Tous les chapitres de : Chapitre 11 - Chapitre 20

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第11話 過重労働は認められません

 王族、及び王党派貴族への嫌がらせを開始してから数ヶ月が経った。 戦闘員も30人まで増員しており、我らがジャークダーの成長は順調である。 お父様から改めて話がしたいと呼び出されたのは、そんなときのことだ。 やばい、さすがに予算使いすぎたかな……。戦闘員全員の給与に全身タイツの費用、キルレイン様コスチュームの再現にもかなりの金がかかった。お抱えの魔道具技師も私が依頼したアイテムの開発で手一杯みたいだし、甲冑師もフル稼働状態である。 「イザベラよ、作戦はなかなか順調なようだな」 叱られる覚悟をして執務室に入った私を迎えたのは、予想外に上機嫌なお父様の声だった。「はい! お父様のご支援のおかげで、作戦は順調に進んでますの!」「うむ、連日の宴席への遅刻、落書きなどもあって王家とその飼い犬どもはすっかり笑いものよ。この父も、がらにもなく宴席で噂話を楽しむようになってしまったわ」 ガッハッハ、と顎髭をしごきながら豪快に笑うお父様。 ヴラドクロウ家は質実剛健を以って旨とする家風だ。華美なパーティや益体もない噂話などは好まないのだが、そのお父様がこんなことを言うくらいだから、作戦はかなり効いているのだろう。「でもお父様、わたくしからこんなことを言うのもなんなのですが……予算の使いすぎということはないでしょうか?」 気になっていることは自分から先に尋ねることにした。 お父様が上機嫌なうちに、話しづらいことをさっさと済ませてしまおうという目論見である。「金のことなら気にするな。今年は小麦の出来がよくてな。それに黒百足殿の仲介ではじまった南方交易も軌道に乗っておる。なんなら作戦がはじまる前よりも当家の財政は潤っているほどだ」 黒百足こと、裏町の顔役であるニシュカは協力者としてお父様にも紹介済みである。もともとシノギとして南方との密貿易があったらしいのだが、禁輸品の中には「なんでこんなものが禁止なの?」と疑問なものが多かったのだ。 麻薬のたぐいはともかく、サンゴやシナモンやらが禁輸だったのはわけがわからん。高くなるけど他の国を経由すれば輸入できるし。たぶん、ずっと昔に決まってそれがなんとなく続いてきたのだろう。 お父様は議会に働きかけてそれらの品目の禁輸を解き、ニシュカがすでに築き上げていた交易網を借りて正式な商売として大々
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第12話 求ム、幹部候補生!

「おう、イズの嬢ちゃんにパルの嬢ちゃん、よく来たな」「いつも事前の約束もなく申し訳ございませんわ」「日時を決めると足が付きやすくなるっつったのはこっちの方だ。気にすんない」 その日、私たちは裏町にあるニシュカの屋敷を尋ねていた。 事前のアポイントメントはなしだ。ニシュカの言う通り、定例の会合などを設ければ足がつきやすくなる。ヴラドクロウ家と黒百足、そしてなによりジャークダーとの関係はトップシークレットなのである。「ニシュさん、今日のお土産です!」「おお、いつも悪りぃな。最近じゃあこいつらまでパルの土産を楽しみにしてる始末だぜ。まったく、恥ずかしいったらありゃしねえ。おっと、この匂いはジンジャークッキーかい?」 ニシュカはパルレが差し出したバスケットをうれしそうに受け取る。 護衛の部下たちにあんなことを言いつつも、自分が真っ先にクッキーをつまんでいた。3枚もいっぺんに食べて口が乾かないのだろうか?「ジンジャーって言ったら南方の名産ですし、ニシュさんも懐かしいかなって」「ははは、こんな洒落たもんはなかったけどな。切った果物を生姜汁で煮るのがせいぜいだったぜ」「へえー、それも面白そうですね。今度作り方を教えてください!」 パルレはいつの間にやらニシュカとすっかり仲良しになっていた。 なにこのコミュ強……こわい……。ぶっちゃけ、最初の交渉もパルレに任していたらもっとすんなりいってたりしなかっただろうか?「それで、イズの嬢ちゃん。今日は何の用だい?」「そうね。まずは街の様子から聞かせてくださいますか」「おう、ジャークダーのおかげさんでずいぶん稼がせてもらってるぜ」 む、ジャークダーのおかげで稼いでいるとはどういうことだ? お父様が関わってる貿易の方で稼いでいると言うならわかるけれど……。「お城やら貴族街でさんざん暴れてくれてっだろ? それで衛兵どもがみんなそっちに駆り出されたからな。いろいろ商売がやりやすくなってんだよ」「それって……犯罪がやりやすくなったということですか?」 それはまずい。私は明るく楽しく悪の秘密結社経営をしたいのだ。それで治安が悪化してしまったのではさすがに寝覚めが悪すぎる。 青い顔をした私に、ニシュカが苦笑いしながら応えた。「ちげぇちげぇ。もともとうちのシノギの柱は飲み屋と博打、それに娼館な
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第13話 あれ、私、カルマ値カンストしちゃいました?

 その晩のことである。 3日に1度の夜間外出禁止の日であったため、私は紅茶を片手に自室で本を読んでいた。真面目なものではなく、近頃流行りだという騎士道物語だ。筋立てはシンプルで、身分違いの恋をした騎士が、ドラゴンを倒すなどの手柄を立てて王に認められ、貴婦人との恋が成就するといったもの。 うーん、正直、令和日本の娯楽の数々に慣れてしまった私には物足りない。戦隊ヒーローも合体ロボも出て来ないし、何より悪の秘密結社が登場しない。一日でも早く怪人を完成させ、この手で完璧な悪の秘密結社を実現させなければ―― はっ、いかんいかん。 行き詰まったので気分転換をしようと小説なんて読んでたのに、気がつけばまた悪の秘密結社のことを考えていた。「怪人……そうね、まずは蝙蝠をどうにかしないと……」 思わず、そんな独り言を洩らしてしまう。 蝙蝠怪人バット・バッデス。それは正義戦隊ジャスティスイレブンの記念すべき第1話に登場した、その名の通り蝙蝠をモチーフにした怪人である。大きな黒い翼で飛行する他、暗闇をもたらす煙幕や、怪音波による攻撃も可能で、1体目にしてはかなり強力なスペックを誇っている。とくに頭部の造形の評価が高いのだが、それもそのはず、造形師は何ヶ月も動物園に通ってオオコウモリの観察をしたそうなのだ。努力の甲斐あって、バット・バッデスは恐ろしげながらもどこかユーモラスで可愛らしい印象を――「くくく……我を蝙蝠扱いとはな。しかし、よくぞ見破った」「えっ!?」 脳内特オタ早口語りをはじめたら、天井の隅から声がした。 照明は届かず、わだかまったような闇がそこにはある。その奥から、若い男の声がしたのだ。「ふん、いまさら驚いたフリなど白々しい」 闇を突き破って、一人の青年が飛び降りてきた。 夜空のように黒い髪とは対象的に、病的なまでに青白い肌。しかしその瞳は真紅の光を爛々と灯していて、奇妙な生命力を感じる。年のころは二十代そこそこといったところか。長身で細身の男だった。 私は枕の下に隠してある短剣を咄嗟に引き抜――こうとして、はたと気がついた。この青年、なんかどっかで見覚えあるな。現世じゃない。前世の方の記憶だ。 乙女ゲームの攻略サイトに転載されてたイラストの一覧で見たことがあるような……。「あっ、たしかレヴナント!」「なに!? なぜ我が名を知って
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第14話 蝙蝠怪人、ゲットだぜ!

「それでレヴナント様、乙女にばかり話をさせるのは少々マナーに反しましてよ。あなたのお話も聞かせてくださらないかしら?」「ふん、よかろう。何が聞きたい」「そうね、まずはどうやってこの部屋に忍び込んできたか、ですわね」 王城ほどではないが、ヴラドクロウ家の警備は厳重だ。 ネズミ一匹通さない……とまでは言えないが、そんじょそこらの賊が容易く潜り込めるような警備は敷いていない。穴があるなら塞がなければ。侵入してきたのがレヴナントではなく、暗殺者であったのなら今ごろ私の命はなかっただろう。 私の問いに、レヴナントは唇の端を歪めてくくくと笑った。「我らのことはよく調べていたようだが、肝心のことは知らなかったようだな。では見るがいい、これが我ら夜の種族の力だ!」 その言葉とともに、レヴナントの全身が薄っすらと黒い靄で覆われる。 端正な口元が耳まで裂けていき、歯がめきめきと音を立てながら伸び、無数の牙と化していく。切れ長だった目がほぼ正円に変形し、瞳が拡がって一対の赤い宝玉のようになった。耳が縦に尖って伸びていき、どこか兎を連想させる形に変わる。顔全体から灰色がかった剛毛が生えはじめ、地肌が見えるところがなくなった。 そして極めつけは……背中だ。ごうと風が吹いたかと思えば、レヴナントの背中には巨大な羽が出現していたのだ。鳥のようなそれではなく、細い骨組みに皮膜を張った、まさに蝙蝠のような羽だった。 変身したレヴナントに思わず見入っていると、レヴナントが口を開いた。「くくく、さしもの豪傑令嬢でも驚いたか。これが我ら夜の種族が持つ変身能力だ。この翼を以って夜空を往けば、どんな厳重な警備も無駄というものよ」 ああ、たしかに驚いた。驚くに決まってる。 だって、だってこの姿は――「すっごい! かんっぺきにバット・バッデスじゃん! 衣装さえちょっといじれば原作完全再現間違いなし! ねえねえ、ちょっと触ってみてもいい? 本物に触れる機会なんてないからさ!」「ま、待て。よだれを垂らしながら近寄ってくるな。それにバット・バッデスとは何なのだ?」「ああ、ごめんごめん。蝙蝠怪人バット・バッデスっていうのはね、90年代特撮の中でも珠玉の造形と言われる怪人のひとつなの。写実性とデザイン性を兼ね備え、恐ろしさとユーモラスな印象を見事なまでのバランスで同居させてるのよね。『好き
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第15話 怪人は王都の闇に暗躍す

 夕日が沈み、黄昏の空が濃紺に塗り替わるころ。 王都の貴族街に、闇にうごめく者たちがいた。 それらは、闇から飛び出すと辻々に立つ衛兵の前に堂々と姿を表していく。「くくく……悪の秘密結社ジャークダー参上! 我が名は蝙蝠怪人バット・バッデス。腑抜けた王家の犬どもよ、我と戦う勇気があるならかかってくるがいい」「うっ、ジャークダーが出たぞ! 応援だ、応援を呼べ!」 呼子の甲高い音色が夜の静寂を切り裂いていく。 巡回の衛兵たちがそれを聞きつけ、斧槍を携えて続々と集まってきた。 対峙するのは蝙蝠の姿をした異形と、全身黒タイツの正体不明の男たち。 男たちは『イーッッッ!!』と奇声を上げ、衛兵を牽制していた。 その数は異形たちが11、衛兵たちはそろそろ50を数えるだろうか。 はじめは腰が引けてきた衛兵たちだが、数を頼みに徐々に威勢を取り戻してくる。平民街を巡回していた衛兵をすべて引き上げて貴族街に集中させているため、数だけは多いのだ。「はっはっはっ、ジャークダーだかなんだか知らねえが、これだけ数が集まりゃ袋叩きよ! 降参するなら命だけは勘弁してやるぜ?」「くくくくく、これだけ数を集めても、なお闘争を恐れるか。王家の腑抜けぶりはどうやら筋金入りのようだ」 衛兵の隊長らしい男の降伏勧告を、蝙蝠怪人が冷たくあざ笑う。 男の額が赤黒く染まり、額に血管が何本も浮き上がった。「な、なんだと! かかれいっ! 全員ひき肉にしてやれ!」「くくく、口だけは達者な烏合の衆よ。闇に惑い、闇に怯えるがいい」 その言葉とともに、蝙蝠怪人は両手を突き出す。 そこから大量の黒い煙が吹き出して、衛兵たちを瞬く間に覆い隠した。「なっ、なんだ!? 何も見えないぞ!?」「ランタンは! ランタンはついているのか!?」「熱っ! ランタンはついてるぞ!」「それならなぜ暗くなる!?」「痛えっ! くそっ、敵がいるぞ!」「バカっ! 武器を振り回すな、同士討ちになるぞ!」 視界を奪われ、混乱に陥った衛兵たちを蝙蝠怪人はにやにやと眺めている。 蝙蝠は視覚に頼らず、音の反響によって世界を視ているため、視界の遮られる煙の中であっても、そこで起きていることが手に取るように把握できたのだ。「くくく、我が闇魔法だけでこれほどの醜態
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第16話 戦果は上々であります!

 翌朝、王都郊外にある採石場。ジャークダーの秘密基地はそこにある。 私は望遠鏡を持って岩の上に立っていた。王城の中央尖塔を見るためだ。朝日に照らされる尖塔は神殿の大鐘楼よりもなお高くそびえ立っている。王都、そして王家の権威の象徴とも言える建造物だ。 望遠鏡で覗いてみると、昨日まで白亜の威容を誇っていた中央尖塔に、赤いインクで『ジャークダー参上!』と大きな落書きが描かれている。「ふふふふふ、我が策、ここに成れり」「クーモクモクモクモクモ! すべてはキルレイン様の神算鬼謀のおかげクモ!」「いや、そんなことはない。蜘蛛怪人スパイディ・ダーマよ。どんな壁でも地面と変わらず歩ける、お前の力がなければ成せなかったことだ」「もったいないお言葉クモ!」 クモクモ言いながら平伏しているのはいかにもお人好しそうな若者だ。 正体は蜘蛛の変身能力を持つ夜の種族である。夜の種族は日中は変身ができない。そのため、日の出以降は変身が解けて普通の人間の姿になってしまう。 ちなみに、クモクモ言っているのはキャラ付けである。これくらいアクが強い方がより強い印象を残せるだろうという算段だ。原作リスペクトでもある。「蝙蝠怪人バット・バッデスも、深海怪人ダイオウ・テンタクルスもよくやってくれた」「くくく、我にかかればあの程度、赤子の手をひねるようなものよ」「イーカイカイカイカ! バットが衛兵をぜんぶ引きつけちまったから、こっちはまるでぬるかったイカよ」 青白い肌の美青年は先日私の部屋に忍び込んできたレヴナント、隣にいるちょっと頭髪がさみしくなってきた中年男性がイカの変身能力を持つ夜の種族だ。 あの夜、レヴナントを味方に引き込んだことで、夜の種族の協力を得ることができたのだ。戦闘向きの能力を持つ仲間を紹介してもらい、それをジャークダーの怪人として抜擢したというわけだった。 意外にも、夜の種族は商人の丁稚などの頭脳労働についているものが多かった。 日中は人間よりも疲れやすく、普通の肉体労働には向かないらしい。昼の仕事に就くために、夜の種族だけのコミュニティを密かに作り、小さなころから読み書き計算、そして一族の歴史などを教え合うことで教育水準を高めてきたそうだ。迫害を受けつつも生き残るための工夫だったのだろう。前世
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第17話 こいつ完璧に主人公ムーブじゃねえか!

 我らがジャークダーの活動は順調である。 戦闘員は50人を超え、怪人も夜の種族からの新規採用により、常勤が5名、非常勤が2名という体制が整った。いまや私が毎日秘密基地に顔を出さなくても業務が回るようになっている。 ふむー、お父様から言われた「部下を育てるのも将の器量のうち」という言葉がいまさらになって骨身に沁みる。もし、あのまま私のワンマン体制を続けていたら、いまごろぶっ倒れていただろう。 まあ、それはそれ、これはこれだ。解決した問題についていつまでも考えていても仕方がない。 せっかく私の身体が空いたのだ。プロジェクト・ジャークダーを次の段階まで進める時期が来たと言ってよかろう。「お嬢様、なんでまたこんなところに来てるんですか……」「それはもちろん、有望な人材を探すためよ」「こんなところに人材なんているんですか……?」 というわけで、パルレを連れてやってきたのは裏町にある冒険者ギルドである。 薄汚れた革鎧に身を包んだチンピラや、モヒカンで肩にトゲパッドをつけたチンピラ、それから継ぎ接ぎだらけの麻の服を着た無精髭のチンピラなんかがたむろしている。うーむ、客層が以前訪れた激安居酒屋と変わらん……。 冒険者ギルドは、組合といっても商人ギルドはもちろん、パン職人ギルドや鍛冶職人ギルドほども管理はしっかりしていない。他のどのギルドにも入れなかったあぶれものが加入するのが冒険者ギルドであり、言ってみれば人材の吹き溜まりのようなところなのだ。 王都に住むものは、聖職者などの例外を除いて全員が何らかのギルドに所属しなければならない規則になっている。戸籍の代わりでもあり、徴税のための制度でもある。組合員は会費をギルドに納め、それをお上がピンハネするという仕組みになっているわけだ。 ギルドに所属していないものは不法滞在扱いで、衛兵にバレれば強制労働や追放などの罰を課せられる。そのため、定職につけない流れ者や無宿人などは基本的にみな冒険者ギルドに所属することになるのだった。「はーい、いまから仕事の張り紙すっからねー! おらっ、ボンクラども、どいたどいた!」 チンピラの群れを眺めていたら、恰幅のいいおばちゃんが人混みを割って壁面のコルクボードに向かっていった。書類の束を抱えており、それをコルクボードに次々ピン留めしていく。「字が読めねえやつは希望
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第18話 対決、蜘蛛怪人!

 立身出世を夢見て田舎町から旅立った冒険者3人組。 剣士のクレイ、魔法使いのエイス、世界樹の祈り手であるリジアは、王都に到着した初日にさっそくひとつの依頼を達成した。 と言っても依頼料はたったの銅貨7枚。蓋を開けてみれば、救出対象のロッキーは幼女がかわいがっていた野良犬であったし、見つけたときにはゴブリンに噛みついて反撃していたので、放っておけば勝手に帰っていたのではないかという微妙なものだったが。 幼女の村はそこそこ遠く、王都に戻ってきたときにはすでにとっぷりと日が暮れていた。だが、クレイたちが生まれ育った田舎とは異なり、王都の夜は明るい。そこかしこで飲み屋や屋台が営業しており、そこから漏れる灯りによって照らされているのだ。魚油が燃える生臭い臭いと引き換えではあるのだが。「はあ、宿も取らずに出かけちゃいましたから。まずは寝床を探さないといけませんね」「どっかの熱血バカが後先考えずに暴走するからねー」「まあまあ、王都に来てさっそく人助けができたんだからいいじゃねえかよ」「自分で言うなっ!」「それは自分で言うことでは……」 クレイの弁解に、エイスとリジアが声を揃えてツッコミを入れる。 ともあれ、宿賃の蓄えもろくにない。屋台で腹ごしらえをして、どこかの馬小屋で屋根を借りよう……と相談しながら歩いているときだった。「きゃー! 誰かー! 助けてー!」「あー! 家宝の聖印がジャークダーに奪われてしまいましたー!」 どこか平坦な悲鳴が夜の街に響き渡った。「エイス、リジア、行くぞっ!」「言われなくても!」「もちろんです!」 クレイたちは一斉に駆け出す。 行く先はもちろん悲鳴の源だ。ついさきほどひどい目に遭ったにも関わらず、人助けに懲りるということはないようだった。 大通りを駆け、道を曲がって路地に入ると、まるで貴族のように上等な服に身を包んだ少女と、その付き人らしいメイドが石畳に膝をついていた。 そして、少女とメイドの前にいたのは――「クーモクモクモクモクモ! 我が名は悪の秘密結社ジャークダーの怪人がひとり、蜘蛛怪人スパイディ・ダーマだクモ!」『イーッッッ!!』 全身を赤黒のタイツで身を包み背中から4本の副腕を生やした一体の異形と、全身黒タイツの男たちが10人ほどという謎の集団だった。異形のタイツには、蜘蛛の巣を思わせる放射状の意匠が施
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第19話 目覚めよ、正義の魂!

「じゃ、ジャスティス・チェンジ?」「この腕輪は何ですか?」「魔力が込められてるのは感じるけど……」 パルレに腕輪を付けられた3人が困惑している。 くっ、まだタイミングが早かったか? もっと考える余裕がなくなるまで待つべきだったろうか?「ま、まさかそれはあのジャスティスバングルだクモ!? もしもヴラドクロウ家に伝わる伝説の神器の力が解放されたら、さすがのスパイディ・ダーマ様でもかなわないかもしれないクモ!」 そこにスパイディが8本の手足をわちゃわちゃさせて慌てるリアクションを挟んでくれた。 よしっ、ナイスアドリブ! 日頃の演技練習が実を結んだなっ!「そんなにすごい魔道具なのか、これ?」「そうなのですっ! ジャスティスバングルに秘められた力は計り知れないもの! 正義の魂と交感することで、真の力を発揮します! さあ、いまこそ『ジャスティス・チェンジ』と叫ぶのです!」 なおも不審げに腕輪を見るクレイ君一行を押し切るべく畳み掛ける。 そう、それはジャスティスイレブンの変身アイテムだ。お抱えの魔道具技師に、半年がかりで作ってもらった代物である。本当はひとりひとりで発動時のキーワードが異なるのだが、そうすると工数が膨れ上がってしまう。そのため、泣く泣く共通のキーワードにした次第だ。「くっ、もし『ジャスティス・チェンジ』と叫ばれたら一環の終わりクモ! よーし、こうなれば『ジャスティス・チェンジ』と叫ばれる前に決着を付けてやるクモ! 戦闘員たちよ、『ジャスティス・チェンジ』と叫ばれる前に一斉攻撃だクモ!」『イーッッッ!!』 スパイディが「ジャスティス・チェンジ」とやたら連呼してくれている。 ふっ、さすがは昼間は商会で働いているだけはある。空気を読む力が抜群だぜ!「なんだかわかんないけど、こうなりゃヤケクソだ! ジャスティス・チェンジ!」「もう、やるっきゃないんでしょ! ジャスティス・チェンジ!」「やるしかありませんね! ジャスティス・チェンジ!」 3人の少年少女が、声も高らかに「ジャスティス・チェンジ」と叫ぶ! ――そのとき、不思議なことが起こった。 ――3人の体を覆うかのように、さまざまなエフェクトが発動する! いや、まあ私の仕込みなんで不思議なことは別にないんだけど。 トップバッター、クレイ君のエフェクトは炎だ。 竜を思わせる紅蓮
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第20話 新米冒険者、はじめての邸宅訪問

 謎の蜘蛛怪人たちをなんとか退けたクレイたち一行は、礼をしたいという少女のあとをついて貴族街に入っていった。 平民街と貴族街との間は高い石壁で区切られている。街門は斧槍を持った衛兵が数人がかりで警備しており、物々しい雰囲気を醸し出していた。しかし、少女が名乗るとうやうやしく頭を下げて道を通してくれる。 馬車を用意しましょうかと揉み手で近づいてくる門番を、少女は「今日は歩きたい気分なの」と一蹴する。門番はへへーと深く頭を下げて持ち場に戻っていった。 なるほど、これが大貴族の威光というものなのか……クレイは、これまでの人生で一度も目にしたことのない光景に、思わず冷や汗をかいていた。田舎街にも衛兵はいたが、みんな横柄な態度でとくにクレイたちのような冒険者にはあからさまに見下すような視線を送ってくるのが普通だったのだ。 意外なことに、貴族街の道は平民街よりも暗かった。 月明かりと、立ち並ぶ邸宅から洩れる灯りのおかげで足元に困ることはない。しかし、屋台や飲み屋が無秩序に乱立する平民街と比べると、どこか物寂しい印象も受ける。 どれほど歩いただろうか、一際立派な門の前で、少女が足を止める。 少し先には篝火に照らされた王城がそびえていた。クレイたちは知らないことだが、王城から近い位置に土地を与えられるほど貴族としての格は高い。ここから先にある邸宅は、すべて王家かその傍流のものだ。 要するにヴラドクロウ家とは、王族を除けばこの国でもっとも高い格式を誇る名家なのである。「こんなでっかい家、はじめて見たぜ……」「庭だけで領主様のお屋敷がいくつも建てられそうね……」「世界樹神殿の本山なみなのです……」 少女に案内されるまま、クレイたちはおっかなびっくり広大な敷地に足を踏み入れていく。 屋敷に入ると何人ものメイドが真っ白な手ぬぐいを持って集まってきて、クレイたちの身体から泥や埃を丁寧に拭い清めていった。どういう手品なのか、少女とその侍女はろくに汚れてもいない。高貴な血筋ともなれば、汚れの方から避けていくのだろうかと馬鹿な妄想が脳裏をよぎった。「さあ、楽になさってください、勇者様方」 エントランスの脇にある部屋に通された。 勧められるままにソファに腰を下ろすと、予想以上に腰が沈んでひっくり返りそうになってしまう。
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