ヴラドクロウ家の使用人、パルレ。 長女イザベラ・ヴラドクロウの付き人であり、幼い頃は遊び友達として、長じてからは侍女として仕え続けている。姓がないことからもわかるとおり、彼女は平民の出だ。魔物に襲われた村の生き残りで、ヴラドクロウ家に拾われて育ったのである。 イザベラは昔から破天荒な性格だったが、例の婚約破棄があってからさらに一皮むけた……というかはっちゃけていた。それまで以上に無茶をするようになったし、「トクサツ」とかいうよくわからないことについて語り出すと止まらなくなった。 ショックで変になってしまったのか……と心配したこともあったが、無茶苦茶ではあるものの話を聞くと理屈は通っているから余計に不思議だった。 事実、『プロジェクト・ジャークダー』は大成功を収め、ハレム王家を追い出してこの国の女王に君臨してしまったのだから恐れ入ると言うほかない。 ……しかし、いまのパルレにとって一番の関心事はそんなことではない。「キルレイン陛下! 頼まれていた書類できたっす!」「うむ、ありがとう」「あとついでに街で評判のお菓子を買ってきたっす! 休憩にどうぞっす!」「お、おお、すまないな。あとで頂くとしよう」「すっすすっす」と奇妙な口癖が抜けない全身黒タイツはマサヨシだ。 ジャークダーの平戦闘員だったのだが、イザベラは詳しく語ってくれないが、先の戦で大手柄を挙げたらしい。そのうえ、物覚えがよく読み書き計算もあっという間にマスターした。 そのため、いまでは女王の筆頭補佐官として働いている。生真面目な性格でみんなに好かれており、古参(といってもせいぜい数ヶ月の差だが)の戦闘員たちもマサヨシの大出世を心から祝っていた。 ……そして、そんなこともパルレにはどうでもいい。 パルレはティーワゴンを押して執務室に入った。「お嬢様、お茶を淹れてきました。そろそろ休憩におやつでも……あら、マサヨシさん、いらしてたんですね! わあ、お土産のお菓子まで! よかったら一緒にお茶をいかがですか?」「えっ、いいんすか? キルレイン様は忙しいんじゃ……」「お嬢様もかまいませんよね?」「あ、ああ、もちろんかまわんぞ。ちょうど小腹が空いてきたところだ」 イザベラが真っ赤な顔をぶんぶんと振っている。 十年以上仕えてきたが、こんな表情のイザベラを見るのははじめて
Dernière mise à jour : 2026-07-13 Read More