「……考えたことがないと思う?」 綾香がそう尋ねると、遥臣は少し驚いた顔をした。「それは、期待してもいいということか?」「ふふ。どうかしら」「綾香」「もちろん、考えたことはあるわ」 綾香は微笑んだ。「でも、まだ少し不思議なの。遥臣とこうして恋人同士になっていることも」「俺は、ようやくここまで来たと思っているがな」「まあ。そんなに前から?」「ああ」 遥臣は綾香の手を握り直した。「理央との婚約があったから、何も言わなかっただけだ」「……そうだったのね」 綾香は胸が温かくなるのを感じた。 前の人生では、遥臣の気持ちに気づくことすらなかった。 今、こうして隣にいられることが、何より嬉しかった。◇◆◇ その夜、綾香は父と夕食をともにした。「今日は遥臣君と出かけていたそうだね」「ええ。沙織さんたちとお茶をいただいてきたの」「楽しかったかい?」「ええ、とても」 綾香は少し迷ってから、父を見た。「お父様。もし、遥臣から結婚のお話があったら、どう思われる?」 父は持っていたグラスを置いた。「遥臣君から?」「ええ。まだ具体的なお話ではないのだけれど」「そうか」 父はしばらく綾香を見つめ、穏やかに微笑んだ。「私は賛成だよ」「本当に?」「ああ。遥臣君なら、安心して綾香を任せられる」 綾香は嬉しくなった。「ありがとう、お父様」「ただし、ひとつだけ条件がある」「まあ、何かしら?」「結婚しても、たまには父親に顔を見せに来てくれないか」 綾香は思わず笑った。「もちろんよ。そんなの、条件にするまでもないわ」「そ
Última actualización : 2026-10-27 Leer más