12月7日に協議開始を依頼してから2週間後、12月21日、月曜日。弁護士事務所の会議室は、あっけないほど静かだった。窓の外の車の音も、エアコンの低い唸りも、ここでは他人事みたいに遠い。テーブルを挟んで、私と弁護士。向かいに、崇と、崇が急いで立てた弁護士。香織は、別室にいる。同席させないよう、私が最初に希望した。「では、始めます」私の弁護士が、ファイルを開いた。あの夜、私が指でめくった証拠の束が、いま、机の上で正式な資料になっている。……崇側の弁護士が、ファイルに目を通すごとに、表情を失っていくのがわかった。「……この状況では、争う余地は、正直、ほとんどありません」崇の弁護士が、崇に耳打ちする。崇は、うつむいたまま、何も言わなかった。「離婚の条件は、以下のとおりでよろしいですか」私の弁護士が、淡々と読み上げていく。「陽翔くんの親権者は美咲様とし、単独親権とします。養育費は月額6万円。財産分与は折半で……」数字が、次々と読み上げられる。不思議なくらい、心は動かなかった。感情を使う場面は、もう、済んでしまったのかもしれない。3カ月分の涙と絶望は、あの深夜のリビングで、使い切った。「慰謝料についてです」弁護士が、続けた。「崇様と香織様に、連帯して総額300万円を請求します」「300万……そんな額、すぐには無理だ」崇が初めて、顔を上げた。金額に驚いたのではない。その金額が、私の3カ月の痛みを、紙の上で消えない形にしたことに怯えているのだと思った。「あなたが決めたことではありません」私は崇を見た。「私たちの生活を壊すことを、あなたたちは2人で決めた。私は、壊されたものを元に戻せないから、責任の形を決めているだけです」300万円ずつ、二重に受け取るわけではない。同じ損害について、2人に連帯して支払いを求める。どちらがどれだけ負担するかは、2人の側で調整する。崇の弁護士が、口を挟んだ。「香織さんへの請求は、別件として……」「いいえ」私の弁護士は、動じなかった。「ホテルの利用履歴、調査報告書、写真があります。近しい親族による行為だった事情も含め、両名への連帯請求を維持します」香織にも、逃げ場はない。「……分割払いという形は、認められませんか」崇側の弁護士が、食い下がった。「一括でお願いします」私の弁護士が、間を置かず答えた
Última atualização : 2026-08-23 Ler mais