金曜の夕方。 昼の会議を終えたオフィスには、ようやく一息ついた空気が流れていた。 デスクを整えて帰り支度をしていると、朱里のスマホが軽く震える。 画面には短いメッセージ──。> 『会議終わった? このあと、少しだけ時間もらえる?』 差出人は、平田嵩。 たった一文なのに、胸の奥が少しだけ跳ねた。「少しだけ……って、どのくらいなんだろ」 独り言のように呟いて、朱里は深呼吸をした。 鏡代わりのパソコン画面に映る自分の顔を見て、慌ててリップを塗り直す。 職場を出ると、夕方の風が少し冷たくて、心のざわめきを落ち着かせるにはちょうどよかった。 ショッピングモールの前。 嵩は、スーツの上着を片手にベンチに腰かけていた。 朱里の姿を見つけると、少し照れくさそうに立ち上がる。「忙しいところ、ごめん。会議、思ったより早く終わってさ」「いえ、大丈夫です。ちょうど帰るところでした」「よかった。じゃあ、ちょっとお茶でもどう?」 自然すぎる誘い方に、朱里はかえって戸惑った。 でも、その笑顔を断る理由なんて、見つからなかった。 モールの中のカフェ。 ガラス越しの夕陽が二人のテーブルを柔らかく照らしている。 仕事帰りの人々が行き交う中で、朱里だけが時間の流れから少し外れていた。「最近、資格の勉強またしてるって聞きましたけど……中小企業診断士、もう合格してますよね?」
Última actualización : 2026-08-17 Leer más