第20話 奴隷狩りの隊長 北の通路を満たした足音は、十二人分あった。 重い長靴。金具の多い革鎧。石床を引きずる鎖。角笛の余韻が消えた後も、《微音察知》へ意識を沈めたリュゼルの耳には、一人ごとの呼吸まで届いていた。 先頭に五人。その後ろに四人。残る三人は、左右の脇道を探っている。 神殿を包囲するつもりだ。「灰色の牙、アレ。シルシ」 シュカが震える指で闇を示した。 侵入者たちの手にした松明が岩壁を照らす。灰色の獣牙を三本束ねた紋章が、外套の胸元へ縫いつけられていた。 魔族の傭兵団《灰牙》。 戦場から奴隷市場の護衛まで、金さえ支払われれば何でも請け負う者たちだとネフィリアが告げた。シュカたちを捕らえた奴隷狩りへ雇われ、売り物にならなくなった子どもを奈落へ投げ捨てたのも、同じ紋章をつけた者たちだった。 ガザの歯が鳴っている。 リムはトトとエナを背へ庇い、片翼を広げた。逃げ道を確かめる視線が、祭壇と西の通路を忙しく往復している。「五人を西の横穴へ」 リュゼルは黒鎖の短剣を腰へ差した。「入口が突破されるまでは出てくるな。月角兎も連れていけ」「あなたはどうするの」 ネフィリアの声が低くなる。「あいつらの狙いは子どもだ。ここで待てば神殿の中が戦場になる」「一人で出れば、あなたが狙いへ加わるだけよ」「珍しい人間を見つけたら、生かして捕らえようとする。時間を稼げる」 自分で口にすると、胃の底が冷えた。 それでも、子どもたちのそばで剣を振るわれるよりはいい。神殿の外には、魔物の侵入へ備えて罠を張り巡らせてある。すべての位置を把握しているのはリュゼルだけだった。「また、自分を餌にするのね」「捨てる餌じゃない。戻ってくるための囮だ」 ネフィリアの紫紺の瞳が細くなる。 リュゼルは胸元の契約線へ指を当てた。「あんたは、ここを守ってくれ」「命令するつもり?」「頼んでる」 短い沈黙の後、ネフィリアは子どもたちへ顔を向けた。「西へ行きなさい。私の影鳥が先導するわ」 シュカは動かなかった。「ニンゲン、マタ、ヒトリ」「一人じゃない」 リュゼルは契約線を軽く叩いた。「声が届く」 その言葉に、ネフィリアの表情が僅かに揺れる。 影鳥が子どもたちの頭上へ舞い降りた。シュカは唇を噛み、リュゼルの外套を一度だけ掴む。すぐに手を離すと、ガザの背
Dernière mise à jour : 2026-07-27 Read More