All Chapters of 三十路OL、セーラー服で異世界転移 ~ゴブリンの嫁になるか魔王的な存在を倒すか二択を迫られてます~: Chapter 111 - Chapter 120

124 Chapters

第九十九話 ビジュアル的にはザ・マンガ肉

「あー、天王寺さん。今日は女子会なので、女子だけでよろしくやってるので、そういうことでひとつよろしくお願いします」「そう堅苦しいこと言うなよ! オレとみさきの仲じゃないか!」 どういう仲だよ。わたしはお前を木槌でぶん殴った記憶しか残してないぞ、意図的に。 空気を読めない熱血イケメンが椅子を引っ張ってきてわたしとミリーちゃんの間に割り込もうとする……が、ミリーちゃんが強烈な肘打ちを入れて熱血イケメンをブロックした。焼酎ハイボールのジョッキを取る動作でカモフラージュしていたが、これは完全に狙っている。さすがはミリーちゃん、さすミリ。「おっと、ごめんな! ぶつかっちまった。でもこいつを落とさなくってよかったぜ。せっかくだから差し入れに持ってきたんだ!」 熱血イケメンが掲げた片手には、真ん中を太い骨が貫通した馬鹿でかい肉が握られていた。あー、これ、酒場に入る前に屋台で売ってるのを見かけて買おうかどうか悩んだやつだ。ビジュアル的にはザ・マンガ肉である。 ただ、さすがにこれを食べたら他のものが入りそうにないと思って断念した一品である。酒場に他で買った食べ物を持ち込んでいいのかという日本的常識が邪魔したのもある。店員さんも咎める様子はないし、持ち込みはとくに問題ないようだ。「火牛っていうここらへんでしか育たない家畜の肉なんだってさ! オレもこっちに来るのははじめてだし、せっかくだからみんなで食おうと思ってよ!」 肉の存在に気がついたミリーちゃんがそそくさと空間を空ける。おーい、ミリーちゃん、食い気より大切なものはないのかい? 熱血イケメンはミリーちゃんが譲った空間に椅子を滑り込ませると、「ありがとな!」と白い歯を輝かせたスマイルと共にどっかり座った。ついでにテーブルの中央にあったサラダの皿にどっかり肉も載せる。ふむー、悔しいが、ビジュアル的にはたいへん素晴らしい。 どうして熱血イケメンが南方にいるのかといえば、武術大会準優勝……認めたくはないが、人気的には優勝の実績をもって王国正規軍への就職が無事にかなった結果なのだ。 通常であれば準騎士やら騎士見習いやらとして礼儀作法から叩き込まれるそうなのだが、その高い戦闘力を買われていきなり正騎士に抜擢され、今回の偵察部隊へ組み込まれたらしい。まぁ、実際強いしね。道中でも変身しな
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百話 二人とも正義の魂を持ってるんだな!

「もぐもぐ……ほあー、なんていうか、すごいちょうどいい感じになりました」「ただ切るだけでこれほどまでに味が変わるとは……まったくみさき様の手腕には感心しきりでございます」「食べやすくていいですね。サンドイッチにしてもおいしそうです」「……さっきより美味い」 わたしがやった工夫は、熱血イケメンが持ってきた肉塊を手持ちのナイフで細かく刻んで混ぜただけである。追加の味付けも、他の食材を混ぜたりも一切していない。「そうかぁ? オレはでかいままの方がうまいと思ったけどな」 女性陣の好評をよそに、ひとり納得いかない顔をしているのが熱血イケメンだ。ほれ、おまえ用に大きく切ったものがあるからこっちを食べなさい。「そうそう、やっぱこれくらいの大きさじゃないと肉って感じがしないぜ!」 熱血イケメンが大口を開けてでかい肉片を次々に飲み込んでいく。自分で持ってきた差し入れを、自分が一番たくさん食べるとかどうなんだろう。やっぱりどーにも感性が合わないな、こやつとは。「でも、どうして小さく切っただけでこんなに味が変わるんですか?」「あー、それはね」 ミリーちゃんの質問に応じて少々解説をする。このマンガ肉料理は表面にだけ味があり、奥の方には味がない。それが女性陣には不評で、熱血イケメンだけに好評だったのはなぜか……それは、単純に一口に食べる量が違うからなのだ。 味のついた表面の部分と、味のついてない内側の部分、一度にたくさん口に入れればこれがちょうどいい塩梅になるよう調整されているのだが、女性の小さな口ではそのバランスが取れないのである。ならばどうするか。答えは簡単で、最初から細かく刻んで混ぜてしまえばよいのだ。 熱血イケメンの言うように、肉々しい食感は損なわれるし、見た目のインパクトも薄れてしまうのは事実だ。両方を楽しむなら、タレなどにしっかりつけ込んでから焼けばよいのだが、さすがに即興でできることではない。「なるほど、勉強になりますね。大神殿に戻ったらさっそく試してみます」「……ローストビーフチャレンジ」 おや、まだローストビーフは自作してなかったのか。料理初心者がチャレンジしてみたい料理ランキングがあればわりと上位に入ると思っていたのだけれど。最初は出来合いのローストビーフの素でやってみるとよいですよ。レシピに書いてある漬け込み時間は無視して、丸一日くらい
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百一話 江戸時代って、こんなかんじなんでしたっけ?

 コンクリートのような白漆喰で固められた建物の数々。窓がやたらに大きく数も多いのは、湿気がちで暑い気候に適応したからなのだろうか。 南方に到着して数日、とくにやることもなく街の中をふらふらしている日々が続いている。サツマイモもどきはこのあたりの主食ということもあって市場ですぐに手に入れられたし、メルカト様の神殿の伝手で栽培方法も詳しく教えてもらえた。 その他にも天突く岩で育てられそうな作物には一通り目をつけ、種やら株やらを手配済みである。 それならさっさと帰ってしまえばよいじゃないかと思うかもしれないが、道中の安全を考えるとそういうわけにもいかない。帰りも王国軍の偵察隊と同行して安全に帰ろうという予定なのである。 その王国軍は何をしているのかと言えば、大部分はこの都市に駐留し、首脳陣だけが使節団として代表都市に向かっているらしい。南方「連合」というだけあって、元々は複数の国々だったものが、魔王の脅威に対抗するために連携したのがはじまりなのだそうだ。 成立からの歴史も浅く、一枚岩とはいかないようで、首都も明確に定まっていない。連合の意思決定機関である議会が設置されている都市が首都――すなわち代表都市となるのだが、これは1年毎に持ち回りで各国の都市に変更されるそうで、なんともややこしい政体になっているようだ。 お偉方の事情にとくに興味はないのだが、今年の代表都市はいまいる都市からはかなり離れており、使節団が戻ってくるまでだいぶ時間がかかるのだ。目的も果たしてしまったし、観光するような場所もほとんどない。 そんなわけで、すっかり暇を持て余してしまっているのである。 お、あっちに飲み物の屋台があるな。あれははじめて見たかもしれない。ちょっと覗いてみよう。 そんなかんじで買い食いしながらそのへんを散歩するのがこのところの日課である。暇つぶしに冒険者の真似事でもしてみようかとも思ったのだが、酒場の張り紙にあるのは草むしりだの農家の手伝いだのの雑用ばかりで引き受けたくなるものはなかった。 やりたいわけではないが、ゴブリン退治やら遺跡の探索やらといった危険を伴う「冒険」は一見では受けられないらしい。南方連合ではゴブリンなどの魔物による被害が多く、効率的な駆除のために冒険者組合なる組織が整備されているそうなのだ。 いわゆ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百二話 これは秘密兵器の出番かな

 到底見なかったことにできる相手ではない。一体この街で何を企んでいるのか。どう考えたってろくなことではないだろう。とにかくとっ捕まえて白状させなければなるまい。「ごめん、急用! 危ないから二人は宿に戻ってて!」「えっ、どうしたんですか?」「……?」 カマキリ女が人混みに消えそうになり、慌てて後を追いかける。くそっ、みんな似たような格好をしているから見分けがつきにくい。向こうもそれを承知しているのか、あえて人の多い通りを選んでいるような気がする。 しばらく追いかけているが、なかなか距離が詰まらない。人が邪魔すぎる。さすがになぎ倒して進むわけにもいかないし、人混みを縫ってスムーズに進めるほどの器用さはわたしにはない。ああ、もう、こんなことならダンス……じゃなかった。魔術の練習もっとちゃんとやってたらよかったのかな! ぎりぎり見失わない範囲を保って追いすがっていると、ついにカマキリ女が人通りの少なそうな路地へ入った。よし、あっちに行けば邪魔は入らない。なんならセーラー鎧モードを解禁してでも捕獲してやろう。 カマキリ女が入っていった路地の入口に立つ。どうやら奥は行き止まりのような。どん詰まりに立って、こちらをにやにやと眺めていた。その余裕に薄気味悪いものを感じるが、状況的に有利なのはこちらだ。 一対一なら後の戦いを考える必要はない。セーラー鎧モードならまず負けないと思うし、全身鎧モードなら攻撃されても傷ひとつ負わない可能性もあるんじゃないだろうか。「セーラー服、準備だけよろしく」「了解、ご主人」 セーラー服君に短く注意を促しておく。背中から戦鎚を抜き、ぶんぶんと振り回しながらゆっくり距離を詰めていく。「どもー、おひさー。元気してたー?」「おかげさまで元気いっぱいだよ。かすり傷ひとつもなかったからね」「そーゆーのマジムカつくー。あーしはやっと両手が治ったとこだってのにー」 カマキリ女がこれみよがしに両手を掲げ、腕に仕込まれた刃を出し入れする。目で追えないほどに速い。エルフ村での戦いでは上手いこと開閉不能に追い込めたが、この速度を利用した斬撃を繰り出すのが本来の戦い方なのだろう。 ま、予想はしていたことだ。とくに焦りはない。これは秘密兵器の出番かな。「それじゃ、快気祝いをあげないとね。ほらっ」「そんなのに騙されるわけないし
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百三話 いざというときには女の方が肝が座っている

 北の城壁近く、商いの神の神殿の鐘楼の上にわたしたちは立っていた。緊急事態を告げる鐘が鼓膜を何度も揺らす。鐘楼から街の外を見渡すと、そこには数千とも数万ともつかない魔物の群れが土煙を巻き上げながら押し寄せてきていた。 よくアニメや漫画なんかでこういう大群を見て「その数5000!」とか言ってるけど、どうやったらカウントできるんだろうなあ。わたしはさっぱりできそうにない。「このように指で四角を作って覗き、百人を数えたらその何倍かで見当をつける……と教わった記憶がございますね」 実地で使うのははじめてですのでアテになりませんが、とサルタナさんが笑う。迷彩服に身を包み、防弾チョッキを着た姿はまるっきりハリウッドアクション女優だ。腰には無数の手榴弾をぶら下げている。「1万でも10万でも関係ありません! とにかくメガネちゃんを助け出すだけです!」 鼻息も荒く勢い込んでいるのはミリーちゃんだ。いつものポンチョの上から防弾チョッキを羽織っている。できればもっと防具を固めて欲しいところだが、お腹の袋に目一杯武器を詰め込んでいるのでそれが取り出しにくくなる格好はできないと断られてしまった。「……みんな、ありがとう。メガネちゃんは絶対助ける」 サルタナさんと同じく迷彩服を着たメカクレちゃんが真っ赤な目でうなずく。小さな体に迷彩服はまるで似合わず、出来の悪いコスプレのようだった。気を失ったメカクレちゃんを医者に診せたところ、眠り薬のたぐいをかがされていただけで予後の心配はないそうだった。 あのカマキリ女の手紙の通り、魔王軍は翌日にこの街へと襲いかかってきた。昨日のうちに王国軍へは連絡済みで、迎撃体制は整えられている。 武術大会優勝者にしてエルフ村を奇襲してきた魔王軍撃退の功労者として、それなりの信頼があるのである。エルフ村に関する功績についてはリッテちゃんとプランツ教授が主ということにして面倒事を避けていたけれど。 ま、こんな地響きと共にやってくる軍勢なんてわざわざ言わなくても察知できただろう。そのあたりも計算の上で、カマキリ女はわたしの行動を封じに来たのだ。 それほどわたしのことを厄介だと感じているのか、あるいはエルフ村での雪辱をなんとしてでも果たしたいと思っているのか……おそらく後者かな。いくらなんでもこんな規模の軍勢を相手にひとりでできることな
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百四話 精神が擦り切れたら繁殖に回せばいい

 怒号、悲鳴、喚声、何かの焦げる匂い。立ち込める血臭。轟音、地鳴り、金属同士がぶつかり合う甲高い音。 魔王蛸髭は、顎の触手をねちゃねちゃと撫でながらそれらの音と漂う臭気を天幕の中で存分に楽しんでいた。 周辺には「髭」の中から選りすぐった眷属たちと、人質にした例の女を置いている。基本的に、人間に近い姿の眷属たちはすべて天幕の中だ。人間どもに顔を知られると今後の工作に差し障りが出る。(戦争とは、こうでなくてはな) 都市に攻めかかる軍勢を眺めながら、蛸髭はそう思う。このところは戦線が広がってしまい、大軍を持って1箇所に攻め入るということができなかったのだ。 まとめれば容易く屠れるはずの小勢に苦戦を強いられる日々は蛸髭にとって苦痛以外の何物でもなかった。人間の下に組み敷かれることなど、本来は1日たりとも許せないのだ。 そのように戦線が広がっても、各地で独立した作戦行動を取れる人間たちの振る舞いも蛸髭には許しがたい事実だった。こちらも「髭」の指揮官によってかなりマシにはなったとはいえ、どう贔屓目に見たところでゴブリン側の方が拙い。 戦力では勝っているはずの状況で何度も敗北をさせられた。逆に、戦力で劣った状況で人間に勝てたことは一度してない。種としての強さの差を見せつけられているようで、腸が煮えるようだった。(だが、違ったのだ) 目の前で繰り広げられている戦争を見て、蛸髭は新たな確信を得る。人間どもが個の強さ、個の賢さを誇るのであれば、ゴブリンにあるのは数の力だ。ゴブリンは食料さえあれば人間の数倍、数十倍の速度で数を増やせる。多少こちらの質が劣ろうとも、圧倒的な数の差で押し切ってしまえばいい。 支配地への未練を捨て、軍団をひとつにまとめたことでこれを理解したのは実に皮肉なことだった。しかし、本当はこれがゴブリンの真の生き方なのではないか? 土地に拘泥し、そこから得られる収穫に期待するなどまるで人間ではないか。我々はゴブリンだ。群れをなして人間どもを狩り、人間どもから奪い、人間どもを餌にして生きるのが本分なのではないか? これは、『或るゴブリンの一生』でもついにたどり着かなかった真理なのではないか、と蛸髭は独り満足する。 大軍勢になったことで確かに補給は苦しくなった。そのため、南部の大瘴気領域へ逃れる途中にこの都市を襲って物
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百五話 ゆけ、鋼鉄の弾丸号よッ!!

 わたしたちは魔王軍の天幕に自動車ごと乗り込んだ。高さの調整はきかないのか、天幕を押しつぶしてしまって焦る。車から飛び出しつつ、セーラー服君に尋ねる。「セーラー服、メガネちゃんどこ!?」「あちらです、ご主人」 セーラー服君がスカーフで示した方向の天幕が盛り上がっている。ナイフで天幕を引き裂き、メガネちゃんを抱えあげる。よかった、意識はないが息はしているし、傷も見当たらない。おそらく、メカクレちゃんを眠らせたのと同じ薬を盛られているのであろう。「メガネちゃん、確保!」「ゆけ、鋼鉄の弾丸号よッ!!」 メガネちゃんを抱えて後部座席に飛び込むと、サルタナさんがアクセル全開で急発進する。「そいつらを逃がすなッ!」 天幕近くの物見台にいたゴブリンが大声で叫ぶ。すると、周辺を守っていた大柄なゴブリンたちが狼狽しながらも自動車の前に飛び出してきた。「邪魔です!」「……どけ」 左右の窓から身を乗り出したミリーちゃんとメカクレちゃんが突撃銃を撃ちまくる。連続する破裂音とともに、道を遮るゴブリンたちが穴だらけになって倒れていく。 どすんどすんと鈍い衝撃。倒れたゴブリンたちを轢いたのだろう。地を這う閃光号であれば厳しい路面環境だが、この車ならまったく問題ない。 なにしろ、もともと軍用車だったものを民間仕様にしたものなのだ。なんなら正面から跳ね飛ばしたって大丈夫だろう。「ついでにお土産ねッ!」 わたしもいかつい鉄筒を肩に抱え、窓から身を乗り出して後方に狙いを定める。あの物見台にいるやつが偉そうだったなあ。よく見ると、顎に無数の触手がうねうねしている。うえ、地味にキモい。あれが魔王蛸髭ってことで間違いなさそうだ。 蛸髭に狙いを定め、鉄筒の引き金を引く。鉄筒が火を噴き、円錐状の弾体が煙を上げながら飛んでいく。あっ、くそ。微妙に外した。弾体は蛸髭をかすめて少し遠くに着弾し、何匹ものゴブリンを巻き添えにして大爆発を起こした。 そう、これはロケットランチャーである。一度でいいから撃ってみたかった代物だぜ。って、練習で何発か撃ってはいるんだけど。 驚いた蛸髭が物見台から転げ落ちている。うけけけ、ざまあみやがれだ。だが、うちのもんを拐ってくれたお礼はこんなもんじゃあすまんけぇのう。 おっと、つい心の中の広島ヤクザがうずいてしま
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百六話 不思議生物過ぎる

 本陣への急襲により一時勢いを失った魔王軍だったが、魔王蛸髭の一喝によりすぐに混乱は収拾された。貴重な「髭」が何体も倒され、蛸髭本人も手傷を負ったが戦闘継続に支障はない。 北門は引き続き優勢であり、東西の門を狙った別働隊ももうしばらくで攻撃を開始するはずだ。そうなれば限界寸前の戦況で踏みとどまっている人間の軍勢は一気に崩れるだろう。少々の想定外はあったが、ほぼ事前の思惑通りに戦いは決する。 ――はずだった。 火を噴く何かが飛んできたと思えば、凄まじい爆音とともに数百のゴブリンたちが吹き飛ばされ、原型を留めない姿に変わった。 何体ものゴブリンを一度に飲み込める太さの光条が走り、その通り道にいたものは一瞬で黒焦げの炭になった。 巨大な足が一歩進むたびに、地響きが起き、また何十体ものゴブリンたちが押しつぶされ、大地の染みにされた。(こんなものが現れることなど、どう予想しろというのだ!!) 蛸髭はなりふり構わず逃走をしていた。もはや軍の統制も何もあったものではない。ゴブリンたちは散り散りに逃げ回り、蛸髭を見かけると助けを求めてすがってくる。それらに対し、蛸髭はとにかく逃げろと怒鳴りつけることしかできなかった。 蛸髭はちらりと振り返り、この惨状の原因となったものを見上げる。かなり走ったはずなのに、まるで離れた気がしない。あまりにも馬鹿げた大きさのため距離感がまったくつかめないのだ。 そこには、過去この世界のどんな人間が作った巨大な建物よりも、さらに巨大な人型の何かがいた。 人質の人間を取り逃した後、西の雷鳴が轟くとともにそれは現れた。はるか天空からゴブリンの軍勢の背後に降り立ったのだ。後背を突かれる形ではあったが、正面から戦ったところでどうにもならないだろう。それほどの力の差があった。 突如現れた石と鉄でできた巨人は、爆発する弾を無数に撃ち出し、地上に太陽が落ちてきたのかと思うほどの熱線を放った。一瞬で何百、何千ものゴブリンたちが死に、軍勢は崩壊した。 人間たちの隠し玉だったのかと思えば、そんなこともないようだ。城壁の上では放心した守備兵たちが矢を放つのも忘れて巨人に向かって祈りを捧げている。身なりのいい連中が「勇者様の奇跡だ! 『鉄の棺の勇者』様の祈りが神に聞き届けられたぞ!」などと叫んでいるが、そんな馬鹿げた話があるか! 王国認定勇者とかいう連
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百七話 フレーバーなので心配しないでください

 メガネチャンダイオーのコックピットが激しく揺れる。メガネチャンダイオーの衝撃吸収機構は強力で、これまで飛ぼうと走ろうとまるで振動を感じなかったので驚いてしまった。「右腕部損傷率10%!」「大型モンスター出現! パターン赤です!」「胸部第二機関室にて火災発生! 消火急いでください!」 近未来SFチックな軍服を着た黒髪の美女たちが口々に何かを叫んでいる。おいおい、これは大丈夫なのか……?「あ、パターン赤だとか火災だとかはフレーバーなので心配しないでください」「……雰囲気作り、大事」「そ、そうなんだ」 思わず焦ってしまったが、メガネちゃんたちにはまだ余裕がありそうだ。ひとまず安心……していいのかな。右腕の破損はガチってことだよね?「交易都市の近くで遭った瘴気領域の主より大きいですね……」「魔王が変じたように見えましたが、エルフ村のときと同じ薬でしょうか?」 ミリーちゃんとサルタナさんも若干不安げな声を出す。メガネチャンダイオーの強さは圧倒的だが、決して無敵の存在ではない。目の前に現れた巨大な怪物に対し、恐れを感じるのは当たり前だ。「また揺れると思うので、みさきさんたちも椅子に座ってください」「……念のため」 メガネちゃんに促されるままに近場の椅子に座ると、黒髪の美女のひとりが冷たい飲み物を持ってきてくれた。この美女たちはメガネチャンダイオーモードのときのみに現れるオペレーション要員……のようなものなのだそうだ。 雰囲気作りのためだけに存在しているそうで、いてもいなくてもメガネチャンダイオーの操縦に支障はないらしい。見た目こそ人間そっくりだが、本当はドラム缶ロボと同じロボットだ。AIも同じレベルで、あらかじめ決められた役割以外は何もできないとのこと。 椅子に座って落ち着いたところで、心の中でこれまでの流れを少し振り返る。 メガネちゃんを救出したわたしたちは、ショッピングセンターの救護室にメガネちゃんを寝かせて意識が回復するのを待った。 本当は医者に診せたかったところだけれど、戦争中の街に舞い戻るようなことはできない。やきもきしながら待つこと数時間、メガネちゃんの意識が回復したときには安心のあまり全身の力が抜けてしまいそうだった。 目覚めたメガネちゃんの体調に問題がないことを確認し、事情を説明する。そして、メガネチャンダイオーの降臨と
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第百八話 感じるぜ……正義の魂の共鳴を!

 高町みさき一行がメガネちゃんを救出した後のこと、街の北門の前で一人戦う男がいた。体のラインにぴったり沿ったスーツに身を包み、フルフェイスヘルメットのような兜をかぶったその男とは―― ――そう、天王ヒロトことジャスティスレッド、その人である!「ジャークダーの戦闘員よりずっと弱いが……こう数が多くちゃキリがねえぜ!」 腕の一振りごとにゴブリンを殴り倒しながら、ヒロトは思わずぼやいた。もう何時間も戦いづめなのだ。その上、周囲には味方の一人もいない。味方の兵は基本的に城壁の上で戦っており、地上に降りて敵を迎え撃つものなどいなかったのだ。「オラァッ! 正義の音速拳っ!」 普通のゴブリンの2倍は大きいオーガゴブリンに目にも留まらぬ連打を叩き込む。オーガゴブリンは何体ものゴブリンを巻き込んで吹っ飛んでいった。 もう何百体倒したかもわからないほどだが、敵が途切れる様子はまったく見られない。ヒロトが地上で戦っているのはスタンドプレーではあったが、それがなければ北門はとっくに陥落していただろう。 決して意識して狙ったわけではない。前世の経験で集団戦には慣れており、そういうことには天性の勘が働くのだった。「あっ、また攻城兵器か! くらえっ、神槍蹴撃!」 わずか三歩で最高速に達し、弾丸のような速度で飛び蹴りを繰り出す。狙ったのは小屋付きの破城鎚だ。防備用の木板をたやすく貫き、粉砕する。「それにしても……ずっと変身してても大丈夫なもんなんだな」 着地先にいたゴブリンたちを素早いジャブとストレートの連打で次々に仕留めていく。武術大会で己の拙さを知ったヒロトは基本的な格闘技術を身に着けはじめていたのだ。無駄のない洗練された動きは、以前の殺陣のような華やかさはないが研ぎ澄まされた機能美を感じさせる。 変身に関してもそうだ。前世ではジャークダーが現れてから変身していたため、常時変身して戦うという発想がまったくなかったのだ。酒場で高町みさきに指摘されて以来、彼は暇さえあれば変身し、その姿のまま訓練や日常生活を送っていた。 そのため、街の人間たちには「赤い人」の愛称で親しまれつつあった。「そういえば、なんで前世じゃめったに変身しなかったんだっけ?」 たしか、セイギネス様から言われたのは「正義のヒーローは正体を知られては
last updateLast Updated : 2026-07-13
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