Tous les chapitres de : Chapitre 41 - Chapitre 50

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041 未練

「よう、マステル……」 間違いなく、こいつは魔将軍マステル。序章におけるボスであり、戦闘によりリィナを疲弊させた元凶である。マステルのせいで俺はディヴィニタス・アルマを使うしかなくなったのだ。 悲運の青のせいか、或いはリィナと旅をする状況がゲームと同じだからか。目的地は異なったというのに、俺たちの前に現れていた。「ほう、私をご存じなのですね? ならば、名を聞きましょうか」「別に馴れ合う気はねぇよ。どこかへ行ってくれないか?」 いずれ倒さねばならない敵であるけれど、今はタイミングが悪すぎる。  俺とリィナは旅を始めたばかり。まだ魔将軍と戦う準備ができていない。「そう言われましてもね。先ほど魔力波を垂れ流したのは貴方でしょうか? 現状からはまるで理解できませんが……」 そりゃそうだ。  烈火無双は勇者最大の剣技。レベル20程度でも、それなりの威力を発揮しただろう。  だからこそ、気付かれてしまったのだろうが、生憎と一日に一回しか烈火無双は使えない。「それで貴方は女神の使徒なのでしょうか?」 饒舌な野郎だな。確かに使徒だけど、素直に答えてやる必要はないはずだ。「どうだろ? てか、お前はどうして、こんなところにいた? まさか魔力を感じて魔国から飛んできたとかいうなよ?」「いやなに、勝利を収めたあと、どこを手に入れようかと物色していたのですよ。貴方たちに会ったのは偶然です」 偶然ね……。  俺には悲運の青が引き起こした必然の状況にしか思えん。どこまでも俺は悲運の星の下にあるのだから。「で、俺たちを殺すつもりか?」 戦えば命がない。こんな今も俺はリィナたちが逃げる算段を考えていたけれど、都合の良い選択肢などあるはずもなかった。(あの呪文じゃ無理だよな) ディヴィニタス・アルマは女神の加護だ。  魔族に利くとは思えないし、そもそも女神は魔神と同格じゃない。七柱女神の中でシエラが強い力を持っていたとしても、七柱で魔神と戦っているんだ。魔神の使徒たる魔将軍に利くはずもなかった。「どうしましょうか? 私は割と忙しいのですが、群れる羽虫を払うくらいの時間はございます。先ほどの魔力波も気になりますし……」 残念ながら戦闘は避けられない模様だ。  既にマステルは地上へと降り、大きな羽を折りたたんでいる。「リィナ、逃げろ……」 
last updateDernière mise à jour : 2026-08-23
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042 九死に……

 俺の啖呵をマステルは笑っている。 確かに現実味なんて少しも感じなかっただろう。  俺は勇者であると語っていないし、奴は俺たちを羽虫だと言ったんだ。「さっさと始めようぜ? お前が戦うつもりなら」 オマケシナリオと同じであれば、倒す必要はない。 きっと一定のダメージを与えたのなら、マステルは去って行く。  ならば、俺はゲームと同じように一撃も食らわずにダメージを与え続けるだけだ。「追い詰められたネズミなのでしょうかね? しからば私はネコですか。たまには噛まれてみるのも悪くありません」 魔将軍マステルは六魔将の中では話せるタイプだ。かといって、ゲームと同じであれば戦闘は避けられない。 目的も方角も異なったけれど、恐らくこの邂逅はルカという魂に惹かれて成り立っている。必然的な出会いなのだと思う。「運が悪かったと考えてください。これでも私は六魔将が一人。虫ケラであろうと、見逃すわけにはなりませんので……」「こちとら不運は嫌と言うほど分かってんだよ。さっさと剣を取り出せ」 六魔将も魔神ザナ・サタンの使徒であり、その加護を受けている。従って、アイテムボックスなるスキルを有しているはずだ。「必要ありません。羽虫を払うと言ったでしょう? 剣で払う方が難しいではないですか」「言ってろ!!」 俺は駆け出していた。  力任せに愛剣を振り下ろし、先制攻撃とするために。 荒野に響く金属音。リィナに買ってもらった業物であるというのに、マステルの皮膚には傷跡を付けることすらできなかった。「やはり気のせいでしたか……」 ニヤリとするマステル。傷すら負っていない彼は、既に俺たちの実力を推し量っている。「リィナ、レベルは幾つだ!?」 もしもリィナがレベル20に達していたのなら、バフスキルを習得しているはず。重ねがけをして、レベル差を埋めていくしかない。「えっ? 12だけど?」 これは駄目か……。  侯爵令嬢であるリィナがレベル上げに勤しんでい
last updateDernière mise à jour : 2026-08-24
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043 運命の分岐点

 愛剣が振り切れていた。  浅くはあったけれど、確かにマステルの肉を裂いていたんだ。「クッ……。貴様、何をした!?」 俺だって知りたいよ。  今まで弾かれるだけであった俺の攻撃が初めて通ったんだ。特別なことは何もしていないってのに。(攻撃を避けて、斬っただけだよな?) あれ……?  俺はとんでもないことを見落としていたのかもしれない。スキルのバフだけが威力増大に繋がるだなんて。 しかし、今しがたの攻撃はそれを否定する。  明確に俺の攻撃は威力を発揮していたはず。これまでと同じように斬っただけなのに。(ひょっとしてカウンター判定……?) アクションゲームならではの攻撃。相手の攻撃モーション内に一撃を加えると、威力が倍増するカウンター攻撃判定になる。 もしもエクシリア世界の理が同じであるのなら、俺はカウンター攻撃を仕掛けたことになった。 俺はオマケシナリオまでゲームの全編を見ているんだ。エクシリア英雄伝の内容が現実に反映されるのであれば、俺はきっと魔将軍とも戦えるだろう。「ハハハ、何てことはないな……」「何だと、貴様!?」 そういやゲーム内において、俺はマステルにカウンター攻撃を繰り出していた。  今よりもずっとレベルを上げていたけれど、確殺する手段がなかった俺はカウンター攻撃を選択していたんだ。「かかってこいよ? 俺はお前なんぞに負けんからな!」 とりあえず、挑発しておこうか。愚かにも乗ってきてくれたのなら、俺のターンは続く。「かすり傷を与えただけで粋がるなよ!?」 やはりプライドの塊かもな。安い挑発にマステルは乗ってくれるらしい。 再び、殴りつけるモーション。何度も見たその攻撃であれば、合わせられるはずだ。「実は脳筋なんじゃねぇの!?」 素早く回避し、俺は愛剣を振る。あわよくば腕を斬り落としてやろうと。 刹那に感じる。肉を裂いた感触。スパッと抵抗なく長剣が振り抜けていた。「ぐぉおおおおぉぉっっ!」 雄叫びのような叫声が轟く。 俺は狙い通りにマステルの左腕を斬り裂いている。切断には至らなかったものの、先ほどよりも明らかに深く斬っていた。 けれど、その傷が致命傷であるはずもない。この戦いを終わらせる攻撃にはなっていないはずだ。「やっぱ、威力は上がってる……」 カウンター攻撃に確信を得た。威力倍増効果は明確に
last updateDernière mise à jour : 2026-08-25
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044 俺の実力は

「倒した……?」 実感はない。しかし、倒れ込んだマステルを見る限りは明らかだった。『レベル36になりました』 疑念を払拭したのはレベルアップの通知である。  経験値が入ったってこと。それは俺がマステルを倒したことを意味していた。『スキル【ブレイブシールド】を習得しました』 続いてスキルの習得。ブレイブシールドはアクションゲームに必須ともいえる防御スキルだった。 実行時に現れる光の盾は物理だけでなく、魔法攻撃をも防ぐことができる。「何だか分からんけど、俺はまだ生きているんだな?」 流石に違和感ありまくりだ。  所持スキルやリィナの退魔封滅陣にて威力を増幅していたけれど、それは決して火を噴くようなことにはならない。 烈火無双の使用制限中であった俺が、魔将軍を相手に勝利できるはずもなかったのに。「倒せたのは前倒しとなった期間のせいか?」 真相は不明だ。けれど、現実に倒している。 ゲームと大きく異なるのは開始時期。魔将軍もまたレベルが上がったりするのかもしれない。二年という期間が前倒しになったことで、マステルは充分な成長が成されていない可能性があった。「ルカ!!」 考え込んでいると、愛しきリィナの声がした。 全て彼女のおかげだ。  リィナがいてくれたからこそ、俺はマステルに勝てた。駆け寄ってくる我が天使を迎えるべく、俺は両手を拡げている。「リィナ!!」 飛び込んできたリィナを受け止めていた。  左肩が割と痛むけれど、今は痛みよりも勝利の実感を味わいたい。大好きな人と抱擁を交わし、生きていることに喜びを見出すだけ。「凄いよ、ルカ! 魔将軍って魔国の主力でしょ!? 倒しちゃうなんてビックリした!」 リィナはかなり興奮しているな。まさに惚れ直したんじゃないか?  なにせ俺は敵将を一人倒してしまったのだから。「退魔封滅陣のおかげだよ! あれがなきゃ倒せなかった!」「その前から斬り裂いてたでしょ! 
last updateDernière mise à jour : 2026-08-26
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045 夜のシミュレーション

 魔将軍マステルの遺体をアイテムボックスへと回収し、俺たちは再び旅路へと戻っている。荒野での野宿は危険とのことで、夜通し馬車を走らせて小さな町へと到着していた。 まあ、早い話が御者の彼女はここで少しばかり休憩を取りたいらしい。「昨日は本当に助かりました。本来なら私が戦わねばならないところを……」 今さらなのだが、御者は昨日の戦闘について謝罪している。別にそんなことを求めてはいないというのに。「君のせいじゃない。それに結果が全てだ。俺たちは全員が無事なんだからさ」「いやでも、左腕に怪我を……」「一応はヒールで治した。大きな街へ行けばハイヒールをかけてもらえるだろう」 ヒールさえかけておけば問題ない。痛みや傷跡はハイヒールをかけてもらうまで我慢するしかなかった。「ルカの言う通りよ。無事なんだから気にしない。どうして、そこまで責任を感じているのか不思議なくらいよ」 リィナが補足的に言った。なぜに責任を感じているのかと。「いやその、昨晩はお楽しみいただけなかったみたいで……。左腕の痛みで何もできなかったのかと……」 瞬時に顔を赤くするリィナ。御者が言わんとしていることを理解したらしい。 まあでも、それこそ責任を感じる必要はないな。  何しろ俺たちは昨晩も試みていたのだ。しかし、我が巨槍は死んだ芋虫であるかの如くグッタリとしたままであり、興奮状態の脳内とは裏腹に機能しなかった。 つまるところ、御者さんに責任はなく、相棒の冬眠が原因なのだ。「つつつ、疲れちゃったからなぁ! 別にいつでもできるし!」「そそそ、そうね! いつでもできるもの! ハハハハ!」「はぁ、そんなものですか……。経験がないものですみません」 俺もねぇよ。  ついでにリィナも。 だから、余計な気は回さないでくれたまえ。御者台で仮眠を取るとのことで、俺たちは町にある食堂へと入っていた。 軽く酒でも呑んで過ごしましょうかね。一応は成人したのだし。「ルカ、非常にマズいことになって
last updateDernière mise à jour : 2026-08-27
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046 良くない報告

 十日が過ぎようとしている。 正直に疲れ果てていた。夜は一定時間の演技が求められていたし、魔物だって現れる。  その都度倒していたのだから、疲労が蓄積しないはずもない。「フィンの奴、どれだけ急いで来たんだよ」 こうなると俺の貴族証を手に入れたフィンの行動が気になってしまう。 祝福の儀を終えて、直ぐさま向かったとしてギリギリなのだ。貴族証を手に入れたのは偶然かもしれないが、伯爵家の人間であるというのに祝福の儀の当日に街を出たとしか思えない。「時間操作はやはり有能みたいだな」 普通に移動しているはずがない。馬に跨がり、駆けるスピードを早巻きにしたはずだ。 リィナの退魔封滅陣でも分かるように、加護として与えられたスキルは過剰な力だと思い知らされている。どれもゲームではレベル100で覚える最強スキルだから当たり前かもだけど。「ルカ! 皇都ミラグレイスが見えてきたよ!」 無作法にもリィナは窓を開けて、顔を出している。 とにかく馬車での移動は暇なのだ。もしも不能状態でなければ、アレばかりしていたと思えるほどに。「やっとか。宿で休みたいところだな……」「フィオナ皇女殿下に謁見してからよ。それに大聖堂でハイヒールを施してもらわないと」 俺の左肩の負傷をリィナは今も気にしてくれているようだ。ハイヒールは小さな街にいる司教や司祭では唱えられないからな。 しばらくして馬車は街門を通過。サンクティア侯爵家の名を出せば、余裕で通過できている。やっぱ上位貴族様バンザイだぜ。「お客さん、これにて依頼完了です。長旅、お疲れさまでした」「ありがとう。少し色を付けておいたわ。帰路も危ないだろうから気を付けてね?」 半分は手付けとして払っているみたいだが、リィナは無事に到着したお礼として残金にプラスして支払ったらしい。「お嬢様のお子様が早く見たいものですね? その折にはまたご指名くださいませ」「あらやだ。気が早いのね?」 リィナは満更ではないような顔だ。実際には一度もしていないというのに。「あれだけ励まれたのですから。旦那様は強くて格好いい。羨ましいです!」「オホホ! そうなの! ルカは最高の旦那様なのよ!」「ホントですね! 夜の方も凄いみたいで!」「アハ……アハハハハ……。そうね……」 あまり調子に乗るものじゃないな。  素に戻るリィナを見るや、
last updateDernière mise à jour : 2026-08-28
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047 新たな世界線を

「もちろん、絶望的となったシリウスだよ」 絶望的だって? それほどまでにシリウスは落胆するってことか?  愛する人が手に入らないと知ってしまった彼とは絶対に相容れないのかもしれん。「アークライトから奪った方が運命は派手に動くんじゃねぇか?」「ルカ、よく考えて欲しい。運命と一言で片付けるのは簡単だ。しかし、運命とは生きとし生けるもの全てに影響を与えている。ルカでさえ派手に動くと考えるなら、世界的な影響は計り知れない。魔将軍マステルが失われただけで、僕たちは決断を迫られているんだよ? 強者の運命を背負うことは世界が激変することなんだ」 いや、それは俺も分かってるよ。だからこそ、シリウスを退場させるより、無関係であったアークライトの運命を背負ったらどうかと意見しているんだ。「どうしてシリウスの方が良いと考える?」 選択ミスなどあり得ない。だから、俺は詳しく聞いて判断しよう。  司教様の運命を背負ったときとは異なる。大国の王子殿下は影響力が段違いらしいし。「どちらの影響力も半端ないけどね。いずれにせよルカの人生は激変する。生まれ育った家だけでなく、家族を捨て、王族として生きる覚悟があるのかどうか。他者の運命を背負うということは単なる変化ではない。改変と呼ぶに相応しい新たな世界が再構築される。過去と現在までを捨て、未来にのみ生きるということ。それがルカに求められる覚悟だ」 やはり簡単なことではないみたいだ。  俺はこれまでの人生を捨てる覚悟がなければ、激変する世界に対応できないのだという。「俺の記憶はどうなる?」「君は使用者だからね。今までの記憶にプラスして、世界にとって都合の良い改変された記憶が流れ込むだけだ。だからこそ、辛くなる。父や母が他人と認識する中で、君には元の記憶が残っているんだ。逆にシルヴェスタ王はルカのことを息子だと認識するけれど、君の中の記憶はシリウスの記憶。本当に父だと思い込むのは難しいだろうね」 なるほどな。要は信頼できる家族が一人もいなくなるってことか。だけど、俺は現状でもそれなりの覚悟を決めている。愛する人がいるのなら問題ないと思う。「リィナはどうなる? 俺は彼女なしでは生きられない」「妬けちゃうなぁ。リィナが羨ましいよ」「真面目に答えろ。俺は真剣なんだ」「ま、そうだね。僕としても世界が第一であるべきだ。それでリ
last updateDernière mise à jour : 2026-08-29
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048  生きた証し

 目が覚めると、肩と足の痛みが引いていた。  どうやら女神との邂逅時は本当に時間が止まっているらしい。誰にも驚いた様子はなかった。「ルカ、大丈夫?」「ああ、治ったよ。流石はハイヒールだな……」 大司教様に礼を言ってから、俺たちは皇城を目指す。 喫緊の問題といっても、俺たちの目的はリィナの病状を緩和させる術を探すこと。錬金術士ミリア・マルカリオンに会い、薬を錬成できないかと頼み込むことだった。 俺は女神ネルヴァの意向をリィナに伝えている。 既にアークライト殿下が戦死する未来はなくなったこと。それにより戦力が大幅ダウンしてしまうこと。更にはフィオナ・イリア・イステリア殿下を口説かねばならないことまで。「反対、反対! 絶対に反対! どうしてルカがシリウス殿下になって、フィオナ皇女を口説かなきゃいけないのよ!?」 想像通りの現実である。  リィナが賛成してくれるはずもなかったけれど、俺は伝えるしかなかった。あとで半殺しにされるよりも、絶対に良いと思うし。「他に手がないらしい。世界を救うこと。それは俺たちの使命なんだ。それにリィナは現在のリィナとは異なる。俺が王子殿下だと認識し、俺を敬う立場になっているはず」「私はどのような世界になったとして、ルカが好き。誰よりも愛されたいと願っているのに、そんな世界は受け入れられないわ」 リィナの言い分は理解できる。 彼女は俺を愛しているから。婚約すらしていないというのに、操を捧げようとした。その覚悟は簡単に覆るものではないだろう。「リィナ、俺だって辛いんだ。もし仮に、俺がシリウスにあの呪文を使ったなら……」 俺は覚悟を示すだけ。リィナだけが失う世界線ではないってことを伝えるだけだ。「現在の家族や故郷の知り合いは全員が俺のことを忘れてしまう……」 リィナは息を呑んでいた。  俺は孤独な世界に身を投じる。  偽りの記憶を与えられ、シルヴェスタ王や王妃様を父と母と呼ぶしかない。愛されたはずの家族とはもう会えないんだ。「ルカ……」「分かって欲しい。たとえ世界がどれだけ変わろうとも、俺にとっての一番はリィナだ。絶対に君を手に入れるし、俺はその世界線でも君を愛すると誓う」 これ以上の言葉は絞り出せない。  仮に収まる形が異なったとして、根底にある感情に変化はないのだと。俺だけがこの世界線の記憶を持ち続
last updateDernière mise à jour : 2026-08-30
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049 フィオナ皇女殿下

 私とルカはミラグレイス皇城へと来ています。今は親書を手渡して、皇国側の応答を待っているところです。 座っているだけなのに、吐ききれぬ溜め息が何度も零れてしまう。 私はルカの言い分を受け入れていました。けれど、全てを整理できたわけじゃない。ネルヴァ様の指示によると、ルカがフィオナ皇女のものになる可能性がある。 フィオナ殿下を騎士学校に入学させるためとはいえ、私にとって納得できる理由ではありません。「女神様は何と惨い話を……」 思わず女神様の命令に反するようなことを口走る。 ルカもネルヴァ様も世界のことを第一に考えた結果でしょうが、ルカは私が生きている理由ともいえる人。私は彼を失いたくありませんでした。 新しい世界線の私はまともに戦えるのか分からない。  もし仮に目と鼻の先でルカとフィオナ皇女がイチャイチャしたとすれば、正気でいられる自信がないわ。「お待たせしました。こちらへどうぞ……」 人知れず悩んでいると、執事が私たちを迎えに来てくれます。どうやら、フィオナ皇女殿下の準備が整ったみたいです。「ま、堂々とぶつかるだけよ。別に私が側室と決まったわけじゃないもの」 うん、それだ。  皇女殿下って肩書きだけで萎縮してたけど、私だって侯爵令嬢だもの。 先に出会っているのだし、何なら愛し合っている。フィオナ皇女こそ側室で我慢してもらえばいいのよ。 心を強く持つ。  とにかく前向きに考えなきゃね。後から現れた横恋慕皇女には側室で我慢してもらいましょう。 案内されたのは謁見の間ではありませんが、調度品に溢れた豪華な部屋。奥側のソファにフィオナ皇女は腰掛けていました。「姫殿下、初めまして。俺は勇者のジョブを得ましたルカ・シエラ・アルフィスと申します」 まずはルカの自己紹介。少しばかり声を張ったように聞こえたのは、そう名乗ることが少なくなっているからでしょう。 シリウス殿下の運命を背負うと決めた彼はルカ・シエラ・アルフィスであることを再確認しているかのようでした。「
last updateDernière mise à jour : 2026-08-31
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050 末永く

 リィナが皇城を後にしてから、俺は聞いていた通りに歓待を受けていた。 イステリア皇や皇妃様たちと夕食を共にし、宛がわれた超豪華な寝室へと来ている。そこは巨大な来賓室であって、めちゃデカい浴槽まで完備していたんだ。「リィナも意地張らずに、好意を受けていたら良かったのにな……」 十人くらい眠れそうなベッドに横たわる。 リィナがいない夜は久しぶりだ。どうせ何もできなかっただろうけど、それでも彼女のことが恋しくなってしまう。 ウトウトとしていると、不意に部屋の扉がノックされていた。「あ、はい!」 俺が応答するや、即座に客間の扉が開かれている。加えて、思いもしない人物が部屋に入って来たのだ。「フィオナ殿下……?」 何の用だろう。  俺たちの要件は既に伝え終えたはず。だから、宴会のあと俺の元を訪れる理由が彼女にはなかったというのに。「失礼いたしますわ。少しお話がございまして……」 俺は今さらながらにシエラの話を思い出していた。 簡単にヤれるわ――。 えっと、今思い出すことか?  いや、でもまさかな……。 無意識に鼓動が高鳴る。だってさ、部屋に入ってきたフィオナは明らかにナイトウェアであり、その上にガウンを羽織っただけなのだから。 ベッドから飛び起きて、彼女を迎える。  一応は礼儀が必要だ。まだ俺は子爵家の長男でしかないし、彼女は施政者の娘なのだし。「ああ、ベッドでよろしくてよ?」 どうしてか、立ち上がろうとする俺を制止して、フィオナは俺の隣へと腰掛けた。 流石に視線のやり場に困る。  何を考えて超薄手のワンピースを着ているのか分からない。滅茶苦茶に透けて見えるんだけど……。「ななな、何用でしょうか?」 落ち着け。リィナを裏切るなんてできないし、そもそも俺の相棒は役に立たん。何も起きるはずがないんだ。 隣に座ったフィオナの髪が俺の腕に触れる。  美の女神イリア様の色を映したかのような空色をした長い髪。ランプに照らし出される彼女はやはり美の女神の使徒だ。息を呑むような美しさが彼女にはあった。「そんなに緊張なさらなくても。実をいうとルカ様に興味がございまして、邪魔……いえ、聖女様にはご退場願いましたの」 やはり俺とリィナを離ればなれにしたのは彼女の意志。俺に興味があるからだという。「興味……ですか?」「ええ、わたくしはイリ
last updateDernière mise à jour : 2026-09-01
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