「瘴気領域とは何か……でございますか。改めて尋ねられると難しい質問ですね」「ンな難しいことはねえだろうよ。どこまで行っても不毛で、たまに魔物が現れる。軽い気持ちで近づくと大やけどするってだけおぼえときゃあ不自由はねえよ」 サルタナさんと酔っぱらいの反応が対照的だ。普通に暮らしていくだけなら、たしかに酔っぱらいの言うことが正しいのだろう。だが、わたしたちはこれからその瘴気領域を突っ切らなければならないのだ。「わたくしは専門外でしたので詳しくは存じませんが、魔術師からは汚れた魔素が溜まった地、神学の立場からは遥か古代に倒れた邪神の呪いの残滓……などと言われているようでございます」 そういえばサルタナさんは、緑の魔王によって滅んだという皇都で勉強していたインテリだった。瘴気領域というのは人類社会の大敵らしいし、研究が進んでいて当然だろう。「しかし、まだまだ不明なことばかりではっきりしたことは何もわからない……というのが実情のようでございますね。調査には危険も伴いますし、直接の利益が見込める研究でもありませんから。予算もあまりなかったようでございます」 ありゃま、あっさり肩透かしだ。思い返してみれば、地球でも温暖化やら環境汚染の研究が進んだのはごく近年に入ってからのことだった。危ない上にお金にならない研究なんて、そうそう手を出したがる人は多くないのだろう。 あの女神モドキから「使命」なるものを授かってしまっているので真正面から向き合わざるを得ないが、それさえなければわたしだって無関心を貫いたんじゃないかと思う。「おう、ねえちゃんの言うとおりだ。瘴気を吸うだけで寿命が縮まるっつうし、畑も作れねえ。どこの領主様だって瘴気領域になんざ興味ねえだろうよ」 おれらみたいな冒険者は別だがな、と酔っぱらいがやけくそ気味に笑う。 瘴気というのはドワーフ村にあの怪物が現れたときの異臭のことだろう。たしかに、あんなものを吸い続けていたら寿命が縮まっても不思議はない気がする。「このあたりに出る魔物はお金にならないんですか?」「このへんのゴブリンはなあ、魔石ぐらいしか売れる素材が取れねえんだよ。よーく脂がついてるから昔はそれが売れたんだが……いまじゃもっぱらアレだからな」 と、酔っぱらいが向けた視線の先には酒場の照明がある。あれも光輝石とか言うもので光っているのだろう。
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-13 อ่านเพิ่มเติม