All Chapters of 夢見る白銀の乙女は傲慢な将軍に娶られる: Chapter 51 - Chapter 60

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第50話 凍えた知らせ

連れてきた2人のうちの1人が声をかける。「まさか、それを独り占めするつもりじゃないだろうな」男は、その言葉にイライラとしながらも、想定内の反応だな、と表情を変えずに振り返った。「いえいえ、そんなつもりはないですよ。後でちゃんとお分けします」その言葉に2人は顔を見合わせている。痩せて力のなさそうな自分には、なんの抵抗もできないと踏んだのだろう。黙って再び岩肌を削り始めた。「ここに大きいのがありますよ」そう誘うと、もう少し奥の部分にある縦に長い亀裂に埋まりこんだ、金色に光る塊を削り始めた。ガツガツと2人がそれに夢中になり始めたころ合いを見て、少しずつ後ろへ下がる。彼らは夢中になっていて気づいていないが、天井からパラパラと土が落ち始めている。頃合いだ入ってきた坑道の三叉路のようになったところまで下がったところで、彼らが持ってきたカンテラを足でけり倒し、腐りかけた坑道の柱の支えを持ってきた鉈で叩き割った。「おい!何してんだ!」彼らが急に訪れた暗闇に驚き、振り向いた時には支えを失った細い坑道の天井が崩れ始めていた。激しい轟音を背に、男は胸に塊を抱いて必死で出口に向かって走る。仮に彼らがあの場所で生きていたとしても、地図のない真っ暗な坑道の中で外へ出ることは難しいだろう。自分は何度も神に会うためにここへやってきた。この場所から外へ出る道筋は、体が覚えている。しばらく走ったところで空気の匂いが変わり始めた。あぁ、もうすぐ出口だ。自然と笑みが浮かぶ。神よ。私を守ってくださったのですね。出口の光が見えて、そこから抜け出た瞬間にまぶしさで視界が真っ白に変わる。喜びに溢れて思わず笑い声をあげた瞬間、悪魔のような低い声が聞こえた。「随分とご機嫌だな。さぁ、ここで何をしていたかじっくり話を聞かせてもらおうか」◇◇◇部隊が城へ戻ってから、ひと月が過ぎた。けれど、セオドアはまだ戻ってこない。「いろいろな処理に追われておられるようです」と、ドーバンはそれ以上多くを語らなかった。侍女たちも、自分以上に事情を知らないようだし、そもそも、あまり気にしていないようだった。この城の使用人たちは、かつてドラグナとの戦争を経験している。だからなのか、領主が数か月戻らないことなど平気らしい。セオドアの話を聞きたいと思うのに、居住区にいると、エンリオに会う
last updateLast Updated : 2026-09-24
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第51話 待ちわびた帰還

エリクが、さも当然だというように笑って、ローティシアを安心させるように軽い調子で言う。「あの将軍閣下ですよ。単身でドラグナに戦いを挑んだとしても傷1つ負わないでしょう」「……そう、でしょうか」同意とも疑問ともつかない言葉が零れる。彼の強さを信じていないわけではない。それでも、彼を心配することを止められないこの気持ちの持って行き場がないのだ。「奥さま、このことは閣下が戻られるまでは、どうか、ご内密に」エンリオが小さな声で囁いた。盗み聞いてしまったことを、言葉少なに詫びた後、庭の近くまで戻り自分を探していたメイアに引き渡される。セオドアが危険ではないことは、言葉では理解できた。しかし、胸の奥の不安はまだ、雪のように解けきらなかった。◇◇◇来週には豊穣祭という頃になって、ようやくセオドアが帰還するという連絡があった。領の西にある荒原を回り、大きく迂回してから駐屯地に入ったそうだ。3日後、外の城郭の門が開きセオドアの馬が入って来た知らせを聞いた時には、ローティシアは、広間へと向かって駆けだしていた。メイアが慌てて後ろを小走りでついて来る。城の開け放した入り口の向こうに、馬から下りるセオドアを見た時、その胸に飛び込まないでいるために必死で自制心を働かせた。彼は甲冑を身に着けておらず、軍服に軍装用の分厚いマントという姿だった。髭も綺麗に剃られている。ローティシアが扉の前に立っていることに気づき、手綱を従者に渡すといつもの大きな歩幅でこっちに向かって来る。彼に向かって走り出しそうな体を必死で留めて、膝を曲げてお辞儀をした。「おかえりなさいませ」緊張と興奮と歓喜で声が震えてしまう。ブーツと石畳が作る重く響く足音が近づいて来たかと思うと、強く抱きしめられた。「今、帰った。長かったな」セオドアは、ローティシアの首筋に顔を埋めるようにしてそう呟いた。「実に長かったな」彼が首筋に
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第52話 休み休みでいい

「いえ、好きではないという訳では……」「もちろん、気が乗らないのなら無理に行かなくてもいい。私も必要な処理を終えたらすぐにこっちに戻る」――私が一緒に行けば、彼が気を遣って仕事の邪魔になるかもしれない。でも……どうするのが良いか、セオドアに聞きそうになって、そして気づいた。自分の心が決まっているならその通りにするべきなのだ。彼がいつもそう教えてくれている。「テオ様が行かれるのなら、ぜひご一緒したいです」言ってしまった後で、やはり遠慮しておくべきだったのかもしれない、と少し弱気になった。でも、セオドアと少しでも一緒にいたい。「そうか。では、急ぎ準備を整えるようにしよう。向こうでマクシミリアンの妹に会う時間も取るといい。それに、今年の国境巡回には、私は行かないつもりだから、急いでこちらに戻ってくることも無い」国境巡回へ行かないと聞いただけで、彼といられる時間が増えることを思い、嬉しさで舞い上がりそうだった。満面の笑みで、はい、と返事をすると、セオドアが大きくため息をついてカップを置いた。そしてテーブルを回ってローティシアが腰かけている椅子の前まで歩いて来る。そして、両手を取って立たせた。「もう……限界だな」そう呟くと、腰を掴み高く持ち上げるようにしてローティシアを抱き上げた。バランスを取るためにセオドアの肩を持つと丁度、彼の顔を覗き込むような形になった。「さっき、口づけを止めたのは、あのままでは貴女を……怖がらせることになりそうだったからだ」セオドアは掠れた声でそう言うと、寝台の横でローティシアを下ろし、後ろを向かせてドレスのボタンを外し始めた。ドレスの身頃が落ちそうになって、慌てて手で前を掴む。前屈みになった背中をセオドアが後ろから抱きしめて肩に口づけを落とした。「あっ、ん」唇の感触とそこから漏れる息の熱さで思わず声が漏れる。「どれだけ、この肌を夢見たか」唇をつけたまま囁く。その声にローティシアは震えてしまう。――私も、この指を唇をどれほど夢に見ただろうか腰と胸の下を支えるセオドアの大きな手を握ると、ドレスは零れ落ちて足元に輪を作った。口づけをねだるように体を捻ると、紐が緩められた胸当てからふるりと胸が零れ出た。「ロッティ……」熱に浮かされたようにセオドアが自分の名前を呼んでいる。大きな手が胸を優しく|捏
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第53話 春の豊穣祭ふたたび

ふたたび豊穣祭の壇上でセオドアと並ぶ日を迎えられたことに、ローティシアは心から喜びを感じていた。彼が城に帰ってきた日。眠っている間に誰か使用人が湯を取り替えたり、お茶を持って来てくれたりしていたようだが、ずっと熱に浮かされているように彼に抱かれ続けていて、少しも気づいていなかった。今思い出しても、顔が熱くなる。翌日の朝、「駐屯地に顔を出しに行くから。貴女はゆっくり休んでいなさい」と額に口づけをされて手を握られたような気はするが、そこからほぼ一日眠っていて、起きた時には日が傾きかけていた。「お目覚めになられましたか?まる一日、何も召し上がらずにお休みでしたから、お腹がすいておられるでしょう?」寝台の上で体を起こすと、見計らったようにメイアがトレーを持って入ってきた。「旦那さまがお帰りになられましたら、ご一緒に晩餐をお取りになるでしょうから簡単な物をご準備しました」そう言って寝台に置かれた足つきトレーには、フルーツと小さく切ったトマトとベーコンのサンドイッチ、ミントの入った水が置かれている。「ありがとう……」自分の口から聞いたことのないような掠れた低い声が出て、驚いた。メイアも驚いたようで、一瞬目を見開いたが、その後頬を少し染めて、「後の紅茶にハチミツを入れましょう」と、わかってますよ、という顔で微笑まれた。自分の身にこの朝まで一体何が起こっていたのか、城中の人が知っているに違いない。そう思うと恥ずかしくて部屋から出たくなくなった。それに今だって、自分の体に起こっていたことを思い返すと、体の奥がキュッと締まるような感じになって堪らなくなる。結局、その日は一日夜着のまま過ごし、帰ってきたセオドアと部屋で食事を取って、湯を使った後は寄りそって眠った。枯れた喉と痛む腰が、豊穣祭のこの日までに治るのか不安だったが、セオドアの湯の中でのマッサージとメイアの献身的な介抱によって、なんとか皆の前に出ることができる状態にはなった。豊穣祭の会場。昨年、初めてこの光景を目にしたときも、思わず息をのんだ。広場を大きく囲むように整列した辺境軍の兵たちが、セオドアの号令に合わせて一斉に祝砲を放つ。その音が、体の奥まで響く。彼らの中には戦地に赴いた者もいるだろう。 銃を手にし、命を懸けて引き金を引いた記憶は、きっと彼らの中に重く残っているはずだ。しか
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第54話 帝都への旅路

慌ただしく準備をして、豊穣祭からわずか二日後には、帝都への旅路にいた。馬車はあったものの、道中のほとんどの時間は、セオドアとともに彼の馬に乗って過ごした。辺境領にやって来る時の馬車の中では、迷惑をかけてはいけないとずっと中で固まっていた。この旅では、道中の風景をゆっくりと楽しむことができた。馬の上は、視点が高いせいか見晴らしが良くて目に入る物がすべて新鮮に映る。セオドアに抱きかかえられているので、常にドキドキはするが、見えているものや感じていることを話しながら進む旅はとても楽しかった。「慣れない馬に長時間乗っていると、気づかないうちに尻が擦れて痛くなる。軟膏を塗ってあげるから見せてごらん」宿屋の部屋で夜着を着て“さぁ、寝よう”と寝台に座っていると、丸い軟膏の瓶を持ってセオドアが隣の部屋との続き扉から入って来た。わきまえているメイアがすっと部屋から出て行く。さすがに従者たちが近くで眠る壁の薄い宿屋で、城に居る時と同じようなことをするわけにはいかない。「あ、ありがとうございます。でも、軟膏だけ頂ければ自分で塗れますから」「遠慮しなくていい」確かにずっと馬にまたがっているので、お尻は痛い。だからといってそんなところに薬を塗ってもらうのは、さすがに抵抗がある。「この軟膏はすごく効く。腰から尻と太ももにかけて全体に塗れば、かなり楽になる。さぁ、遠慮しないで後ろを向いて寝台に寝てごらん」なんの邪気も感じない優しい笑顔で目の前の立つ夫を見上げる。普段、さんざん裸で色々しているのはわかっているが、こうして改めて言われると、恥ずかしくて堪らない。「……はい」じっと立ったまま、”さぁ”と言わんばかりのその圧に屈して、寝台に寝そべって、枕に頬をつけた。背後で寝台が沈み、夜着が捲り上げられているのがわかる。夜着がめくられ、軟膏をつけたセオドアの手が腰のくぼみに触れた。ひんやりと冷たいその感触にビクンと体が反応する。「冷たかったか?すまない」優しく腰を揉みながら、低い声で囁く。この声が本当にいけないと思う。体の奥が営みの喜びを思い出させて臍の下がキュッとなる。「だ、大丈夫です。申し訳ありません、ありがとうござます」「痛くないか?力が強すぎないか?」腰を掴み優しく親指で背筋の中心を押してくれている。脇腹にある手のひらの感触が気持ち良すぎる。「い
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第55話 別邸とグーテローワン家

旅は順調に進み、五日目の昼には帝都の別邸にたどり着いた。以前、結婚式の後で立ち寄った時は、ほんの一夜の滞在で、広間と食堂、そして寝室しか目にしていなかった。セオドア曰く、貴族の屋敷としては、さほど大きくはないらしいのだが、ローティシアにはかなりの豪邸に感じられた。この季節、よく手入れされた前庭では薔薇が咲き誇り、甘やかな香りが風に乗って流れてくる。赤や白、淡い桃色の花々が咲き揃い、まるで自分たちの訪れを祝福しているかのようだった。「予定より早く着けてよかった。少しはゆっくりできる」セオドアは、明日には皇宮へ行って、先日まで続いていた一連の事件の処理に追われるようだ。「夕食を共にできない日があるかもしれないが、可能な限り毎日帰宅するようにする」晩餐を取りながら、申し訳なさそうにセオドアが言う。自分のことで気を遣って無理をすることのないようにして欲しい、と伝えると、「あなたがここにいるのに、寝顔を見ることすらできないなら、仕事をする意味がわからなくなるよ」とほほ笑んで言われた。あの夜――結婚式の後、この別邸で初めて二人で食事をとったとき。うまく言葉も交わせず、ただ自分の無教養さとこれからの不安を噛み締めるだけだった。今も、二人の食卓が賑やかなわけではない。それでも、お互いの予定を伝え合い、その日の出来事について話す穏やかな時間は、なにより心を癒してくれる。自分の未来がどうなるのかわからず不安で堪らなかった、あの日。あの日の自分に教えてあげたい――セオドアとの出会いは、私の人生でいちばんの幸運なのだと。もちろん、この先、思い悩む材料があるのは十分にわかっている。けれど今は、この静かな幸福を、何よりも大切にしていたい。翌日、昼前に出て行くセオドアを見送ってから、身支度をしてグーテローワン邸へ向かった。アビゲイルは、私に会いたくはないだろう。正直、私だって会うのは、気が重い。それでも――帝都に来て最初に挨拶に行くべきなのは、礼儀として当然なのだ。先に手紙で知らせておいたが、クロードは仕事で不在だと返事を貰っている。馬車を降りると、玄関前に立っていたアビゲイルが、自分の姿を上から下まで品定めするように眺めていた。「ごきげんよう、レディ・フェアファックス」「ご、ごきげんよう、アビ……レディ・グーテローワン」少しは落ち着いて挨
last updateLast Updated : 2026-09-29
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第56話 皇帝の沙汰

「おおよその経緯は事前に届いた報告書で確認していた。要するに――」皇帝の声が、重々しく会議室に響いた。「お前の領内で不届きな者どもが、ヴェルナがドラグナに渡した坑道の地図と、例の『金鉱』の話を利用し、狂気じみた行動を起こした。その結果、帝国は危うく、ドラグナに付け入る隙を与えるところだったということだな。この件の責任は、重いぞ、セオドア」楕円形の巨大な会議卓。その中心に座する皇帝を囲むように、宰相と大臣たちがずらりと並ぶ。その一角に立ち、詳細な経緯を報告し終えたセオドアは、皇帝の視線を真っすぐに受け止めた。「はい。すべての責任は私にございます。陛下がご判断なさるいかなる処分も、甘んじてお受けいたします」そう言い終わると、セオドアは、深く首を垂れた。◇◇◇――4か月前 国境要塞 執務室「なぜこいつが、こんな面倒なことをする必要がある。動機はなんだ」エンリオが差し出した報告書を見つめながら、セオドアは低く呻いた。リンデル・コルデイト。そこに書かれていたのは、城下の村の教区を束ねる、地味で目立たぬ牧師の名だった。その問いに、エンリオがため息をひとつ漏らす。「この数か月、彼が坑道の奥に頻繁に出入りしていたのは事実です。ドラグナの兵を伴ったこともある。確証はありませんが……おそらくヴェルナがかつて小領主たちに語った“金鉱”の噂を知っていたのでしょう。このところ頻発していた村の盗難事件――これも、恐らく、鉱山の中を確認に来たドラグナの間諜の仕業と見ています」「……嘘だろ」エリクが半ば呆れ、半笑いで呟いたが、セオドアは表情を崩さない。エリクの口元から笑いが消える。「は?.......だとすればなぜリンデルがそれを?小領主たちはすでに拘束され、カリモンへ送られている。“金鉱”がただの詐欺だったことは、ヴェルナ自身が裁判で、奴らの面前で明言したはずだ。しかも、この詳細は上層部のそれもごく一部の者しか知らない。誰が、この小さな村の牧師にそこまでの情報を伝えた?」「辺境で生まれ育ち、教区を出たこともほとんどない男だ。貴族や重鎮と繋がりがあったとは考えにくい」そのエンリオの言葉に、アングスが報告書の一枚を指で叩いた。「こっちはどうだ? ボーグムントの方。なんでこんな男が、リンデルの言いなりになってる?」「……奴は、リンデルの教会で育て
last updateLast Updated : 2026-09-29
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第57話 偽りの神物

◇◇◇リンデルが“神の導き”として信じてきたもの。 それは、かつてヴェルナによって語られた――偽りの残響だった。かつて、マンスール領の西にある鉱山の奥に、「金でできた神の形をした神物が眠っている」とヴェルナは小領主たちに語った。「これは、神が与えたものであり、特定の者が独占してはならない。神を信ずる者すべてのものだ」ヴェルナはそう訴えながら、小領主たちを言葉巧みに取り込み、「マンスールは、金鉱による富を独り占めにしたいがために、神の与えたものさえも、わが物にしようとしている。けして許してはならない」と、彼らを煽った。当初は半信半疑だった小領主たちも、実際に坑道の奥で「金色の像」を目にし、それを“神の証”と信じるようになった。そして、友軍として集められた兵があると納得させられ、鉱山を得るべく蜂起することを決意した。だが、そこにいた「友軍」は、ドラグナの兵であり、小領主たちは知らずにヴェルナとドラグナの手の内で踊り、敵兵を引き入れ、戦争の火をつける役割となってしまった。リンデルは、その小領主のうちの1人――国を裏切ることに罪悪感を抱えた男――から、告解としてこの話を聞いていた。◇◇◇――リンデル捕縛同日、駐屯地 執務室「ドラグナ側にも、戦争の火種になったあの”金鉱”の話を、しつこく覚えていた者がいてな……。巡礼でそこを訪れたリンデルは、偶然そいつと接点を持つことになったらしい」リンデルの取り調べを終えたエンリオが、駐屯地の執務室に戻り、待っていたエリクとアングスに、淡々と語り始めた。巡礼で立ち寄ったドラグナの神殿の、戦争孤児の救済に携わっていた司教が、ヴェルナの語った“金の神像”の話を、それは真実だと話したという。ドラグナ側では、神物への畏敬の念よりは、”金鉱”への執着の方が強かったようで、それを得ようと高位の司祭が手をまわし、軍を動かしての揺動を行うことができたようだ。「向こうは、巡礼に来た牧師の出身地を見て、見当をつけたのかもしれない。戦後もこの辺りをウロウロしていた兵がいるし、国をあげて執念深く”金鉱”を狙っていたのかもしれないな。……まぁ、リンデルにとっては、偶然が幾重にも重なって“これは神の導きに違いない”と信じる根源にもなったようだ」養い子であるボーグムントに、「身寄りのない者を何とか働かせてやってほしい」と言って、正規
last updateLast Updated : 2026-09-29
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第58話 処遇と外交

◇◇◇――現在 皇宮 会議室「お前の報告によれば、この男はドラグナ側の誘導に巧みに乗せられて動いた――ということだったな」皇帝は、手元の報告書とドラグナからの書簡を交互に見つめ、顔をしかめた。重い沈黙ののち、ふぅ、と小さくため息をつく。「だがドラグナは、そんなことを認めん。むしろ、こちらの不届き者が神殿の司祭を唆し、大勢の兵を動かすような騒ぎを引き起こしたのだ……そう主張している」言い終えた皇帝が書簡をぞんざいに机に置いた瞬間、重く湿った空気が会議室を満たした。「だから、お前は……先手を打つために、単身でドラグナの宰相と話し合いをしたのか。極秘裏に隣国へ渡りたい、という連絡を受けたときは、我が耳を疑ったものだ」皇帝の皮肉混じりの言葉に、会議卓のあちこちでざわつきが起きた。しかし、セオドアが一歩前に出て、落ち着いた声で語り始めると、場の空気がすっと引き締まる。「陛下が私の身勝手をお許しくださったこと、深く感謝しております。今回の件については、戦後の和平交渉で中心的役割を果たした、ドラグナのセヴェリウス宰相と直接話をいたしました」セオドアは静かに顔を上げ、卓を囲む面々を一人ひとり、確かめるように見渡した。「確かに、我が国とドラグナの間の、戦争は終わった。だが、真の意味での平和はまだ訪れていない。国境地帯には今も向こうの残兵が徘徊している。それは、ドラグナ側がいまだ経済を立て直せず、民が困窮しているためです」再び、あちこちで囁きが聞こえ始めたが、セオドアは、それを視線だけで制した。「我らが平和を維持しようとするならば、隣国の安定を無視することはできません。貧しさと混乱が隣にある限り、同じような事態が、何度でも繰り返されるでしょう」一部の大臣が眉をひそめ、ささやき合う。「それは将軍の職務の範囲を越えるのではないか」「国境の不穏に、帝国全体が動くべきなのか?」「そもそも、宰相との直接交渉など前例がない。将軍の独断が過ぎるだろう」批判的な声が広がる中、セオドアはそれらを無理に
last updateLast Updated : 2026-09-30
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第59話 パーティの計画

「2年後には皇太子妃になる令嬢よ。今は、爵位は下でも、今後のためにお付き合いは避けられないわ。でも、それほど難しい方ではないから心配しないで。昼のお茶会だし、もしロッティが同伴を許してくれるなら、私も一緒に行くわよ」「ぜひ一緒に!」そうお願いすると、ヴァレリアは笑いながら返事の書き方まで手伝ってくれた。心強くて、ありがたくて、胸が温かくなる。「あとね、ロッティ。前にも提案したけれど、この別邸の庭でガーデンパーティを開きましょうよ。 お茶会や夜会でお友達になれた人をお招きして。ここのお庭は、手入れが行き届いて今は薔薇がとても見頃よ。ね?」「私にできるかしら……」「大丈夫よ、一緒にやれば。こんな私でも、社交は貴族夫人の仕事だと思って割り切ってやってることも多いのよ」ヴァレリアはそう言って明るく笑う。そうだ。社交は夫人の重要な仕事。詰め込み淑女教育で口すっぱく言われた。思い出すのは――かつて、アビゲイルが夜ごとに夜会へ出かけるのを見て「もっと子どもたちの傍にいてあげればいいのに」と思っていた自分。あの頃の無知が、今となっては本当に恥ずかしい。貴族夫人としての役割は、ただ家にいることだけではない。社交を通して、夫の立場を支え、人脈を広げ、家名を守ることだ。私だって、少しはセオドアの役に立てるかもしれないのだからがんばってみよう。◇◇◇それからの日々は、目まぐるしくも充実していた。ヴァレリアとともに、夜会用のドレスを仕立てに出かけたり、装飾品を選ぶために商人を屋敷へ呼んだり。彼女の助けがなければ、到底こなすことはできなかった。「ヴァルもお忙しいでしょうに……私のためにこんなに時間を使ってもらって、申し訳けないわ。何かお礼をさせて」そう言うと、ヴァレリアはくすくすと笑いながら首を振った。「私がやりたくてやってるのよ。でも、どうしてもと言うなら――一緒に素敵なガーデンパーティを成功させましょう。それが、私にとって一番嬉しいお返しかもしれないわ」その
last updateLast Updated : 2026-09-30
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