All Chapters of 夫の浮気相手は、私の妹でした〜いまから夫の浮気を暴きます〜: Chapter 41 - Chapter 50

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41話

RからのDMを、私はすぐには開かなかった。 見慣れた1文字のアイコンを前に、公開してきたものと、公開しなかったものを頭の中で分ける。 投稿したのは、夫から告げられた予定、私名義の明細、私が受け取ったメッセージ、弁護士に確認した見解だけだ。名字も顔も、陽翔の園も、自宅も書いていない。 Rに個別で送った資料はない。私信で答えたのも、仕事に関する条件だけだった。 それでも、この人は何度か、私が止まりかけた場所へ短い言葉を置いた。 私は過去のやり取りを、日時順に開いた。 Rが現れたのは、私が質問を公開したあとだけだった。 未公開の予定を言い当てたことはない。 自宅へ届いた郵便や、陽翔の体調を知っていたこともない。 少なくとも画面に残る範囲では、私が外へ出した情報の中で話している。 それは安心の証明ではない。 警戒すべき範囲を狭める材料だった。 メモを2列に分けた。 公開済み。投稿、寄稿記事、筆名、登壇予定。 未公開。姓、住所、園名、送迎時刻、弁護士との私信。 長いDMに未公開の項目が1つでもあれば、返信せず、弁護士へ相談する。 公開済みの情報しかなくても、名乗った会社の公式窓口から本人確認する。 感謝と安全確認は、同時にできる。 別の画面で会社の公式サイトを開き、代表電話、問い合わせ先、登記上の代表者名を控えた。 DMに送られてくる証明画像だけでは足りない。名乗った本人が実在しても、こ
last updateLast Updated : 2026-09-22
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42話

【はい。神崎蓮司(かんざき れんじ)です。信用していただけるとは思っていません。確認できる事実からお答えします】 続けて、会社名と公式サイトの役員紹介ページが送られてきた。 講演を依頼してきたITサービス会社の代表。投資事業も手がける、若手の実業家。 私は検索結果を眺める前に、会社の代表番号と登記情報を確認した。送られてきたリンクだけでは、本人確認にならない。 会社の問い合わせ窓口へ、DMの内容は書かずに連絡した。 【代表者を名乗る方から、事業相談の連絡を受けています。本人確認の方法をご案内ください】 返信には、会社のドメインから送る面談招待と、担当者同席の手順が書かれていた。 Rから届いた説明と一致している。 私は日時と担当部署を控えた。 公式サイトの写真には、落ち着いた目をした男性が写っていた。 【講演を依頼したのも、あなたですか】 【はい。ただし、依頼時に匿名アカウントのことは社内へ伝えていません。公開された寄稿記事の筆名と、講演募集へ提出された経歴が一致したので、同じ書き手だと分かりました】 私は画面を見つめた。 顔から辿られたのではない。住所も家族も調べられていない。 私が仕事のために外へ出した経歴が、別の公開情報とつながった。 【その時点で、なぜ名乗らなかったんですか】 返信まで、少し間があった。 【講演を受けるかどうかに、過去の助言への恩を混ぜたくなかったからです。会社として条件を提示し、あなたが仕事として選ぶまでは、Rであることを伏せました】
last updateLast Updated : 2026-09-23
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43話

翌日、約束の時刻ぴったりに通話画面が開いた。 公式サイトの写真と同じ男性が、会議室らしい白い壁の前で頭を下げた。 「神崎蓮司です。名乗るのが遅くなり、申し訳ありませんでした」 「今日は確認だけです。事業の提案は受けません」 「承知しました」 最初に、会社の担当者をひとりだけ画面へ呼んでもらった。 講演依頼を出した担当者と同じ人だった。本人確認が終わると、担当者は退出した。 退出前に、私はもう1点だけ確かめた。 「今後の仕事について、代表との個人的なやり取りを理由に条件が変わることはありますか」 担当者は手元の資料を見て答えた。 「ございません。講演は完了済みです。新規案件は企画部で別に審査します。本日の通話内容は、評価資料へ入れません」 「その方針を、メールでもいただけますか」 「承知しました」 蓮司は口を挟まなかった。 自分を信用してほしいと言う代わりに、私が会社へ確認する時間を待っていた。 次に蓮司は画面を共有した。 フォルダの中にあったのは、公開記事3本へのリンク、法人化について私が投稿したページのURL、カード明細に関する投稿の画像1枚だった。 住所録も、人物相関図もない。 陽翔の名前は、どこにもなかった。 公開記事のリンクには、取得日と目的が書かれていた。 【講演候補者の執筆実績確認】 
last updateLast Updated : 2026-09-24
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44話

約束した金曜、私は駅前のカフェへ向かった。 先に着いていた蓮司は写真で見た印象より、少し柔らかい雰囲気の人だった。立ち上がって、丁寧に頭を下げる。 「お忙しい中、ありがとうございます」 「いえ……あの、今日はどうぞよろしくお願いします」 注文したコーヒーが運ばれてくる間、私たちは少しだけ他愛のない話をした。 今日の天気、この店のこと。文字だけのやり取りとは違う、相手の間合いを探るような、慎重な会話だった。 向かい合って座ると蓮司はすぐにこう切り出した。 「事業の相談の前にいくつか、確認させてください。今日の面談のためにいくつか調べさせていただきました」 その言い方に少し引っかかりを覚えた。準備の良さは頼りになる。 でも行き過ぎた準備は時に相手の領域に踏み込みすぎることと紙一重だ。 「調べる、というのはどの程度まで?」 「美咲さんの寄稿記事、連載、それから、公開されている登壇予定まで、一通りは。事業計画を伺う上で、必要な範囲だと思っています」 必要な範囲、という言葉の線引きがこの人と私とで、同じ場所にあるとはまだ、限らなかった。 …… 「美咲さんがいま関心を持たれている事業形態は契約実務が複雑になりやすい規模です。だから、こちらで、税理士と行政書士、それぞれ、実績のある方を2名ずつ、リストアップしておきました」 蓮司はそう言って、綺麗にまとめられた資料をテーブルに置いた。 私はその資料を見て、少し驚いた。表紙には、それぞれの専門家の得意分野、過去の
last updateLast Updated : 2026-09-25
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45話

蓮司の「隣にいたい」という言葉を、私はその場で告白として受け取らなかった。 隣という場所が、私の仕事や陽翔の生活へ勝手に入る権利を意味するなら、答えは決まっている。 その一言に私はすぐには答えなかった。カフェの窓の外を人々がそれぞれの速さで通り過ぎていく。 その光景を眺めながら、私は自分の中の答えを探していた。 答えられなかった、というのが正確だった。 蓮司に対する感情は、まだうまく名前をつけられなかった。 好意がないわけではない。でもそれが恋愛感情なのか、対等な相手への信頼なのか、自分でもまだ、区別がつかなかった。 「返事は急ぎません」 蓮司はそう言って、カップに残ったコーヒーを一口飲んだ。 「以前の僕なら、事業も生活もまとめて支えると言ったと思います。でも、それでは美咲さんの選択を奪う。必要な支援があるなら、範囲を美咲さんに決めてほしいです」 「意見と選択肢はほしいです。でも、事業も生活も、決定まで預けるつもりはありません」 「分かりました。その線を越えないようにします」 「じゃあ、私からも条件を言わせてください」 私はテーブルの上で、両手を軽く組んだ。あの夏、弁護士との初回相談で、緊張しながら要件を切り出したときと同じ姿勢だった。 「お金の援助はいりません。事業のことも意見はもらいたいですが、決めるのは私自身にさせてください」 「はい」 「先回りして、勝手に全部を進めるのもやめてください。あなたが良かれと思ってしたことでも私に相談なくやったことは私にとっては越境になります」&nb
last updateLast Updated : 2026-09-26
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46話

役員フロアへ着くと、周囲の視線がこちらへ集まった。 社長自らが同席する案件は珍しいのだと、案内の担当者が小声で教えてくれた。私は背筋を伸ばした。 「どうぞ、こちらへ」 通されたのは役員フロアの一角にある会議室だった。 ガラス張りの壁の向こうにフロア全体が見渡せる。窓の外には都心のビル群が午後の光を反射していた。 落ち着いた内装の中に緊張と期待が静かに漂っていた。 蓮司はすでに席についていた。私服のときとはまるで違う顔をしていた。 「お待たせしました」 蓮司は立ち上がって、丁寧に頭を下げた。 その所作はカフェで会ったときと同じはずなのに、まとう空気が違った。経営者としての顔がそこにあった。 「早速ですが、事業計画について、いくつか、確認させてください」 蓮司の口調は事務的で、無駄がなかった。 テーブルに広げられた資料には私が持ち込んだ企画書に対する、具体的な質問と想定される課題がびっしりと書き込まれていた。 「この収益モデルだと初年度は赤字を見込む形になりますね」 「はい。連載の収益だけではまだ、事業として自立できません。だから、寄稿と講演を並行させて、初年度は赤字を許容する前提で組んでいます」 「その赤字幅をどこまで許容できますか」 数字をはっきりと聞かれた。私は事前に用意していた資料を開いて、根拠となる数字を答えた。 蓮司は私の答えの一つ一つに頷きながら、さらに細かい質問を重ねてきた。 契約形態、税務処理、著作権の扱
last updateLast Updated : 2026-09-27
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47話

「今度は仕事じゃない食事を」 その一言を私は数日、持て余していた。 事業の相談相手として、蓮司を信頼できることはもう、はっきりしていた。 でもそれとは別の関係をこの人と築くかどうか。まだ、自分の中で、答えが出ていなかった。 考えた末に私はこう返信した。 【はい。お受けします】 短い返信だったが送った瞬間、指先が少しだけ、震えた。 崇と付き合い始めた頃の、あの浮かれた震えとはまったく違う種類の緊張だった。 何かを期待する震えというより、これから始まる何かを自分の意思で選び取る、その責任の重さに近い震えだった。 続けて、私から条件を送った。 【19時から21時まで。人目のある店で、現地集合と現地解散にしてください。陽翔の体調次第では当日でも延期します】 数分後、返信が来た。 【承知しました。店は候補を3つ送ります。美咲さんが選んでください】 続けて、苦手な食材、香り、酒の希望を尋ねる短い確認表が届いた。私は自分の分だけを入力した。陽翔の情報は書かなかった。 決めるのは私。 仕事の交渉で伝えた条件が、恋愛の入口でも守られている。 そのことを確認してから、母へ電話をかけた。 「仕事じゃない食事に行きたいの。陽翔を2時間だけお願いできる?」 口にすると、耳が熱くなった。母は相手の名前を聞く前に言った。 「いいよ。美咲が行きたいなら、行っておいで」 
last updateLast Updated : 2026-09-28
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48話

蓮司と初めて、仕事ではない食事をしてから、2か月が過ぎた。 私たちは人目のある場所で何度か会った。仕事の打ち合わせと、ふたりだけの食事。 そのどちらでも蓮司は私が示した終了時刻を守り、陽翔の住所や園を尋ねなかった。 その間の5月15日、陽翔は4歳になった。 誕生日の夜、眠った陽翔の髪を撫でながら、私は考えた。 蓮司をこの子に会わせるかどうか。決めるのは私だ。 けれど、会う場所と、嫌なら帰っていいことは陽翔にも選ばせたい。 翌朝、私は陽翔の目の高さまで、しゃがんだ。 話す前に、私は園の相談員へも確認していた。 新しい交際相手を「新しいパパ」と紹介しないこと。 会う回数を急に増やさないこと。 子どもが黙ったとき、賛成と決めつけないこと。 家族の答えを求めず、会ってみたいかという今日の希望だけを聞くこと。 「正解を言わせようとしないでください」と相談員は言った。 私はその言葉を手帳へ書いた。 「ママのお仕事で仲良くなった人に、公園で会ってみる?」 「だれ?」 「蓮司さん。ママが大事にしたいと思っている人。でも陽翔が嫌なら、いまは会わなくていいよ」 陽翔はしばらく、私の顔を見た。 「こうえん?」 「うん。ママもずっと一緒」 「じゃあ、いく」 私はその返事を、許可
last updateLast Updated : 2026-09-29
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49話

【会長があなたにお会いしたいと】 その一文を読んで、私はしばらく画面を見つめたまま、動けなかった。 「気が進まなければ、断っても構いません」 蓮司はそう続けた。でも私は逃げるという選択肢を最初から、考えていなかった。 「会長はどういう方なんですか」 「厳しい人です。事業の判断も家族の判断も感情より、家の論理を優先する人です。ただ、筋が通っていれば、頭ごなしに否定する人でもありません」 蓮司の説明には父親への複雑な感情がうっすらと滲んでいた。尊敬と距離感が同時に存在しているような口調だった。 「いいえ。お会いします。いつか、通らなければいけない道だと思うので」 …… 指定された日、私はこれまでで一番緊張しながら、神崎家の門前に立った。 神崎家は、都心の高台にある広い邸宅だった。手入れの行き届いた庭の奥に、重い玄関扉が見える。それだけで、外から来た者を自然と緊張させる静けさがあった。 「こちらです」 案内役に続き、絵画の並ぶ長い廊下を歩いた。足音だけが、広い家の中へ小さく響いた。 通された応接間には、恰幅のいい初老の男性がすでに座っていた。 神崎グループ会長の神崎宗一郎(かんざき そういちろう)。蓮司の父親であり、この一族の頂点に立つ人だった。 写真で見た印象より、実物はずっと圧のある佇まいだった。 「どうぞ、そちらへお座りください」 会長の声は低く、落ち着いていた。それでいて、有無を言わさない重みがあった。 
last updateLast Updated : 2026-09-30
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