本当に自然が好きなんだね」 数百年という途方もない時間を生き、ただ世界を呪って戦い続けてきた白玖にとって、路傍に咲く花も木々も、ただの背景に過ぎなかった。どうせいつかは枯れて消えてしまうものに、愛着など抱く意味がわからなかったのだ。「好きで
Terakhir Diperbarui : 2026-08-05 Baca selengkapnya