Tous les chapitres de : Chapitre 21 - Chapitre 24

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第20話 奴隷狩りの隊長

第20話 奴隷狩りの隊長 北の通路を満たした足音は、十二人分あった。 重い長靴。金具の多い革鎧。石床を引きずる鎖。角笛の余韻が消えた後も、《微音察知》へ意識を沈めたリュゼルの耳には、一人ごとの呼吸まで届いていた。 先頭に五人。その後ろに四人。残る三人は、左右の脇道を探っている。 神殿を包囲するつもりだ。「灰色の牙、アレ。シルシ」 シュカが震える指で闇を示した。 侵入者たちの手にした松明が岩壁を照らす。灰色の獣牙を三本束ねた紋章が、外套の胸元へ縫いつけられていた。 魔族の傭兵団《灰牙》。 戦場から奴隷市場の護衛まで、金さえ支払われれば何でも請け負う者たちだとネフィリアが告げた。シュカたちを捕らえた奴隷狩りへ雇われ、売り物にならなくなった子どもを奈落へ投げ捨てたのも、同じ紋章をつけた者たちだった。 ガザの歯が鳴っている。 リムはトトとエナを背へ庇い、片翼を広げた。逃げ道を確かめる視線が、祭壇と西の通路を忙しく往復している。「五人を西の横穴へ」 リュゼルは黒鎖の短剣を腰へ差した。「入口が突破されるまでは出てくるな。月角兎も連れていけ」「あなたはどうするの」 ネフィリアの声が低くなる。「あいつらの狙いは子どもだ。ここで待てば神殿の中が戦場になる」「一人で出れば、あなたが狙いへ加わるだけよ」「珍しい人間を見つけたら、生かして捕らえようとする。時間を稼げる」 自分で口にすると、胃の底が冷えた。 それでも、子どもたちのそばで剣を振るわれるよりはいい。神殿の外には、魔物の侵入へ備えて罠を張り巡らせてある。すべての位置を把握しているのはリュゼルだけだった。「また、自分を餌にするのね」「捨てる餌じゃない。戻ってくるための囮だ」 ネフィリアの紫紺の瞳が細くなる。 リュゼルは胸元の契約線へ指を当てた。「あんたは、ここを守ってくれ」「命令するつもり?」「頼んでる」 短い沈黙の後、ネフィリアは子どもたちへ顔を向けた。「西へ行きなさい。私の影鳥が先導するわ」 シュカは動かなかった。「ニンゲン、マタ、ヒトリ」「一人じゃない」 リュゼルは契約線を軽く叩いた。「声が届く」 その言葉に、ネフィリアの表情が僅かに揺れる。 影鳥が子どもたちの頭上へ舞い降りた。シュカは唇を噛み、リュゼルの外套を一度だけ掴む。すぐに手を離すと、ガザの背
last updateDernière mise à jour : 2026-07-27
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第21話 私の契約者に触れるな

ネフィリアが神殿の外へ出ると、奈落の空気そのものが彼女を避けるように静まった。足首に残る枷から六本の鎖が伸び、石床の上を擦っている。可動範囲の限界は、祭室から十数歩。それ以上は進めない。それでも彼女が姿を見せただけで、二十人近くいた灰牙の傭兵たちから声が消えた。銀白の長髪。黒曜石を思わせる角。胸元に揺れる、黒い雫型の王家の宝石。「本物……なのか」誰かが呟いた。「深淵王家は全員死んだはずだ」「処刑されたって……」「見るな。呪われるぞ」恐怖は、小さな声ほどよく広がった。ネフィリアは一つも反応しなかった。視線は最初からザハルの足へ向いている。その下にはリュゼルがいる。肩から血を流し、胸を踏みつけられ、息を整えようとしている彼だけを見ていた。「私の契約者から足を退けなさい」静かな声だった。怒鳴ってはいない。だからこそ、傭兵たちの背筋を冷たいものが走った。ザハルは一瞬だけ目を細めたあと、口角を持ち上げた。「契約者?」わざと靴へ力を込める。リュゼルの肋骨が軋んだ。ネフィリアの紫紺の瞳が細くなる。「聞こえなかった?」「聞こえたさ」ザハルは彼女の角から宝石へと舐めるように視線を動かした。「王家の生き残り。しかも女。こりゃ大当たりだ」部下たちが戸惑う。「隊長、やめたほうが……」「黙れ」「でも深淵王家は禁忌指定が――」「だから高えんだよ」ザハルの目に、露骨な欲が浮かぶ。「現魔王家に持っていきゃ、どれだけ出すと思ってる。死体ですら値が付く血だ。生きてりゃ桁が違う」ネフィリアの表情は変わらない。「王家は滅びた」ザハルが嘲る。「お前には何もねえ。国も、兵も、お前の名前に跪く臣下もいない。鎖につながれた小娘一人で何ができる」「ええ」あまりにも簡単に認めたため、ザハルの笑みがわずかに止まった。ネフィリアは足元の鎖を拾い上げた。冷たい金属が白い指の中で擦れる。「私には国も、軍も、臣下もいない」声には悲嘆も屈辱もない。事実を事実として置くような声音だった。「けれど」彼女の影が、揺れた。鉱石灯の位置とは合わない方向へ。細い影が一本、石床の亀裂を這う。「それが彼へ触れてよい理由にはならない」影が爆発的に広がった。「っ!」傭兵の一人が悲鳴を上げる。黒紫色の影が足首へ絡みつき、石床へ縫いつけていた。
last updateDernière mise à jour : 2026-08-17
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第22話 地上へ続く古地図

灰牙が残した荷物には、子ども用の鉄枷が三十七個入っていた。数え終えた時、リュゼルはしばらく指を動かせなかった。革袋から取り出して石床へ並べた枷は、どれも小さい。成人の手首には合わない。中には幼い子どもでも余るほど細いものまであり、内側には逃亡を防ぐための返しがつけられていた。「壊していい?」フィオルより幼く見える獣人の少年が訊いた。「いいよ」リュゼルが答えると、少年は両手で一つを持ち上げ、石へ叩きつけた。一度では壊れない。二度。三度。他の子どもも近づいてくる。誰も声を上げなかった。ただ順番に枷を受け取り、石床へ打ちつける。乾いた金属音が神殿に何度も響いた。リュゼルは止めなかった。最後の一つが歪み、使い物にならなくなってから、灰牙の荷物を改める。保存食。油。縄。解毒薬。金貨。捕獲用の眠り粉。それから、ザハルが身につけていた革袋。血と灰が付着している。ネフィリアは少し離れた柱へ背を預けていた。肩の傷は布で巻いてある。リュゼルと同じ場所。本人は痛みなど存在しないような顔をしているが、ときおり右手で左肩を押さえる。「休んでいていい」「あなたも負傷者よ」「俺は荷物を見るだけだ」「私は立って見ているだけ」「なら同じか」「そうね」短いやり取り。以前なら、それで会話は切れていた。今は不思議と沈黙が重くない。リュゼルは革袋の口紐を解いた。最初に出てきたのは、数枚の依頼書。文字は魔族領で使われる公用文字らしい。リュゼルには読めない。ネフィリアへ渡す。「何て書いてある?」彼女は目を走らせた。「回収対象。十五歳以下を優先。魔力保持者、混血、希少種は損傷を避けること」声が僅かに低くなる。「搬送先は?」「書いてない。符号だけ」「黒冠研究棟と同じか」「おそらく」紙の端には、現魔王家の紋章とは別に、小さな白い円が押されていた。それを見たネフィリアの指が止まる。「それは?」「知らない」即答だった。しかし紙を戻す動きがほんの僅かに遅れた。リュゼルは追及しなかった。次に出てきたのは硬貨。続いて黒い鍵。そして最後に、何度も折り畳まれた厚い皮紙。開いた瞬間、埃と古い油の匂いが立った。「地図か」祭室の床へ広げる。大きい。現在彼らが把握している神殿周辺だけではない。奈落の深層が、複雑な樹木
last updateDernière mise à jour : 2026-08-17
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第49話 祖国から来た追手

城の北側へ伸ばしていた影鳥が一羽、翼を半ば失った状態で戻ってきた。黒い羽根を散らしながら城門を越え、石床へ落ちる。ネフィリアがすぐに片膝をつき、掌へ乗せると、魔力で作られた小鳥の輪郭が数度揺らいだ。外敵に攻撃されたのだと理解した瞬間、近くで荷の整理をしていたイセラの黒豹の耳が立った。「人?」「ええ。それもかなり多いわ」ネフィリアは目を閉じ、壊れかけた影鳥が最後に見た光景を読み取った。紫紺の瞳を開いた時、その表情からわずかな緩みも消えている。「三十七。全員人間。統一された甲冑を着ているから、傭兵ではないでしょうね」「紋章は?」ヴァレクの声が背後から飛んだ。いつもより低かった。彼は冥甲熊との一件以来、城の武器庫を整理する仕事を勝手に引き受けていた。傷はほぼ塞がっており、黒鉄の鎧もフィオルが修理できる範囲だけ手を入れている。胸元に残された古い紋章の削り跡だけは、本人が触らせなかった。ネフィリアは影鳥から読み取った形を説明する。「白地に、剣を抱く双頭の鷲」ヴァレクの右目が細くなった。「フェルザだ」短い言葉だったが、イセラがすぐに腰の湾曲刀へ手を掛けた。「お前の国か」「元、だ」ヴァレクは訂正すると、城門へ向かって歩き始めた。リュゼルがその前へ回り込む。「どこへ行く」「俺を探している」「まだそう決まってない」「フェルザ王国の正規騎士が、観光のために奈落へ三十七人も降りてくると思うか」返す言葉がなかった。ヴァレクはそのまま進もうとする。リュゼルは退かなかった。「まず話を聞く」「俺が出れば済む」「済むかどうかを決めるのは、話を聞いてからだ」ヴァレクの眉間へ皺が寄る。しかし口論を続ける前に、外から角笛が響いた。三度。短く。軍隊が交渉を求める時の合図だとヴァレクが告げる。「向こうもすぐ攻める気ではないらしい」リュゼルは黒鎖短剣を腰へ差した。「なら交渉する」ネフィリアが隣へ立つ。「私は姿を隠したほうがいい?」「いや」リュゼルは首を振った。「ここにネフィリアがいることを隠して話しても意味がない」「相手が人間なら、私を見た瞬間に交渉が終わる可能性もあるわよ」「それでもだ」イセラが鼻を鳴らす。「相変わらず面倒な正直者だな」「嘘が下手なんだよ」「それは知ってる」城の中では、シュカたちがすでに年少者を奥
last updateDernière mise à jour : 2026-08-17
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