「過去の未練も裏切り者もすべて地下室の泥水に沈め、私は天神を見下ろす玉座で極上のワインを味わう――はずだった」◇ ボルドーの赤ワインが、バカラのグラスの中でルビーのように鈍く光っている。 室温二〇度に完璧に保たれた、百道浜の最高級タワーマンションのペントハウス。 壁一面の巨大なガラス窓の向こうには、「天神ビッグバン」によって生まれ変わろうとしている福岡の中心街が、無数の光の瞬きとなって広がっていた。 古いビルが次々と取り壊され、巨大なクレーンが空を突き刺し、新しい欲望の塔が次々と建てられていく。あの光の群れの下には、金と権力に群がる無数の虫けらたちが蠢いている。 私はその頂点から、最高級のシルクのガウンを羽織り、足を組みながら彼らを見下ろしていた。「……本当に、滑稽ね」 私はグラスを揺らしながら、手元のタブレット端末に視線を落とした。 画面に映し出されているのは、光り輝く天神の地下深く――私が莫大な資金を投じて作り上げた、誰にも見つからない完全防音の巨大シェルターの地下室だ。 高画質の赤外線カメラが捉える、カビと排泄物にまみれた冷たいコンクリートの床。 そこに、かつて私を裏切り、全財産を奪い、私を博多湾の冷たい海へ突き落とした二人の人間が、鎖に繋がれて転がっている。 元夫の、佐藤健太。 そして、元秘書であり彼の愛人だった、高橋愛理。 臓器売買の闇ルートから「買い戻した」彼らの姿は、もはや人間の原型を留めていない。 健太は右目をくり抜かれ、塞がれた眼帯からは常に膿のような体液が滲み出ている。手の指も数本が不自然な方向に曲がったままだ。 愛理は片方の腎臓を乱暴に摘出され、巨大な手術痕を押さえながら、点滴の管に繋がれてガタガタと震えている。『あ……うぅ……みず……』 タブレットから漏れ聞こえる、健太の掠れた声。 彼らは一日一回、上からパイプで流し込まれる泥水のようなすすけた水と、最低限の固形物
Huling Na-update : 2026-09-01 Magbasa pa