All Chapters of 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました: Chapter 221 - Chapter 230

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会わせてほしい

 美月はその日の夜になっても、写真を送るかどうか決められずにいた。 赤ちゃんが眠っている間にスマートフォンを開くと、写真がずらりと並んでいる。 どれも大切な写真だった。 生まれた日の顔。 初めて病室で抱いた時。 退院の日。 家に戻ってから撮ったものも、すでに何枚もある。 その中から一枚を選び、拓也へ渡す。 ただそれだけのことなのに、指が動かなかった。「……どうしよう」 赤ちゃんへ聞いても、もちろん答えは返ってこない。 美月はスマートフォンを伏せた。     ◇ 翌日、母が来た時、美月は写真のことを話した。「拓也が、写真を見たいって言ってるみたい」「そうなの?」「うん。弁護士さんを通して」 母は少し考えた。「美月はどうしたいの?」「分からない」「じゃあ、今すぐ決めなくてもいいんじゃない?」「でも……一枚くらいならって思う気持ちもあるの」「だったら、それも藤崎先生に相談したら?」「そうだね」 母はそれ以上、送るべきとも、送るべきではないとも言わなかった。 赤ちゃんが泣き始めると、「あらあら」とそちらへ向かう。 美月も立ち上がった。 今は、考えることが多すぎる。     ◇ 藤崎に相談すると、美月は自分が何を怖がっているのかを、少しずつ言葉にした。「一枚送ること自体は、そんなに嫌じゃないんです」『はい』「でも、それで次もって言われたら嫌だなって」『今後も継続的に写真を送る約束をする必要はありません』「一枚だけって決めてもいいんですか?」『もちろんです。今回は一枚だけ提供する、それ以上については別途検討するという回答もできます』「…&
last updateLast Updated : 2026-09-10
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今はまだ

 美月はすぐに答えを出せなかった。 拓也と赤ちゃんを会わせる。 その場面を考えるだけで、胸の奥が落ち着かなくなる。 写真を一枚渡すことはできた。 けれど、実際に赤ちゃんを拓也の腕へ渡すことは、それとはまったく違う。 まだ退院したばかりだ。 夜もほとんど眠れていないし、自分の身体だって元には戻っていない。 そんな時に、今後の面会まで決めなければならないのだろうか。     ◇ 数日後、藤崎との電話で、美月は率直にそう話した。「今は……会わせたくないです」『分かりました』「ずっと会わせないって決めたわけじゃないんです。でも、まだ生まれたばかりなのに、もういつ会わせるか決めるのは……」『では、現時点では面会に応じられないと回答しましょう』「それでいいんですか?」『ご主人側が希望を伝えることと、朝倉さんが今すぐ応じることは別です。先方も、まず協議を始めたいという申し入れですから』 美月は少し安心した。「いつなら会わせられるかも、今は分かりません」『そのように伝えます』「お願いします」 電話を切る。 これでいい。 拓也が父親だからといって、退院した途端に何もかも決めなければならないわけではない。 今は赤ちゃんとの生活を整える。 まずは、それだけで精いっぱいだった。     ◇「今は会わせられない?」『はい』 弁護士からの連絡を受けた拓也は、眉を寄せた。「いつならいいんですか?」『具体的な時期については、まだ回答できないとのことです。奥様は退院したばかりですし、お子さんも生まれたばかりですから、今は生活を落ち着かせたいという意向です』「でも、一回くらい」『あなたが早く会いたいという希望は、こちらからも伝えています』
last updateLast Updated : 2026-09-11
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終わらない要求

 藤崎から連絡が来たのは、翌日の午後だった。『ご主人側から、面会について改めて問い合わせがありました』「……そうですか」 美月は驚かなかった。 いつかはもう一度聞かれると思っていたからだ。『今すぐの面会が難しいのであれば、いつ頃から検討できそうか、現時点での見通しだけでも教えてほしいとのことです』「まだ、分かりません」『分かりました。そのように回答します』「それだけですか?」 一瞬の間があった。『写真についても、もう一枚提供してもらえないかという希望が来ています』「……やっぱり」 思わず口から出た。『朝倉さん?』「いえ……一枚送った時に思ったんです。次も欲しいって言われるんじゃないかって」 そして、本当にそうなった。 もちろん、拓也が直接要求してきたわけではない。弁護士を通し、希望として伝えてきているだけだ。 それでも美月には、一枚だったはずのものが、少しずつ増えていくように感じられた。「写真は、今回は送りません」『分かりました』「一枚だけって決めて送ったので」『では、そのように回答します』「面会も……今はまだ考えられません」『承知しました』 電話を切った美月は、赤ちゃんへ目を向けた。 送らなければよかったとは思わない。 拓也は父親だ。 一度くらい顔を見たいと思う気持ちまで否定するつもりはなかった。 けれど、一枚送ったから二枚目も送らなければならないわけではない。 それだけは、はっきりしていた。     ◇「写真も駄目なんですか?」『今回は提供しないという回答でした』 拓也は仕事帰りに、弁護士からの電話を受けていた。
last updateLast Updated : 2026-09-11
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待てない父親

 拓也側から、面会について具体的な提案が届いた。 藤崎からその連絡を受けた時、美月は赤ちゃんを寝かしつけたばかりだった。『先方から、いくつか条件を提示したうえで、短時間の面会を検討してもらえないかという申し入れです』「条件?」『朝倉さんとは直接会わない。第三者が同席する。場所も双方で相談して決める。最初は短時間で構わない、という内容です』「……」 以前なら、拓也自身が「一度だけ話したい」と言っていた。 今度は対象が赤ちゃんに変わっただけで、言葉はよく似ている。 一度だけ。 短い時間だけ。 迷惑はかけない。 そう言われるたび、美月は断る理由を説明しなければならなかった。「今は、やっぱり無理です」『分かりました』「条件が悪いから嫌なんじゃないんです。まだ会わせること自体を決められなくて」『では、そのように回答します』「お願いします」 電話を切ったところで、赤ちゃんが小さく声を上げた。 美月はすぐにそちらへ向かった。 今、自分が考えたいのは、この子の今日のことだった。 拓也がいつ会えるのかではない。     ◇「条件を変えても駄目なんですか?」『条件の問題ではなく、現時点では面会そのものを決められないという回答です』「でも、俺は美月に会わなくてもいいって言ってますよね?」『はい。その点も伝わっています』「第三者がいてもいいし、三十分でもいい。それでも駄目って……じゃあ、どうすればいいんですか?」 弁護士は少し間を置いた。『朝倉さんとしては、いつまでも結論が出ない状態にはしたくないということですね』「当たり前じゃないですか。俺、一度も会ってないんですよ」『分かりました。では、今後の対応について検討しましょう』 拓也は身を乗り出
last updateLast Updated : 2026-09-11
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父親なら

 拓也の弁護士から、面会交流について正式に手続きを進めたいという連絡があった。 美月が藤崎からそれを聞いたのは、赤ちゃんを寝かしつけ、ようやく遅い昼食を取ろうとしていた時だった。「本当に申し立てるんですか?」『その意向だそうです。先方代理人からは、これ以上代理人間で同じやり取りを続けるより、家庭裁判所で話し合った方がいいと判断したと聞いています』「……そうですか」 美月は箸を置いた。 拓也自身が突然押しかけてくるよりはいい。 弁護士を通し、決められた手続きを使っている。 それは分かっている。 それでも、また家庭裁判所なのかと思うと気が重かった。「離婚の裁判もあるのに」『そちらとは別の問題になります。ただ、これまでの経緯と無関係というわけでもありませんから、必要な事情はこちらで整理しておきます』「私、また拓也と会わないといけないんですか?」『手続きの進め方にもよりますが、少なくとも直接二人で話す必要はありません。朝倉さんがご主人との接触に不安を感じていることはこちらからも伝えます』「お願いします」 美月はそれだけ答えた。 赤ちゃんが生まれたら、少しは落ち着けると思っていた。 実際には、離婚の問題に加えて、今度は子供をめぐる話まで始まろうとしている。     ◇「これでお願いします」 拓也は弁護士から示された内容を確認し、頷いた。『分かりました。では、必要な準備を進めます』「どのくらいで会えるようになりますか?」『それは今の段階では何とも言えません』「でも、調停になったら美月も話し合わないといけないんですよね?」『家庭裁判所で、お子さんにとってどういう交流のあり方が適切なのか話し合っていくことになります』「だったら、会える方向には進みますよね?」『必ずしも、あなたが希望する時期や方法になるとは限りません。お子さん
last updateLast Updated : 2026-09-12
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会わせない理由

 面会交流の調停に向けて、藤崎との打ち合わせが行われた。 美月は赤ちゃんを母に預け、久しぶりに法律事務所を訪れていた。「私、ずっと会わせたくないってわけじゃないんです」『はい』「ただ、今はまだ小さいし……それに、拓也が怖いのは変わってなくて」 藤崎は美月の話を遮らず、手元の書類へ書き留めていく。『では、その二つは分けて考えましょう。お子さんとご主人との交流を将来的にどうするかということと、朝倉さん自身がご主人と接触したくないということです』「分けられるんですか?」『方法は検討できます。仮に面会を行うことになっても、朝倉さんが直接ご主人にお子さんを引き渡す必要がない形を求めることはできます』 それを聞いて、美月は少し考えた。「第三者にお願いするとか?」『そうですね。場所や時間、受け渡しの方法なども含めて話し合えます』「……それなら」 言いかけて、やめた。 まだ決めなくていい。 以前の自分なら、相手が望んでいるのだから少しくらい、と考えてしまったかもしれない。 けれど今は、自分が納得してから答えたい。「調停では、今はまだ決められないって言ってもいいですか?」『もちろんです。その理由も含めて話しましょう』 美月は頷いた。     ◇ 一方、拓也も弁護士と打ち合わせをしていた。『まず、希望する面会の内容を具体的にしておきましょう』「普通に会いたいです」『その“普通”が人によって違いますから、時間や頻度などを考える必要があります』「じゃあ……最初は一時間くらいでいいです」『頻度は?』「毎週」 弁護士が顔を上げた。『お子さんはまだ生まれたばかりです。最初から毎週一時間という希望を出すより、まずはお子さんの生活へ
last updateLast Updated : 2026-09-12
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最初の一回

 最初の調停から数日後、藤崎から連絡があった。『先方から、初回の面会について具体的な提案が来ています』 美月は赤ちゃんを抱いたまま、ソファに腰を下ろした。「もう、ですか?」『先日の話し合いで、将来的な面会を全面的に拒否する意向ではないと確認できたので、まず一度、短時間から試せないかという提案です』「どんな条件ですか?」『三十分程度。第三者が同席し、朝倉さんとご主人は顔を合わせない。お子さんを施設の外へ連れ出さない。写真撮影については、朝倉さんの了承がなければ行わない。まずはその程度から、という内容です』 美月は黙った。 以前に聞いた条件と、それほど変わらない。 拓也自身も、自分に会うことは求めていない。 それでも、すぐに「はい」とは言えなかった。「断ったら、どうなりますか?」『話し合いは続きます。今回の提案を受けなければ、ただちに何かが決まるわけではありません』「……そうですよね」『急いで返事をする必要もありません。考えてからで大丈夫です』「少し考えます」 美月は電話を切った。     ◇ その日の夕方、母が夕食を持ってやって来た。「これ、冷凍できるから。食べられない分はそのまま入れちゃって」「ありがとう」「ちゃんと食べてる?」「食べてるよ」「ならいいけど」 母はそれ以上言わず、眠っている赤ちゃんを覗き込んだ。 美月はしばらく迷ってから口を開いた。「拓也が、この子に会いたいって言ってる話、したよね」「うん」「三十分だけ、誰かに立ち会ってもらって会わせるっていう話が出てるの」 母の表情が少し曇った。「美月はどうしたいの?」「分かんない」 それが正直な答えだった。「会わせたいわけじゃない。でも、絶対に会わせたくないって
last updateLast Updated : 2026-09-12
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30分の父親

 面会当日、美月は約束の時間より少し早く施設へ入った。 赤ちゃんを預ける前に、もう一度流れを確認する。 拓也とは顔を合わせない。 面会は三十分。 第三者が同席し、赤ちゃんを施設の外へ連れ出すことはできない。写真も贈り物も、今回はなし。「何かあったら、すぐに終わりにしてもらえますか?」「もちろんです」 担当者の返事を聞き、美月は赤ちゃんを預けた。 不安がないわけではない。 それでも、ここまで条件を整えたのは、この子と父親との関係をどうするか考えるためだった。 美月は別室へ移動し、時計を見た。     ◇ 拓也は十分前に到着した。「よろしくお願いします」 普段よりも丁寧に頭を下げる。 今日は絶対に失敗したくなかった。 案内された部屋へ入り、待っていると、やがて担当者に抱かれた赤ちゃんがやって来た。 写真で何度も見た顔。 けれど、本物は思っていたよりずっと小さかった。「……ちっちゃ」 思わず漏れた声に、担当者が微笑む。「抱っこされますか?」「いいんですか?」「こちらで支え方をお伝えしますね」 拓也は緊張したまま腕を差し出した。 首を支える位置を教えられ、ゆっくりと赤ちゃんを受け取る。 軽いと思っていた。 けれど腕の中に収まった小さな身体は、想像以上に存在感があった。「俺だよ」 赤ちゃんは目を閉じている。「お父さんだよ」 返事などあるはずもない。 それでも拓也は笑った。 やっと会えた。 写真ではない。 本当に、自分の腕の中にいる。 途中で赤ちゃんがぐずり始めると、拓也は慌てた。「え、どうしたんですか?」「大丈夫ですよ。少し姿勢を変えてみましょう
last updateLast Updated : 2026-09-12
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戻らない妻

 面会を終えてからも、拓也はその時の感触を何度も思い出していた。 腕の中に収まった、小さな身体。 途中で泣かれてしまったけれど、それさえ嫌ではなかった。 次はもっと上手に抱ける。 少しずつ慣れていけばいい。 父親としてできることを増やしていけばいい。 けれど、そのたびに弁護士から言われた言葉も蘇る。 ――父親であり続けることと、美月の夫であり続けることは別。「……なんでだよ」 拓也には、どうしても納得できなかった。 子供がいる。 自分は父親で、美月は母親だ。 それなら三人は家族ではないのか。 離れて暮らしている今の方が、おかしいのではないのか。     ◇ 数日後、離婚訴訟について弁護士との打ち合わせがあった。 机の上には、美月側から提出された書面が置かれていた。『相手方は、離婚の意思に変更はないと改めて主張しています』「それは知ってます」『今回、これまでの経緯についても、かなり具体的に整理されています』 拓也は渡された書面へ目を落とした。 不貞。 別居後の連絡。 カフェへの訪問。 美月の居場所を確認するために後を追ったこと。 サービスアパート付近での行動。 警察から注意を受けたこと。 会社への接触。 一つずつ、日付とともに並んでいる。「でも、これ、前の話ですよね」『そうですね』「俺、もうやってないです」『現在は代理人を通じて連絡していることも、こちらから主張しています』「だったら、それでいいじゃないですか」『現在問題を起こしていないという事情は主張できます。ただ、相手方は、これまでの経緯によって婚姻関係が破綻したと主張しています』「だから、俺は変わったって――」『朝
last updateLast Updated : 2026-09-12
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離婚しても父親

 拓也は、次の面会について弁護士に相談した。「この前、問題なかったんだから、また会えますよね?」『次回については先方と協議します。初回が問題なく終了したことはこちらにとっても話を進めやすい事情です』「今度はもう少し長くできますか?」『希望としては伝えられます。ただ、最初から大幅な変更を求めるより、まず継続して交流できる形を整える方がいいでしょう』「……分かりました」 以前なら、そこで不満をぶつけていたかもしれない。 けれど拓也は頷いた。 約束を守れば次につながる。 実際、一度は赤ちゃんに会えたのだ。「離婚しても、こういうのは続けられるんですよね?」『もちろん、離婚したからといって親子関係がなくなるわけではありません』「じゃあ、俺はずっと父親なんですよね」『はい』 その答えに安心したはずなのに、妙な違和感が残った。「美月が再婚しても?」『再婚しただけで、あなたとの親子関係が当然になくなるわけではありません』 拓也は眉を寄せた。「……再婚?」『今は仮定の話です』「九条とですか?」『特定の誰かについて申し上げたわけではありません』「でも、離婚したら再婚できるってことですよね」『法的にはそうです』 拓也は黙り込んだ。 今まで、離婚した後の美月について具体的に考えたことがなかった。 離婚を求められても、最後には戻ってくると思っていたからだ。 けれど本当に離婚したら。 美月は自分の妻ではなくなる。 誰と暮らしても、自分には止められない。 そして赤ちゃんも、その家で育つ。「……」『朝倉さん?』「いえ」 拓也は首を振った。「次の面会のこと、お願
last updateLast Updated : 2026-09-13
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