翌朝、綾香が朝食の席に着くと、父はすでに新聞を広げていた。「おはよう、お父様」「おはよう、綾香。よく眠れたかい?」「ええ、とても」 父は新聞を畳み、嬉しそうに笑った。「昨日は九条先生と、どんなところへ行ったんだい?」「植物園よ。秋のバラがとても綺麗だったの」「そうか。お母さんもバラが好きだったな」「ええ。私も思い出したわ」 綾香が紅茶に手を伸ばすと、父は少し考えるような顔をした。「そういえば、九条先生はいつ頃いらっしゃるんだろうね」「まだ日にちは決めていないわ。お父様のご都合を聞いてからにしようと思って」「私はいつでも構わないよ。九条先生もお忙しいだろうから、無理のない日にしてもらいなさい」「ありがとう。そう伝えるわ」 父は満足そうに頷いた。「しかし、正式に交際の挨拶をしたいとは、律儀な人だね」「そういうところも素敵でしょう?」「ああ。よく分かるよ」 父の返事があまりにも素直だったので、綾香は笑ってしまった。◇◆◇ 午前中、綾香は遥臣に父の予定を伝えた。 ほどなくして、次の土曜日の午後に訪ねるという返事が届く。『お父様も楽しみにしているわ』『俺も楽しみにしている』 続いて、もう一通。『今夜、電話できるか?』『もちろんよ』 短いやり取りなのに、綾香は何度も画面を見返してしまった。 恋人になったからといって、遥臣が急に別人になるわけではない。 それでも、これまでとは少し違う。 会いたいと言ってもいいし、好きだと伝えてもいい。 その変化が嬉しかった。◇◆◇ 午後、綾香がリビングで雑誌を読んでいると、橘がやってきた。「お嬢様、美月様がお見えでございます」「美月が?」「はい。お近くまでいらしたので、ご挨拶だけでもと」 綾香は雑誌を閉じた。「分かったわ。こちらへ通してちょうだい」 しばらくして、美月がリビングに姿を現した。 淡い水色のブラウスに、落ち着いた色のスカートを合わせている。「突然ごめんなさい、綾香」「いいのよ。どうしたの?」「近くに用事があったものだから。おじさまにもご挨拶できればと思って」「お父様は今日はお仕事よ」「そうなのね。お元気にしていらっしゃる?」「ええ。ありがとう」 美月は安心したように微笑んだ。「よかった。最近はお仕事にも戻られているのよね」「そうよ」
Last Updated : 2026-10-11 Read more