Tous les chapitres de : Chapitre 21 - Chapitre 30

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第21話 初手、大金

「まずは簡単な話からはじめましょう」 緊張で固まったクレイ君たちに、私は表情を緩めて微笑んでみせた。 ここまで話を持ってくるのにケレン味をきかせすぎた感は正直ある。まずは、わかりやすい報酬から提示して、メリットを明確に示しておこう。「パルレ、例のものを」「かしこまりました、お嬢様」 パルレがずっしりと中身の詰まった布袋をローテーブルに置く。 その袋にはヴラドクロウ家の家紋が刺繍されており、布地も麻ではなく上等な綿だ。貴族同士でちょっとした贈り物をする際に使用するものだが、この袋を売るだけでもちょっとした小遣いにはなるだろう。「尾籠な話で恐縮だのだけれど、これは謝礼金です。中身を改めてくださるかしら?」「わ、わかった」 前世の日本なら、封筒に入ったお金をその場で数えるなんて失礼極まりないが、現世での常識は違う。もらったものはその場で即確認。そして中身に応じた謝意を示すのがこの世界での礼儀なのだ。 クレイ君が布袋の紐を解き、中を覗き込む。そしてその姿勢のまま固まった。「ちょっと、クレイ。手早く数えなきゃ失礼でしょ。こっちに貸しなさい。いったい銀貨何枚……」 クレイ君の手から布袋をひったくったエイスちゃんが固まる。「エイスまでどうしたのですか? あなたらしくもない。ここは私が……えっ、き、金貨……?」 リジアちゃんも緑色の瞳をまん丸にして固まった。 布袋に入れた報酬は、平均的な冒険者の3年分の収入くらいだ。物価がぜんぜん違うから単純に換算はできないけど、無理やり日本円にするなら1千万円くらいかな。 少年少女に渡すには大金だが、彼らにはこれから正義の味方として活動してもらわなければならない。小銭で転んで悪事に走ってしまわないよう、当座の生活費に困るような事態は避けなければならないのだ。 また、彼らが取り戻してくれたヴラドクロウ家の聖印がいかに大事なものだったのか、その重みを印象付ける意味合いもある。「こ、こんなに頂いてしまってよいのでしょうか……?」「それだけの手柄だったということです。セイギネス様の聖印は我が家に代々伝わる秘宝。悪が再び動き出すその日に備え、秘していたものなのです」「それほど大切なものだったのですね……」 最初に正気を取り戻したのはリジアちゃんだった。 おっとりしているように見えて、実は肝
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第22話 ハレム王国建国秘話 ~オリジナル設定を添えて~

 ハレム王国の歴史は、約三百年前に遡る。 現ハレム王国の領土のほとんどは、《混沌》の異名を持つ魔王ナイアルの勢力圏だった。ナイアルの魔力に影響を受けた魔物はいまとは比較にならないほど強力で、凶暴だった。人類は生態系の下位であり、魔物の目を盗むように細々と暮らしていた。 そんな人類の冬の時代に現れたのが建国王ゼッツリンド・ハレムである。 神より授かったという聖剣を携えた若き青年は、仲間たちとともに次々と強大な魔物を斃して人々を助けた。人々はゼッツリンドを旗印に団結し、魔王勢力へと対抗をはじめた。そして、ゼッツリンドをはじめとする5人の勇士がついに魔王ナイアルを封印し、この地は人類の領域となったのである。 人々はゼッツリンドを王に戴き、ここにハレム王国が打ち立てられた。 共に闘った勇士は貴族に叙せられ、これが現存する王国4大公爵家の祖となる。ヴラドクロウ家の先祖もこの中のひとりだ。「――と、ここまでが普通に知られている建国の逸話です」 私はここで、セイギネスの聖印を机の上に置く。 片手に天秤を持ち、片手に剣を持つ女神の紋章は、おそらくギリシア神話の女神テミスが元ネタだろう。天秤によって正義を量り、剣によって正義を執行する。前世では弁護士バッジのデザインモチーフにもなっていた。「建国王ゼッツリンド・ハレムは、太陽神ラー=ラから聖剣を授かったと言われています。しかし、神の加護を得たのはハレム王家だけではなかったのです。王家の威光を高めるために秘されてきましたが、当家にも加護を与えた守り神が存在したのです」「それがセイギネスって神様?」「ええ、そのとおりです。当家の守り神となったセイギネス様は、11個のジャスティスバングルと、この聖印を授けてくださったというわけですの」「そんなこと、ぜんぜん知らなかったぜ」 3人は神妙な顔でうなずいている。 完全にでまかせなので、こうも真剣に聞かれるとちょっぴり心が痛い。し、しかし私にはジャークダーを完璧なものにしなければならない使命があるのだ。心を鬼にして、この嘘を突き通さなければ!「前置きが長くなりましたが、これが最後の褒美です。勇者様方には《正義の黎明》の称号を授けたく思います」「ジャスティス……サンライズ?」 クレイ君がきょとんとした顔をしている。 これなあ、
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第23話 恐怖のイカ焼き作戦!

「イーカイカイカイカ! この店ではもうお菓子なんて売らせないイカ! 今日からはイカ焼き専門店になるイカよ!」「やっ、やめてください! お店が生臭くなっちゃいます!」「なにぃ? この香ばしい匂いのどこが不満なんだイカ! これでも食べて黙るイカ!」「うぐっ、こりこりで美味しい……生臭さもまったくない……」「昨晩漁ったばかりの新鮮なイカの一夜干しイカ! このイカを食べたらもうお菓子なんてもう要らないイカ!」「くっ、悔しい……でもこのイカの美味しさはたしかに本物……」 私たちは野次馬に紛れて深海怪人ダイオウ・テンタクルスの活躍を見守っていた。 今夜の活動は貴族街ではなく平民街である。この数ヶ月の活動で、貴族たちにはすっかりジャークダーの脅威を刷り込むことできた。いよいよ活動範囲を広げ、平民たちにもその姿を印象付けようとしているのだ。「それにしても、美味しいイカですねえ」「生イカをそのまま焼くのではなく、あえて一夜干しにしたところにこだわりを感じますね」 フードを目深に被り、イカ焼きの串を頬張っているのはパルレと新人怪人の妖艶怪人ドライラウネだ。今回が4度目の出動だが、念のため付き添っている。そろそろ完全に任せちゃっても大丈夫かな? ちなみに、ドライラウネは怪人の衣装を身にまとっておらず、ローブで全身を隠しているだけだ。残念だが特殊な任務に専念してもらっているので仕方がない。 むう、しかし本当に美味しいイカだな。 テンタは商人の丁稚なんてやめてイカ焼きの屋台でもはじめた方が儲かるのではないだろうか。あ、食べ終わっちゃった。おかわりをもらいに行こうかな。でも行列できてるしなあ。手伝いの戦闘員たちもフル稼働でイカを焼いてるし、手間を増やすのも悪いなあ……。「現れたなジャークダー! 街で平和に商売をするお菓子屋さんを妨害するなんて許せん!」「このお店は安くて美味しいんだからね! 絶対許せないわよ!」「仕事終わりの一口の甘味は庶民のささやかな贅沢。それを邪魔するなんて言語道断です!」 おっと、イカ焼きのおかわりをもらうか悩んでいたらクレイ君たちがやってきた。「あっ、ジャスティスサンライズだ!」「ジャスティスサンライズー! がんばえー!」「イカ焼きの兄ちゃんたちも負けんなよー!」 クレイ君たちの姿を見た野次馬たちが口々に声を上げる。 一部、
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第24話 異世界特オタ増殖中

 裏町にあるそこそこの居酒屋。 以前訪れた激安居酒屋とは異なり、机も床もそれほどベタベタしていない。客層もいくらか落ち着いており、あからさまに穴の空いた服を着ていたり、モヒカンでトゲトゲの肩パッドをつけているものも見当たらない。「むふう、この濃厚な肉の旨味がたまらないわね」「そんなパクパク食べると汁が飛びますよ。お料理は逃げないんですからゆっくり召し上がってください」 森林野豚の内臓の煮込みに夢中になっていたら、パルレにたしなめられた。貴族令嬢としてあるまじきがっつき方になってしまっていたようだ。 でもさ、この豆を塩漬けにした調味料と一緒に煮込む工夫、なかなかのもんじゃない? 臭いものに臭いものをぶつけて昇華してるっていうか? この下町料理は最近のハマりもののひとつで、屋敷の料理人にも作ってもらおうとしたら「そんな下品なものはお出しできません!」と怒られた。 仕方がないので、これを食べたいときはお忍びで平民街までやってくるしかないのだ。「いやー、ジャスティスサンライズの連中、大活躍じゃねえか」「お上りさんのくせにさっそくお貴族様に取り入ってよう。よくやりやがるぜ」 おや、少し離れた席で酒を飲んでいる冒険者たちの話題が聞こえてきた。 クレイ君たちの評判は気になるな。聞き耳を立ててみよう。「ははっ、いいおっさんがあんな若造どもを妬むなんてみっともねえぞ。それにあいつら、普通の冒険者としてもがんばってるじゃねえか。この前は3人だけでダンジョンを潰してきたんだろ? 大したもんじゃねえか」「はっ、できたばっかの瘴気溜まりを散らすくらいは俺の若い頃にだってできらぁな。どうせ変異種の一匹も出ねえしな。っつーか、別に妬んでるわけじゃねえ」 瘴気――それは混沌の魔王ナイアルが残した呪いの残滓と言われるものだ。 それが溜まった土地は不可思議な変異を遂げ、ダンジョンと呼ばれる異空間を形成する。ダンジョンからは希少な産物が得られることもあるが、魔物が沸いてくるので危険性も抱えている。ダンジョンから得られる利益と危険性を天秤にかけ、潰すかどうか判断するのはその領を治める貴族の腕の見せどころでもある。「妬んでるんじゃなきゃ、なんだってんだよ?」「俺ぁよう、ジャークダーの方がいいんじゃねえかって言いてえだけさ」「何だオメエ、ジャークダー
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第25話 はじめての友だち

「こんな店に呼び出すからなんだと思ったら、レーズンバターがお目当てだったのかい?」 ニシュカはその長身を木製の椅子にどっかり据える。 平民向けの居酒屋の椅子はどこも小さめだ。その対比で、ただでさえ大柄なニシュカの身体がさらに大きく見える。「いらしていただけて幸いですわ。たまにはこんな趣向も悪くないかと思いまして」「ハハハ、たしかにそうだな。いつもおんなじ屋敷ん中じゃ息が詰まっちまう。しかし、ひっさびさにこんな格好をしたぜ」 ニシュカはゆったりとした貫頭衣を身に着けていた。 王国風ではない、南方の民族衣装である。布地は足首近くまであり、ところどころに複雑な文様の刺繍が縁取られている。前世風に言うなら長袖のワンピースって感じかな。左頬の傷はファンデーションで隠されており、いつもの凶相は一片たりとも見当たらない。なんというか、ラテン系のスーパーモデルみたいだ。「しかし、ここじゃあんまり込み入った話はできないんじゃねえのかい?」「それなら心配ありませんわ。ちゃんと道具を用意しておりますの」 私はポーチから手のひらサイズの魔道具を取り出して机に置くと、魔力を流しつつ《遮音》という発動句を唱える。すると居酒屋のざわめきが遠くなり、辺りを静寂が包んだ。 一定範囲に音を遮る結界を張る、貴族御用達の魔道具である。「なるほど、密談用の魔道具ってわけか。お貴族様はいろいろ考えやがるねえ」「うふふ、貴族社会はどこに耳があるかわかりませんから」「あっしみてえな平民育ちには一生わかんなそうだぜ。っていうかよ、イズの嬢ちゃんもぼちぼち素で話してくれねえか? ホントのあんたはそんなお高く止まった話し方はしねえだろ」「あー……わかる?」「そんなお嬢様ならモツの煮込みを何皿もおかわりしてねえよ」 ニシュカの三白眼が、私の前に積まれた空の皿に注がれていた。 あっ、いつの間に5皿も食べてたんだろ。えへへ、おいしいからね、つい夢中になっちゃったみたい。屋敷じゃ食べられないし。 まあ、素で話していいというのはぶっちゃけありがたい。 ニシュカとは令嬢モード全開で出会ったので、切り替えるタイミングが見当たらなかったのだ。肩が凝ってしんどいのだよね、令嬢モード。というわけで、私は素に切り替えて話をはじめる。「それじゃ、とりあえずジャークダーグッズの調子はどう?」「急に軽く
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第26話 イログールイの企み

「くそっ! 本当になんなんだジャークダーっていうのは!」 寝室の家具や調度品に当たり散らしながら、金髪を振り乱して喚いているのはイログールイだった。その傍らでは、桃色の髪をした少女――ネトリーが気怠げにベッドに横たわっている。 イログールイは、連日にわたる馬車への嫌がらせや、城壁への落書きといった嫌がらせにすっかり神経をすり減らしていた。王家や貴族一般への批判もあるが、約半数はイログールイを名指しした中傷――事実の割合も多かったのだが――であった。 父王や弟たちも、時折自分に冷たい視線を向けてくる。それどころか、王家に忠誠を誓っているはずの王党派貴族までもだ。最近では貴族学校でも腫れ物に触るような態度で誰も近寄ってこない。 ほんの数ヶ月前までは、登校すれば門をくぐってすぐにでも多くの生徒に囲まれる人気者だったのに、まるきり状況が変わっていた。「ジャスティスサンライズとか言うやつらも、なぜ貴族街を守らない!」 平民街では、ジャスティスサンライズと名乗る冒険者たちがジャークダーの撃退に成功しているらしい。それならばと王家直属の衛兵隊に取り立ててやろうとしたら、平民街を守るので手一杯だといって断ってきた。強制的に召し出してやりたいところだが、厄介なことにヴラドクロウ家の後ろ盾がついていて手が出せないのだ。「イザベラは相変わらず学園に来ないし、卒業式まではもう半年を切ったぞ! 本当にヴラドクロウは潰せるのか!?」 イログールイは頭をかきむしりながら地団駄を踏む。 まるで……いや、子どもの癇癪そのままだ。「安心してよ、イル。いずれ修正力が必ず働くわ。運命は私たちの勝利を約束している。敗北なんてありえないのよ」「そ、それはわかっている。ネトリーの言葉を疑ってなんかいないぞ。だが、ジャークダーもジャスティスサンライズも、ネトリーの予言にはなかったことじゃないか!」 ネトリーは、ふうとため息をついた。「イル、何度も言ってるけど、予言の力はすべてを隈なく見通すものではないの。本筋に関係のない小さな問題は私の予言には現れないのよ」「小さな問題……だと?」「冷静に考えて。ジャークダーが実際にしてきたことを思い出して」「それは……馬車にイタズラをしたり、城壁に落書きをしたり……」「人が死んだり、大怪我をしたことはある? 
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第27話 サインはファンサービスの基本です

「さあ、恐れずに目一杯飛んで! 空中ではコンパクトに身体を畳む! 着地は力を抜いて、勢いのまま転がって! 強張ると逆に怪我をするぞ!」『イーッッッ!!』 よく晴れた朝の採石場。 私はキルレイン様のコスに身を包み、戦闘員たちの訓練に勤しんでいた。サーカス用具として売られていたミニトランポリンが手に入ったので、跳躍系のアクションと受け身を練習させていたのである。「げえ、肘を擦っちまった」「ぐおお……腰を打った……」「でも、いつもよりずっと高く跳べておもしれえな」「スパイディさんみてえに壁を蹴って飛び回れるようになりてえなあ」「バーカ、いくらなんでもそりゃ無謀だぜ」 戦闘員たちは我先にとトランポリンでジャンプし、マットレスに転がっていく。 ふむ、なかなか好評なようだ。 出動がない日はひたすら訓練、訓練、訓練の日々だからな。たまにはこういう遊びの要素があるトレーニングを交えるのもモチベーション維持に良さそうだ。別に使えそうな用具があれば積極的に取り入れていくことにしよう。 トランポリンの扱いにはさっそく慣れてきたようで、コツを掴んだものが別のものに教えていたりする。これならもう見ていなくてもよさそうだな。 私は「くれぐれも怪我には注意するように」と告げて、自分の訓練をはじめることにした。「ふうー、邪刃開放」 私は息を整えて、腰に差した曲刀を抜く。 これは斬殺怪人キルレイン様の基本装備にして、作中でも最強クラスの威力を持つ『邪刃人喰い雄呂血』である。黒光りする刀身を持つ日本刀で、ビルすら真っ二つにする切れ味を持つ。柄には東洋風の細長い龍が絡みついた意匠が施されている。しかし、悪目立ちはしていない控えめのデザインだ。 戦隊モノに登場する武器といえば、キッズ層にウケるよう派手派手しい装飾がつくものなのだが、悪役側の武器だからグッズ展開の予定がなかったのだろう。それがかえって武器としての機能美を実現することになったのだと推測している。結果、ガチの刀匠が鍛えた『リアル人喰い雄呂血(要:鉄砲刀剣類等所有者変更届)』が販売されるにまで至ったのだ。 口の悪いアンチからは「それってただの日本刀じゃんw」などと揶揄するものもいたが、この美しさが理解できないとは知能か視力のどちらかに問題があるとしか思えない。「
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第28話 リーガルバトル・スタート!

 議会裁判とは、その名の通り議会で開催される裁判である。 この国にも一応裁判所はあるが、それは平民同士の係争を解決するためのものだ。裁判所は貴族が平民を統治するための行政機関に過ぎない。小さな街であれば、裁判所を置かず領主が直接裁量を下しているのがほとんどだ 要するに、「三権分立? なにそれおいしいの?」状態なのである。 とはいえ、貴族同士でも当然揉め事は発生する。 そんなときはどうするか。いちいち戦争なんてしていたら国力が消耗するだけだ。 そこで生まれたのが、議会裁判という制度である。 告訴人と被告人とが招集された貴族議員たちの前で討論を交わし、どちらの主張が正しいかを多数決によって判定するのだ。乱用されると議会の機能が停止してしまうため、議員5名以上の連名でなければ提訴できない。 だが、王家の場合は異なる。 王家は単独で議会裁判を開催する権利を持っているのだ。裁判権は国の持つ最高の権力のひとつと言っていい。完全ではないにせよ、それによって王家は貴族への優位をひとつ握っているというわけだ。「ではこれより、裁判を開始する」 木槌の高い音が、広い議場にコーンと響き渡る。 それまでどよめいていた貴族たちが、一斉に背筋を伸ばした。木槌の主はセントリオン公爵家の先代当主だ。真っ白なひげをサンタクロースのように生やした好々爺である。 セントリオン公爵家は中立派貴族の中でもっとも強い勢力を誇る。そして引退した身ということも相まって、王党派と議会派のいずれにも肩入れせず、公正な立場から議事を進められることから、議会ではもう十年以上議長職を任せられている人物だ。「まずは告訴人、イログールイ・ハレム。演壇に上がって主張を述べなさい」「承知しました」 セントリオン閣下に呼ばれ、イログールイが議場中央に進んだ。 もともと座っていた席の横にはネトリーが座っており、「がんばって!」などと小声で応援している。特別に召喚されたものでなければ平民は議場に入れないのだが……おそらくイログールイがわがままを通したのだろう。 議場は半円のすり鉢状になっており、左右には陪審を務める貴族たちが座っている。向かって右側には王党派貴族、左側には議会派貴族が座るのがなんとなくの慣習だ。この世界でも、いつか右翼や左翼なんて言葉が生まれるんだろうか。 正装したイログールイは、原稿
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第29話 誘導尋問

「静粛に! 静粛に!」 コーン、コーンと木槌が鳴る。 やや間があって、ようやく議場を満たす笑いがおさまった。なんだかぷるぷる震えている人も多いが……これ、私のせいなの? ものすっごくもらい事故な気分なんだけど。「ジャークダーを名乗る不定の輩が現れたのが、婚約破棄の3ヶ月後だったということはわかった。しかし、告訴人はこれを以って何の証としているのか説明を求めます」 セントリオン閣下は、真顔に戻って裁判の進行を再開した。 長年議長を務めるだけはある。ちょっとしたアクシデントで動揺はしないようだ。「ふん、説明するまでもないだろう。あの夜からイザベラは学園にも登校しなくなった。その間に、犯行の準備を整えていたんだ」「では、なぜ3ヶ月もの期間が空いたと?」「そんなこともわからないのか? すぐにやれば疑いがかかるからだ。怪しまれないよう、わざと時間を空けたんだよ」「なるほど。では半年や、1年を待たなかった理由は?」「そんなものは知るか! 我慢がきかなくなっただけだろう!」 イログールイの返答に、セントリオン閣下が言葉に詰まっている。 あまりにもめちゃくちゃな主張に、困惑してしまっているようだ。人間、頭の出来が違いすぎると会話が成立しないって言うからな……。どうも、その実例が眼の前で繰り広げられているようだ。「議長閣下、わたくしからも発言してよろしいでしょうか?」「被告人、許可する」 閣下の顔が一瞬ほっとしたように見えた。 まあ、イログールイの相手は疲れるよな……。私も婚約者として接してきた経験がなければ、何から言ったらいいのか途方に暮れていたところだろう。「イログールイ殿下、先ほど空いた期間は『犯行の準備』をしていた、とおっしゃいましたね?」「ああ、そうだ」「具体的には、どんな準備をしていたとお考えですの?」「あの奇矯な変装を用意してたんだろう。犯人の正体を隠すためにな」 よっし、誘導尋問に引っかかった。 チョロいなあ。こんな調子でネトリーにも引っかかったんだろうか。 横目でネトリーを見ると、余裕の表情で座っている。 どう考えても雲行きが怪しいだろうに、まるで勝ちを確信しているようだ。状況にそぐわないその態度に、なんとも表現し難い気持ち悪さをおぼえる。 ま、それはひとまず置いておくとして、イログールイへ返答をしなく
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第30話 判決ッッ!!

「くくく、今度は明白な証拠があるぞ。もう言い逃れはできないからな!」 イログールイは、布をかぶったワゴンの前で自信たっぷりにほくそ笑んでいる。 な、なんだって、証拠があるだとー!? ……なんて、うろたえることはぶっちゃけない。さっきの雑な追求のときも最初は自信たっぷりだったからなあ。とほほなオチが見えている気がしなくはない。「告訴人、証拠とは何かね? もったいつけずに早く見せなさい」「ふん、慌てずともいま見せてやるさ。これが証拠の品だ!」 その言葉とともに、白い布が取り払われた。 その下から姿を表したのは極彩色の枯れ枝のようなものに、乾燥した樹皮を丸めたもの、捻くれ膨らんだ植物の根、煮詰めたような紅色をした星型の何かであった!「南方から密輸された禁輸品だ! すべてヴラドクロウ傘下の商店から今朝押収してきたばかり。何が産地直送だ! 権力を傘に着て堂々と違法な商売をするなど、貴族の風上にもおけん!」「そ、そうか。ああ、そうだな。念のため、被告人イザベラ・ヴラドクロウよ。この件について申開きはあるか?」 セントリオン閣下がこれはどうしたものかとうろたえている。 そりゃそうだ。私もさっきはつい驚いた風のリアクションをしてみてしまったが、満を持して登場した証拠品とやらがこれでは反応にも困ろうというものだ。「では発言します。まず、品物ですが、宝石サンゴに、シナモン、ジンジャー、それからスターアニスに見えますわ。イログールイ殿下、これで間違いないかしら?」「ふっ、いよいよ観念したか。お前の言う通りの品だ。南方との交易では、これらはすべて禁制となっている!」「議長閣下、確認なのですが、これらの品は昨年の七夜月の議会で禁輸が解かれたものでは?」「うむ、そのとおりだ。一部の麻薬や生き物を除き、南方交易での禁輸措置は解かれている」「はあ!? そんなわけがあるか!?」 イログールイが目を剥いて怒鳴るが、そんなわけがあるもないも、実際にそう法律で決まったんだからそこに文句を差し挟む余地はない。 いずれの品も、ニシュカとの付き合いを通じて商機を嗅ぎつけたお父様が議会に働きかけて禁輸を解いたものだ。大昔、南方との関係が険悪だったときに取られた措置がなんとなく続いていただけだったので、とくに反対もなくすんなり通ったらしい。 それにしてもイログ
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