さつ─じん【殺人】:①人を殺すこと。「殺人罪は死刑または無期もしくは五年以上の拘禁刑に処する」②ヴィーガニズムの視点での肉食。「動物性食品の大量生産は無差別殺人に等しい重罪だ」 ③裏社会において一定の条件を満たすと免罪符が付けられる行為。転じて、日常茶飯事。 ──────────────────── 現実は銃で、たまに暴発する。 意気揚々と他人事に首を突っ込むのは知性ある人間の特権であり娯楽だ。食い扶持にもならない些事《さじ》に飛び込み、仕切り、罵倒し、集《たか》り、やがて満足感という名前の無を取得する。 身に有り余るほどの無を取得した者の残り寿命はオーバーフローを起こし、やがてアンダーグラウンドから死神が靴音を響かせてやってきた。 人はそれを殺し屋と呼ぶ。 「……はぁ、はあっ、クソッ!」 貸し倉庫はこの手のやり取りに最適だった。一人が物を預け、もう一人が物を取り出す。あくまでも葉っぱではなく鍵を扱う売買。 悪くないしのぎのつもりだった。たった一晩で壊滅した組に残留するよりはマシな夢が見れる。 はずだった。 「なんで、なっ、俺が、こんな目に……!」 じたばたとはためく薄っぺらいモッズコートにはすでに風穴が開いていた。男は運良く避けたつもりだったが、殺し屋にとっては警告の証だ。 外れたのではなく、外したのだと。 「かんっ、関係ねえだろ俺はよ!? 他にも売人やってるやついくらでもいるって!」 「それがそうもいかねんだ」 殺し屋は一見してどこにでもいる中年男性の顔つきだった。しかし服装は黒いシルクハットに葉巻を燻らせたタランティーノ映画じみた格好で、愛銃にはハリー・キャラハンと同じ44マグナムが込められていた。 「口封じが俺の最後の仕事でな。しみったれた役回りだがそれなりに満足してる」 「待てよ、なあ……! なにを」 「あばよボウズ」 スミスとウェッソンが火を噴き、男の額の風通しが少し良くなる。最後から数えて二番目の仕事を終えた殺し屋はふうと紫煙を吐いた。 リボルバーを収めて携帯電話に持ち替える。 「俺だ。次であんたともお別れだと思ってな」 体温が失われていく手の甲に葉巻をぐりぐりと押し付けて火を消した。殺し屋は端的に言葉を交わし終えると、東京の海に沈む
Zuletzt aktualisiert : 2026-07-06 Mehr lesen