あっしは鳳凰寿司の十八代目、将太だ。 おやっさんは寿司一筋に生きてきた人でとても尊敬していた。 だけど、伝統にこだわりすぎるところはどうもいけねぇと思っていた。 ダンジョンができた。 漁船がいくつも沈んで、新鮮な魚が入りづらくなった。 だからあっしは、ダンジョンで取れた素材を使おうって言った。「馬鹿野郎! それだきゃぁいけねえ。先代の顔をつぶすつもりか!」 殴られた。 蹴り飛ばされた。 あっしは必死で謝った。 だから、自分でダンジョンに潜ってきた。 ゴブリンを活け締めにして、店でさばいた。 うん、脳みそには白子みてぇなドロリとした深い甘みがある。 キモは臭くていけねえな。悪りぃが、捨てるしかない。 肉質は全体的に固い。 臭みのある部位が多い。 脂が臭いを溜め込んじまってるんだな。 胸と腿から赤身を切り取る。 丁寧に筋を取って、隠し包丁を細かく入れる。 酒と醤油で漬けて、臭みを抜く。 握ってからバーナーでさっと炙って、香ばしさを出す。 あっしのできる限りの工夫を重ねた。 試食もしたが、文句なしに美味ぇ。 本マグロの頬や、ツノみてぇな、どっしりした味わいになった。「おやっさん、頼むから一貫だけでも」「こんな邪道、食えるか!」 俺の握った寿司は、調理場の床に散らばった。 おやっさんの下駄が、それを踏みにじった。「てめぇ、何様のつもりだ! 握りを任せるようになったからって、調子に乗るんじゃねえ! てめぇなんぞ、追い回しからやりなおせ!」 追い回しってなぁ雑用のことだ。 皿洗いや掃除、野菜の下ごしらえなんかしかできねえ。 板場で一番の雑魚ってことだ。 そんなのって、ねえじゃねえか。 あっしは、店のことを真剣に考えたんだ。 あっしは、真剣に新しい寿司を握ったんだ。「将太ァ……てめぇ……」 気がつきゃあ、おやっさんの胸に柳刃が刺さってた。 どくどく、どくどく、血が流れる。 おっと、いけねえ。 新鮮なネタじゃねえか。 早く冷やして血抜きしねえと。 おやっさんを流し台に押し込んで流水をかけつづける。 頸動脈を切り、腋窩動脈を切り、大腿動脈、膝窩動脈を切る。 時折、おやっさんの身体が震える。 死後硬直ってやつだな。 2、3日寝かして柔らかくし
Last Updated : 2026-07-13 Read more