「あの、偉央さん、私……」 結葉は偉央から手渡されたパジャマを受け取りながら、甲斐甲斐しく自分の世話を焼いてくれる偉央に、申し訳なくて堪らなくなる。 思わず、「寝込むほど体調、悪くないんです」言おうとして、偉央に「ん?」と聞かれた途端、言葉に詰まった。 馬鹿正直に「そんなに辛くないの」と告げてしまったら、「じゃあ何で幼馴染みの彼に玄関先まで付き添ってもらったの?」と聞かれてしまうと思い至ったからだ。 言えるわけない、と先の言葉を飲みこんだ結葉は、 「……ごめんなさい」 と、自分の仮病に振り回されてしまっている偉央に、謝罪の言葉を述べるだけに留めた。 そもそも、いま偉央は診察時間のはずなのだ。 こんなところで結葉相手に油を売っている場合ではないのでは? そう思ってソワソワと偉央を見つめたら、「仕事のことを気にしてくれてる?」 ふっと柔らかく、偉央に笑いかけられた。 その笑顔は結葉が偉央と付き合い始めたばかりの頃にはよく自分に向けられていた懐かしい笑みで。(偉央さん……) 結葉は、この笑顔を長いこと見ていなかったことに気が付いて、胸がキュッと切なく疼いた。(私たちはどこで間違えてしまったの?) 泣きそうな目で偉央を見上げたら、 「そんなに気にしなくて大丈夫だよ、結葉。この雪で今日は患者もほとんど来ないんだ。ハムスターのこともあったし、何かあったら連絡もらえるよう受け付けに言って、少し抜けてきただけだから。――こう言うことができるのってさ、やっぱり家が職場の前だからこそ、だよね」 そこまで言ってスッと瞳を眇めると、偉央の声のトーンがほんの少し下がったのを感じた結葉だ。「それに……帰ってきたの、ある意味正解だったなって思うよ」 それは、結葉が弱っていたから面倒が見られて良かったという意味なのか、それとも想と一緒にいる現場を押さえることが出来て、間違いが起こるのを未然に防ぐことが出来て良かったという意味なのか。 偉央の言葉の真意を測りかねて、結葉は思わず俯いた。
آخر تحديث : 2026-08-09 اقرأ المزيد