消えゆく愛の行方 のすべてのチャプター: チャプター 11

11 チャプター

第11話

出発当日、すべての荷物をきれいにまとめ上げた。保安検査に向かう直前、見送りに来た佳之の手に、一冊のノートを押し付けた。彼は呆然とそのノートを受け取り、恐る恐るページをめくった。「これは?」そこには、佳之のこれまでの詳細な診療記録がびっしりと記されていた。この8年間、彼の持病であるぜんそくを治すため、私は何軒もの病院を一緒に回った。「佳之の病気は一筋縄ではいかなくてね。あらゆる名医を訪ね歩いて、最終的に昔の同級生を頼って海外の専門医を紹介してもらったの。あなたがいつも使ってた薬は、私が大金を投じて海外から直接取り寄せてた特効薬よ。市販の薬じゃ効かないわ。もう二度と、私が代わりに手配することはないの。ノートの最後に購入先の連絡先を書いておいたから、これからは自分でなんとかしなさい」いっそのこと、もっと残酷に突き放してやろうかとも思った。佳之は、自分が飲んでいたのが特効薬だなんて夢にも知らなかったのだ。けれど、最後の最後で情が勝ってしまった。つまらない優しさのせいか、あるいは、長年注いできた愛への完全な決別が、私なりの形で表れたのかもしれない。「それじゃあ、佳之。さようなら。この8年間、あなたの時間を無駄にさせて悪かったわね。今日を限りに、お互い貸し借りなしよ」スーツケースのハンドルを握り直し、保安検査場へと足を進めた。背後から聞こえる佳之の絶叫が、遠ざかるにつれて小さくなっていく。パニックを起こして暴れる彼を、空港の警備員たちが必死に取り押さえている。「亜矢!頼むから振り返ってくれ!俺が悪かった!本当にすまなかった!許してくれ!」窓の向こう側で、一機の航空機が轟音を響かせながら大空へと飛び立っていった。湧き上がる風は、まるでこれから羽ばたく私の新しい人生そのものだ。これほど清々しい気分を味わったのは、生まれて初めてだ。機内に一歩足を踏み入れたその瞬間、空港内のアナウンスが耳に飛び込んできた。「お客様にお呼び出しいたします。ただいま保安検査場付近におきまして、急性のぜんそく発作を起こされたお客様がいらっしゃいます。お近くに医師、または看護師の資格をお持ちの方がいらっしゃいましたら、大至急、お近くの空港スタッフまでお声がけください。繰り返します――」おわり
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