香織の名前を書いた夜から、私は眠れなくなった。 夫の浮気相手が知らない女なら、夫だけを失えばいい。 香織なら、夫と妹を同時に失う。 結婚式の日、香織は私のベールを何度も直した。緊張で手が冷えていた私に、『お姉ちゃん、絶対に幸せになってね』と言い、自分の方が先に泣いた。 陽翔が生まれた日も、家族の中で最初に病院へ駆けつけたのは香織だった。小さな手を怖々とのぞき込み、『私、何でも手伝うから』と笑っていた。 あの涙も、笑顔も、最初から嘘だったとは思えない。少なくとも、あの瞬間の香織は、私の幸せを願っていたはずだ。 だから余計に苦しかった。人は、昔愛していた相手を、あとから傷つけることがある。過去が本物だったからといって、現在まで無実になるわけではない。 私は、結婚式の写真をしまった箱へ手を伸ばしかけ、やめた。確かめたいのは、あの日の香織ではない。いま、崇の隣にいる女性だった。 だから私は、確かめたいのに、外れてほしかった。 …… 水曜日、香織からLINEが来た。 【今週、手伝いいる?金曜なら空いてるよ】 いつもなら、迷わず頼んでいた。 香織が来れば、陽翔は喜ぶ。私も買い物や家事が進む。 でも今は、香織が台所の引き出しを迷わず開ける姿を見たくなかった。 【ありがとう。今週は大丈夫。陽翔と2人でゆっくりするね】 既読がつく。 【そっか。何かあったら、いつでも呼んでね】 何かあったら。 も
Last Updated : 2026-08-11 Read more