All Chapters of 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました: Chapter 241 - Chapter 250

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お礼がしたくて

 離婚が成立してから数日が経った。 何かが劇的に変わったわけではない。 朝になれば赤ちゃんが泣く。 ミルクを飲ませ、おむつを替える。 仕事の日には母に預け、カフェへ向かう。 これまでと同じ生活だった。 それでも時々、美月は思い出す。 もう離婚したのだ。 拓也の妻ではない。 その事実を思い出すたび、胸の奥が少し軽くなった。     ◇「美月ちゃん、おめでとう……って言っていいのかしら、こういう時」 離婚したことを報告すると、店長は困ったように首を傾げた。「私も分かりません」「じゃあ、お疲れさま!」「それならしっくりきます」「でしょ?」 店長が両手を広げる。「ほんっとーに、お疲れさま!」「ありがとうございます」「長かったわねえ」「はい」 美月は笑った。 拓也が初めて店へ来た日のことを思い出す。 あの頃は、こんな日が来るとは思っていなかった。「これからは美月ちゃんと赤ちゃんで、のんびりやりなさい」「仕事もしますよ」「そういう意味じゃないわよ。すぐ頑張りすぎるんだから」「分かってます」「本当に?」「たぶん」「信用ならない!」 いつもの調子で怒られ、美月は笑った。     ◇ 仕事を終える頃、スマートフォンを確認する。 蒼真とのやり取りが残っていた。『今度、お礼させてください』 自分からそう送った。 けれど、具体的な約束はまだしていない。 何をすればお礼になるのだろう。 食事をご馳走する? 何か贈る?「……九条さん、何でも持ってそうだしなあ」「誰が何でも持ってるって?」「わっ!」 背後から店長に声をかけられ、美月は慌ててスマートフォンを伏せた。「何でもないです」「あらぁ?」「その顔やめてください」「私、何にも言ってないけど?」「絶対なんか考えてます」「九条さんねえ」「ほら!」 店長は楽しそうに笑った。「お世話になったから、お礼しようと思ってるだけです」「へえ」「本当にそれだけです」「はいはい」「信じてないでしょう」「信じてるわよぉ」 まったく信じていない顔だった。     ◇ 帰宅してから、美月は蒼真へメッセージを送った。『この前のお礼の話なんですけど、何か食べたいものありますか?』 少しして返信が届く。『朝倉さんが食べたいもので構いません』「
last updateLast Updated : 2026-09-16
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初めてのお誘い

 それから数日後。 美月は赤ちゃんを寝かしつけ、ようやく一息ついたところでスマートフォンを手に取った。 蒼真からメッセージが届いている。『今度の日曜日、お時間はありますか』「日曜日……」 予定を確認する。 仕事はない。 母も家にいると言っていた。『午後なら大丈夫です』 返信すると、少しして次のメッセージが届いた。『では、出かけませんか』 美月は画面を見つめた。 どこへ、とは書いていない。『どこにですか?』『水族館はいかがでしょう』「水族館?」 思ってもいなかった場所だった。『九条さん、水族館好きなんですか?』『嫌いではありません』「どっちなんだろ」 思わず笑う。 けれど、楽しそうだと思った。『行きたいです』 送信すると、すぐに返事が届いた。『では、日曜日に』     ◇「水族館?」 翌日。 休憩中に何気なく話すと、店長が食いついた。「はい」「九条さんと?」「そうですけど」「へえー」「なんですか、その顔」「別に?」「絶対なんか思ってますよね」「思ってないわよぉ」 明らかに嘘だった。「この前、また誘ってくださいって私が言ったからですよ」「うんうん」「だから誘ってくれただけです」「そうねえ」「……なんか言いたいなら言ってください」「美月ちゃん」 店長は急に真面目な顔をした。「楽しんできなさい」「え?」「せっかくのお休みなんだから。赤ちゃんのことも仕事のことも、たまには誰かに
last updateLast Updated : 2026-09-16
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写真の中の二人

 水族館へ行った翌朝。 美月は赤ちゃんにミルクを飲ませながら、昨日撮った写真を見返していた。 大きな水槽。 色鮮やかな魚。 クラゲ。 ペンギン。 最後に、蒼真と二人で撮った写真が出てくる。「……ちゃんと笑ってる」 二枚目の写真では、蒼真もわずかに笑っていた。 美月自身も楽しそうな顔をしている。 こんなふうに誰かと出かけたのは、いつ以来だろう。 拓也との結婚生活が悪くなる前には、休日に出かけることもあった。 けれど昨日は、それとはまったく違う時間だった。 何時までいるのか。 次はどこへ行くのか。 疲れていないか。 何かを決めるたび、美月の意見を聞いてくれる。 嫌なら断っていい。 疲れたら休んでいい。 そんなことを意識しなくてもできる相手と出かけるのは、思っていた以上に楽だった。「また行きたいね」 腕の中の赤ちゃんへ話しかける。 もちろん、赤ちゃんから返事はない。 美月は笑ってスマートフォンを閉じた。     ◇ カフェへ出勤すると、店長が待ち構えていた。「美月ちゃん!」「なんですか、いきなり」「水族館どうだった?」「楽しかったですよ」「それだけ?」「それだけって?」「何かないの?」「魚見ました」「水族館だからね!」「ペンギンも」「そうじゃない!」 店長が大げさに肩を落とす。「何を期待してるんですか」「別にぃ?」「絶対何か期待してましたよね」 美月は呆れながらエプロンをつけた。「そうだ。写真見ます?」「見る!」 店長が勢いよく近づいてくる。「近いです」「早く!」 美月は昨日撮った写真を順番に見せた。「これが大きい水槽で、こっちがクラゲで――」「魚はいいのよ」「水族館の写真なのに?」「九条さんは?」「最後にあります」 何も考えず、二人で撮った写真を表示した。 店長が黙る。「……何ですか?」「美月ちゃん」「はい」「これ、送ってもらった?」「誰に?」「九条さんによ!」「私のスマホで撮ったんですけど」「じゃなくて、九条さんにも送った?」「送ってないです」「送りなさいよ!」「なんで怒るんですか」「一緒に撮った写真なんだから、欲しいかもしれないでしょう!」 言われてみればそうだった。「じゃあ、送っておきます」「今!」「仕事中です!」    
last updateLast Updated : 2026-09-17
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もし、そうだったら

 蒼真が自分をどう思っているのか。 一度気になり始めると、美月は以前のようにはいられなくなった。 メッセージが届けば、少し嬉しい。 カフェの扉が開くたび、もしかしてと思ってしまう。 そして違う客だと分かると、ほんの少しだけ残念に思う。「……何やってるんだろ」 自分でも分からなかった。     ◇「美月ちゃん、五番お願い」「はい」 仕事中は余計なことを考えない。 そう決めていたはずなのに、休憩に入った途端、店長が向かいへ座った。「最近、九条さん来ないわね」「三日前に来ましたよ」「あら、よく覚えてる」「……店長」「なぁに?」「わざとですよね」「何が?」 店長は楽しそうに笑っている。 美月はお茶を一口飲んだ。 少し迷ってから、口を開く。「店長って、九条さんとは私より前から知り合いですよね」「常連さんだからね」「どんな人なんですか?」「どんなって?」「普段から……あんな感じなんですか?」 店長の眉が上がった。「あんな感じって、どんな感じ?」「だから、その……親切というか」「へえ」「その顔やめてください」「美月ちゃんが九条さんのこと聞いてくるなんて珍しいから」「ちょっと気になっただけです」「何が?」「……もういいです」「あら、残念」 店長は笑った。     ◇ けれど、美月が黙っていると、店長は少しだけ真面目な顔になった。「まあ、誰にでも感じ悪い人ではないわよ」「ですよね」
last updateLast Updated : 2026-09-17
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これってデート?

 約束の日曜日。 美月は鏡の前で髪を整えていた。「……これでいいかな」 一度離れて全身を見る。 特別おしゃれをしたつもりはない。 それでも仕事へ行く時よりは、少しだけ時間をかけた。「お母さん、変じゃない?」「何が?」「服」 母が美月を見る。「いいんじゃない?」「適当じゃない?」「じゃあ、かわいいかわいい」「もっと適当になった」 美月がむっとすると、母が笑った。「九条さんと出かけるんでしょう?」「うん」「なら楽しんでくればいいじゃない」「分かってるよ」「赤ちゃんのことは気にしなくていいから」「ありがとう」 美月は赤ちゃんの頬をそっと撫でた。「行ってくるね」     ◇ 待ち合わせ場所には、今日も蒼真が先に来ていた。「お待たせしました」「いえ」 蒼真が美月を見る。 一瞬、視線が止まったような気がした。「……何ですか?」「いえ」「なんか変ですか?」「逆です」「逆?」「よくお似合いです」 何が、と聞かなくても分かった。「……ありがとうございます」 美月は少しだけ恥ずかしくなった。「行きましょうか」「はい」     ◇ 展示会場には、色とりどりの花が飾られていた。 生花だけではなく、光や映像を使った展示もある。「すごい」 美月は入って早々、足を止めた。「思ってたより綺麗です」「そうですね」「九条さん、こういうところ大丈夫でした?」「大
last updateLast Updated : 2026-09-17
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九条さんは、どうして?

 翌朝、美月は昨日撮った写真を母に見せていた。「これ、すごく綺麗だったよ」「へえ。今はこんな展示があるのね」「光が変わると、花の色も違って見えるの」 何枚か写真を送っていく。 やがて、蒼真と二人で撮った写真が表示された。「あ」 美月は何となく指を止めた。 母が画面を見る。「九条さん?」「うん」「いい写真じゃない」「そう?」「二人とも楽しそう」「九条さん、あんまり顔に出ないけどね」「そうかしら」 母はそれだけ言って、赤ちゃんの方へ向かった。 美月はもう一度写真を見る。 昨日は気づかなかった。 蒼真はカメラではなく、ほんの少し美月の方を見ているようにも見える。「……たまたまだよね」 写真を閉じた。     ◇ カフェへ出勤すると、店長が新しいメニュー表を抱えていた。「美月ちゃん、ちょうどいいところに!」「嫌な予感がします」「新作の味見!」「それならやります」「現金ねえ」 試作品のケーキを一口食べる。「どう?」「おいしいです。でも、前のよりちょっと甘いかも」「やっぱり? じゃあクリーム変えようかな」 いつもの仕事が始まる。 忙しく動いているうちに、昨日考えていたことも忘れていた。 ところが休憩に入ると、店長が向かいへ座った。「で?」「何がですか?」「昨日よ」「楽しかったですよ」「それは聞いた」「じゃあ何ですか」「九条さんとはどうなの?」 美月は飲みかけたお茶を置いた。「どうって?」「そのままの意味」「普通ですよ」
last updateLast Updated : 2026-09-18
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会いたかったから

 約束の日、美月は待ち合わせ場所へ向かいながら、何度も時間を確認していた。 遅れてはいない。 むしろ十分ほど早い。 それなのに、自然と歩く速度が速くなる。「……別に急がなくてもいいのに」 自分に言い聞かせながら角を曲がる。 蒼真はすでにいた。「九条さん」 呼びかけると、蒼真が振り返った。「こんにちは」「こんにちは。今日も早いですね」「朝倉さんも」「私は今来たところです」「私もです」「絶対嘘」 美月は笑った。 顔を見た途端、なんとなく嬉しくなった。     ◇ 目的の店には、桃を使ったデザートがいくつも並んでいた。「迷う……」 美月はメニューを見比べる。「パフェもいいけど、こっちもおいしそう」「両方頼みますか?」「そんなに食べられませんよ」「でしたら、私が別のものを頼みます」「え?」「半分ずつにすれば、二種類食べられます」 美月は蒼真を見る。「九条さん、甘いものそんなに好きでしたっけ」「普通です」「じゃあ、無理しなくても」「朝倉さんは二つとも食べたいのでしょう?」「……食べたいです」「では、そうしましょう」 結局、桃のパフェとケーキを一つずつ頼んだ。     ◇「おいしい!」 一口食べた瞬間、美月は笑った。「こっちも食べてください」 ケーキの皿を蒼真の方へ押す。「朝倉さんが先にどうぞ」「じゃあ一口だけ」 食べてみる。「こっちもおいしい」「どちらが好きですか?」「うーん&he
last updateLast Updated : 2026-09-18
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もしかして、好きなのかも

 蒼真と別れて家に帰ってからも、美月は何度か今日の会話を思い出していた。 ――朝倉さんに会いたかったので。 そして、自分が返した言葉も。 ――私も、また会いたいので。「……よく言えたな、私」 今になって恥ずかしくなる。 あの時は自然に出てきた。 けれど改めて考えると、ずいぶん思い切ったことを言った気がする。「ただいま」「おかえり」 母から赤ちゃんを受け取る。「いい子だった?」「ずっといい子よ」「そっか」 赤ちゃんの頬へ顔を寄せる。 小さな手が美月の髪を掴んだ。「痛い痛い」 笑いながら指を外す。「楽しかった?」 母に聞かれ、美月は頷いた。「うん」「桃、おいしかった?」「すごくおいしかった。パフェとケーキを半分ずつ食べたの」「九条さんと?」「うん」 そこまで答えてから、美月は母を見る。「……お母さん」「何?」「私、最近遊びすぎかな」「なんで?」「赤ちゃん預けて、九条さんと何回も出かけてるから」 母は呆れたような顔をした。「毎日遊び歩いてるわけじゃないでしょう」「そうだけど」「仕事もしてるし、ちゃんと帰ってくるし。何が問題なの」「……そうだよね」「離婚したからって、家と仕事だけ往復してなきゃいけない決まりなんかないでしょう」「うん」 美月は少し安心した。     ◇ その夜、蒼真からメッセージが届いた。『今日はありがとうございました』『こちらこそ。桃おいしかったです』『次は朝倉さんが行きたいところを探しておき
last updateLast Updated : 2026-09-19
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私のこと、どう思っていますか

 植物園へ行った日から、美月の中で一つだけ変わったことがあった。 蒼真に会いたいと思うことを、もう不思議には思わなくなった。 メッセージが来れば嬉しいし、次はどこへ行こうかと考えるのも楽しい。 けれど、その一方で気になることは残ったままだった。 蒼真は、自分をどう思っているのだろう。     ◇ 数日後、蒼真がカフェへやって来た。「いらっしゃいませ」「こんにちは」「今日はお仕事ですか?」「近くまで来ましたので」「じゃあ、いつものですね」「お願いします」 美月は注文を通し、コーヒーを運んだ。「ごゆっくりどうぞ」「ありがとうございます」 それだけのやり取りなのに、席を離れながら少し笑ってしまう。「美月ちゃん」「……はい」「楽しそうねえ」 店長が横から顔を出した。「普通です」「はいはい」「何も言ってないのに、その返事やめてください」 店長は笑いながら厨房へ戻っていった。     ◇ 仕事を終えると、蒼真はまだ店にいた。「九条さん、また待ってたんですか?」「今日は三十分ほどです」「時間の問題じゃないです」「では、帰りましょうか」 あまりにも自然に言われ、美月も自然に頷いた。「はい」 二人で店を出る。 けれど駅へ向かう途中、美月はふと足を止めた。「九条さん」「はい」「ちょっと寄り道しません?」「構いません」 近くの小さな公園へ入る。 まだ帰るには少し早かった。それだけの理由だった。 二人でベンチに座った。 夕方の公園では、子供たちが遊んでいる。 少し離れたところを、犬
last updateLast Updated : 2026-09-19
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今度は、私から

 ――好きなのかな。 一度そう考えてしまうと、美月は蒼真のことを以前より意識するようになった。 だからといって、何かが変わったわけではない。 朝になれば赤ちゃんの世話をして、仕事へ行く。帰ればまた慌ただしい時間が始まる。 そんな毎日の中で、蒼真からメッセージが届くと少し嬉しい。 ただ、それだけだった。     ◇ 数日後。 カフェの休憩中、美月はスマートフォンで週末のイベント情報を眺めていた。 以前なら、休日に出かける場所をわざわざ探すことなどほとんどなかった。 けれど今は、気になるものを見つけると自然に考えてしまう。 ――九条さん、こういうの好きかな。「あ」 画面をスクロールしていた指が止まった。 郊外にある植物園で、季節の花が見頃を迎えているらしい。温室もあり、併設されたカフェでは期間限定のスイーツも出ている。「ここ、いいかも」「何が?」「わっ!」 突然後ろから声をかけられ、美月はスマートフォンを胸元へ引き寄せた。「店長、覗かないでください!」「覗いてないわよ。美月ちゃんがニヤニヤしながら見てるから気になっただけ」「ニヤニヤしてません」「で、どこ行くの?」「まだ決めてません」「九条さんと?」「……まだ誘ってません」「あら」 店長が嬉しそうな顔をする。「何ですか」「美月ちゃんから誘うんだ?」「前にも誘ってますよ」「そうだったわねえ」 それなのに、なぜか今日は店長の言葉に妙に反応してしまう。 美月は誤魔化すようにスマートフォンへ視線を戻した。     ◇ 仕事が終わっても、美月はすぐには蒼真へ連絡しなかった。 駅へ向かいながら、さっき見つけた植物園のページをもう一度開
last updateLast Updated : 2026-09-19
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