「イザベラ・ヴラドクロウ公爵令嬢、本日をもって婚約を白紙にさせてもらう!」 貴族学校で開かれた夜会で、唐突にそんなことを告げられた。 発言の主はイログールイ・ハレム殿下。このハレム王国の王位継承権第一位にして私の婚約者である少年だ。金髪碧眼に整った顔つき。いかにも王子然とした風貌だが、親しく付き合うと小心なところが見えてくる。 その彼が、なぜ突然にこんな大胆なことを?「イログールイ殿下、それはどういうことでございましょう? まず、この婚約は家同士の約束。いくら殿下でも一存で覆せるものではありませんわ。そして、何より婚約破棄の正当な理由がどう考えても見当たりません」「ふん、この期に及んでしらを切るか。ネトリー、こちらにおいで。イザベラに何をされたのか、正直に話すんだ」 イログールイに呼ばれて前に出たのは桃色の髪をした少女だ。 歩くたびにその大きな胸が揺れ、会場の男たちの視線を集めているのがわかる。彼女は平民だが、教会学校での成績が抜群であり、また魔法の才能もあったために特例で貴族学校への入学が認められた珍しい存在だ。 正直、私にはそこまで才気走ったものは感じられなかったけれど……。 それよりも問題だったのは、平民ゆえに貴族の礼儀や作法を知らなかったことだ。すでに婚約者がいる男性にも誰彼かまわず遠慮なく近づき、気軽に声を交わしていたりする。そういった態度はトラブルのもとだ。慎むように注意したことが何度もあった。「あ、あの、じつは……言いにくいんですけど、イザベラ様は私がお嫌いなのか、いつも睨んできたり、嫌味を言ってきたり……」 はあっ!? 私の注意は嫌味だと思われてたの!?「あと、最近は持ち物がなくなってたり、汚されたりすることもあって……」 そんなん知らんわ。自分の不注意だろ。「それで、それで、気のせいだと思いたかったんですけど、つい昨日、階段から突き落とされそうになって……」「ああ、僕が居合わせて受け止めなければ大怪我をするところだった。そして、犯人がいたであろう階段の上に残されていたのがこの証拠品、イザベラのハンカチだ!」 イログールイは懐から1枚のハンカチを取り出して、夜会に集まった貴族子弟たちに見せびらかすように振った。それはいつだったか、私が使用人のひとりに下げ渡したものだ。その後は捨てようが売り払おう
最終更新日 : 2026-07-13 続きを読む