市内の病院へ搬送されたあと、怜司は傷口をきれいにする手術を受けた。傷口は何度も感染を起こし、半月以上、苦しむことになった。ようやく松葉杖で立てるようになったころ、上層部の調査チームがやって来た。震災の緊急救援のあいだ、怜司が職権を乱用し、一部の被災者を規則に反して優遇したこと、さらに救急医療体制を私的な目的で利用したことで通報されていた。証拠はそろっていた。救護テント内の特別に用意された温かい食事やお湯、医師の手配、美咲一家の優先的な受け入れ。そのすべてが、怜司が隊長という立場を利用して無理に実現したものだった。調査結果が出た日、怜司は病室のベッドに座り、スマホに届いた通知を見ていた。処分通知には、懲戒処分として、降格と現場職務の解除が記されていた。彼はその文字を長いあいだ見つめ、それからゆっくり画面を消し、スマホを枕元の台に置いた。そこには、美咲が人づてに届けてきたものも置かれていた。封筒が一つ。中には50,000円と、1枚のメモが入っていた。【怜司、ごめんなさい。両親も高齢で、これ以上無理はさせられません。どうか、しっかり療養してください。またご縁があれば、いつか】50,000円。片脚。10年分の歳月。怜司はその手紙と金を、まとめてゴミ箱へ投げ捨てた。……3か月後、市内の復旧作業はほぼ終わり、役所も通常業務を再開した。怜司は松葉杖をついて、役所の入口に立っていた。色あせた古いジャケットを着て、髪は短く刈られている。体はひと回り細くなり、頬骨が浮き、目の下は深く落ちくぼんでいた。午前10時ちょうど、私は役所へ着いた。怜司の前まで歩き、一度だけ彼を見た。視線は空っぽの右脚のズボンをかすめたが、そこで止まることはなかった。「行きましょう」怜司は口を開いた。声が詰まっている。「夕奈……」「葉山と呼んで」彼は言葉を詰まらせた。少し黙ったあと、松葉杖をついて私の後ろに続き、足を引きずりながら役所の中へ入った。私があらかじめ必要事項を記入して持ってきた離婚届に、怜司は自分の名前を書いた。必要な確認が終わると、手続きは拍子抜けするほど淡々と進んだ。まるで夢の中の出来事のようだった。「受理されました」職員の一言を聞くと、怜司は受理された書類を、指の関節が白くなるほど
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