「……はい。行きます」 朱里がそう答えた瞬間、嵩はふっと柔らかく笑った。 オフィスの窓の外は、さっきまでの雨が嘘のように静まり返り、夕暮れの光が街を淡く染めていた。「じゃあ、片付けたら行きましょう」「はい……」 朱里は胸の奥がざわざわして、いつものようにカバンを閉じるだけなのに手がぎこちない。 “少し歩きませんか”──ただそれだけのことなのに。(どうしよう……なんでこんなに緊張してるの) 同期や友達の誘いなら、こんなに動揺しないのに。■ オフィスのエレベーター前 「お待たせしました」と朱里が駆け寄ると、嵩はスマホをポケットに戻した。「急がなくていいのに。……行きましょうか」 並んでエレベーターに乗ると、朱里は自然と端に寄ってしまう。 視界に映るのは、彼のワイシャツの袖、仕草、横顔── どれも職場で何度も見ているはずなのに、なぜか意識してしまう。(落ち着いて……私。何もない。ただ歩くだけ……) チーン、と軽い音がして1階に着く。■ ビルの外 夕方の風は少しだけ冷たく、雨上がりの匂いがほのかに残っていた。「ほんとに、雨上がってよかったですね」「そうですね。……濡れずに済んで良かったです」 嵩の歩幅は少しゆっくりで、朱里のペースに合わせてくれている。 それに気づいて余計に胸が熱くなる
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-22 อ่านเพิ่มเติม