Masukひょんなことから組織から追放された引きこもり気質の陰気な殺し屋・賽原花火。 社会復帰を目指すも日常的に殺し屋から命を狙われている元極道の詐欺師・一色豹虎。 殺し屋ライセンスを巡る巨大な陰謀に巻き込まれた二人は、利害の一致からバディを組むことに。 目的はシンプルに、「二人で人生をどん底からやり直す」こと。 ただし、お互いの最大の武器である「殺し」と「ウソ」は絶対禁止という制約付きで──!? 現代日本のアンダーグラウンドを舞台に、最強(凶)バディが頭脳と暴力で駆け抜ける痛快アクション&ダークヒーローエンターテイメントの開幕! さあ、ふたりでふたりをやり直せ!
Lihat lebih banyakさつ─じん【殺人】:①人を殺すこと。「殺人罪は死刑または無期もしくは五年以上の拘禁刑に処する」②ヴィーガニズムの視点での肉食。「動物性食品の大量生産は無差別殺人に等しい重罪だ」
③裏社会において一定の条件を満たすと免罪符が付けられる行為。転じて、日常茶飯事。 ──────────────────── 現実は銃で、たまに暴発する。 意気揚々と他人事に首を突っ込むのは知性ある人間の特権であり娯楽だ。食い扶持にもならない些事《さじ》に飛び込み、仕切り、罵倒し、集《たか》り、やがて満足感という名前の無を取得する。 身に有り余るほどの無を取得した者の残り寿命はオーバーフローを起こし、やがてアンダーグラウンドから死神が靴音を響かせてやってきた。 人はそれを殺し屋と呼ぶ。 「……はぁ、はあっ、クソッ!」来訪者は三階の窓から入ってきた。三階と言っても一階は小さな喫茶店で二階は住居スペース、そして最上階は単なる埃っぽい屋根裏部屋だ。 屋根伝いにこの部屋は来たのならそれは侵入者なのだろうか。その場合侵入者は口にペンライトを咥え、右手にハンバーガーチェーンの袋、左手にウイスキーの瓶を持っていた。「……欲しい?」「いらない」 堅いこと言うなよ、と侵入者──嶌崎志麻は遠慮なく窓を飛び越えて薄暗い部屋に入った。数日前に掃除したとは思えないほど書類が散乱した床を踏み、ベッドに腰掛ける。円形の小さなテーブルにカップを置いてフタを開け、三分の二ほど入ったコーラがなみなみ浸るまでウイスキーを流し込んだ。「ハンバーガーにはコークでしょー、コークといえばウイスキー。ねえライムかレモン汁ない?」「何の用だ」「サービスだよ。アフターサービス」 ストローをマドラー代わりにしてぐるりと氷を持ち上げるようにかき混ぜ、「やっぱ紙ストローあんま好きじゃねーな」と直で飲む。「殺し屋派遣企業〈エリス〉は顧客満足度ナンバーワンを目指してるもので」「……」「この度はご利用ありがとうございました。一色豹虎は無事だしシータのボスと殺し屋の撃破にも成功。偽造ライセンスも手に入って重畳《ちょうじょう》」 ポケットからタバスコの小瓶を取り出し、袋を剥いたハンバーガーにたっぷり垂らし齧り付く。赤いソースと肉汁が染み付いたパン屑がこぼれた口元を舌でなぞり、残った汚れを親指で拭う。「三百万で雇った殺し屋シマはいかがでしたか、錠ヶ崎様?」 わざとらしい声色と指先が向けられていたのは姉崎の探偵、錠ヶ崎灘子。喫茶ケチャップの屋根裏部屋に住み着いた豹虎と花火の同居人。「……完璧だった。セイもガスも花火くんだけで対処できる相手じゃない」「だろぉ〜?」「その接客態度を除いては、だが」 灘子は志麻が差し出した塩味のきついフライドポテトを一本だけ貰って自らのゲーミングチェアに座り直した。「えー、あたしと錠ヶ崎の仲じゃん」「そこまで君と仲良くなった気はないが」「三年付き合って一回寝たらマブよマブ」 裏社会の深層に一度でも触れたら死神は向こうから勝手にやってくる。灘子は派手に動くことをこれまで嫌っていたからせいぜい目の前のふしだらな女くらいしか寄ってこなかったが、殺し屋はダークウェブの残留物《アドレ
翌朝。 タバコ買いにコンビニ入ったら泰良がいた。「……は?」「いらっしゃいませ」 しかも格好は店員だ。豹虎は花火がむやみやたらとお菓子を買うのを制止するために振り返り、目を擦ってもう一回見る。「ただいまホットスナック揚げたてですが」 やっぱりいたので豹虎は頭を抱えた。「何してん」「見たらわかるだろ。バイト」「なんでお前らは的確に説明できないんや」「マスター、わたし飲むヨーグルトが……げっ」 花火の声の方向を見れば色白短髪の殺し屋──ガスがいた。同じ赤と茶色の制服を着て、日用品の陳列を終わらせたところだった。「ボス、休憩に入る」「もうボスじゃない。行ってこい」「……一から全部説明してくれ。昨晩から全部」 掃除屋の青葉美鶴に二人を引き渡したのは昨晩の話だ。豹虎と花火は事件に関する事情聴取と、親元に帰るメビとの別れの挨拶のために警察署に向かうところだった。 つまり、こいつら二人は美鶴と一緒にバンで運ばれてすぐここのコンビニで働き出したことになる。しかも喫茶ケチャップの最寄りで。「美鶴は? 匿うって話はどこいった」「匿うったって檻の中に毎日閉じ込めておくわけじゃねえ。まともに働く技能があるなら表社会に溶け込ませるのがかえって安全なんだとよ」「カモフラージュ……木を隠すなら森ってか?」「掃除屋は人が隠したいものを処理するプロだ。表社会で処理しきれない事情を抱えた人間がみな顧客リストに入ってる」 二つあるレジのもう一方でオーナーらしい中年の太った男が妙にオドオドしながらこちらを覗いていた。詐欺師の経験が弱みを握られた人間特有の表情の歪みを一瞬で読み取ってしまい、自己嫌悪でタバコが吸いたくなった。「……あのおっさんは何やらかしたんや」「さあな。ま、殺し屋と犯罪王を最低賃金で働かせるのに見合う華々しい経歴をお持ちだろう」 ハイライトを頼んだところで後ろから花火が飲むヨーグルトとフルーツグミと塩キャラメル蒸しパンとバスクチーズケーキを持ってきた。多い。「せめて一個にせえ。朝飯たらふく食ったやろ」「ダメ、腕治すのにはまだ足りない」「少年漫画の主人公やあるまいし……」 結局医者に掛かることもなく、花火は昨晩から右腕を吊ったままだ。いわく「綺麗に折れてるので栄養を摂ればすぐ治る」らしい。「ボス」「ん? どうしたガス」「カニカ
アサギマダラ【浅葱斑】:チョウ目タテハチョウ科マダラチョウ亜科。半透明の水色(浅葱色)に黒い翅脈が走る特徴的な翅を持つ。夏に日本で発生したアサギマダラは秋になると南西諸島や台湾に南下し、温暖な環境で繁殖や越冬をしたのちに本土冷涼地に北上する渡り蝶。学名はパランティカシータ(Parantica sita)。 ────────────────────「大規模犯罪グループの首領を保護しろと」 海の見える公園近くにハイエースを停め、落ち合ったのは掃除屋の青葉美鶴。スマホの電卓で見積もりを計算しようにも前例がないと呆れた声を吐いた。「……前みたいな再教育プランは多分無理だと思いますけど」「いや、しばらくの間匿うだけでええ。再教育《そいつ》は司法の仕事や」 異様な光景だ。海沿いの街灯の下、この場にいるのは元詐欺師《豹虎》に刑事《二兎》に犯罪王《泰良》に殺し屋が三人。全員で協力すれば件の殺し屋セイに一矢報いることもできるんじゃないか、とふと思う。「……豹虎」「あ?」「やるよ」 肩の出血が少し落ち着いたのか、泰良は青い顔こそ変わらないが血に濡れた手で豹虎にあるものを差し出した。 偽造ライセンス。深層裏社会への片道切符。所持する者の犯罪行為を黙認させる悪魔のカード。「ええんか」「いいんだ。もう俺には必要ない」 それを手放すことは、阿座上泰良が裏ではなく表の法によって裁かれることを意味している。 暴力、拷問、搾取、殺人。二度と塀の中から出ることが叶わないだけの罪を泰良は犯していた。「覚悟はできてる。だが今のまま無策で檻に入ってセイの思うようになるのはごめんだ」 殺し屋セイが警察と繋がっている可能性がある以上、今の泰良を引き渡すのはリスクが大き過ぎる。だから掃除屋のもとで事態が解決するまで管理するのが最適だと結論を出した。「掃除屋。もしセイがコンタクトを取ってきても俺を引き渡さないと約束できるか」「裏の掃除屋は永世中立です。誰の味方でもなく依頼人の仕事を全うするだけ」 美鶴は花火が信頼する数少ない相手だ。暴力の世界でそれに屈しない者たちは誰よりも強かで、信用できる。だから豹虎もここに呼んだ。「ガス、お前は帰れ。好きにすればいい」「俺はボスと一緒に行く。まだ俺の中で契約は終わっていないからな」 ようやく喋れるようになったガ
「マスター!?」 痛みに耐えるターンに入ったガスを放置して階段を駆け上がった花火が勢いよくドアを蹴破るとそこにいたのは血だらけで突っ立っている豹虎を抱きしめてグズグズ泣いている阿座上泰良、そして何をどうしたらいいかわからずただ座ってそれを見ている少年メビだった。「……マスター!?」「二回も言わんでええ」 落ち着いた口調で突っ込まれ、そこでようやく花火は全てが終わったのだと察する。豹虎を狙う反社会組織パランティカ・シータのボスと殺し屋を打ち破ったのだから。「やー、すごいことになったね」 花火や二兎に続いてこのボス部屋に踏み込んだのは、事態を最後まで静観していた嶌崎志麻。途中で暇になったのかコンビニでパック酒を買って飲みながら来たので緊張感がまるでない。「……すごいことになったね!?」「天丼やめぇや! あと泰良お前さっさと離れろや変な誤解生んどる!」 泣いてる場合ではない。ここに辿り着くまで、あまりにも謎が多すぎた。なぜ豹虎が狙われていたのか、消えた二十億とは何なのか。「全部聞かせてくれ、泰良。俺らは今何に首突っ込んどるんや?」「……それは」「頼む。このまま警察に引き渡したら二度と会えんくなるかもしれん」「けい、さつ?」 少し落ち着きを取り戻したはずの泰良の様子がおかしくなったのは、豹虎のその言葉を聞いてからだった。「待て、それだけは駄目だ。今あいつらのところに行きたくない」「あ? ちょお待てや、今更駄々こねてもしゃあないやろ」「違う! 警察だけは駄目なんだよ……!」「あのさあ」 話に割って入ったのは志麻だった。泰良でも豹虎でもなく、窓の向こうをじっと見つめたまま静かに質問を投げかけた。「向かいのビルの窓からずっとこっち見てる人、あなたのお友達か何か?」「──え」 泰良が返答のために声をあげるより早く、銃声が鳴り響いた。そのけたたましさは窓ガラスを弾丸が貫く音をかき消し、「ぐあっ……!?」 阿座上泰良の左肩の肉を弾き飛ばした。「……! 今の」「キラキラ、てめえ!」「素人が喋んな」 志麻は酒のパックをいつのまにかリボルバーに持ち替え、冷たくそう言い放った。 泰良の悲鳴を聞き届けるわけもなく、再びガラスが割れて第二射が侵入する。が、その弾は泰良の身体をすり抜けて廃ビルの壁に風穴を開けた。「師匠……!?」 この場