イセラが城へ戻ってきた時、最初に異変へ気づいたのはリュゼルだった。普段の彼女は足音をほとんど立てず、広間へ入ってからようやく帰還を知ることさえ珍しくない。それがその日は、外周回廊の向こうから明確な靴音が続き、結界の境界を越えた直後には黒豹の尾が大きく振れていた。呼吸もわずかに速く、額へ薄く汗が浮いている。リュゼルは長卓に広げていた保存食の一覧から顔を上げ、その様子だけで食料や魔物とは別の問題が起きたと察した。「何があった」イセラは水を求めることもなく、卓の端へ両手をついた。「人間の騎士団だ」広間の空気が変わった。フィオルが修理中だった魔力灯から顔を上げ、子どもたちも話を止める。少し離れた場所で大剣の手入れをしていたヴァレクだけは、動きを止めたまましばらく何も言わなかった。「何人」「十二。全員、正規装備。鎧だけじゃない。深層用の保存食、解毒薬、長期燃焼灯、奈落用の杭まで持ってる。迷い込んだ探索隊じゃない」リュゼルの眉が寄る。「進路は?」「こっちだ。しかも真っ直ぐ来てる」そこまで聞いて、ネフィリアが腕を組んだ。紫紺の瞳が冷える。「偶然ではないわね」イセラは頷き、腰の袋から黒い石片を一つ取り出した。地図へ書くより早いと判断したらしく、卓の横に積もっていた薄い砂へ指先で紋章を描く。三本の槍を束ね、その背後へ王冠を重ねたような図形だった。「紋章はこれ」ヴァレクの手から布が落ちた。誰もすぐには声をかけなかった。彼の暗赤色の右目は、砂に描かれた印へ釘づけになっている。「フェルザ王国」ヴァレクが低く言う。リュゼルは彼を見る。「祖国か」「ああ」短い返事だったが、声がわずかに硬かった。数日前まで、自分が死ねば十二人の部下への報いになると信じていた男が、今は城の一角で子どもの皿を取ってやり、フィオルへ荷物の持ち方を教えている。その過去が、地上から形を持って追いついてきたのだ。「俺を追ってきた」ヴァレクはそう言って大剣の柄へ手を伸ばしたが、リュゼルはすぐ首を振った。「それだけじゃない」イセラも同じ考えだったらしく、卓の砂へ指を走らせる。「奴らは分岐で迷ってない。奈落深層まで来た人間なら、普通は三回に一回は止まって方向を確認する。こいつらは地図か案内を持ってる。それも、かなり正確なものだ」「この城の場所まで?」「少なくとも、この周辺に何かある
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-06 อ่านเพิ่มเติม