離婚が成立してから数日が経った。 何かが劇的に変わったわけではない。 朝になれば赤ちゃんが泣く。 ミルクを飲ませ、おむつを替える。 仕事の日には母に預け、カフェへ向かう。 これまでと同じ生活だった。 それでも時々、美月は思い出す。 もう離婚したのだ。 拓也の妻ではない。 その事実を思い出すたび、胸の奥が少し軽くなった。 ◇「美月ちゃん、おめでとう……って言っていいのかしら、こういう時」 離婚したことを報告すると、店長は困ったように首を傾げた。「私も分かりません」「じゃあ、お疲れさま!」「それならしっくりきます」「でしょ?」 店長が両手を広げる。「ほんっとーに、お疲れさま!」「ありがとうございます」「長かったわねえ」「はい」 美月は笑った。 拓也が初めて店へ来た日のことを思い出す。 あの頃は、こんな日が来るとは思っていなかった。「これからは美月ちゃんと赤ちゃんで、のんびりやりなさい」「仕事もしますよ」「そういう意味じゃないわよ。すぐ頑張りすぎるんだから」「分かってます」「本当に?」「たぶん」「信用ならない!」 いつもの調子で怒られ、美月は笑った。 ◇ 仕事を終える頃、スマートフォンを確認する。 蒼真とのやり取りが残っていた。『今度、お礼させてください』 自分からそう送った。 けれど、具体的な約束はまだしていない。 何をすればお礼になるのだろう。 食事をご馳走する? 何か贈る?「……九条さん、何でも持ってそうだしなあ」「誰が何でも持ってるって?」「わっ!」 背後から店長に声をかけられ、美月は慌ててスマートフォンを伏せた。「何でもないです」「あらぁ?」「その顔やめてください」「私、何にも言ってないけど?」「絶対なんか考えてます」「九条さんねえ」「ほら!」 店長は楽しそうに笑った。「お世話になったから、お礼しようと思ってるだけです」「へえ」「本当にそれだけです」「はいはい」「信じてないでしょう」「信じてるわよぉ」 まったく信じていない顔だった。 ◇ 帰宅してから、美月は蒼真へメッセージを送った。『この前のお礼の話なんですけど、何か食べたいものありますか?』 少しして返信が届く。『朝倉さんが食べたいもので構いません』「
Last Updated : 2026-09-16 Read more