午後の会議が終わると、朱里はそのまま資料を抱えて会議室を出た。 心ここにあらずのまま歩いていると、後ろから田中美鈴が小走りで追いかけてくる。 「ねぇ朱里、さっきの会議中ずっとぼーっとしてたけど、大丈夫?」 「……え、あ、そう?そんなことないよ」 美鈴はじっと朱里の横顔を覗き込み、ニヤリと笑う。 「嘘つけ。あんた、顔に“恋の悩み中”って書いてある」 「そ、そんなこと書いてない!」 「うん、フォント大きめでね。しかも太字」 美鈴の軽口に、朱里は思わず笑ってしまう。 彼女だけは、朱里の強がりを見抜く数少ない友人だった。 「……あのさ」 朱里は、少し声を落として呟く。 「もし、好きな人が……他の子と仲良くしてるの見たら、どうする?」 美鈴は腕を組み、うん、と一拍置いてから答えた。 「んー、私なら……とりあえず、負けたくないって思うかもね」 「負けたくない……」 「そう。だって、それって恋愛ってより“戦い”みたいなとこあるじゃん。 素直に言えないなら、行動で見せればいい」 朱里は黙って頷いた。 行動──それが一番苦手なのに、今の彼女に必要なのも、それだった。 帰り道、ふとスマホを開くと、嵩からメッセージが入っていた。 > 【今夜、少し残業するけど、コーヒー飲みに行かない?】
Last Updated : 2026-08-07 Read more