そんな話は、セオドアからは一つも聞いていない。だから、ただの根も葉もない噂だとは思うが、そんな噂が出るほど、この辺境領には権威があるのだ。そしてその領主の妻として、自分がここにいることがいまだに信じられない。「こちらへ伺うことをお友達にお話ししたら、それはそれは羨ましがっていて、生まれて初めて自分が辺境の端っこ出身であることを良かったと思いましたわ」ブロンドの髪が揺れ、濃く青い瞳が美しい笑顔を作る。ヴァレリアの夫であるクローネンバーグ伯子息は、彼女の兄マクシミリアンの友人で、幼い頃に兄の通う学校を見学に行った際に、向こうが一目ぼれをしたらしい。とても素敵な話だ。今日、この庭園でヴァレリアとお茶を飲んでいるのは、早く来た来賓をもてなすという意味もあるが、ローティシアが、彼女にお願いしたいことがあったからだ。夜会をすることが決まってから、誰に相談しようかと随分と頭を悩ました。そして、ここ数日で彼女と仲良くなったのをきっかけに意を決してお願いしてみることにした。「あの、私、ヴァレリアさまに聞いていただきたいお話がありまして……」「まぁ、ローティシアさま、私のことはヴァルとお呼びくださいとお伝えしたでしょう?でないと私もいつまでたってもローティシアさまをロッティと呼べません」「ば……ヴァルさまに……」「ヴァル、ですわ」強い……「ヴァル……あの、私、実は淑女教育というものを、その、それが少しあやふやで……」皇室が訪ねたいという噂が立つほどの侯爵家の夫人が、こんな話をしてどう思われるだろうか。そもそもそんな名家の婦人ともなれば、社交界の手本にもなるほどなのだろうし。だからこそ、誰に相談すべきかどうすれば良いのか、ローティシアはひどく頭を悩ましていたのだ。そして、この数日話をするうちに、ヴァレリアは、自分の物の知らなさに呆れたからと言って、面白おかしくそれを吹聴するような女性ではないと思えた。「貴女にそれを教えていただきたくて……」ヴァレリアは、じっとこちらを見つめた後、そっとティーカップをソーサーに戻すとおもむろにローティシアの両手を握りしめた。「ロッティ……その気持ち、ものすっごーくよくわかるわ。だって、私も辺境の端の端の子爵領から由緒正しい伯爵家へ嫁入りしたのよ。お披露目の夜会の日なんて、どれほど逃げ帰りたいと思ったか」ずい、
Last Updated : 2026-09-11 Read more