Tous les chapitres de : Chapitre 1 - Chapitre 10

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第一話 このセーラー服は無駄にイケボだ

 雲を突く巨大な岩山。ところどころに山肌を這うように低木が生え、点在する茂みには白く小さな花が咲いている。視線を山頂から反対に向ければ、地平線まで延々と広がる緑の平野が目に入る。ここが地球であったなら観光地として大いに人気を博しただろう。SNS映え間違いなし。「だーれーかーおーたーすーけぇぇぇえええ! へーるぷみぃぃぃいいい!」 そんな景勝地を絶叫しながら全力疾走しているのはわたしこと、高町みさき満三十歳である。背後から響いてくるのは無数の足音と猿のような鳴き声。ちらりと後ろを振り返ると、ニホンザルから全身の毛をむしり、代わりに砂利をびっしりと貼り付けたような怪生物の群れが目に入る。「ご主人、あれは岩ゴブリンと言われる怪物、いわゆる魔物です。地球でいう哺乳類や、それに近しい種のメスであればなんであれ繁殖可能という性質を持ちます。捕まっても大人しくしていれば危害を加えられることはないでしょう。我々の使命を考えますと、ひとまずあれでよいのでは?」「いいわけあるかぁーっ!」 繁殖て。あんな怪物と繁殖て。すでに危害がてんこ盛りじゃねーか。 いまわたしに話しかけてきたのは、わたしが着ているセーラー服だ。三十路がセーラー服を着ていることも理解に苦しむと思うが、セーラー服がしゃべるというのはそれ以上に理解に苦しむ状況だと思う。ついでに言うとこのセーラー服は無駄にイケボだ。わたしが好きな男性声優の声に似ている。 とはいえ、ゆっくりと考え事に浸っている場合じゃない。わたしはセーラー服に問いかける。「あんた色々すごい機能が付いてるんでしょ?! あいつらをパッパと倒しちゃうようなスーパーパワーはないわけ!?」「ご主人、申し訳ありません。まだ小生は起動したばかりでエネルギーが不足しています。また、現在ご主人の走力や心肺機能の強化、大気中に含まれる有害物質及び病原体の排除などを行っているため、エネルギー補充がままならない状態です。率直に言えば、やや赤字。このままですと数十分後にはスリープモードに移行すると予測します」 うそやん……詰んでるやん。異世界転移して小一時間でゴブリンの苗床コースとか、こんなひどい扱いのファンタジーヒロインある? いや、薄い本にならいくらでもありそうか。しかし、わたしに薄い本の主人公にはなり
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第二話 絶対無敵華のJK高町みさき! 十余年の時を超え、いま再びここに推参!

 その日わたしは、昼間からワンルームの自宅に引きこもって平日に録画していた深夜アニメの消化作業に勤しんでいた。昨日から引きこもっていたのでもう40時間は家から出ていない。ビバ土日、ビバ自宅、このまま永久に引きこもっていたい。「あ、そうだ。ハッピーバースデーわたし」 冷蔵庫からコンビニで買っておいたケーキとチューハイの缶を取り出す。定番のショートケーキと、新商品のチーズケーキだ。複数のチーズをブレンドしてまったり濃厚ながらもさっぱりとキレのある後味らしい。よくわからないが、テレビで紹介してたし、ネットの評判も上々みたいだから買ってみた。 ちなみにチューハイはアルコール濃度高めですぐ酔っぱらえるという代物だ。ロング缶6本パックをふたつ買っておいたのに、もう残りは3缶。まだまだ足りぬ。「ふむ、たしかにこれはなかなかのお味。あてくしの当座のスウィーツローテに加えてしんぜよう」 独り言をつぶやきながらケーキを味わっていると、スマホが鳴った。見るとメッセージアプリの着信だ。送信主はお母さん。内容は……開かなくても察しがつくけど、無視してると通話がかかってくるのでしぶしぶ確認する。『みーちゃん誕生日おめでとう! プレゼント送ったけど、もう届いた? 今年はいい人と過ごしてるのかな?? 邪魔しちゃったらごめんね!』 思わずスマホを叩き割りたくなる衝動に駆られるけれど、ぐっとこらえて返信する。『ううん、だいじょうぶ。ありがとう。プレゼントも受け取ったし、ちゃんと楽しく過ごしてるから安心して』 送信するとクマのマスコットが『がんばれ!』と親指を立てているスタンプが送られてきた。再び襲ってきたスマホを叩き割りたい衝動を抑えつつ、スマホを充電台に戻す。 要するに、結婚の催促なのだこれは。 自分で言うのはなんだけれど、我が実家はそこそこの良家である。母は見合いで父を婿として迎え入れたし、妹二人もわたしよりも先に嫁いでいっている。お母さんは心配してくれているのだろうけれど、わたしの中のひねくれた部分が「世間体の悪い、売れ残り」という胸にザクザク刺さる言葉を吐いてくる。 正直なところ、わたしには結婚願望がほとんどない。真剣に恋愛感情を抱いたこともないし、交際しても深い仲まで進んだことがない。それでも、職場で寿退社が続いたり、同級生たちが子どもを授かっていく様子を聞いたりす
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第三話 ゴブリンとかと番えばー、毎月10匹以上は確実に産めるよー

「それでねー、話を戻すとー、あなたはこのたび、異世界転生できることになりました! やっほー! おめでとー! パチパチパチぃ!」 スウェット爆乳は口でパチパチと言いながら両手を叩いた。乳が揺れている。ノーブラやろこいつ、イラッとする。とはいえ、いまはそんな極めて個人的な苛立ちなどよりも優先すべきことがある。私も立派な社会人だ。優先順位は間違えない。「あの、異世界転移と急に言われましても……。チートスキルをもらって、中世ファンタジー風世界に行くっていう、いわゆるライトノベルやアニメみたいな感じのものでしょうか?」「そそ、理解が早くて助かるー」「ええっと、まず転移する先の世界はどんなところで、それからもらえるチートスキルというのはどういう……?」「はーい、まずはこちらの資料をご覧くださーい」 スウェット爆乳がそう言うと、空中に半透明のスクリーンが浮かび上がった。中世風の町並みが映し出され、次いで金属鎧に身を包んだ騎士や、ローブを纏った魔法使い、短躯でヒゲモジャのドワーフ、すらっとしたエルフ、全身が鱗で覆われた二足歩行の爬虫類や、醜悪な見た目をした怪物などなどが次々と表示されていく。「っと、ビジュアルイメージはこんなかんじでーす」「はぁ……」 わかったような、わからないような。どんな生き物がどんな街で暮らしているのかは漠然とはわかったけれど、これでまったく知らない世界に不安なく旅立てるかと言ったら絶対にノーだ。「考えるな、感じろー」「は?」「海外旅行とかでもさ、事前に調べてた内容と違うことなんていくらでもあるじゃんー。こういうのはねー、座学でどれだけ聞いてもいくらでも想定外なんてあるからー、ふわっと、ふわっとイメージくらいでちょーどいいのー。先入観は返って毒。当たって砕けろ、この道を行けばわかるさ、犬も歩けば砕け散るってやつだよー」 ちょっとよくわからないです。あと最後砕け散ってるし。 まあいい。よくはないが、ここで食い下がっても無駄な予感がひしひしとする。無駄な時間を過ごすより、一旦次の話に進もう。「ええっと……正直なところ納得しかねてますが……。チートというのはどんなものをもらえるんでしょうか?」 異世界がどんなところか情報不足でも、それをひっくり返せるくらいの強力なチートスキルをもらえるのなら問題ないだろう。こういうのは俺TUEEEE
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第四話 ポンチョの上からでもわかるその柔軟なる胸部装甲の厚み

 目覚めると、視界に入ったのは見知らぬ岩肌でした。いや、見知ってる岩肌がそもそも存在しないから。 若干頭が痛む。二日酔いかな……。高濃度アルコールチューハイを一日中飲み続けたのは休みだからってさすがに調子に乗りすぎた。あ、やば。いま何時だろ。月曜は朝イチから会議だから遅刻はまずい。 のっそりと上体を起こすと身体からパラパラと藁のようなものが落ちた。どうも藁をかぶって眠っていたらしい。どういう状況だよそれ。こめかみをぐりぐりと揉み、眠る前にしていたことを必死に思い出す。えっと、録りためてたアニメを消化してて、ケーキ食べて、そしたらなんか真っ白なところに拉致られて、ゴブリンの群れに追われて……。「はっ!? 異世界!?」 今度はガバっと立ち上がり、頭を打った。超痛い。涙がにじむ。天井低い。周囲を見回すと、岩をくり抜いて作ったような小部屋のようなところだった。その部屋に置かれた木製の寝台で寝かされていたらしい。「そうだ、ヒゲモジャなおじさんたちに助けられて……。ああ、痛いし、これ間違いなく夢じゃないよね。わたし、異世界転移、しちゃったんだ……」 ノックの音がして、部屋の外から女性の声が聞こえた。「あの、目が覚めました? 失礼しますね」 ドアが開くと現れたのは真っ赤な髪をした中学生くらいの女の子だった。南米の民族衣装を思わせる柄のポンチョのような服を羽織っている。赤髪とか、コスプレでしか見たことがない。しかし、目の前の女の子の髪の毛はコスプレのように浮いた感じがまったくない。わたしの中の異世界実感ポイントがまた1点追加される。 そして何よりも……ゆったりしたポンチョの上からでもわかるその柔軟なる胸部装甲の厚みはなんじゃい。あのスウェット爆乳といい、一連の流れはわたしに対する精神攻撃なのか?「め、目が覚めたなら、これを飲むといいですよ?」 胸部を凝視するわたしの視線にひるみつつ、ポンチョちゃんはわたしにお盆に載せた湯呑を差し出してきた。あ、すみません。他意はないんです。ただ自称神様的なアレを呪っていただけの話です。 両手でありがたく湯呑を受け取ると、中には緑茶的な色合いの熱い液体が入っていた。失礼かもと思いつつ、未知の飲み物をそのまま飲めるほどわたしは豪胆じゃない。くんくんと匂いをかぐと……あれ、これお酒?「はい、私たち天突く岩の氏族の伝
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第五話 はい。わたしの故郷は地球と言います

 小柄なわたしよりもなお頭一つ分以上背の低いミリーちゃんの後をついて、岩を掘り抜いて作られた通路を進んでいく。ドワーフの身長に合わせているのだろう、天井が低くてジャンプしたら頭をぶつけそうだ。 行きすがらミリーちゃんから聞いたところによると、このドワーフの集落は岩山の中に作られており、主な生業としている鉱石の採掘が進むのに伴って何百年もかけて拡大したものらしい。慣れないと迷子になるから、はじめのうちは一人で行動しないようにと注意された。 はい、気をつけます。わたくし高町みさきは方向音痴であります。地下鉄でもよく迷子になりました。「でも、最近は良質の鉱脈がなかなか見つからなくて……ちょっと不景気なんですけどね」 ミリーちゃんが寂しげに付け加える。不景気なところに押しかけてご馳走になることにちくりと胸が痛む。地球だったら小金に不自由はしなかったし、ご飯の借りくらいなら焼き肉でもおごって返せるところなのだけれど。「はい、着きました。ここがこの集落で一番大きい、大広間です!」 ミリーちゃんが示した先には、巨大な空間があった。ドーム球場をそのまま地下に埋め込んだようなイメージだ。広い空間にはたくさんのテーブルと椅子が置かれ、数百人はいるであろう無数のドワーフがジョッキを片手に肉をかじったり、椀に入れたスープらしきものをそこかしこですすってはガハガハと笑っている。 いかにもお祭りって雰囲気で、先ほど聞いた不景気という言葉には似つかわしくないが、これがドワーフの標準的な食事風景なんだろうか。 ザ・筋肉ダルマという風体のヒゲモジャさんたちが目立つが、それに混じってミリーちゃんと同じような女の子たちもたくさんいる。大人の女性が見当たらないあたり、きっと料理に忙殺されていたりするんだろう。「お父さん、お客さんを連れてきたよー」「おう、ミリーありがとうな。加護なしの嬢ちゃん、気分はよくなったかい?」 一瞬反応できなかったが、ワンテンポ置いてから「加護なしの嬢ちゃん」というのが自分を指しているということに気がついた。こっちの世界では人間のことを「加護なし」と呼ぶんだろうか?「ああ、聞き慣れなかったか。加護なしっていうのは嬢ちゃんたちみたいな精霊の加護が薄い連中のことを言うんだ。おれたちは地霊の加護が強いだろう? だから、この天突く岩でも不自由なく動き回
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第六話 諸君は合法ロリ巨乳種族だったのか

「まったく、岩ゴブリンの大猟を喜ぶとは世も末じゃの……」「よせよ、オババ。それを言われると苦しいが、最近じゃまともな鉱脈が見つからねえんだ。こうでもしなきゃ、この村が立ち行かねえのはオババにだってわかってんだろ?」 横から声をかけられ、そちらを見るとミリーちゃんを一回りくらい大きくした女の子が立っていた。柔軟なる胸部装甲もミリーちゃんより一回り分厚い。やはり髪は赤く、年齢は高校生くらいだろうか。名前は……オババちゃん?「お前さんが噂の客人か。たしかに加護もないし、体を鍛えているようにも見えん。人語を操る服とやらからもさしたる魔力を感じぬが、しかし……」 オババちゃんが目をすがめてこちらを見つめてくる。なにこれ? なんかわたしに秘められた超パワーとかが覚醒するフラグ? それとも転移者ってことがバレて追放されちゃう系……?「オババ、やめねえか。客人が困ってるぞ」「おお、これはすまぬの。なにしろこの歳でな、こう目を細めんとよく物が見えんのじゃ」 んん? 歳って? ドワーフの女性って高校生くらいで老眼になっちゃうの!?「ご主人、ドワーフの女性は人間の基準ではいつまでも若く美しく見えるのです。オババ様、小生も知識としては存じておりましたが、こう実際に目にすると驚きを禁じえません。てっきりミリーさんの姉妹かと思ってしまいました」「ほっほっ、うれしいことを言ってくれるの。服のくせにずいぶんと女たらしのようじゃ」「ははは、そう願いたいものではありますが生憎と小生は単なる布切れ、この身がドワーフであったのなら、さっそくオババ様を口説いていたところでしたのに」 イタリア産プレイボーイのような歯の浮くセリフを吐きながらオババちゃんと軽妙な会話を繰り広げる我がセーラー服。こいつ、持ち主のわたしよりコミュ力高くないか……?「オババはな、この村の長老なんだ。加護なしにはピンと来ねえだろうが、もう何百年も生きてて自分の歳もおぼえてねえくらいだ。だがその分、知恵者だからな。わからないことがあったらオババに聞くといい」「ふん、いまさらおだてても遅いよ。じゃが、客人よ、山の暮らしは不慣れじゃろうし、加護なしに天突く岩は厳しかろう。困りごとがあればこのオババに遠慮なく相談するんじゃぞ」 オババちゃん、改めオババ様が微笑みかけてくれる。見た目は女子高生くらいだけれ
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第七話 西欧文明的啓蒙主義はまったくよろしからんものだ

 考えてみれば未成年飲酒の規制なんてものは、地球にしたって近代の先進国からはじまった習慣に過ぎないだろう。郷に入れば郷に従え。西欧文明的啓蒙主義はまったくよろしからんものだ。細かいことを気にするのはやめて、異世界で味わう2杯目のお酒を堪能しよう。 まずはジョッキに鼻を近づけ香りを確認する。ジョッキを覆う薄い泡の膜がはじけ、鼻の頭に少ししぶきが散る。香りはあまりしない。アルコール臭もそれほど感じない。ドワーフと言うと度の強い酒をガブ飲みするイメージだったけど、やはり子ども向けということで度数控えめなのかもしれない。 続いて味だ。一気に流し込むのが作法のようだが、失礼してまず一口。おっ、よく冷えてる。控えめな酸味と甘み。わずかなとろみがあるが、微炭酸が口中を刺激して後味も爽やかだ。地球のお酒で例えるなら、マッコリを炭酸水で割ったら近い味わいになりそうだ。 次は周囲に倣ってゴクゴクとジョッキの半分くらいまで飲み干す。おほー、これは爽快。素早く口の中を通過することで甘みよりも酸味が引き立ち、弱っていない炭酸がキレのある喉越しを演出する。うん、焼き肉とかのこってりした料理に合いそうだぞ。「みさきさん、これにかぶりついてからまた飲んでみてください。エンペールとプチハーピーのお肉は最高に合うんですよ」 はじめて飲むお酒に夢中になっていたら、ミリーちゃんがお皿に骨付き鶏もも肉的なものを差し出してくれた。ハーピーってファンタジーに出てくる人面鳥みたいなやつだよね……と一瞬脳裏に嫌な想像がよぎったが、郷に入れば郷に従えだ。地球にだって猿のたぐいを食べる文化はあったし、気にしていてははじまらない。それよりなにより、目の前の脂が滴るローストチキン的な物の前に、日本的倫理感など風の前の塵に同じだ。肉を掴んでばくりとかじりつく。「ふぉぉぉおおお……おおお……」 まさに弾ける肉汁。肉の表面を歯が突き破った瞬間に口の中に溢れんばかりの肉汁が飛び出す。いや、実際ちょっと口の端から脂が垂れてしまった。キャッ、はしたない。しかし口中を満たす肉汁の前にそんな些細なことは気にしていられない。お肉のジューシーさに気を取られて気が付かなかったが、肉とは違う複雑な香りがするな。そして若干の辛味。ハーブや唐辛子的なものに漬け込んでから焼いたのだろうか。 ああ、いかんいかん。この脂の後味が
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第八話 薄手の肌着に前掛けをした準裸エプロンスタイル

 首がもげるんじゃないかって勢いで頷いてくれたミリーちゃんに速攻で調理場に案内された。調理場は大広間の横を掘って設置されており、調理中の煙や匂いが広間に流れないよう工夫されているようだ。調理場で働いていたのは十人足らずでヒゲモジャと合法ロリが半々。男子厨房に入るべからず的な価値観ではないようだ。 ミリーちゃんが調理場のボスっぽいロリっ娘に許可を取ってくれたので、さっそく食材のチェックに入る。鶏もも肉は想像通り、漬け込みダレと共に壺の中に入っている。味付けをしていないものは、調理場の地下にある保冷庫で保存しているそうだ。地霊様の力を借りて冷やしているとのこと。地霊様すげえ……と思うがそこを深く聞きだしたら時間がいくらあっても足りなそうだからぐっとがまん。 茸は予想に反してそのまま山積みだ。てっきりマリネ液に漬け込んでいるものかと考えていた。聞いてみると、食べる直前にさっと酢と塩で和えるそうだ。その方がシャキシャキとした食感が残っておいしいとのこと。思ったより出汁の出やすい食材なのかもしれない。 塩や香辛料は種類ごとに小壺に入って保存されていた。ひとつずつ味を確認し、内心で地球の香辛料に当てはめていく。これは唐辛子、これはクミン、これはニンニクっぽい? まだまだあるな。これはバジル、この舌にびりっとくるのはローズマリー? これは……わからん。味わったことのない香りだ。 食材のチェックが一通り済んだら調理器具の確認だ。包丁は中華包丁のようなどデカい刃物と、ペティナイフのような小さな物のみ。さすがに中華包丁を使ったことはないが、繊細な包丁仕事をやるつもりはないので大丈夫だろう。 次にいまも絶賛鶏もも肉を炙っている焼き場を確認。数本の細い鉄串に貫かれたモモ肉が真っ赤に焼けた砂利のようなものの上でじゅうじゅうと音を立てている。石と肉の間には金属製の樋のようなものがあり、それが落ちた脂を受け止めて、脇の壺へと流しているようだ。 焼き場を担当しているヒゲモジャさんに尋ねる。熱のせいか薄手の肌着に前掛けをした準裸エプロンスタイルだ。誰得よこれ?「この脂って何かに使ってるんですか?」「昔は灯し油なんかに使ってたけどなあ。いまは捨てっちまうな」「それなら、お料理に使ってもいいですよね?」「おう、何を作るんだか知らねえが、
last updateDernière mise à jour : 2026-07-13
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第九話 これを捨てていたなんて、とんでもない!

 炙る前の生の鶏もも肉を一本分けてもらう。量は少ないが、女子会向けの試食用としては十分だろう。いきなりたくさん作って、舌に合わなかったら悲惨である。 ナイフと中華包丁もどきを借り、鶏もも肉から骨を外す行程に入る。鶏肉を解体している動画を見たことはあるが、実践したことはないし内容もうろおぼえだ。だが、今回はチキンソテーを作ろうというわけでないので形にこだわる必要はない。 というわけで、まず中華包丁で関節部分をドカンと切り離し、ナイフでギコギコと骨から肉を剥ぎ取っていく。ふむ、多少手間取ったけれど案外キレイにできた。プチハーピーというやつは地球の鶏よりも身離れがいいのかもしれない。 解体したお肉は一口大のぶつ切りにし、軽く塩を振る。できれば炒めて焼き目をつけたいが……フライパン的な調理器具が見当たらない。炒めるという文化がないんだろうか? 炙り肉の脂を受けていた樋の上でも焼けそうだが、めちゃくちゃ熱そうなので断念。ドワーフといえば鍛冶が定番だし、後でフライパンの製造を進言してみよう。 お肉の準備ができたら次は脂だ。焼き場の準裸エプロンさんから新しく溜まった脂をもらい、小壺に移す。ふーむ、芳醇なる肉汁の香り。これを捨てていたなんて、とんでもない! 小壺に移した脂に、唐辛子とニンニクっぽい香辛料と塩を入れてよく混ぜる。他にも試してみたい香辛料がたくさんあったが、ただでさえアレンジレシピなのだ。あまり冒険をするのはやめておこう。 小壺の中にやはり一口大にむしった張り付き茸とぶつ切りにした鶏肉を加えて軽く混ぜたら下準備は終了だ。再び準裸エプロンさんの元へ行き、小壺を赤熱する砂利の隣に置かせてもらう。これで脂が沸騰したら完成の見込み。って、そこまで熱々になったら素手じゃつかめないな。キッチングローブ的なものはあるんだろうか? 火元から少し離れて観察すること数分。さっそく脂がふつふつと沸いてきた。すごい火力だ。ミリーちゃんがポンチョの中から取り出してくれた革手袋をはめ、小壺を火元から離す。ドワーフ的に皮手袋は標準装備なんだろうか? さらに鶏を炙るのに使っていた鉄串を借り、壺の中に突き刺して鶏肉を一欠取り出して頬張る。 ふほほ、熱々だ。うん、しっかり芯まで火が通ってる。塩加減も我ながら完璧だ。本来はオリーブオイルを使うけれど、同じ肉から出
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第十話 異世界物において約束された勝ち確料理であるカレーも作ってみたが

 あのアヒージョ・ナイト・フィーバーの日から体感で1ヶ月くらいが経った。体感で、というのはこの世界は「1日」という基準からして根本的に地球と異なるのだ。1日の長さが違うとかそういう次元の話ではなく、日の出、日没がそもそも存在しない。 空には複数の太陽が輝き、そしてそれがまた複数の真っ黒く光を放つ何かとせめぎ合っている。この何かは「太陰」と呼ばれているそうだ。黒い光ってなんだよと思うが、そうとしか表現しようがない。黒い球体が中心にあって、そこから闇が放射されているのだ。セーラー服君曰く、「この世界における闇は光の当たらない場所という意味には限りません」とのこと。人の心の闇とかそういうのですかね。上手い! 座布団一枚。 日の出や日没が存在しないのに日時をどうやって把握しているのかというと、まったく都合のいいことに、東西南北から一定の間隔を置いて雷鳴のようなものが轟くのだ。ドワーフの集落は地下なので聞こえなかったが、地上にいれば世界中のどこにいても聞こえると言われているらしい。 そんなわけで、日時を決めて人と約束をするときは「西の雷鳴が3つ轟いた刻に」などと言うのだそうだ。うへぇ、これは慣れるまでたいへんそうだ。まあ、ドワーフ村にいる限りはこの手の約束をする機会はなさそうだけれど。 そう、わたしはあれからずっとドワーフ村に滞在している。あのアヒージョの一件以来、わたしは「料理の聖女」として讃えられ、厨房での新作料理の開発を一任されているのだ。うへへ、わたし異世界で聖女になっちゃいましたよ。ローガンさんも「嬢ちゃんと出会ったのは妻と結婚できたことと、ミリーを授かったことの次に幸運だった」と喜んでくれている。 ちなみにローガンさんの奥さんはミリーちゃんがいまよりずっと幼い頃に亡くなったそうだ。ってことは、きっと十年や二十年は過ぎてるんだなあ……。そんなに経つのにまだ奥さんとの結婚が一番の幸運だったなんて、ローガンさん愛妻家すぎる。精神的イケメンか。ヒゲモジャ樽型マッチョのくせに、ヒゲモジャ樽型マッチョのくせに。 一年という単位にも太陽と太陰が絡んでいる。わたしはまだ見たことがないが、なんでも周期的に空が灰色に染まり、太陽と太陰の位置が入れ替わる現象が起きるそうだ。それを以って、この世界の人々は時節の区切りとしているそう。 セーラー服君によれば、「東西南北」とか
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