All Chapters of 大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。: Chapter 71 - Chapter 80

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第71話  知らないふりの裏側で

午後の会議が終わると、朱里はそのまま資料を抱えて会議室を出た。 心ここにあらずのまま歩いていると、後ろから田中美鈴が小走りで追いかけてくる。 「ねぇ朱里、さっきの会議中ずっとぼーっとしてたけど、大丈夫?」 「……え、あ、そう?そんなことないよ」 美鈴はじっと朱里の横顔を覗き込み、ニヤリと笑う。 「嘘つけ。あんた、顔に“恋の悩み中”って書いてある」 「そ、そんなこと書いてない!」 「うん、フォント大きめでね。しかも太字」 美鈴の軽口に、朱里は思わず笑ってしまう。 彼女だけは、朱里の強がりを見抜く数少ない友人だった。 「……あのさ」 朱里は、少し声を落として呟く。 「もし、好きな人が……他の子と仲良くしてるの見たら、どうする?」 美鈴は腕を組み、うん、と一拍置いてから答えた。 「んー、私なら……とりあえず、負けたくないって思うかもね」 「負けたくない……」 「そう。だって、それって恋愛ってより“戦い”みたいなとこあるじゃん。 素直に言えないなら、行動で見せればいい」 朱里は黙って頷いた。 行動──それが一番苦手なのに、今の彼女に必要なのも、それだった。 帰り道、ふとスマホを開くと、嵩からメッセージが入っていた。 > 【今夜、少し残業するけど、コーヒー飲みに行かない?】
last updateLast Updated : 2026-08-07
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第72話  距離とぬくもり

カフェを出たあと、朱里と嵩はショッピングモールの屋上庭園に出た。夕暮れのオレンジ色がガラス壁に反射して、街をゆっくり包み込んでいく。風がやわらかく、春の匂いを運んでいた。「ねえ。最近、なんかちょっと冷たくない?」 朱里は柵にもたれ、わざと軽い調子で言った。「冷たく?」 嵩はポケットに手を入れたまま、少しだけ首を傾げた。「だって前みたいに、LINEもすぐ返してくれないし、仕事忙しいのはわかるけど……」「忙しいのもあるけど、朱里にちゃんと向き合いたくて、考えてたんだ」「考える?」「この先のこととかさ」 嵩の声は穏やかだったが、朱里の胸の奥にひやりとした風が通り抜ける。「……それって、“距離を置こう”ってやつ?」「違う。逆だよ」 嵩は柵から一歩前に出て、朱里の髪をそっと指で払った。「俺、たぶん朱里のことが好きすぎるんだと思う。だから、ちょっと慎重になりたくて」 その言葉に、朱里の頬が一気に熱を持った。「え、ちょ、そんなストレートに言うの反則じゃない?」「いつも“こじらせてる”って言われるけど、今日は素直でいいかなって思って」「……もう、ずるいよ」 二人の間に、照れくさくも心地いい沈黙が流れる。 風が、朱里のスカートの裾をふわりと揺らした。 嵩がそれに気づいて、一瞬視線をそらす。その反応がまた、朱里にはおかしくてたまらない。「ねえ。さっきの言葉、録音しとけばよかった」「やめろ、それは拷問だ」「だって、私、たぶん今日一日それでご飯三杯いける」「……朱里、ほんと単純で助かる」「はいはい、どうせ私は“わかりやすい女”ですよーだ」
last updateLast Updated : 2026-08-08
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第73話  勘違いとハートの通知音

翌週の月曜。朱里はいつものように職場のデスクでメールを整理していた。 土曜のデートからまだ二日しか経っていないのに、頭の中はずっと嵩の「好きすぎるんだと思う」の一言でいっぱいだった。 思い出すたびに頬が熱くなる。 けれど、その浮かれた気分を一瞬で吹き飛ばす出来事が起こった。「朱里さーん、この前の研修で一緒だった“高瀬さん”って覚えてます?」 隣の席の千夏が、にやにやとスマホを見せてきた。 画面には、嵩と知らない女性が並んで笑っている写真。 背景は、まさかのカフェ。──朱里たちがよく行く、あのショッピングモール内のカフェだ。「え……これ、いつの写真?」「先週末みたいですよ。高瀬さん、SNSで『久々に同期とお茶』って」「そ、同期……?」 朱里の声が裏返った。思わずマウスを握る手に力が入る。 嵩の笑顔。あの穏やかな目。──でも隣の女性のほうに向いてる。 千夏が朱里の顔をのぞき込みながら、悪戯っぽく笑った。「もしかして、気になる感じですか?」「き、気になるわけないでしょ!」 反射的に声を上げたが、心の中は大渋滞だった。 ──どうして言ってくれなかったの? ──“好きすぎる”って言ったの、あれ、なんだったの? 昼休み。食堂のテーブルにトレーを置いても、箸が進まない。 ふとスマホが震えた。嵩からのメッセージだ。> 【嵩】午後、時間ある?ちょっと話したいことがあるんだ。 朱里の心臓が跳ねた。 “話したいこと”──嫌な予感しかしない。 週末のあの笑顔が、何かの別れの前触れみたいに思えてしまう。
last updateLast Updated : 2026-08-08
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第74話  好きって言われると困るんです!

翌朝。 朱里は出社早々、デスクでため息をついていた。 昨日、嵩に誤解を解かれた時──あんなに優しい顔で言われたのに、素直に「よかった」って言えなかった自分が嫌だった。 むしろ、あの「好きすぎる」発言を思い出しては、ひとりで勝手に赤面して、勝手に混乱している。「……あーもう! 何あれ! 『好きすぎる』って何なの!?」 心の中で叫びながら、メールの返信を打つ手が止まる。 机の上には、昨日嵩にもらった資料が置きっぱなし。そこに小さく“ありがと”って朱里のメモが残されていた。 すると、ふいに背後から声がした。「……朝からずいぶん考え事だな」「ひゃっ!?」 振り返ると、そこには当の本人──平田嵩。 いつもの穏やかな笑顔で、コーヒー片手に立っている。「な、なによ……脅かさないでよ!」「脅かしてない。朱里が勝手に驚いたんだろ」「む……」 嵩は、彼女のデスクの上に視線を落とした。「これ、俺に返すの? それとも記念に取っておく?」「き、記念って! そんなもの取っとくわけないでしょ!」「へえ、そう?」 口元をわずかに緩める嵩。 朱里は顔を真っ赤にしながら、ぷいっとそっぽを向いた。(もーっ! なんなのその余裕!) 心の中でそう叫びながらも、どこかうれしい自分がいるのがまた腹立たしい。「なあ朱里」 嵩が少し声を落とした。「今週末、もし時間あったら……また出かけない?」「えっ」「映画のチケット、もらったんだ。せっかくだし、一緒にどうかと思って」 心臓が跳ねた。
last updateLast Updated : 2026-08-09
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第75話  スクリーン越しの距離

週末の午後。 ショッピングモール併設の映画館前。 朱里は、上映開始十五分前にすでに到着していた。 白のブラウスにベージュのスカート。鏡の前で何度もチェックした結果、結局「地味すぎるかも」と思いながらも、結局そのまま来てしまった。 (だって……“デート”なんて言われてないし) そう、自分に言い聞かせながら。 「待った?」 声に振り向くと、嵩が軽く手を上げていた。 白シャツにグレーのジャケット。ラフなのに、なぜかきちんとして見える。 「ううん、今来たところ」 定番のセリフを、つい自然に言ってしまう。 (なにそれ、少女漫画か……!) 自分で心の中でツッコみながら、顔が熱くなる。 嵩はチケットを見せながら言った。 「せっかくだし、ポップコーンとか買っていこうか」 「う、うん」 売店の列に並ぶ二人。 すると嵩が、何気なく聞いてきた。 「朱里、甘いのと塩、どっち派?」 「え? あ、甘いほう」 「俺も。じゃあキャラメルにしようか」 「うん……」 会話は、何気ない。 でも、心臓はやけにうるさい。 上映中。 ラブストーリーのクライマックスで、ヒロインがヒーローに「あなたが好き」と告げるシーン。 暗闇の中、
last updateLast Updated : 2026-08-09
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第76話  スクリーンの横顔

映画館の暗闇に、朱里の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。 スクリーンでは派手なカーチェイス。爆音が鳴るたびに、彼女の肩がびくっと揺れる。「……大丈夫か?」 隣の嵩が、小さく囁いた。 その声に、朱里は反射的に首を横に振る。「だ、だいじょぶ……!」 ほんとは全然大丈夫じゃない。 なのに「怖い」と言えないのは、あの一言が頭の中で繰り返されるから。 ──なんで、私なの? 自分で言ったくせに、答えを聞くのが怖くてたまらなかった。 嵩は映画のチケットをもらったから、と気軽な感じで誘ってくれた。 でも、あの時の「なんで私なの?」という言葉を、彼がどう受け取ったのか──そのことがずっと、心の奥でひっかかっていた。 スクリーンの光に照らされた嵩の横顔を、朱里はこっそり盗み見る。 静かに組まれた腕、落ち着いた視線。 同じ空間にいるだけで、息が詰まりそうになる。(……また、同じこと聞いちゃいそう) そのとき、ポップコーンを取ろうとした嵩の手が、朱里の指先にかすかに触れた。 電気でも走ったみたいに、体が固まる。「……悪い」 嵩が小声で言い、指先を引っ込めた。 朱里は慌てて首を振る。「い、いえっ!」 小さな声がスクリーンに吸い込まれていく。 鼓動の音だけが、やけに響いていた。 ──映画が終わり、館内に明かりが戻る。 朱里はほっと息をついた。「……アクション映画って、思ったより体力使うね」「苦手なの、わかってて来たんじ
last updateLast Updated : 2026-08-10
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第77話  夜風と告白未満

映画館を出ると、夜風が頬をすり抜けていった。 朱里は両手をコートのポケットに突っ込み、少しうつむきながら歩く。 隣を歩く嵩の足音が、一定のリズムで耳に響いていた。 「風、冷たいな」 嵩がぼそりと言う。 「そ、そうですね……でも、気持ちいいです」 朱里は、さっきまでのドキドキを誤魔化すように笑った。 ──“理由、言ったら来なかったかもしれないから” あの言葉が、まだ胸の奥でくすぶっている。 理由って、なに? “仕事の後輩だから”? “たまたま空いてたから”? それとも……。 横顔をちらりと見た。 嵩は、信号の青を待ちながらポケットの中でスマホをいじっている。 その横顔は、スクリーンの光よりも穏やかで、でも、少し遠く見えた。 「……あの、今日の映画、どうでした?」 自分でも驚くほど、声が上ずる。 「面白かった。意外とラストが熱かったな」 「うん、あの……ヒロインが最後に、“あなたのこと、大嫌い”って言ってたの、あれ……」 「“大嫌いなほど好き”って意味だろ?」 嵩が、自然に返す。 朱里の心臓が跳ねた。 「そ、そう、ですよね……」 「中谷も、似たようなこと言うじゃん。大嫌いって」 「えっ!? そ、それは、違っ──」 否定しようとした瞬間、信号
last updateLast Updated : 2026-08-10
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第78話  美鈴の忠告

翌日の昼休み。 オフィス近くのカフェの隅、朱里はカフェラテをかき混ぜながら、ひたすらテーブルを見つめていた。「で? つまり、休日にふたりで映画行って、夜ごはんも食べて、最後に“夜風と星空の下で見つめ合いました”ってこと?」 向かいに座る美鈴が、わざと芝居がかった口調で言う。 朱里は慌てて口を押さえた。「ちょ、ちょっと! 声大きいって!」「なによ〜、職場の王子様とのデート報告なんて、普通もっとドヤ顔で話すもんでしょ?」「デートじゃない! ただの、チケットが余ってたから……って……」「……ふーん?」 美鈴はにやにやしながらストローをくわえた。 完全に“わかってる顔”だ。「で、その“チケットが余ってた”って言葉、信じたの?」「う……信じたっていうか……別に、そこは重要じゃないし」「はぁ〜出た出た。朱里の“自分からは踏み込まない病”。」 美鈴はテーブルに身を乗り出し、朱里の目をまっすぐ見た。「いい? 朱里。男って、“なんで私なの”って聞かれた瞬間に察するの。 “この子、俺の気持ちに気づいてない”ってね」「うぅ……そんなつもりじゃ……」「つもりじゃなくても伝わらないんだって。 大嫌い大嫌い言ってても、ちゃんと伝えなきゃ何も始まらないよ?」 その言葉が胸に刺さった。 “ちゃんと伝えなきゃ、何も始まらない”。 ──わかってる。 けど、怖いのだ。伝えた瞬間に壊れる気がして。「でも……もし、嵩さんが望月さんを選んだら……」「朱里」 美鈴が静かに言葉を切る。「恋って、勝ち負けじゃないの。 “自
last updateLast Updated : 2026-08-11
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第79話  雨の日の約束

金曜の夜。 仕事帰りの朱里は、駅へ向かう途中で、ふと冷たいものが頬に当たるのを感じた。 ──ぽつ、ぽつ。 空を見上げると、雲の隙間から小さな雨粒が落ちてきていた。「えっ……傘、持ってないし……」 朝は晴れていたのだ。 まさか週末前の夜に、こんな不意打ちの雨が来るなんて。 駅まであと数分。 その距離が、妙に遠く感じる。 立ち止まってスマホを開くと、通知に“傘マーク”が並んでいた。 なんでこういう時に限って、天気予報見忘れるんだろう。 小走りで近くの屋根のある場所へ避難しようとした、その時。「中谷さん!」 背後から名前を呼ばれて、思わず振り返る。 ビルの角から、黒い傘を差した嵩が歩いてきた。 シャツの袖を少し折り、片手でスーツのカバンを持つ姿。 雨に濡れた髪が、街灯の下で少し光って見えた。「やっぱり……傘、持ってないですよね」「……どうしてわかったんですか」「中谷さん、朝“晴れ女だから大丈夫です”って言ってたから」 そう言って苦笑する嵩に、朱里は少し顔を赤くした。「……もしかして、わざわざ戻ってきたんですか?」「はい。駅の前で見かけて、気になって」「そ、そんなわけ……」 反論しかけたけど、嵩の傘が静かに差し出される。 ふたりの距離が、自然と近づく。「ほら、入ってください。風、強くなってきた」「……ありがとうございます」 肩が触れるか触れないかの距離。 雨音と、ふたりの足音だけが響
last updateLast Updated : 2026-08-11
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第80話  知られたくない鼓動

土曜の午後。 カーテンの隙間から射し込む光が、テーブルの上のマグカップを照らしている。 朱里はソファに腰を沈め、膝の上にノートパソコンを開いたまま、ページをスクロールしていた。 ──中小企業診断士 二次試験 勉強法。 嵩が合格した資格。その名を見ただけで、昨日の雨の夜のことを思い出す。 「また映画行きたいです」 自分の口から出た言葉が、まだ耳の奥で反響していた。 そして嵩が少し驚いたように笑って、「いいね。また行こう」と答えた、あの声も。 朱里はスマホを手に取った。 LINEを開くと、最後のメッセージ履歴には嵩の名前が並んでいる。 『無事に帰れました?』 『はい。傘ありがとうございました』 そこまで送って、その先に何も続けられなかった。 “また映画、いつ行きますか?” そう打って、消す。 打って、消す。 何度も繰り返すうちに、心臓が痛くなった。 あんなに自然に笑ってくれたのに、 いざ自分から誘うとなると、どうしてこんなに勇気が出ないんだろう。 テーブルの上のマグカップから、ミルクティーの香りがふわりと立ちのぼる。 朱里は小さく息を吐き、つぶやいた。 「……ほんと、私ってこじらせてる」 その瞬間、スマホが震えた。 画面を見ると、“平田嵩”の名前。 ──まさか、今のタイミングで。 『この前の映画、面白かったよな。チケット、もう一組もらってさ。来週どう?』 目が止まった。 息を呑む。心臓の鼓動が、さっきよりもはっきりと聞こえる。 指先が震えて、すぐに返事が打てない。
last updateLast Updated : 2026-08-12
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