「エビフライを食うのに資格も何もねえと思うがよ。なんか事情がありそうだな。話くらいなら聞いてやるぜ?」『ありがとう、ございます』 それきり黙り込んだ軍服の青年に、リョウコはそれ以上口をきかなかった。 黙ってグラスに氷を入れ、焼酎をそそぎ、青年の横に置く。 それを見たトウカは「私にも一杯!」とジェスチャーを送るが、リョウコは無視をした。 店の壁にかけられたアナログ時計の秒針が、何回時を刻んだあたりだろう。 青年がグラスの焼酎をぐびりと煽り、重い口を開く。『自分は、約束が守れなかったのであります』「約束っつうのは何だ?」『自分には両親がなく、弟妹がいたのです。出征して、お国のために働いて、金を稼いで帰ってくると約束したのです』「おお、立派な志じゃあねえか。最近じゃあ出世したくねえって若者も多いんだろう?」 リョウコは、出征と出世を聞き間違えていた。『出征して帰ってきたら、銀座の百貨店で、いつかラヂヲで聞いた、エビフライやカツレツ、ビーフシチゥを腹いっぱい食べさせてやると約束をしたのです。しかし、自分はついにその約束を果たせず……』「いい話じゃねえか……」 リョウコは三白眼から大量の涙を流していた。 カウンター越しに青年の肩をガシッとつかみ、熱を込めて語りはじめる。「いいかい、兄さんよ。兄さんの事情はわかった。大見得を切って故郷を出てきたのに、思うように芽が出なくってうじうじしてやがんだ。どうせアレだろう? 実家はこのへんで、今年こそは弟や妹に顔を見せようとして、でも踏ん切りがつかなくってついこんなところで酒を飲んで時間を潰しちまってるんだ。あってるかい?」『おっしゃるとおりです……』 トウカは、「いや、酒を飲ませたのはリョウコさんでしょ」というツッコミをかろうじて飲み込んだ。「でもなあ、故郷に錦を飾りたいって気持ちはわかるぜ。そんな心意気があるだけそれこそ粋ってもんじゃあねえかよ。だいたいアレだ、そんな格好ができるくらいなんだからよ、兄さんだって立派に出世したんじゃねえのかい?」『はっ! 自分は、伍長に任命されました。上官がいなくなったための特例ですが……』「かーっ! ゴチョウなんてすげえじゃねえか。課長、部長の親戚みてぇなもんだろう? あっしなんかは一生かけてもここの店長止まりなんだから
最終更新日 : 2026-07-13 続きを読む