All Chapters of 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました: Chapter 231 - Chapter 240

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離婚を前提に

 次の離婚訴訟の期日を前に、美月は藤崎と打ち合わせをしていた。『先方は、現在は問題となる接触をしていないことや、仕事を継続していることなどを挙げ、婚姻関係の修復は可能だと主張しています』「……はい」『朝倉さんの離婚意思について、改めて確認しておきたいのですが』「変わってません」 答えはすぐに出た。「離婚したいです」『分かりました』「拓也が今、前よりちゃんとしてることは悪いことじゃないと思うんです」 美月は少し考えてから続けた。「でも、それで私が戻らなきゃいけないわけじゃないですよね」『もちろんです』「もう一度一緒に暮らして、変わったかどうか確かめてみようとも思いません」 以前なら、相手が努力していると聞けば、自分も応えなければならないような気がしたかもしれない。 けれど今は違う。 拓也がどう生きるかは、拓也自身の問題だ。「私はもう、拓也の妻として暮らしたくないです」 言葉にしても、迷いはなかった。     ◇ 期日当日。 美月は藤崎とともに裁判所へ向かった。 これまで何度も同じような場所へ来ているのに、緊張には慣れない。 それでも今日は、以前とは少し違った。 自分がどうしたいのか、もう分かっている。 拓也を説得したいわけではない。 理解してもらわなければ離婚できないとも思っていない。 ただ、終わらせたい。 そのために来た。     ◇ 一方、拓也は弁護士と打ち合わせをしていた。「美月はまだ離婚したいって言ってるんですか?」『はい。相手方の意思に変更はありません』「俺、もう何もしてませんよね」『現在、代理人を通さない接触は確認されていません』「仕事もちゃんと行ってます」『はい』
last updateLast Updated : 2026-09-13
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断ってもいい

 カフェへ復帰する日の朝、美月はいつもより少し早く起きた。 正確には、赤ちゃんに起こされた。 夜中にも何度か目を覚ましているため、十分に眠れたとは言えない。それでも今日は、不思議と気持ちが軽かった。 仕事は二時間だけ。 赤ちゃんは母が見てくれる。 無理だと思ったら、途中でも帰る。 店長ともそう約束していた。「じゃあ、行ってくるね」 眠っている赤ちゃんの頬にそっと触れてから、美月は家を出た。     ◇「美月ちゃん、おかえりー!」 店へ入った途端、店長の大きな声が飛んできた。「ただいま……でいいんですか?」「もちろんよ! でも今日は二時間だからね。調子いいからもう少し、は禁止!」「分かってます」「本当に?」「……たぶん」「ほら!」 久しぶりに笑った。 エプロンを身につけると、懐かしい感覚が戻ってくる。 最初は簡単な仕事だけを任された。 テーブルを片づけ、飲み物を運び、注文を取る。 以前なら何も考えずにできたことなのに、久しぶりだと少し緊張する。「美月ちゃん?」 声をかけられて振り向くと、見覚えのある常連客がいた。「お久しぶりです」「やっぱり美月ちゃんだ。しばらく見なかったから、辞めちゃったのかと思った」「ちょっとお休みしてたんです」「そうだったの。また会えてよかったわ」「ありがとうございます」 ただそれだけの会話だった。 けれど、胸が温かくなった。 ここでは誰も、裁判のことを聞かない。 拓也のことも知らない。 美月はただ、この店で働く店員だった。     ◇ 二時間は思っていたより早く過ぎた。「はい、美月ちゃん終了!」
last updateLast Updated : 2026-09-13
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離婚後の美月

 拓也は弁護士事務所を出てからも、先ほどの言葉が頭から離れなかった。 離婚後の美月が誰と交際し、誰と再婚するかは、美月自身が決める。 当たり前のことだ。 それくらい、拓也にも分かっている。 けれど今まで、本当の意味で考えたことがなかった。 離婚は、美月が怒っているから言っているだけ。 時間が経てば落ち着く。 自分が変われば考え直す。 どこかで、そう思い続けていた。 だから、離婚した後の美月など想像する必要がなかった。「九条……」 自然に名前が出た。 もし美月が、あの男を選んだら。 その時、自分には何も言えない。     ◇ 翌日、拓也は仕事中も落ち着かなかった。 以前なら、美月がカフェにいる時間はだいたい分かっていた。 シフトを聞けば教えてくれたし、帰りが遅ければ連絡も来た。 今は何も知らない。 仕事に復帰したことさえ、裁判の書面で知った。 何曜日に働いているのか。 何時までなのか。 誰と会っているのか。 どこへ帰っているのか。 全部、分からない。 スマートフォンを手に取り、美月の連絡先を開く。 最後に直接やり取りしたのは、随分前だった。 メッセージを送ろうと思えば送れる。 けれど指は動かなかった。 代理人を通さず連絡しない。 そう言われている。「……分かってるよ」 拓也は画面を閉じた。 今、勝手なことをすれば、また不利になる。 それくらいは理解していた。     ◇ 美月は三度目の勤務を終えたところだった。 まだ二時間だけだが、最初の日より身体は楽になっている。「来週から三時間にしてみる?」
last updateLast Updated : 2026-09-13
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妻であるうちに

 次の離婚訴訟の期日が近づいていた。 拓也は仕事を終えると、そのまま弁護士事務所へ向かった。「前に言ってた和解の話って、もうないんですか?」『相手方としては、離婚を前提とするのであれば協議する意向に変わりはありません』「俺が離婚に同意しない限りは?」『現状では、和解による解決は難しいでしょう』「じゃあ、裁判が続くんですよね」『はい』 拓也は少し考えた。「判決まで行ったら、本当に離婚になることもあるんですよね」『もちろん、その可能性はあります』 以前にも聞いた答えだった。 けれど今は、その言葉の重さが違う。「どのくらいですか」『何がでしょうか』「離婚になる可能性です」 弁護士はすぐには答えなかった。『具体的な確率でお答えすることはできません。ただ、不貞の事実や別居後の経緯、奥様の一貫した離婚意思などを考えると、こちらにとって厳しい事情があることはお伝えしてきたとおりです』「……そうですよね」 拓也は珍しく反論しなかった。     ◇ 美月は仕事の日を少しずつ増やしていた。 まだ長時間ではない。 赤ちゃんを母に預けられる日だけ、短い時間働く。 それでも生活に仕事が加わったことで、一週間の感覚が以前とは変わった。「美月ちゃん、三番テーブルお願い」「はい」 注文を運び、空いた皿を下げる。 店長が新しいケーキの試作品を持ってきた。「味見!」「今ですか?」「今よ」 一口食べる。「ちょっと甘いかも」「やっぱり? クリーム減らすわ」 そんなやり取りをしていると、自分が離婚裁判の最中だということさえ忘れる瞬間があった。 それでいいのだと思う。 拓也との問題は、美月の人生
last updateLast Updated : 2026-09-13
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離婚するなら

 次の期日を前に、拓也は弁護士事務所を訪れていた。「もし……」 話を始めたものの、そこで言葉が止まる。『どうされましたか?』「もし俺が離婚に同意したら、どうなるんですか?」 弁護士がわずかに表情を変えた。『和解について検討するという意味でしょうか』「まだ決めたわけじゃないです」『はい』「でも、このまま裁判を続けて、最後に離婚しろって判決が出たら……結局、同じですよね」『結果として離婚が成立するという点ではそうです。ただ、和解であれば双方が条件について合意したうえで解決することになります』「条件……」 拓也は視線を落とした。「何を決めるんですか?」『財産関係など、離婚に伴って整理すべき事項です。相手方が何を求めるかも確認する必要があります』「俺、美月に戻ってきてほしいだけだったんです」『承知しています』「金の話がしたいわけじゃない」 拓也は苛立ったように言ったが、以前のように声を荒らげることはなかった。「でも、美月は絶対戻らないんですよね」『少なくとも、これまでの相手方の主張を見る限り、離婚意思は一貫しています』「……」 分かっていた。 何度も聞いてきた。 それでも拓也は、認めないことで先延ばしにしていた。     ◇「離婚するなら……」 拓也はしばらく黙ったあと、再び口を開いた。「美月と一回だけ話せませんか?」『直接ですか?』「はい」『相手方が応じるかどうか確認することはできます』「二人きりじゃなくていいです。先生たちがいてもいい」 拓也は顔を上げた。「一回だけでいいんです」 その言葉を口にして、自分でも苦笑した。「俺、ずっと一回だけって言ってますね」 弁護士は何も言わなかった。「でも、本当に……今度は最後にするから」『その希望を和解の条件にするということではなく、離婚について判断する前に一度話す機会を求めたい、ということですね』「はい」『分かりました。希望として先方へ伝えます』 拓也は頷いた。     ◇ 数日後。 藤崎からその話を聞いた美月は、すぐには答えなかった。「私と、ですか?」『はい。二人きりではなく、双方の代理人が同席する形でも構わないとのことです』「何を話したいんでしょう」『そこまでは分かりません。ただ、ご主人側からは、離婚について今後の対応を判断する前
last updateLast Updated : 2026-09-14
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最後に会う日

 面談の日が決まった。 場所は藤崎の法律事務所。 美月と藤崎が先に入り、拓也は自分の弁護士とともに後から来ることになっていた。「緊張していますか?」 藤崎に聞かれ、美月は少し考えた。「してます。でも、前とは違います」「違う?」「前は、拓也に会ったら何を言われるんだろうって、そればっかり考えてました」 怒るかもしれない。 泣いて縋るかもしれない。 何度断っても聞いてくれないかもしれない。 そんなことばかり想像していた。「今日は、私が言うことも決まってるので」 離婚する。 もう戻らない。 それだけだ。「分かりました。もし途中で続けるのが難しいと感じたら、そこで終了して構いません」「はい」 美月は頷いた。     ◇ やがて扉が開いた。 拓也が弁護士とともに入ってくる。 美月が拓也の顔を直接見るのは、随分久しぶりだった。「……美月」 名前を呼ばれた。 以前なら、それだけで身体が強張っていた。 今も何も感じないわけではない。 けれど、逃げ出したくなるほどではなかった。「久しぶり」 美月はそれだけ答えた。 拓也が向かいの席へ座る。 双方の弁護士がいる。 扉も開いていない。 二人きりではない。 それを確認すると、美月は落ち着いていられた。     ◇「元気だった?」「うん」「身体は?」「もうだいぶ」「仕事も戻ったんだよな」 美月は少しだけ眉を動かした。「うん」「聞いたから」「そう」 会話が途切れる。 拓也はもっと聞きたいこ
last updateLast Updated : 2026-09-14
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離婚に同意します

 面談を終えたあと、拓也は弁護士と二人で事務所へ戻った。 移動している間、ほとんど口を開かなかった。 美月の言葉が何度も頭の中で繰り返される。 ――もう戻らない。 ――九条さんがいなくても、私は離婚する。 あれだけは、聞きたくなかった。 九条がいるからだと思いたかった。 自分より金があって、立場もあって、美月が困っている時に助けた男が現れたから、美月の気持ちがそちらへ向いた。 そう考えれば、まだ納得できた。 けれど違った。 九条がいなくても、美月は自分を選ばない。「……先生」『はい』「俺が離婚しないって言い続けたら、どうなりますか?」『訴訟が続きます』「それで、判決が出る」『はい』「離婚しろって判決になる可能性もある」『あります』 拓也は俯いた。「その場合、美月は俺と話さなくても離婚できるんですよね」『判決が確定すれば、あなたの同意がなくても離婚は成立します』「……そうですよね」 もう何度も説明されている。 ただ、今日まではどこか現実味がなかった。     ◇「美月、本当に戻らないんですね」 ぽつりと呟く。『少なくとも、本日お話を伺った限りでは、意思は明確だと思います』「俺が何しても?」『奥様ご本人が、そうおっしゃっていました』 拓也は両手で顔を覆った。「俺、何やってたんだろ」 弁護士は黙っていた。「浮気して……バレたら謝ればいいと思ってて、美月が出ていったら、連れ戻せばいいと思ってた」 口にするたび、自分でも嫌になる。「嫌だって言われても、怒ってるだけだと思ってた」 美月が本気で自分を捨てるはず
last updateLast Updated : 2026-09-14
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離婚の条件

 離婚を前提とした話し合いが始まった。 藤崎から説明を受けながら、美月は資料に目を通していた。「私、そんなにいろいろ求めるつもりはないです」『お気持ちは分かります。ただ、早く離婚したいからという理由だけで、本来整理しておくべきことまで曖昧にする必要はありません』「はい」『財産関係については、双方の資料を確認したうえで整理します。不貞に関する慰謝料についても、こちらの請求内容を改めて提示します』 美月は頷いた。 以前なら、お金の話をすること自体に抵抗があった。 拓也から取り上げるような気がしてしまっていたからだ。 けれど藤崎から何度も説明を受け、今は少し考え方が変わっている。 これは仕返しではない。 夫婦だった二人が別々の生活へ進むために、必要なものを整理しているだけだ。「早く終わらせたい気持ちはあります。でも、藤崎先生が必要だと思うことはちゃんとやります」『その方がいいでしょう』「お願いします」     ◇ 一方、拓也も自分の弁護士から説明を受けていた。『相手方から、離婚条件について具体的な提示がありました』「……はい」 拓也は書類を受け取った。 財産関係の整理。 慰謝料。 離婚成立後の手続き。 紙の上には、これまで避け続けてきた「離婚」が、当然の前提として並んでいる。「慰謝料、やっぱり払うんですね」『不貞の事実がありますので、相手方から請求されています。金額については協議の余地があります』「分かりました」 拓也は以前のように反発しなかった。 払いたいわけではない。 けれど、浮気したのは自分だ。 そこまで否定する気力はもうなかった。「これに全部合意したら、離婚するんですよね」『条件について合意し、必要な手続きを行えばそうなります』
last updateLast Updated : 2026-09-15
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拓也の後悔

 日曜日の食事から数日が経っても、美月は時々その日のことを思い出していた。 何か特別なことがあったわけではない。 食事をして、話をして、別れただけ。 それなのに、蒼真の「何度でも」という言葉を思い出すたび、少しだけ嬉しくなる。「……何やってるんだろ、私」 赤ちゃんを抱きながら、小さく笑った。 離婚はまだ成立していない。 そんな時に誰かを好きになることを考えるなんて、以前の美月なら自分を責めていたかもしれない。 けれど今は、蒼真に会いたいと思う気持ちまで否定したくなかった。     ◇ その日、藤崎から連絡があった。『先方から、条件について回答がありました』「どうでした?」『大筋では離婚を前提に協議する姿勢に変わりありません。ただ、慰謝料の金額など、いくつか調整を求められています』「そうですか」『こちらで内容を精査します。朝倉さんにも改めてご説明しますが、今のところ協議自体を拒絶するような回答ではありません』「分かりました」 美月は電話を切った。 少し前なら、拓也から何か回答が来るたびに一日中落ち着かなかった。 今は違う。 藤崎に任せるところは任せ、自分は自分の生活を続ければいい。     ◇ カフェでは、四時間勤務を試すことになった。「絶対に無理しない!」 出勤早々、店長から念を押される。「分かってますって」「三時間できたから四時間も余裕、とか思ってるでしょ」「ちょっとだけ」「ほら!」 笑いながら仕事を始めた。 昼を過ぎる頃には店内が混み始めた。 久しぶりの忙しさだったが、身体は思ったより動く。「美月ちゃん、二番お願い!」「はい!」 トレーを持って客席へ向かう。 忙しい。
last updateLast Updated : 2026-09-15
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離婚成立

 それから、離婚に向けた話し合いは思っていたより早く進んだ。 慰謝料については双方の代理人を通じて金額を調整し、財産関係についても必要な資料を確認した。 細かな部分では何度かやり取りがあったものの、拓也が再び離婚そのものを拒むことはなかった。 そして、双方が条件について合意した。     ◇ 和解の日。 美月は藤崎とともに裁判所へ向かった。「今日で終わるんですよね」『予定どおり和解が成立すれば、そうなります』「……なんか、変な感じです」 ずっと望んでいた。 拓也と離婚したい。 そのために逃げて、弁護士へ相談して、何度も話し合いを重ねてきた。 なのに、いざ今日で終わると思うと、まだ実感が湧かなかった。『緊張していますか?』「少し。でも、嫌な緊張じゃないです」 美月は小さく息を吐いた。「今日が終わったら、本当に終わるんだなって」     ◇ 拓也も、弁護士とともに来ていた。 以前のように美月へ話しかけようとはしなかった。 少し離れた場所に座り、時折こちらを見るだけだった。 やがて、手続きが始まる。 これまで代理人同士で調整してきた内容が、一つずつ確認された。 離婚すること。 慰謝料について。 財産関係について。 その他、双方が合意した事項について。 難しい言葉もあった。 けれど美月が一番聞いていたのは、最初の一つだった。 離婚する。 それだけだった。 確認を求められ、美月は答える。「はい」 声は震えなかった。     ◇ 拓也の番になった。 ほんの少し、沈黙があった。 美月は拓也を見なかった。 ここで何を言われても、自分の答
last updateLast Updated : 2026-09-15
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