All Chapters of 三十路OL、セーラー服で異世界転移 ~ゴブリンの嫁になるか魔王的な存在を倒すか二択を迫られてます~: Chapter 101 - Chapter 110

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第九十二話 代わりにすんごくおバカになるみたいー

 大ゴブリンの緑色の皮膚が内側から押し上げられたように波打ちはじめる。皮膚が盛り上がるたびに、ウロコが松かさ状に逆立つ。「ごれ゛……おま゛……なにを飲まぜだ……?」「ちょー強くなるおクスリぃー」 関節までぶくぶくと膨らんだ大ゴブリンが、緩慢な動きで浅黒女に掴みかかる。浅黒女は余裕をもってそれを避け、数回飛び退いて距離を置く。「強くなるけどー、代わりにすんごくおバカになるみたいー。じゃー、あーしはこんなところでしっつれーい」「ぎざ……謀ったな゛……」 浅黒女が壊された北門に向かって走り去っていく。 大ゴブリンはそれを追って一歩、二歩と進み、膝をついた。排水溝から水が逆流したような音が喉から鳴っている。四つん這いになり、そらから背骨が折れるのではないかと思うほどに背を反らす。脇腹がひび割れ、引き裂け、しわだらけの赤い肉が露出した。 古代魚のエラを思わせるそれは規則的に脈動し、例えようもない色の粘液を垂れ流す。さらに背を反り、バキバキと硬いものが折れる音が響く。大ゴブリンの腹が割れ、中から内臓がこぼれだす。あふれた腸はビクビクと震えると、あちこちに無数の腫瘍が生じ、幼児が粘土で作ったような、かろうじて人面に見える何かを無数に形作った。 ついに大ゴブリンの後頭部と臀部が接触する。両手が地につき、腹を天に向けた四足の生物のような姿となった。胸が真ん中から割れて肋骨が飛び出し、尖った先端が不規則に四方に向けられたままゆらゆらと動いている。 割れた胸の奥から赤い何かが飛び出し、周辺に倒れていたトカゲゴブリンの死骸を引き込む。まるで昆虫を捕らえるカエルのようだ。数体の死骸を体内にしまい込むと、無数の肋骨が内側に折りたたまれ、ごりぼり、べちゃぐちゃと汚い音を立てる。「うべぇ……うめ゛……うめ゛ぇぇぇ……」 逆さまになった大ゴブリンの顔が喜悦に歪む。本来、口であった部分から大量の涎があふれ、頭頂に向かって垂れ流される。 トカゲゴブリンの、そして同じく倒れたエルフの戦士たちの死骸を次々に取り込み、背側に二つ折りになった大ゴブリンが肥大化していく。激昂したエルフたちが次々に矢を打ち込むが、人面つきの腸が振り回され、それを叩き落とす。 形状こそまるで違うが……これは選考会の馬頭ゴブリンと同じ現象だ。どういうわけだが知らないが、ボルデモンの
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第九十三話 全身鎧(フルプレート)モード

 光の泡が、わたしの全身を包み込む。頭部はティアラではなく、顔以外をすっぽり覆う兜に、腕は上腕だけでなく、二の腕まで完全に装甲に覆われる。胴鎧も厚い金属になり、脚もつけ根まで金属で包まれた。 まるでファンタジーの重装騎士のようだ。心なしか、これまでのセーラー鎧モード以上に力がみなぎるような気がする。これならどんな攻撃も通らないし、どんな敵でも砕ける……そんな万能感に心が酔う。「パワーと防御力に重点的にエネルギーを割り振りました。重量も大幅に増しているためスピードは劣るのでご注意を。全身鎧モード、とでも名付けましょうか」 セーラー服君よ……こういう便利なことができるんならもっと早く提案しようか。これまでにも使える場面があった気がするぞ。「いえ、ご主人。このプログラムが完成したのは21時間前ですので不可能ですね」 え、これ新機能なの? そういうことできるの?「自己改善などご主人でもやっています。小生にもできないわけがないでしょう」 どういう意味やねん、それ。若干納得しかねる気分は残るがセーラー服君と口論しているうちにエネルギー切れになってしまっては笑い話にもならない。ひとまず自慢の防御力とやらを試させてもらおうか。 先ほどまでの動きから推測した触手の間合いのギリギリまで近づいてみる。あちこちに人面のような瘤がついた腸が、大ゴブリンの上でうねうねと動いている。うーむ、キモい。あまりじっくり観察したいものではないが、背に腹は代えられない。 頭上の触手を警戒していると正面から赤い何かが一直線に伸びてくる。慌てて戦鎚で受けると、粘着性なのか赤い何かは柄にべったりと張り付き、ぐいぐいと引っ張られる。 視線で根元をたどると、大ゴブリンの胸にできた巨大な口につながっていた。この赤いぬめぬめは舌みたいなものか。くそ、腸触手にばかり気を取られてこっちを忘れてたぜ。 かなりの力で引かれているが、力負けするかんじはまったくしない。セーラー服君の自信作だけはあるようだ。これならいけるか……? と戦鎚から右手を離し、左手だけで保持する。うん、問題なし。というわけでこいつをくらえッ! 右手で背中のミスリル戦鎚を抜き、大ゴブリンの舌を上から思いっきり叩きつける。戦鎚と地面と挟まれたそれは引きちぎれ、赤黒い液体をまき散らかしながら戻っていく。舌先は黒戦鎚に張
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第九十四話 超高速(ハイスピード)モード

 地響きを立てながら竹製の大巨人が一歩、また一歩と村に迫ってくる。ミリーちゃんが銃で、エルフたちが弓矢で頭部の狙撃を試みるが当たる気配がない。巨体のために、身じろぎひとつで位置が大きくずれるのだ。到底狙えるものではない。 足から崩す……というのも現実的ではないだろう。巨人の片足だけで物見櫓と同じくらいの太さがあるのだ。木こりの集団を連れてきたって1日2日じゃ崩せなさそうだ。 幸いにして動きはかなり遅い。セーラー服君のエネルギー消費を抑えるため、なるべくじっとしたまま敵を観察する。頭部は生首状態で逃げ出したときから変わってないように見える。 なんとかしてあそこまで這い上がって……いや、どう考えても無理だ。ちょっとしたマンションくらいの高さがあるぞ。おまけに動いてるし、ときどきニュースを騒がせていた蜘蛛人間リスペクトの人でも登るのは厳しいだろう。「ご主人、次のモードに移行します」 セーラー服君が「こんなこともあろうかと」とでもいった雰囲気で言葉を発し、再び光の泡へと変わる。上半身は元のセーラー服に戻り、下半身のみ姿を変えた。 金属製のスカートが大きく広がり、両足が細身の装甲で覆われる。膝下のみちょっといかついブーツのようだ。えっ、もしかしてこれ飛べたりするやつじゃない?「残念ながら飛行はできません。しかし、脚力に特化した超高速モードですので、あの巨人の頭部まで駆け上がる程度は造作ありません。そのぶん、パワーと防御力と犠牲になっているのでご注意を」 わーぉ、パワー特化モードの次はスピード特化モードとか、なかなかわかってるじゃないのセーラー服君。そういうことなら村の被害が拡大する前にとっとと片付けちゃますかね! パワーが落ちたために先ほどまでのように2本の戦鎚を振り回すのはむずかしい。いったん両方とも背負い直して巨人に向かってダッシュする。加速がすごい。風圧で髪がたなびく。ひと蹴りで巨人の足首まで到達する。そこから巨人の体にある凹凸に足をかけながら頭部に向かって駆け上がる。あっという間に地面が遠くなる。わたしを狙って竹槍のようなものが次々に飛び出すが、すべて置き去りにして頭部まで駆け上がる。 瞬時にして眼前に現れたわたしの姿を見る大ゴブリンの瞳は驚愕に染まっていた。 明らかに感情を持つその表情に一瞬目をそらしてしまう。だが、背後を見
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第九十五話 日本にいたころは宗教なんてまるで信じてなかったけど

 しとしと降る雨の中、エルフの男たちがトカゲゴブリンの死骸を淡々と片付けている。あの大巨人が崩れ去った直後は戦勝の高揚であちこちから歓声が上がっていたが、しばらく経てば昂ぶった感情もおさまる。いまは粛々と戦後処理をしているわけだ。 結果的に、南門が突破されることはなく、そちらから押し寄せたゴブリンは矢の的になっただけだった。問題は北門側だ。白兵戦に持ち込まれたために、死傷者はそれなりに出ている。 敵の戦力を考えれば信じられないほどに被害は少なかったそうだが、それを聞いて親しいものを失った悲しみが和らぐものではない。雨音に混じって、夫や兄弟、息子を失った者たちのすすり泣く声が聞こえてくる。 正直に言って気が滅入る。この世界に来てずいぶん修羅場をくぐってきた気がしていたが、身近で人が死んだのははじめての経験だ。日本で見ていたアニメの主人公なら翌週の放送にはもう何もなかったように振る舞っていたが、わたしの精神はそんなにタフじゃない。 こんなときなら普段鬱陶しいだけのセーラー服君の嫌味でも歓迎できそうなのだが、例によってスリープモードである。まったく、この布切れといったら間がいいのやら悪いのやら。「これお願いします」「はい」 竹籠を牽いてきたエルフに短く返事をする。トカゲゴブリンの詰まった竹籠にフックをかけてロープを引く。わたしひとりでは体重が足りないから、何人かのエルフとの共同作業だ。 魔物の死体処理について心配していた衛生面の懸念だが、結論から言えばまったく問題なかった。丸一日経ったころには綺麗サッパリなくなっていたのだ。 マーシャルさんによれば、風霊様が魔物の身体にこもった瘴気を祓うと共に、肉体も分解して自然の営みの中に戻すのだそうだ。この世界、微生物とかどうなってるんだろ? エルフの犠牲者については丁寧に化粧を施して着飾らせ、家族や友人と数日過ごしてから御柱のなるべく高いところに吊り上げて葬るのだそうだ。そうすることで、魂が風霊様のもとへ還り、時をおいてまた村に帰ってくると信じられている。 いわゆる輪廻信仰ってやつだ。日本にいたころは宗教なんてまるで信じてなかったけど、こっちに来たら実物の神様に会っちゃったからな。きっとそんなこともあるんだろう、と受け入れられる程度にはわたしの価値観は変化している。「雨はもうこんなところでよさそうだぞ」「
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第九十六話 丈夫な身体に産んでくれた両親のおかげ?

 ゆっくりじっくりと時間をかけて食事を堪能した上で、爪楊枝でしはしはと歯をすすりながら旧ロマノワさん、現女神モドキのところへと向かう。猿ぐつわ的なものこそしていないが、全身ロープでぐるぐる巻の簀巻き状態である。「高町先生ぃぃぃ、ぜんぶ誤解なんス! 悲しい行き違いなんス!」 ほーう、行き違いとな。ではどうして君は大ゴブリンの戦斧で滅多打ちにされた上に変形大ゴブリンの胃の中におさめられた上にわたしの全力の戦鎚を食らっても傷ひとつないのかなあ、おおん?「それはー、なんというかー、丈夫な身体に産んでくれた両親のおかげ? 的なー……あっ、ッス」 釣り上げられた魚のようにびちびちしながら女神モドキが言い訳をする。超高速で目がきょろきょろしてるし、顔中冷や汗でびっしょりだし、これで言い訳になると思ってるのだろうかコイツは。「聞きたいことは山ほどあるけど、最初に質問。わたしを日本に帰すことはできるの?」 とりあえずこれは聞いておかねばなるまい。こっちの世界でもたくさんの義理ができてしまったから、帰れるならそれで「はいさようなら」ってわけにはいかないが、会社には無断欠勤で迷惑をかけているだろうし、家族だって心配しているだろう。 ありのままの事情を話す……ことは難しいが、せめて身の無事くらいは知らせておきたい。「ええっ!? そんなどんな病原体もらって来たかわからない生体なんて譁?ュ怜喧が雫七 而耳自??でしょ!」 んん? なんかさっぱりわからない言葉を使ってきたぞ。いまはセーラー服君が眠ってるからミニドラちゃんセットで翻訳してるけど、なんかバグったのかな?「あれ、いま包シ搾シ?ソ? えっ、なんで? 『医?ョ萓?』! は? え、どうして?」 怪訝に思ったわたし以上に、女神モドキがパニックに陥っている。これまでの修羅場でも散々ビビりまくってたけど、それとはなんか違う印象だ。なんというか……めっちゃ切羽詰まってるかんじ?「『医?ョ萓?』! 『医?ョ萓?』! 『医?ョ萓?』! 『医?ョ萓?ーー』!! なんで医?ョ萓?できないの!? おかしいじゃない!」 どういうことなの……? さっぱりわからん。ちょっと女神モドキよ、整理して説明しなさい。「説明も何もこんなサ嵂ス、ア、キで包シ搾シ?ソなんて聞いたこともないわよ! どうしてくれんのよ! ねえ、どうしてくれんの!?」
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第九十七話 馬車馬のように働かせてやってください

「ほーん、これが邪神かいな。ガワはたしかに人間そのものやけど、中身はえらい違うのう」「わ、私を邪神って! 現地発生の蜈?〒縺阪kのくせに!」「あ、また出た。メルカト様いまの言葉わかります?」「わからんなあ……。しっかし、ムシゴブリンの鳴き声みたいでキショイのう」 エルフの森でのなんやかんやから数日後、わたしたちは学術都市に戻ってきた。そしてサルタナさんと一緒に女神モドキを引っ立ててメルカト様の神殿を訪れている。 正直なところ、この女神モドキの扱いに困ってしまったのだ。罪人というわけでなし、衛兵に突き出しても意味はない。さりとて邪神なんて言われる存在を放置するわけにもいかない。 というわけで、神つながりのメルカト様に相談しにきたのだ。いっそ封印とかそういうのできないんですかね?「肉体的には完全に人間やから封印はむずかしいのう。やたら丈夫にできてるみたいやけど強さは並の人間と変わらんみたいやし、神殿で預かってこき使ったろか?」「ああ、それがいいですね。この世界にかけた迷惑を償うまで馬車馬のように働かせてやってください」「よくないよくない! そんなの絶対つまんないじゃん! 医?ョ萓?できればすぐにでも帰るのに……」 両手を縛られ、腰縄を結ばれた女神モドキが喚くが誰も相手にしない。「~~ッス」はキャラを作ってただけのようで、いつの間にか口調が変わっている。いまさらごまかしようがないと諦めたのだろう。 それにしても、急に面倒ごとを押し付けちゃって申し訳ないですね。「それはかまへんよ。この邪神をこき使えるなんてむしろ願ったりや。他の神さん連中もようけ迷惑こうむっとるからのう。なんなら鬱憤晴らしにあちこちの神殿に貸し出してもいい商売になりそうや」「ちょっと! 私をストレス発散用のサンドバッグみたいな扱いしないでよ!?」 女神モドキが涙目で騒ぐのをメルカト様がにやにやと眺めている。案外Sっ気があるのだな。「ま、これのことは一旦それでええやろ。正体はこっちでも探っておくわ。ところで嬢ちゃんの目的は果たせたんか?」 目的かあ。半分は達成したって感じですかねえ。 ゴブリンとの戦争中はそれどころではなかったが、帰りの旅路でプランツ教授にドワーフ村で育てられそうな作物については相談済みだった。それによると、手持ちにサンプルがないが南方連合とかいう国のあたり
last updateLast Updated : 2026-07-13
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閑話10 貧乳フェチ、勇者になる

 交易都市と第二皇都をつなぐ街道を、神輿を運ぶ帝国兵の一団が進んでいた。先頭では立派な馬に乗る騎士が旗を掲げ、楽隊が勇壮な音楽をかき鳴らしている。神輿の中は薄手の布に覆われてはっきりとはわからないが、中に人が乗っていることはわかった。「ひかえーい! ひかえーい! 緑の魔王を打ち倒した『鉄の棺の勇者』様のお通りであるぞー!」「だ、だ、だから僕は魔王なんて倒してないんですって!」 神輿の中にいるのはドワーフの若者だった。出身は天突く岩、陶工としての腕前は高いが、気が弱く戦いには向かない。名をカガという。回りくどい表現になったが、要するに高町みさきに執着する貧乳フェチである。「緑の魔王が倒されたってホントかよ?」「マジらしいぞ。さっき先触れが来て看板まで立てていきやがった」「ひゃー、そりゃありがてぇなあ」「まったくだ。これでこのあたりに来る行商も増えるだろうよ」 人々は神輿を運ぶ行列に道を譲り、感謝を込めてカガに向かって手を合わせる。 緑の魔王もろとも皇都が壊滅した後、カガは息も絶え絶えに交易都市へとたどり着いた。ほぼ丸一日走り通しだったために、街門に着くなり倒れ込み、気を失ってしまったのである。 緑の魔王が皇都を滅ぼして以来、そちら側から来る旅人など皆無だった。只事ではないとにらんだ門兵はカガを手厚く介抱し、事情を聞こうとした。その際、カガが「魔王……み、どりの魔王……死んだ……」などとうわ言を口にしていたため、早馬で皇都の様子を偵察したのだ。 そこに広がっていたのは一面の廃墟。緑の魔王との争いは過去何度となく繰り返されてきたが、いずれも一方的に野菜に変えられるだけでまともな戦いになどならなかった。このように、壮絶な戦いの痕跡が残ることなどなかったのである。 この知らせは伝書ハーピーを用いて即座に各所へと報じられ、帝国中に激震が走った。これが事実であれば、皇都の警戒に当てていた兵力を魔王蛸髭へ向けられる。また、交通の要所であった皇都の往来が再開すれば、国内の景気も一気に上向くはずだ。 カガが朦朧と寝込んでいた数日の間に、皇都の調査は完了し、旅のドワーフがたった一人で魔王を打ち倒したと喧伝された。吟遊詩人の歌うところでは、その戦いは神話のそれをなぞる如くであり、獅子奮迅の激闘の余波で皇都は壊滅してしまった……ということ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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閑話11 魔王蛸髭

「髭」の1本が死んだ。 王国と南方連合の間にある瘴気領域の外れ。一匹のゴブリン変異種が、針を刺すような痛みでそれを感じ取った。(これは、ギガーズか) 思案顔になり、顎髭をさする。否、髭ではない。毛の代わりに、蛸のような触手が無数に生えていた。それをぬるりぬるりと片手でしごく。 ゴブリンは人間の間で魔王蛸髭と呼ばれる魔物だった。蛸髭はゴブリンとしては破格に高い知能と大きな体を持っていた。それを活かし、武具を器用に操り、罠を駆使し、同族を率いて多くの人間を狩った。 支配下に置いた人間の村から税を搾り取ることをおぼえると、彼の群れは急速に発展した。安定した食料供給により爆発的に数を増やしたのだ。もともとゴブリンは多産だ。大事に子育てをするという概念がない。 だが、蛸髭はそれも改めた。生まれたゴブリンは一箇所に集め、飢えないよう食料を分配した。これにより、死なずに成体まで育つゴブリンの割合は大幅に高まった。 数は力だ。増えた群れ……もはや国というべき規模かもしれない。それを使って他のゴブリン氏族も取り込み、異なる種族の魔物さえ傘下に加えた。豚鬼や大鬼といった、個の力ではゴブリンを遥かに凌駕する種族たちもだ。 そうして勢力を高めていると、人間の軍が送り込まれてきた。数はこちらがずっと多かった。いつものように蹂躙してやろうと襲いかかった。 そして、惨敗した。 正面から当たることしか知らないゴブリンの軍はまず大盾を持つ兵に足を止められた。大盾の影から振り下ろされる長槍に次々に頭を砕かれた。攻めの勢いがなくなったところに、横から騎兵が突っ込んできた。 それでもうおしまいだ。混乱し、恐怖に駆られたゴブリンたちは逃げ惑い、追い散らされ、追いつかれ、殺された。この1戦だけで群れの半数以上が死んでしまった。 蛸髭自身も必死に逃げながら、どこか冷えた頭で他のことを考えていた。「戦術」というものの重要性をはじめて知ったのである。軍の中で、あんな風に役割を分けて戦うことは当時のゴブリンたちでは不可能だった。できたとして、群れを小分けにして突っ込ませる順番を変えるのがせいぜいだろう。 これでは、人間には勝てない。 瘴気領域の奥まで退き、体勢を整え直した蛸髭がまず行ったのは知識の収集だった。人間の村を襲ったときは、身なりのよい、教養
last updateLast Updated : 2026-07-13
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閑話12 とある女神の存在消失

 天を衝く高層ビルが、次の瞬間にはねじれて縮み、一匹の子猫になる世界。公園で餌をついばむ雀たちが、銀色の円盤となって宇宙へ向けて飛び立つ世界。夜空の花火を眺めていると、深海魚の生物光が瞬く海底にいる世界。 そう、これは高次元知性体のフレイア、高町みさきの言うところの女神モドキが住む世界の話である。いや、いまは住んでいたと表現すべきか。 毎度の前置きで恐縮だが、例によってこれは三次元に住む我々地球人類にとってわかりやすい形に翻訳したものであり、高次元知性体の世界を正確に描写したものではないことをお断りしておく。 フレイアの部屋には、二人の男が侵入していた。一人は初老で、もうひとりは若者だ。侵入といっても、家主の許可は得ていないものの、倫理規約に沿った適法行為である。「まったく、生配信でずいぶん面白いものを見せてくれた」「同時視聴数ダントツのトップですからね。現地生体に食われたり、殴られたり、こんなのは前代未聞だったのでは?」「そういう楽しみ方もある、という考えが広まったのは幸いだった。これまでは観光旅行の劣化版のようなものだったからな」「まさに体験型エンターテイメントですねえ」「ま、私は見るだけにしておきたいが」 私もですよ、と軽口を叩きながら二人の男はフレイアの部屋を調べはじめる。「それにしても、統一局から依頼をした矢先にこんなトラブルを起こすとは……」「何か持ってるんでしょうねえ」「統一局の正規職員がそんな低次生体のようなくだらないことを言うな。……とはいえ、この女については同意しかできんな」「でしょ? 生配信中に装置が壊れて戻れなくなるとか笑うしかないですよ」「ほら、軽口ばかり叩いてないで手を動かせ」「ちゃんと動かしてますよ……あ、ありました!」 若者が取り上げたのは擬似現界に用いる装置だった。普段フレイアが低次世界の管理に使っている端末の前に無造作に放り出されていた。 初老の男が若者から擬似現界用装置を受け取り、つぶさに観察をはじめる。「少々古い型だが、さんざん改造して最新型と同等以上の性能になるようチューンされてるな。なぜこんな面倒なことを……」「あー、世界創生にハマる人はそういうDIY的な改造が好きな人も多いみたいですよ。ほら、あれ見てください」
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第九十八話 あああっ! キターーー!!!!

 蒸し暑い空気の中、目の前に置かれた真っ赤な汁を木匙ですくい、おそるおそる口に入れる。具材はなしで、とりあえずスープだけだ。ふむ、口当たりは意外によい。なんなら甘さまで感じる。少し遅れて肉や野菜の出汁の甘みを感じる。そして続けて二口目、三口目……あああっ! キターーー!!!! 口腔がかっかと熱くなり、喉に辛味を感じたところでよく冷やされた焼酎ハイボールを流し込む。独特の香りと弾ける炭酸の刺激が暴力的な辛味を押し流してくれる。ふう、すっきり。そして流れるようにまた木匙を動かす。「みさきさん、辛いけどおいしいですねえ、これ」「学術都市の南方料理店とは似て非なるもの、でございますね。やはり本場の香辛料が手に入らなかったのでしょうか」 同じように、真っ赤なスープと焼酎ハイボールの往復を繰り返しているのはミリーちゃんとサルタナさんだ。サルタナさんの言う通り、学術都市で食べた南方料理とはなんというか根本的に違う。洋風カレーとインド風カレーの違い……とでも言うべきだろうか。「トムヤムクン、ともちょっと違う感じですか?」「……舌が、痛い」 確かに、ちょっと酸味を加えてナンプラーを足せばトムヤムクンに近いかなあ……って、その時点でもう別物か。一緒に真っ赤なスープを味わっているのはメガネちゃんとメカクレちゃんだ。二人は薄めの焼酎ハイボールを飲んでいる。 未成年飲酒がなんだって? ここは日本国憲法の及ぶところじゃないんですー。そもそもこの酒場で飲み物を頼むなら、濃いめの焼酎ハイボール、普通の焼酎ハイボール、薄めの焼酎ハイボール、ストレートの焼酎の四択しかないのである。 さっきから焼酎、焼酎と連呼しているが、実際には焼酎ではない。南方特産であり、主食でもあるサツマイモ的なやつを発酵・蒸留させたお酒で、アヌームという飲み物だ。 ストレートではアルコールが強すぎるので、風霊の力によって冷やし、炭酸を加えた水で割って飲むのがここいらでのスタンダードなのだそうである。もっと安い酒場では炭酸水の提供すらないらしいが、我々は小金持ちなのだ。旅先でわざわざ最低グレードの店を選ぶつもりはない。 そう、ここは旅先なのだ。メルカト様の助言に従い、王国の偵察部隊にくっついて南方連合の都市までやってきたのである。偵察部隊と言っても1000人近い大部隊で、同行した隊商も100人以上はいたと思
last updateLast Updated : 2026-07-13
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