All Chapters of 結婚相手を間違えました〜従順妻はヤンデレ執着夫の重すぎる溺愛から逃げ出したい〜: Chapter 81 - Chapter 86

86 Chapters

19.結葉の決断④

「もちろんです」 結葉の泣き腫らした目元にチラリと視線を投げると、斉藤がすぐにそう言ってくれて。「大丈夫よね?」 とすぐ横の白木にも同意を求めてくれる。 白木も「予備なので急がなくても大丈夫ですよ」とニコッと微笑むと、「……その、どなたかと連絡は取れましたか?」と言葉を選ぶようにして問い掛けてくる。 斉藤と何かを話したのかも知れないし、ただ単に結葉の現状を見て色々慮ってくれただけかも知れない。 いずれにしても眼前の二人が、偉央のことを思い出させないよう気遣ってくれているのが分かって、その細やかな気遣いに結葉は視界が涙で霞んでくるのを感じた。「あ、の……実は」 そこでやっと。 結葉は、以前このロビーで打ち合わせをしたことのある作業服姿の長身男性が迎えにきてくれることを伝えることが出来た。「雪の日に来てらした、茶髪のツーブロックの彼ですよね?」 確認するように白木が問いかけてきて。 斉藤が「よく覚えてるわね」と感心したように吐息を落とす。「だってかっこいい人だなぁって思ったから」 クスッと笑う白木に、「幼なじみなんです」と応えながら、結葉はほんの少しだけ緊張の糸がほぐれた気がした。*** 待ち人が来たら声を掛けますから、と二人に背中を押されてコンシェルジュルームに戻された結葉は、このマンションに彼女たちがいてくれて良かった、と心底思った。 普通は常駐のコンシェルジュなんていないところの方が多いだろう。 偉央が、自分の勤務先への利便性はもちろんのこと、セキュリティなどの面からもここを住まいに選んでくれたことを、結葉は初めて有難いなと思った。 今まで結葉にとってこのタワーマンションは、エントランスとエレベーター、そして自分の住
last updateLast Updated : 2026-08-14
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20. 逃避行①

 想が迎えにきてくれて、エントランス前に横付けされた彼の車に乗り込んでマンションの敷地を出るまでの間、結葉はずっと『みしょう動物病院』の方をソワソワと気にして気持ちをピンと張り詰めさせていた。 いつ、偉央が逃げようとしている自分を見咎めて追いかけてくるんじゃないかと気が気じゃなかった結葉だ。 だが実際は結葉が見つめる先。 『みしょう動物病院』の駐車場は満車で、駐車スペースが空くのを待っている車も数台いるほどの盛況ぶりだったから。 当然結葉が懸念したように偉央が彼女を追いかけて建物から出て来るようなことはなかった。 想は結葉を気遣ってくれたんだろう。 前回このマンションを訪れたときには山波建設の社用車だったのが、今回は黒のミニバン――ヴォクシーで来てくれていた。 助手席に乗ったら外から丸見えだ、怖い……とソワソワした結葉にいち早く気付いた想が、ドアロックを解除するなりリモコンキーで後部座席のスライドドアを開けて後ろに乗り込めるようにしてくれる。 前部座席とは違って、後ろは窓がプライバシーガラスになっていて、外からは車内が見えにくくなっていたから、それだけでも結葉の心は軽くなった。 それでもやっぱり不安が拭いきれなかった結葉は、想に促されるまま後部シートに乗り込みながら、窓から顔が覗かないよう身体を寝かせるようにして。 そんな自分を見守ってくれている想は、コンシェルジュと同じ制服を着て、夫の勤め先を異常なまでに気にして怯えている結葉に、きっと聞きたいことが山ほどあるはずだ。 だけど何も言わずに運転席に乗り込むと、結葉に「出すぞ」とだけ声を掛けてきた。 いま、想からアレコレ聞かれても、きっと追っ手がくるのではないかとか、そういうことばかりが気になっている結葉には、
last updateLast Updated : 2026-08-15
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20. 逃避行②

「俺さ、お前の様子がおかしいの、結構前から分かってたんだ。なのにあの雪の日、結局結葉を置いて帰っちまっただろ? あれ、ずっと後悔してた」「えっ……」 まさか想が自分のことを気にしてそんな風に思ってくれていただなんて思いもしなかった結葉は、想の言葉に息をのんだ。 確かに想はずっと結葉に、「何かあったら頼れ」とか「いつでも連絡してこい」などと言ってくれていた。 あの雪の日にも、偉央に結構際どい牽制を掛けてくれたのを覚えている。 でも、そんな想の優しさを嬉しく思いながらも、想に――いや、きっと想だけじゃなく他の誰にも――偉央との夫婦仲が破綻しているのを気付かれたくなくて、結局幼なじみを頼る選択をしなかったのは結葉自身の責任だ。(想ちゃんは悪くない) それだけは確かだ。 結葉がそう言い募ろうと口を開き掛けたら、そこで信号が青になって。 鏡越し、想と絡み合っていた視線が不意に解かれてしまう。 それで、言うタイミングを逃した結葉だ。 でも――。 車の揺れや走行音とは別に、膝の上に載せたトートバッグからカサカサと言う音と、微かな振動が伝わってきて。 結葉はまるで雪日に励まされるように、再度口を開いた。「あ、あのね、想ちゃん」 結葉の声に想がミラー越しにチラリと視線を送ってくれて。 三白眼で、ともするとキツく見えて怖いと評されまくりの想の視線だったけど、結葉は幼い頃から見慣れたその瞳の奥の光が、実はとても優しいことを知っていたから。 何ら怯むことなく言葉を続けることが出来た。 考えてみればこれ、想より遥かにやわらかな印象を受ける顔つきをしていたはずの偉央には出来なかっ
last updateLast Updated : 2026-08-15
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20. 逃避行③

 貴方に非はないと、自分を責めないで欲しいと、そう思っているのだと全部吐き出してからミラー越し、想からの反応をじっと待つ結葉に、彼は無言で何かを思案している様子だった。 実際、いま想は運転中だから、いつものように結葉の目をじっと見つめながら話を聞いてくれることは出来やしないし、すぐさま反応が返ってこないのも無理はないと頭では分かっているのだけれど。 長年偉央に抑えつけられてきた結葉は、正直相手に沈黙されることがとても怖かった。(――想ちゃんは偉央さんじゃない……。想ちゃんは偉央さんじゃない……) 頭では分かっていることを、わざわざ言葉にして胸の内で何度も何度も唱えながら、もし自分の見解を述べたことで想に疎ましがられたりしたら……と考えると、結葉は心臓がバクバクして物凄く息苦しくなった。「結葉……」 と、想がそんな結葉に気が付いたのか、優しく声をかけてくる。「その……俺のこと、気遣ってくれて有難うな」 想は、確かに先ほどまでガチガチに張っていたはずの肩の力を抜くと、とても穏やかな声で結葉に礼の言葉を述べてきた。 その柔らかな声音に、結葉の鼓動も少しずつ落ち着きを取り戻していって。「詳しい話は結葉の顔見てしっかり聞きてぇから……悪ぃけど、続きは車停めるまで待っててくれるか?」 ミラー越し、チラチラと結葉の様子を気にしながら、付け加えるようにそう言ってくれて。 想は、不安に押し潰されそうだった結葉の心をいとも簡単に解きほぐしてくれるのだ。 一度だけミラーから視線を逸らすと、|結葉《ゆい
last updateLast Updated : 2026-08-16
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20. 逃避行④

「あそこは……御庄さん……って、結葉も御庄か。えっと……お前の旦那も場所知ってるだろ? だから良くねぇかなと思っただけだ。そんなに緊張しなくても何もしたりしねぇから安心しろ」 不器用に紡がれる言葉の端々から、想が自分を気遣ってくれているのを感じた結葉だ。「ん……、そう、だよ、ね」 言われてみればその通りだ。 勝手に、想の実家に着いたのかな?と思ってしまった結葉だったけれど、そこに逃げ込んだのでは、想が言うようにきっとすぐに偉央に見つかってしまう。 どう考えても、偉央が真っ先に結葉の逃げ込み先として思い浮かべるのが山波家なのは分かりきっていたから。 偉央だって、まさか他所様の邸宅内にまでズカズカと入ってくることはないとは思うけれど、夫である偉央が、妻を迎えに来たのに出さないというのは難しそうに思えた。 そんなことになったら、きっと想の両親である公宣さんも純子さんも、彼の妹の芹ちゃんも、「帰らなくていい」と結葉を庇ってくれるだろう。 だけど、結葉はそんな人達に迷惑を掛けたくなくて偉央の元に戻らざるを得なくなってしまうはずなのだ。 だったら、最初からみんなに迷惑のかからない、別の場所に行く方がいいのは当たり前のことで。 きっと、結葉の性格を熟知している想は、そこまで考えてここに連れて来てくれたんだろう。 だけど――。 「でも、想ちゃん。あの……ここには――」 ――彼女さんがいるんじゃないの? ――いくら事情があるからって女の私が想ちゃん家にお邪魔したら、彼女さんに変な誤解与えるんじゃない? ――きっと、そんなことに
last updateLast Updated : 2026-08-16
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20. 逃避行⑤

「こっ、この子は……、ちょっと前に主人が連れて帰ってくれた新しい子で……ゆ、雪日って言うの」 想からの質問に返しながら、(想ちゃん。私、さっきの答え、まだ聞いてないよ?)とソワソワした結葉だ。 先ほど質問への答えみたいに返された、「大丈夫だから」は、何に対する「大丈夫」だったのだろう? 思いながら、雪日を眺める想をチラチラと見詰めたら、「あぁ、すまん。結葉からの質問にまだちゃんと答えてなかったな」と気付いてくれて。 コクッと頷く結葉に、「俺しか住んでねぇから大丈夫だ。心配いらねぇよ」と想が微笑んだ。「大体誰かと同棲してるトコにお前連れてくるとか有り得ねぇだろ?」 言われて、確かにその通りだと納得して。「でも……だったらどうして――」 想ちゃんも芹ちゃんみたいに実家に戻らなかったの?って聞きそうになって、慌てて口をつぐんだ結葉だ。 そんなの要らないお世話だ。 彼女と住もうが住まなかろうが、普通は一人暮らしを続行するか否かの指標にはならないのだし。 想が相手だと、ついつい喋り過ぎてしまっていけない。 偉央との生活で抑圧され過ぎて、会話に飢えていた分、タガが外れかけているのだろうか。「ん? 言いかけたこと途中でやめんなよ、結葉。聞きたいことがあんなら遠慮なく聞け。俺、包み隠さずちゃんと答えるから」 言いながら、「まぁ、でも――」と前置きするように言って、想は「続きは部屋ん中に入ってからにすっか」と結葉のひざの上に載っていた雪日入りのトートバッグを持ち上げた。「あっ」 急に軽くなった足に、結葉が驚いて想の方へ手を伸ばしたら、「とりあえず気ぃつけてそっから
last updateLast Updated : 2026-08-17
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