All Chapters of 三十路OL、セーラー服で異世界転移 ~ゴブリンの嫁になるか魔王的な存在を倒すか二択を迫られてます~: Chapter 71 - Chapter 80

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第六十五話 神様でも正体不明のヤバい存在なのか

「別に入信ゆうても大仰なことはあらへんよ。寄進して、名簿に記帳して、引き換えに聖印をもらったらおしまいや」 あらまあ、ずいぶん簡単な。説法を聞いたり洗礼の儀式を受けたりする必要はないんだろうか。「山ほどの金貨でも雷鳴は戻せん、ゆうからな。無駄な時間がかかることはやらへんのよ」 さすがは商いの神様というだけはある。徹底して合理的だぜ。ちなみに、「山ほどの金貨でも雷鳴は戻せない」というのは「時は金なり」的な意味のこちらの慣用句だ。 しかしなあ……とくに面倒な戒律やらなんやらがないにしても、寄進となると考えてしまう。 そう、ぶっちゃけわたしは金欠なのだ。元々ドワーフ村のみんなから預かったお金しか持ってないし、これは有望な作物を見つけたときのために手を付けるわけにはいかない。しかも、道中の路銀は基本的にサルタナさんに出してもらっている。 一応、ずっと護衛を続けているという建前ではあるのだが……交易都市を出て以降の旅は最初の契約からは明らかにはみ出ている。サルタナさん的にもメリットがあるというのは理解しているのだが、それにしたってずっと支払いを任せっぱなしというのはどうも肩身が狭い。 自前で稼いだお金で寄進ができるのなら、損はなさそうだし入信してみたってかまわないのだが。神様、イケメンだし。「なんや、金欠なんか。ほんなら武術大会にでも出てみたらどうや?」 武術大会とはなんぞい?「学院の選考会で来る王国軍のお偉いさんの向けの接待ゆうか、仕官希望の腕自慢が集まる武芸比べの大会やな。ま、半分は興行や。上位に入れば賞金も出るで」 ほへー、そんなイベントがあるんだ。しかしわたしはごく普通の三十路OL……とは言い難いな、もはや。ともあれ、武道の達人でもなんでもないぞ?「そんなクソ重たい戦鎚を2本も背負って平然としてるやつが普通なわけあるかい。わいの見立てじゃ結構いいとこまでいくと思うけどな」「ご主人、小生も出場を推奨します。あの大型の瘴気領域の主との戦いで痛感しましたが、いまのご主人の力ではまだまだ不足と言わざるを得ません。この機会を利用して研鑽を積むべきかと」 うわ、こいつこんなタイミングで話しはじめやがった。メルカト様が顔をしかめてセーラー服を見る。「なんやこいつ……けったいやな。疑似魂魄もないのにこんな|流暢《りゅうち
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第六十六話 カッコのつく負け方の準備はできたか?

 戦鎚を両手で握り、振り下ろす。振り上げる。もう一度、動きを確かめるように振り下ろす。振り上げる。横薙ぎ。身体を回転させてもう一度横薙ぎ。構え直し、戦鎚で突く。突く。突く。身体がだんだんと火照りだし、流れ出した汗が散る。 何をやっているかと言えば、ローガンさんから教わったドワーフ流戦鎚術の形稽古だ。通常は岩ゴブリンなど、背の低い相手を想定しているため打点が低いので、それを人間の頭部あたりに変えて動きを修正している。 日本にいたころはこんなストイックな運動なんてしたことはないが、いまでは一日に一回はやらないと気持ち悪いのだから人間というのは変われば変わるものである。習慣化された努力というのはじつに偉大だ。 そして、わたしがどこでドワーフ流戦鎚術の演舞を行っているかといえば、闘技場に設けられた選手控室の中である。そう、今日はいよいよ武術大会に出場する日なのだ。 武術大会の本選出場者16人がこの一室に待機しており、それぞれ体を動かしたり、マネージャー的な人と話したりと思い思いの準備に励んでいる。今日、この部屋にいる選手たちがトーナメント形式で優勝を争うのだ。 日本で行われていた格闘技大会なら出場選手を試合前に同じ部屋に放り込むような雑なことはしないだろうが、この異世界にそんな繊細なケアを求めても仕方があるまい。出場するのもジムが大事に育成した選手などではなく、流れ者の武芸自慢ばかりなのだから。「よう、えこひいき枠の嬢ちゃんよ。カッコのつく負け方の準備はできたか?」 つーわけで、試合前で気が立った選手たちを同じ部屋に入れるとこういうトラブルが起きやすくなってしまうわけだ。安い挑発をしてきた相手を見てみると、どうやって固めているのか、モヒカン頭をバシッと天に向けて伸ばしたゴリマッチョ系の男が立っていた。うーん、きみは世紀末系世界に行った方がいいんじゃないかな?「その戦鎚にしたってずいぶんゴツイがよ。どーせ中抜きして軽くしてんだろ? おら、貸してみろよ。おれが本物の戦鎚術ってやつを見せてやるぜ」 ほほー、それはたいへん興味深い。戦う前から手の内を明かしてくれると言うならこれほどありがたいことはない。喜んで拝見させていただこう。 というわけで、振り回していた黒戦鎚を男に向かってぽいっと放り投げる。ミスリル戦鎚は
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第六十七話 恐怖と緊張が動きを鈍らせるのだ

「第1試合! 不戦勝により高町みさきの勝利!」 審判による勝敗判定が高らかに叫ばれると、観客席からは一斉にブーイングが巻き起こる。いやー、まーそっすよね。楽しみにしてた本戦第一試合が不戦勝とか、盛り上がらないことこの上ない。 ローマのコロッセオのような闘技場から観客席を見渡してみると、ごくわずかながら紙切れを握りしめて喜んでいる人もいる。これはあれだ、わたしの勝利に賭けた少数派だな。この武術大会は入場料を取る上に、さらに賭けの対象にすることによっても追加の収入を得ているのだそうだ。 ちなみに、一回戦の相手はあのモヒカン頭だった。「急な腹痛で棄権する、決して怖気づいたとか、手首が痛いとか、手首が痛いとか、あと手首が痛いとかそういう理由じゃないから勘違いするんじゃねえぞ!」と散々念押ししてから姿を消したらしい。なんというか……まあ、そういう芸風の人だったんだと理解しておこう。記憶する必要性は感じないけど。 わたしが退場した後も、つつがなく試合は続いていく。武器ありの試合だから地球の格闘技のように長期戦にもつれ込むことはない。審判が致命傷が入ったと判断すればその時点で決着するのだ。 武器はすべて模造品であり、剣ならば木剣、わたしの槌なら木槌である。なんだか建材のほぞを噛み合わせる大工さんになった気分だ。普段金属製の槌を振るっている身からするとその軽さが頼りないが、そのぶん振りは速くなっている。まともに急所に当たれば、これでも大怪我は免がれないだろう。 そんなこんなで第一回戦は無事終了し、反対ブロックでは予想通りにキモマッチョと爽やかイケメンが勝ち上がっている。さて、次はわたしの第二試合だ。「二回戦第一試合! 高町みさき対”小剣使いの軽業師”パイルデート、開始めッ!」 第二試合の相手は軽装の戦士だった。右手に二の腕くらいの長さのショートソードを模した木剣を持ち、左手に鍋蓋を一回り大きくしたような盾を構えている。うーむ、絵に描いたような剣闘士ってタイプだな。 対する私は両手に木槌を一本ずつ持ってブンブンと振り回している。イメージとしてはブルース・リーのヌンチャクアクションだ。あんなに器用にはいかないが、常人なら両手で振り回すのがやっとの木槌を片手でぐるんぐるんぶん回しているのは脅威だろう。こんなもんでぶ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第六十八話 爆炎豪拳(ヴォルカニックナックル)

 ドルザック……つまりキモマッチョの方は、半裸に最低限の防具だけを身に着けた「ザ・蛮族」というかんじのスタイルで、大剣を携えている。 闘技場に出るときにすれ違ったのでつぶやいている内容が少し聞こえたのだが、「ボルデモン様に栄誉を……霊薬……うひっ、霊薬……」とか言っていた。完全に危ないおクスリにハマっちゃってる感じである。ボルデモンって確か学院で絡んできた嫌味黒ひげだったっけ? 観客席に視線を向けてみると、貴賓席らしきところにボルデモンがいた。金糸銀糸で飾ったローブを着ているのでよく目立つ。やたらに幅広な三角帽をかぶっているので隣の人の顔につばが当たりそうになって迷惑がられているが、本人はまるで気づいてないようだ。 うーん、いるよな、こういうやつ。映画館とかで周りの迷惑を気にせずスマホをいじっちゃったりするタイプだ。 察するに、このキモマッチョはボルデモンの肝いりの選手なのだろう。なんか妙な薬を与えてドーピングでもしているに違いない。うーむ、マジでマッドサイエンティスト感が半端ないな。 次にヒロトと名乗った爽やかイケメンの方だが、肘まで覆う金属製の手甲と、膝下をそっくり覆う脚甲、それに胸甲というスタイルだ。頭部は鉢金のようなものを巻いており、なんというか、星座の名前が冠された聖戦士的な雰囲気である。 そして驚くべきことに、武器は何も持っていない。殴る蹴るだけでこの武術大会を勝ち上がってきたのだ。それも投げ技も関節技もなく打撃のみ。それだけ見れば純粋な打撃屋と思えなくもないのだが……いかんせん技術が拙い。戦い方もボクシングでもなければ空手でもなく、素人目に見ても無駄だらけなのだ。「よっしゃァァァーーー! いくぜェェェーーー! 炎槍蹴撃!!」 開幕からつっかけたのは爽やかイケメンの方だった。思い切り助走をつけての飛び蹴りである。キモマッチョの方もまるで技術を感じないとはいえ、さすがにこんな攻撃は当たらない。しっかり避けて大剣を振るい反撃する。「ちっ! いまのをかわすとはやるじゃねぇかッ!」 反撃をバック宙で避けた爽やかイケメンが親指で鼻をこすりながら言う。うーん、いまのは普通にバックステップでかわしていれば、大剣を振った後の隙を突けたと思うのだけれど。爽やかイケメンの戦い方は一事が万事こんな調子
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第六十九話 今度生まれる子どもにはヒロトって名付けることにした

「決勝戦! 高町みさき対ヒロト、開始めいッッッ!!!」 決勝戦だからか、審判の試合開始のコールがこれまでよりも気合が入っている気がする。観客も決勝戦ということでボルテージは最高潮だ。どういうわけか、声援は対戦相手の爽やかイケメン向けのものしか聞こえないけど。なんでこんなに悪役扱いされとんねん。「まさか決勝でアンタと戦うことになるなんてな! 女の子相手はやりづれえけど、手加減は無礼ってもんだ。本気でやらせてもらうぜッ!」 手甲を着けた拳をガシンガシンとぶつけながら爽やかイケメンが言うと、観客席が「おおー!」と盛り上がる。ふむー、少しはわたしも盛り上げに協力しないといけないかな。一応、メルカト様には便宜を図ってもらったわけだし。 とりあえず、二本の木槌をぶるんぶるんと振り回して大声を上げる。「女相手に本気になるなんて男の風上にもおけないやつね! ホントは付いてないんじゃないのッ!?」 よーし、これでいい感じに試合前の口上のやり取りって感じになっただろう……と思って観客席の反応をうかがうが、しーんと冷たい風が吹いている。なんでやねん。「あいつ……また狙ってやがるぞ……」「マジで容赦ねえ……」「双槌鬼は男の敵だ!」 だーかーらー! あれは狙ってないっつーの! 事故! 事故なんだから引っ張るんじゃねえ! なんともやりきれない気持ちになったわたしは、やり場のない怒りをぶつけるかのように両槌を肩に担いで爽やかイケメンに向かって突進する。槌を力いっぱい振り下ろそうとする気配を見せると、爽やかイケメンは両腕をガードのために掲げつつ、ちょっとだけキュッと内股になった。 ――計画通り(2回目)。 今度は蹴りを放たず、力いっぱい槌を振り下ろす。2つの槌頭が手甲に激突して甲高い音を立てる。衝撃に押されて少し体勢を崩したところにすかさず追撃。右、左、右、左。高い身体能力でかわされているが、紙一重だ。このまま一気に押し切る! ちなみに、何が計算通りかと言うと、今回は「上段攻撃に見せかけた中段攻撃」自体をフェイントとしたのだ。まったく狙ったわけではないが、「男性自身の敵」認定された状況を活かしたのである。これだけ状況が整えば、「急所」の防御に意識を振らざるを得ないだろう。 ふっふっふっ、我ながら完璧な試合
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第七十話 スキンヘッドのラーメン職人みたいに偉ぶれるような人間ではない

「おじさん! 替え玉ひとつ、バリカタで!」「あいよっ!」 武術大会での試合を終え、無事賞金を受け取って宿舎まで帰ろうとしていたわたしは道を歩く途中で記憶にある匂いについ反応してしまった。洗っていない犬の臭いを濃くしたような、養豚場の近くで漂うような……。その臭いを発する元を知らなければ、不快臭として嫌がられるだろう香りである。 ちなみに、賞金授与と共に行われた表彰式はある意味で盛り上がった。2位の爽やかイケメンが表彰されるときには大いに歓声が湧き上がったのだが、わたしが表彰されるときは観客席から一斉にブーイングが巻き起こった。ホントなんやねんなこの温度差は。 ともあれ、目的であったお金ちゃんは手に入ったので懐は温かい。何しろ小さいとはいえ家一軒が買える金額である。全額現金ではなく、一部は証券という形で受け取ったのだが、「大金を持っている」という状況はそれだけで強気になれるものである。匂いに惹かれるまま、表通りから路地に入ったところでこの店を見つけたというわけだ。「ねえ、おじさん。ひょっとして和え玉ってできる?」「和え玉……? いや、聞いたことがねえな。なんだいそりゃ?」 和え玉とは、ラーメンの替え玉の一形態である。スープに入れずにそのまま食べてもよいよう、味付けや最低限の具材が足されており、またスープに入れても味が薄まらないという工夫がされたもののことだ。「もう少し食べたい。でもちょっと味変したいな」というニーズに合致したのか、日本ではここ最近で提供する店が一気に増えたメニューである。 いまさらだがわたしが何を食べているかというと、とんこつラーメンだ。なんで異世界にとんこつラーメンが……という驚きはもはやない。広くは流通していないもののケーキだって存在していることがわかっているし、地球からの転移者が無数にいることももうわかっているのだ。その中にラーメン職人が混ざっていて、自分の味をこの世界で試そうとしたとしても不思議ではあるまい。「しかしお嬢ちゃん、よく知ってんなあ。ひょっとしておやっさんの知り合いかい?」 おやっさんというのは、この店主の師匠的な存在らしい。もともとこの店をやっていたのはそのおやっさんという人物らしいのだが、味に惚れ込んだ現店長を弟子にし、一通りのラーメンづくりの技術を伝えた後は「おれは最高のラーメンを作りたい」といっ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第七十一話 傷に塩を塗り込む行為になりかねない

「一回戦第一試合! ガンダリオン研究室対フェルゴマルチェ研究室、入場ッ!」 うーん、どうも既視感がある展開だな。闘技場も武術大会のときと一緒だし。そう、今日は学院の選考会の日である。実戦における強さを見る、という名目で模擬戦形式となっているのだ。互いに自分の研究室の自慢の成果を持ち出してぶつけ合うとのこと。 そんな機関銃とミサイルを競わせるようなことにあまり意味はないような気がするのだが……まあ、大会の成績そのものは選考結果に影響はないということになっているらしい。それにこれにもメルカト様の神殿が絡んでいるそうで、やはり賭けの対象にもなっている。 ま、視察に来ているお偉いさんの目を楽しませつつ、興行として一稼ぎしようということなのだろう。 東の門からは我らがガンダリオン研究室が入場してくるはずなのだが、姿を現したのは実体火力……なんとかとは似ても似つかない鉄の塊だった。 まず、人型をしていない。角張った本体の上に砲塔があり、そこから太く長い砲身が1本伸びている。その周辺にはハリネズミのように細い銃身が無数に設置され、足回りはキャタピラになっていた。 開発中に多少見学はさせてもらっていたのだが完成形がこうなるとは……。全体的なフォルムは地球における戦車そっくりで、主砲以外の武器が多いのでより凶悪な雰囲気を醸し出している。 ほとんどのアイデアはわたしとの雑談で地球の兵器を知ったミリーちゃんによるものだ。うーん、そういう現代知識無双って異世界転移者がやるものじゃないのかな? 西門からは対戦相手のフェルゴマルチェ研究室の成果物が入場してくる。こちらも見た目の印象は巨大な鉄塊だ。ガンダリオン研究室と大きく異なるのは人型であること。ただ、非常に脚部が太く短く、なんというかデフォルメしたロボットのプラモデルをそのまま巨大化させたような姿だ。 おそらく、大型化に伴って増えた重量を支えるためにはこうせざるを得なかったのだろう。キャリキャリと軽快に進むリッテちゃんの戦車に対し、短足ロボットの方はずしーんずしーんといかにも鈍重だ。魔具研究部門が生体研究部門に押されがちだと聞いたが、機動性の部分でも問題ありと見られていたのかも知れない。 若干冷めたわたしの感想とは裏腹に、観客席の反応は上々だ。「おおー、でけえ」「かっけえ」「強そう」みたいな声が聞こえてくる
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第七十二話 すっかり盗聴が趣味になりましたね

 2回戦、3回戦とリッテちゃん・ミリーちゃんペアは順調に勝ち進んでいった。流れ弾が観客席に被害を出すんじゃないかと心配だったが、なにやら魔法的な結界が張られているようで、逸れた弾は透明な障壁に防がれていた。うーむ、なかなか正しいファンタジー感がある。 関係者席を見ると、顔を両手で覆っておいおいと泣いている人が2名追加されている。なんだか非常に心が痛む光景だ。ガンダリオン研究室の勝利を祝いたい気持ちに嘘偽りはないのだが、あの惨状を見てしまうとなあ……。 選考会は武術大会と同じく16の研究室によるトーナメント形式だ。武術大会のようなバトルロワイヤル式の予選はなく、学院に設けられた審査会によって事前に出場者が決められるとのこと。 魔具研究部門と生体研究部門の力関係を表しているのか、出場する研究室はほぼそれらで占められた。神力研究だとか超術応用だとかいう部門からの出場者もわずかにいたが、あえなく緒戦で沈んでいった。 リッテちゃんたちの2回戦、3回戦の対戦相手はどちらも生体研究部門だった。極めて好意的な表現をすると、非常にユニークかつ独創的な怪物が出場してきたのだが……いずれも試合開始の合図と同時に地上波では放送できない姿になって終了だ。 あんな対物ライフル級の斉射を食らって耐えられるような生物はそうそう存在しないだろう。わたしが過去に見てきた怪物たちで言うなら、瘴気領域で戦ったデカブツくらいまでなら一撃決着となるのではないだろうか。 まあ、あんな風に地面に潜ったり飛び出したりする相手にまともに攻撃を当てられるかは不明であるが。 一見、敵なしのガンダリオン研究室だが、じつは明確な弱点が存在している。それは、銃砲については斉射しか出来ず、主砲に至っては1発しか撃てないという点だ。 なんでも、連鎖的に発生させた魔弾の圧力を全銃砲にくまなく発生させるシステムになっているそうで、一発ずつ狙いを定めて撃つ、ということができないらしい。 主砲については威力重視で調整が間に合っておらず、1発撃つと砲身が壊れてしまう。どちらの弱点もいずれは改良したいということだが、ミリーちゃんが研究に参加してからの数日では間に合わなかったのだ。そのため、主砲はこれまで一度も使用されずに切り札として温存されている状態である。 まあ、そもそも数日でこん
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第七十三話 戦場でもっとも怖いのは死兵なのだよ

「決勝戦! ガンダリオン研究室対ボルデモン研究室、開始めェッ!」 審判の試合開始の宣言とともに、わたしと爽やかイケメンが左右に跳んで戦車の前を開ける。「装填問題ありません!」「りょーかいっ! いきますよっ! 『魔弾・連鎖起動』!!」 試合開始直後にリッテちゃん戦車の無数の銃口が光を放ち、数匹の雑魚ゴブリンを巻き込んで馬頭ゴブリンを1体、放送不可能な何かに変える。よしよし、初手は上出来だ。 わたしと爽やかイケメンが乱入したことで多少の悶着はあったが、なんだかんだで助太刀は認められ、前衛として敵の攻勢を受け止める役割を得ることになった。 単純に勝つことだけを考えるのなら雑魚ゴブリンを無視してさっさと馬頭ゴブリンを仕留めてしまった方がよさそうだが……これはあくまで研究発表の場なのだ。あまりでしゃばりすぎるのはよくないだろうということであくまで防衛に徹する。 考えてみるとこういう集団戦ははじめてなのだが、なんだか普段より視界が広く、物の輪郭がくっきり見えるような気がする。 おっと、右を抜けようったってそうさせないぜ。戦鎚で足を引っ掛けて転ばせ、膝の後ろを打って一匹の雑魚ゴブリンを行動不能にさせる。 サルタナさんは「目利きがしやすくなる」と表現していたが、なるほど、メルカト様の加護とはこういう効果なのか。 そう、これはメルカト様の加護によるバフなのだ。武術大会の帰り、ラーメン屋に寄った後にちゃっかり商いの神の神殿への入信を済ませてきたのである。メルカト様が言っていたとおり面倒な手続きはなく、名簿にサインして聖印をもらってはいおしまいのお手軽さだった。 仮にも宗教としてそれでいいのか……と思わないところはなくもないが、別にわたしも本格的な洗礼だのなんだのを受けたいわけではない。ありがたく聖印をいただいてすぐに宿舎へと帰った次第である。 おっと、今度は左を抜けようとしてきたな。ルーチンのように戦鎚で足を引っ掛け、膝裏に一撃加えて行動不能にする。転んだ拍子にフードが脱げたが、大型のニホンザルから毛をむしって、赤銅色のラッカーを塗ったようなてらてらした皮膚をしていた。率直に言ってキモい。 なんかこの世界に来てからキモ生物とばかり戦ってるなあと嘆息をつきつつ、正面から襲ってきた2体の雑魚ゴブリンの小剣を戦鎚で払
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第七十四話 おっさん、なんちゅうもんを作ってくれたんだ

 謎の液体を飲み下した馬頭ゴブリンの全身がぶるぶると痙攣したかと思うと、眼球がめりめりとせり出しはじめ、ついに飛び出す。眼窩から無数の触手が伸び、にょろにょろと暴れている。口腔から、耳孔からも触手があふれ、不規則に蠢きながら四方に伸びていく。 触手の一本一本はよく見るとタコのようで、細かな吸盤がついている。四方に伸びたそれは周辺にいた生き残りの雑魚ゴブリンに突き刺さり、どくどくと脈動をはじめた。雑魚ゴブリンたちがあっという間に萎れ、干からびる。馬頭ゴブリンの身体がみるみる大きくなっていく。これは、体液か何かを吸収してる? こちらにも1本の触手が伸びてきたので慌てて槌で弾き飛ばす。キモいなんてもんじゃないぞこれは。それにこれって――「ご主人、瘴気領域の主ですね。瘴気領域発生の瞬間についに立ち会えたようです」 ぜんっぜんうれしくないっす。見れば触手は無差別に周囲を襲っているようで、観客席にも攻撃を加えようと触手を伸ばしている。魔法の結界に当たって弾き返されているが、もしあれがなかったらどれだけ被害が出ていたかわからない。貴賓席や関係者席も想定外の出来事にあたふたしているようだ。 あのボルデモンとかいうおっさん、なんちゅうもんを作ってくれたんだ。 とっとと逃げ出したいところだが、リッテちゃん戦車は乗り降りに時間がかかる。内部空間が狭く、身体を押し込むようにして入っているのだ。少なくとも、二人が脱出するまでは護衛を続ける必要がある。 では反対に攻めるとしたらどうかというと、数え切れないほどの触手が暴れまわっているのでそれをかい潜って近寄るのは至難の業だ。 あんな触手に絡め取られてしまったらどんな目にあわされるかわかったものではない。薄い本の中でもかなりコアな嗜好を持つ人向けの惨劇が待っているだろう。具体的に言うと、死ぬ。「第三射装填完了しました!」 おっと、急いで横に飛び退き射線を開ける。この異常事態にあってもミリーちゃんたちは仕事を続けていたようだ。遠距離攻撃ならあの触手も問題にならない。この一撃で決着するならめでたしめでたしだ。「射線確保! 『魔弾・連鎖起動』!!」 無数の銃口が光り、弾丸の雨が発射される。何本もの触手が千切れ飛び、馬頭ゴブリンの身体が穴だらけになる。いつの間にか元の倍以上に身体が膨張していたため原型を留めないほどにぐちゃぐちゃ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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