Todos os capítulos de 夢見る白銀の乙女は傲慢な将軍に娶られる: Capítulo 61 - Capítulo 70

72 Capítulos

第60話 忙しい社交

「お咎めが、皇帝直々の監督下での”全軍の訓練・人事監督任務”と“地方への軍視察などを禁じ帝都留任”ってさ、実際は――お前を帝都に縛っておきたい陛下の作戦だろうな、これは」皇宮にある国軍の執務室。執務机に積まれた書類に囲まれて黙々と仕事をするセオドアを、ビスゴール・ヤノシュは応接用の大きなソファから面白そうに眺めていた。「将軍職を拝命しておきながら、帝都に寄り着かず、国軍の訓練をおいぼれの儂に押し付けていた罰が当たったんだな、罰が」「そうですね。私の不徳の致すところです」その無機質な返事に、ビスゴールは不満げに眉間に皺を寄せる。「辺境の訓練や警備なんぞエンリオに任せときゃいいんだ。ロドリクも元気なんだろ?奴の息子もいるし。アングスやスヴェンも、面白い奴は、全部お前が連れて行っちまうから、儂は退屈で仕方がないんだ」「彼らは正式に任命されて配属されたのです。私が連れて行ったわけではありませんよ」セオドアは顔も上げず、手元の書類に目を通しながら淡々と応える。「皇軍の坊ちゃん兵たちを鍛えるのはな、大変なんだよ、年寄りにはな。お前みたいな鉄仮面の鬼軍曹が、前に立ってしょんべんチビるくらいのことさせないと、あいつらはちっとも動きゃしない」「ランバートがいるではないですか。彼の方が、人当たりもいいし、若者の信頼も得やすい。教育向きです」変わらず淡々と書類を処理し続けるセオドア。紙の音と、ペンの走る音だけが部屋に響く。その静けさを破ったのは、ビスゴールの穏やかな声だった。「セオドア。お前、皇宮をそんなに嫌うなよ。儂も、陛下も――お前ほど強く、誠実に国を想っている男を他に知らん。皆、お前と一緒に国を変えたいと思ってるんだ。そう、冷たくするな」セオドアは、しばらく黙ったまま書類に目を走らせていたが、やがて小さく返す。「冷たくしているつもりは、ありません。ビゴー。何か用があってお越しになったのでは?」そのそっけない返しに、ビスゴールの眉がぴくりと動いた。「ふん。まあ、いい。どうせ今日中にそれ全部片付かないんだろ?だから誘いに来たんだ――皇軍の鍛錬場で若い奴らの訓練を見てやってくれ」「いえ……今日は、遠慮しておきます。また時間のある時に」そう返すセオドアに、ビスゴールはにやりと笑って、手に持っていた書類を彼の目の前
last updateÚltima atualização : 2026-10-01
Ler mais

第61話 匂わせる未亡人

「辺境は大変なところですわ。野蛮な隣国が近いということもありますし、何より寂しいところでしょう?」同意を促すようにこちらへと笑みを向ける。でも、彼女は、ヴァレリアの方は見ない。「セオドア様のお母様にあたる前侯爵夫人も、そのほとんどを帝都でお過ごしになるくらい辺境を嫌っておいでになりましたもの」そうなのか。そういえば、私はセオドア自身のことはほとんど知らない。「それは前侯爵夫人に問題がおありになったのではないかしら。辺境は、冬の寒さも厳しく帝都のような華やかさはありませんが、美しい自然と何より暖かい人の心がありますわ」ヴァレリアがぴしゃりと言う。その横でローティシアは、同意を示して小さく首を縦に振る。「私は、セオドア様とは、主人亡き後も深く交流をさせていただいておりました。閣下のことはお若い頃からよく存じておりますのよ」ヴァレリアの言葉を意に介さず、エリザベートが、含みをもたせた妖艶な笑みを浮かべる。その言葉が、ローティシアの心を捉えた。――彼を、セオドアを若い頃からよく知っている隣でピリリッとした空気を放っているヴァレリアのことが気にならないでもなかったが、何よりエリザベートのその言葉に気を引かれてそれどころではない。「あ、あのエリザベート様」声をかけると、なぜかエリザベートがヴァレリアと同じように緊張した空気を纏う。「なんでしょう、ローティシア様」なんだか、少し夫人の表情が強張っているようにも見えるけれど、聞いていいかしら。「あ、せ、セオ…あの、しゅ、主人の若い頃はどのような感じだったのでしょうか」若い頃のセオドアの話が聞きたい!その欲求に勝てず、思わず聞いてしまった。エリザベートは目を丸くしているし、隣のヴァレリアは、一瞬驚いた後、なんだか笑いを堪えているようだ。だが、とにかく自分の知らないセオドアのことを知りたくてたまらない。「その、結婚が急に決まったものですから、こちらで色々と主人のことを聞く機会も少なくて。それに、主人は自分のことを多くは話しませんので、とても気になってしまって……」エリザベートの見開いた目に、馬鹿な質問をしたかと恥ずかしくなり、言い訳じみた言葉を重ねてしまう。「エリザベート様は、セオドア将軍が戦争に行かれる前からご存じなのでしょう?ぜひ、教えて差し上げては?」ティアマリアが、微笑みながら、助け
last updateÚltima atualização : 2026-10-01
Ler mais

第62話 ローティシアの手紙

******――ゼルフィーネ伯爵家での茶会は、皆さまとても暖かく迎え入れてくださり、楽しい一時となりました。明日は、ガーデンパーティに向けて、アルダンと一緒に地下の倉庫の食材を確認し、その後で庭師と庭の手入れについて話をする予定です。テオ様、どうかお体を労わって、お休みになる時間を作ってくださいね。お食事もきちんとお取りになりますよう。どうかご無理をなさらず。     ローティシア 追記:決してこの文へのお返事などでお手を煩わせませんように――******セオドアは、執務室の椅子に腰かけ、家紋の透かし彫りの入った薄紅の便せんを眺めていた。細く繊細な文字、書いているうちに文全体が少しだけ右に上がる癖があるようだ。数日前から始まった、この手紙。遅くに寝室に入ると、小さくランプで照らされたティーテーブルに、二つ折りにされた便せんが“テオ様へ”と書かれガラスの文鎮の下に置かれている。あと数刻もすれば空が白みだすという時間。昔であれば皇宮の休憩室で休み、翌日の執務に備えたが、ほんの少しでもローティシアの姿を見たくてこうして惹かれるように毎日帰って来てしまう。寝台から聞こえる寝息に導かれるように、夜着に着替えて歩み寄る。いるのかいないのかわからないほどのシーツの下の膨らみがほんの少しだけ呼吸のたびに上下する。その横へ体を滑り込ませると、小さな体がすり寄るように寄り添って、小さな掠れた声で「おかえりなさいませ」と呟く。この一瞬の為にここへ戻って来る自分がいる。夜が明け、彼女を起こさないように寝台を出る時の名残惜しさ。体に回した腕を外したくないと強く思う。今まで仕事に出かけることを煩わしいと感じたことなど一度も無かった。この気持ちはなんなのだろうか。出かける際にアルダンには、彼女が必要とするものは惜しまず出すように、足りないものは彼女が遠慮するようでも手配して十分に揃えるように、と伝えている。自分では気づいていないのだろうが、控えめながらも、彼女は何かをしようと決めたら引かない強さがある。
last updateÚltima atualização : 2026-09-30
Ler mais

第63話 クローネンバーグ夫妻の朝

「ねぇ、ラン。昨日、ティアマリア様のお茶会に行ったのだけど。久しぶりにエリザベート・ナイリス様にお会いしたのよ」「あぁ、ナイリス参謀局長のご夫人だね。もう局長が亡くなって6年くらいかな」クローネンバーグ邸の主寝室では、夫婦の睦言が囁かれていた。「あの方、セオドア閣下と何か関係があったの?ものすごく匂わせてたんだけど」「ん~~あったかも知れないね。彼女は、まだ、43?44?局長が亡くなった時は30代後半だよね。閣下は、昔からとにかくものすごくモテてたけど、結婚しなきゃいけなくなるような相手とは関係を持たないようにしていたからね」「あ…ん、ちょっと変なところ触らないで。話がしたいの」ランバートが、脇から手を回しヴァレリアの腰を引き寄せる。それをヴァレリアが、肩を押して距離を取る。「休日の朝は、僕を優先するって約束だろう?将軍閣下だろうとヴァルの口から別の男の名前が出るのは嬉しくない」甘えたような口調で、色づく肩に軽く唇を落とす。その手つきに、ヴァレリアが眉を上げる。「さっき、一回終わったばかりでしょ?もう……待ってってば」胸元を這う指先を軽く制して言うが、ランバートの目はまるで子犬のように潤んでいた。「だって、平日はすごく我慢してるんだよ?休日くらい、ね?」「……はぁ、もう、甘やかしすぎたかしらね」ヴァレリアは頬を軽くつまんで、外にポンと弾く。そして両頬を手のひらで包み、チュッと音を立ててキスを一つ。それに調子づいて、お返しのキスの応酬が始まる。「んんん……、ダメ。私は、今、話がしたいの。昨日のお茶会の話を聞いて欲しいの。とても、楽しかったのよ」「じゃ、ヴァルのお願いを聞くから、あとで僕のお願いも聞いてね」「……わかったわ、いい子にしてたらなんでも聞いてあげる」「な、なんでも!絶対だからね」ランバートの頭に耳がぴょこんと生えそうな勢いだ。「でね、そのエリザベート様の“匂わせ”、ロッティには全然効いてなくて。逆に『もっと話を聞かせてください』ってお願い
last updateÚltima atualização : 2026-09-30
Ler mais

第65話 花の庭の友人たち

その日の朝、ローティシアはセオドアが起きるのと同じ時間に起きて、彼が出仕するまでに身支度を終えた。昨夜からそわそわしてしようがない。「少し早すぎるんじゃないのか?」身支度を終えたセオドアが、笑いを含んだ表情で頬を撫でてくれる。「今日くらいは、早起きしても許されると思いました」本当は落ち着かないので、ちゃんとセオドアの顔を見ておきたかったのだ。「準備は十分にしたのだろう?心配せずとも大丈夫だ。きっと楽しめるよ」そう言ってもらえると間違いなくそうなると思える。起き抜けに身支度ができなくなりそうなほどの口づけをたくさんもらったので、気持ちがふわふわしている。朝の涼やかな空気の中をセオドアが出て行ったあと、アルダンと一緒に庭の方を確認した。「奥さま、テーブルの配置を確認しながらゆっくり進めてまいりましょう」そわそわして落ち着かないローティシアを見て、アルダンができることから始めていこうと落ち着かせてくれる。辺境でも帝都でも、この家の使用人は、思いやりがあって、本当に良くできる人たちばかりだ。ありがたい。使用人たちがテーブルを庭に運び始め、天幕を張っていく。「ロッティ!来たわよ」ヴァレリアも随分と来る時間が早い。その後ろからおめかしをした子どもたちが現れた。「おはようございます。フェアファックス夫人」上の子のフレデリックがきちんと膝を折ってお辞儀をする。6歳とは思えないくらい、とてもしっかりしている。黒い髪に青い瞳。細い顎に凛々しい眉。もう美青年になる片鱗がある。その横でフリルのたくさんついたドレスを着て、ご機嫌でニコニコしてお辞儀しているのは4歳のイゾルデだ。濃い金髪に青い瞳。まつげがお人形のように長い。こちらもすでに大変な美少女だ。「おはようございます。フレデリック、イゾルデ。今日はよろしくお願いしますね。これから、お母様と一緒に準備をするから、その間お屋敷の中で遊んでいてもらって良いかしら」目線を合わせてそうお願いすると、「はい、わかりました」とフレデリックがイゾルデの手を引いて、一緒に来た侍女と家の中へと歩いて行った。「フレデリックは、とても賢いのね。この間、お屋敷に寄せていただいた時にも感じたけれど、なんてしっかりしているのかしらと思って」ヴァレリアが、ちょっと困った笑みを浮かべる。「そうねぇ。確かによくできた
last updateÚltima atualização : 2026-10-08
Ler mais

第66話 ガーデンパーティの影

「まぁ、ラン。どうしたの?今日はご婦人だけの会なのよ。無粋だわ」ヴァレリアが、笑いながら意地悪なことを言う。ランバートは、走り寄る娘を抱き上げて美しい笑みを周囲の婦人方に送りながら挨拶をする。「美しいご婦人方が一堂に会する、こんな花の宴があるというのに、覗きに来ない手はありませんよ。ごきげんよう皆さま」周囲に笑顔で挨拶をしながら、妻の傍へと歩み寄ってそっと額に口づけを落とした。ローティシアは、その後ろから一緒にアーチをくぐって入って来るセオドアの姿に嬉しくなった。「ごきげんよう皆さま。無粋だとは思いましたが、我が家の庭で開かれる美しい宴を一目見たくなり立ち寄りました。どうか、我々を気にせずご歓談をお続けください」笑顔で皆にそう声をかけると、天幕の方へとゆっくりと歩いて来る。「テオ様、驚きました。お忙しいのに様子を見に来て下さったのですか?」「訓練場でランバートと出会って、彼が気にしていたから」周囲のご婦人方が、自分たちをチラチラと気にしながら、話題にしているようだ。この様子では、この後も皆退屈しなくて済むだろう。「どうだ? 順調かな。何か困ったことはないか?」「とてもうまくいっていますわ。ヴァルにもアルダンにも本当に感謝です」「そうか。もし何か問題があれば、すぐにアルダンに対応させるといい」遠巻きにざわめいていた婦人方が、セオドアに次々と挨拶に訪れ、天幕の中が一気に騒がしくなった。そして、しばらく婦人方に挨拶をして場を賑わせた後、「これ以上いるとせっかくの夏の穏やかな昼下がりを台無しにしてしまいそうだから」と、2人は再び皇宮へと戻って行った。「眼福でしたわ」ローエン伯爵夫人のセラフィーナが、去っていく馬の後姿を見ながらローティシアに話しかける。そうだろう。夫のいる彼女から見ても、セオドアは格好良いに違いない。なんだか、自分が褒められた気分で顔が緩む。しかし、こういう時はどう答えるべきか。『いえいえ、そんな』なのか『ありがとうございます』なのか。よくわからないので
last updateÚltima atualização : 2026-10-09
Ler mais

第67話 泣き腫らした朝

深夜遅くに帰宅したセオドアは、アルダンから、ローティシアが昼のガーデンパーティの後、夕食も取らずにずっと眠っていると聞いた。昼に会ったときは楽し気にしていたが、やはり気が張っていたのだろう。疲れたに違いない。寝室に入ると、ティーテーブルのランプだけが部屋を灯していた。今日は手紙を書く余裕も無かったようだ。着替えて寝台に近寄ると、ローティシアが丸くなって自分を抱えるようにして眠っている。隣に入ろうとして、頬に張り付いた髪をそっとかき上げたとき、そこに涙のあとが見えて、体が、かっと熱くなった。――誰だ泣き疲れて寝たのだろう。頬に触れても目を覚ます気配がない。随分と泣いたようだ、目も腫れている。グツグツと腹が煮えるようだった。――誰だ、彼女を泣かせたのは昼間、庭にいた招待客を思い浮かべる。その中でふと浮かんだのはクロードの妻だった。何か、心無い言葉を投げかけられたのだろうか。皆の前で辱められるような。もし、そんなことが起こっていたとしたら……怒りで体がどうかなりそうだった。皇宮に戻らず、あのままいれば良かった。あの後、何があったのか。こんなに泣きはらすほどつらい思いをしたとは。癒すように涙のすじに親指でそっと触れてから、静かに部屋を出てアルダンに伝言を書いたメモを手渡し、再びローティシアの隣へと戻った。そして、丸くなって眠る体を守るようにそっと抱きしめた。◇◇◇大きくて暖かい腕が自分を包んでいた。心地よすぎてさらにその大きな体にすり寄る。明るい時間にこんな風に一緒に居られるなんて、幸せだ……大きく匂いを吸い込んだ後で、はたと気づく。なぜ、こんなに外が明るい時間にセオドアが?胸元から顔を上げると、じっと黒い瞳が見つめている。「テオ様?」なんだか、瞼が腫れぼったくて目が開けづらい。昨夜、泣きながら寝たせいだ。「おはよう、ロッティ」低い掠れた声が指とともに頬を撫でる。「今日は、まだ、お仕事に行かれなくても大丈夫
last updateÚltima atualização : 2026-10-10
Ler mais

第68話 慰めになれない夫

別邸の自室に閉じこもり、ぼんやりと窓から庭を眺める日々。辺境の城が懐かしくてたまらない。季節の営みがその理に逆らわず続く、あの毎日に戻りたい。その愛しい日々とて、もしかしたら自分の手からいつかこぼれていくかもしれないのだ。だとしたら、可能な限りその中に居たいと思った。自分は、ただ、あの城でセオドアを送り出し、迎える日々を送っていたいだけ。ただそれだけなのに。それがとても贅沢な望みだと思えた。セオドアは、皇族に次ぐ高位の貴族で、多くの責任を負っている。その伴侶としてやるべきことが多くある。そして、そのもっとも大きな義務は、フェアファックスの系譜を繋いでいくこと。セオドアと出会う前。自分を慰めるように夢想に浸っていた。あの頃に想像していた恋物語の中の、王子と姫や、騎士と王女は、めでたしめでたしの後、ずっと幸せになったのだろうか。両親は......父は、すべての責任を投げ捨てて母と家を出た。その後、本当に幸せな結末だっただろうか。兄である父からすべてを押し付けられたクロードは?不名誉を被り義父に苛まれたアビゲイルはどうだった?良くない思いに絡められ、ぐるぐるとその考えに縛られて、どう息をすればいいかもわからなくなってしまった。私たちが......セオドアと自分が互いに愛を伝えあって結ばれた夫婦だっ
last updateÚltima atualização : 2026-10-11
Ler mais

第69話 観劇と大舞踏会の約束

ガーデンパーティからはすでに一ヶ月が過ぎていた。この数日になって、ようやくヴァレリアに礼を言いに行くことができ、多少なりとも以前と同じように過ごすことができている。気持ちが塞ぎがちな自分を気にして、セオドアが早く帰って来てくれることが、何よりの薬になった。彼に甘えていることを、申し訳なく思う反面、晩餐の席で彼と話しながら過ごせることが、不安で揺れる心を軽くしてくれる。「ロッティ、嫌でなかったら明日の夜、観劇に出かけないか」晩餐を取りながらセオドアが誘う。演劇なんて、昔、教会で見た古びた人形を使った人形劇と豊穣祭で見た旅芸人の芝居くらいだ。劇場に足を運ぶことすら初めてで、期待が膨らむ。そして、なんと、帝都の劇場には、フェアファックス家の専用ボックスなる席があり、劇の始まる前に女優が席まで挨拶に来るほどだった。「芸術に投資をするのも、ある意味我々の義務だから」と、さらりと言われて、改めてセオドアの持つ義務と権威というものを実感する。演目は、国の創生神話である『神<ザグリオン>とそれに愛を与えた女神<アエラ>の物語』だった。{自分を持て余し、その怒りをどこにぶつけて良いかわからないザグリオン。なぜ自分は生まれ、この地を制しているのかわからず、混乱し、世界を焼き尽くそうとしてしまう。そんなザグリオンに、己の生きる意味を説き、愛を教えるため、わが身が燃えるのも顧みず、アエラは彼を抱きしめる。自分を救うために燃え尽きようとしているアエラに気づき、ザグリオンは我に返る。しかし、その時すでに、アエラはその命を失おうとしていた。彼女を救おうと苦心するザグリオン。しかし、彼の力は炎となってアエラを燃やすばかり。その時、ザグリオンは初めて愛する心と失う悲しみを知り、涙を流す。その滂沱の涙は大地を潤し、この地に新たな命を作り出すことに繋がっていく。}ローティシアは、慣れない観劇で最初こそ緊張していたが、あっという間に劇の世界に入り込んでしまった。そして、アエラの死の場面では涙が止まらなくなってしまった。ハンカチを押し当て、鼻をすすりあげていると、セオドアの手がそっともう片方の手を握ってくれる。縋るようにその手を握り返した。そして、劇が終わった時には立ち上がって、役者たちに盛大な拍手を送っていた。「楽しかったか?」劇場を出て馬車に向かいながら
last updateÚltima atualização : 2026-10-12
Ler mais

第70話 大舞踏会の自覚

皇室が主催する夜会は、夏の間に三つある。ひとつ目は夏の始まりに、その年に社交界デビューした若い貴族を中心に招かれる。ふたつ目は帝都で華やかな催しのある時期に爵位の上下に関係なく、皇室から招待状の届いた者、または希望して許された貴族が参加できるものとして。そして、みっつ目は夏の最終週に行われる、大舞踏会だ。大舞踏会に招待されるのは、要職についている貴族や皇族に所縁のある貴族などで、皇帝が自身の政治的基盤を作る要人と認めた者が参加できる、政治色の濃い場でもある。ローティシアは、結婚するときに参加した生まれて初めての夜会が、この催しだった為、後で、この夜会の意味の重さを知って、震えたのだった。そして、今回もまた、帝都で参加する最初で最後の夜会がこの場だとは、なかなかな巡り合わせだと思う。フェアファックス家の深い茶色と赤という家紋の色に合わせた衣装を纏い、セオドアの手を取って馬車に乗り込んだ。セオドアは、こんな日でもギリギリまで皇宮で仕事があり、忙しかったようだ。「帝都を立つ前に、文句のないように仕事を処理しておく必要がある。向こうへ戻ってから呼び戻されるのはごめんだからな」詳しくは教えてもらえないが、ドラグナの一件で、軍に関連した仕事が随分とたくさん増えたらしい。「来週には、帝都を立って向こうへ戻ることができると思う。こちらで、やり残したことはないかな、ロッティ」「城の皆さんにまだお土産を買っていないので、数日内にメイアと出かけて見てこようと思ってます」そう言うと、大きな物や数が多くなった物は直接店から辺境へ届けてもらうといい、というアドバイスを貰った。馬車は、帝都の石畳の幹線道路を、カツ、カツ、カツ……と乾いた音を立てて進んでいく。窓を流れる街灯の明かりが、都会を感じさせる。辺境でこんな時間に馬車に乗っていたら周囲から狼の遠吠えが聞えるだろう。「向こうは、もう、上着を羽織らないと外に出られないでしょうね」思わずそう呟くと、セオドアが優しく答えてくれる。「寒さの厳しい時期が辛ければ、
last updateÚltima atualização : 2026-10-13
Ler mais
ANTERIOR
1
...
345678
ESCANEIE O CÓDIGO PARA LER NO APP
DMCA.com Protection Status