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All Chapters of PLAYER: Chapter 21 - Chapter 30

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1st stage:08

 ジリリリーンッッ!! 今度もまた、しつこく鳴り続けるのだろうか。 さっきは電話が切れるまで、かなり時間が掛かっていた。今回も同じくらいの時間が掛かるのかと思うと、どうにも気が滅入ってしまう。情けないことに自然と瞳に浮かぶのは涙で、幾度となくこの状況を否定しようと頭を振るが、尚も状況が変わることは一切無い。「アアアアアッッッッ!!」 遂に耐えられなくなったのだろう、乱暴に受話器を持ち上げると、電話の向こう側に居る相手に対し、勢いよく怒鳴りつけた。「いい加減にしろって言ってんだろ!!」 するとどうだろう。始めに取った時とは異なり、無反応だった受話口から雑音で乱れた音声が流れてきた。『……A……ランク……ステージ……「雨月マンション」……』「え?」 機械の自動音声のようなそれは、此方の同様などお構いなしと、更に言葉を続けていく。『へ、ようこそ……』 呆気にとられ口を開けたまま固まっていると、声は次々に言葉を続け、一方的に内容を伝え続けるようだ。『あなたの……役割……は、夜間……臨時……管理……人、です。……制限時……間……は、三日間。クリアの条件は……三日以内に、すべて……の……依頼を、完了……し、……業務……進歩率……を、百……パーセント……に、……する、こ……と……』 何故、そうしようと思ったのかは分からない。ただ、この言葉を聞いた後、無意識に視線を向けたのはコンクリートの壁で。「何だ? これ」 目に付いたそれに手を伸ばし触れると、壁から剥がしまじまじと見て顔を顰める。「名簿?」 記憶が確かならば、さっき確認したときはこんな紙なんて貼られてなかった。しかし、今は確かに、黄ばんだ紙が目の前にある。そこに書かれている内容は、この建物の情報のようで、目を通していくと今まで把握出来ていなかった新しいものが幾つもあることに気が付いた。『……遵守しなければならない事は、……壁にある紙を……ご覧、くだ、さい……。それでは、よろ、し……く……おね、が、い……しま、す……』「あっ
last updateLast Updated : 2026-09-02
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1st stage:09

「ふわぁぁぁ……」 正確な時間は分からないが、数字が時を刻み始めるまでに起こったことが多すぎて感じる疲労。日常に戻れたと言う安堵から零れ出た欠伸は大きく、気を抜くと直ぐに瞼が閉じてしまいそうになる。軽く頬を叩いたり、太ももを抓ったりしながら睡魔に抗うのだが、どうにも戦況は芳しくない。「駄目だ。無理……」 段々睡魔の方へと軍配が上がりそうになってきたことで慌てて椅子から立ち上がると、携帯と財布を手に取り管理事務室を出た。「確か、外に自販機があったはずだよな?」 持ち場を離れる事に抵抗がなかったわけじゃ無い。それでも、感じた喉の渇きを癒やすための飲み物がどうしても欲しくなり、行動を起こす事を決める。しっかりと施錠されていたドアを開き、外へと一歩踏み出すと、生ぬるい風が頬を撫でる。「あ。止んでる?」 言葉の通り、昼からずっと降り続いていたはずの雨が、いつの間にかか止んでいた。今は傘を差さずとも全身が濡れることは無いので一安心だ。「湿気、すご……」 その替わり、全身にまとわりつくようになったのが空気に混ざる湿気で。湿度が高いせいか、立っているだけでじんわりと汗を掻くのだから、気持ち悪くて仕方が無い。 右を見て、左を見て、右を見る。無意識にそれを行い見つけた背の高い金属性の箱。足早に駆け寄ると、機械の中の明かりによりぼんやりと闇の中に浮かび上がる商品のラベルをさっと確認していく。「うーん」 どうやら、この場所に設置されている機械は、有名な飲料メーカーの持ち物ではなく、複数のメーカーが出している飲料が一つに纏められた自主管理自販機だったようだ。残念ながら期待していた商品が無かったことに思わず肩を落とし溜息を吐いてしまった。「まぁ、いいや」 それでも何かしらの水分が得られることは素直に有り難い。財布の中を漁り小銭を取り出すと、商品サンプルの下部に表示されている金額の中で条件にあうコーヒー飲料のボタンを押して缶を入手する。よく冷えた金属の入れ物は、外気に触れると直ぐに汗を掻き始める。火照った身体を冷やすために、小さな缶を首に当て来た道を戻る途中で、ふと、あることに気が付いた。「そう言えば、外灯」 雨が止んだことで見える景色の印象が変わったのかと思ったが、どうやらそれだけでは無いらしい。相変わらず人の気配が感じられる訳では無いのだが、それでも消えていた
last updateLast Updated : 2026-09-02
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1st stage:10

「待ってる間、ゲームでもしとこうかな」 本なんて普段マンガくらいしか読まないし、単行本を持ち歩く事はしないから当然カバンの中に在るはずもなく、かといってこれといった趣味も無いため、結局は暇つぶしの方法がゲームをすることくらいしか思いつかない。 携帯端末を取り出し、昼間に新しいキャラクターを迎えるチャレンジをしていたゲームを起動すると、ロードが終わるまでぼんやりと流れるアニメーションを見る。漸く画面にタイトルロゴが表示され、STARTボタンが押せるようになると、自然と口元がつり上がる。「ふう」 昼間の結果は散々だった。ただ、このピックアップは本日から始まったものではある。開催期間にまだまだ余裕はあるので、メインストーリーとイベントを熟していけば、期間中にいくらかは無課金でもガチャを回すことが可能だろう。 サーバーへのアクセスが開始されたことを示す【Now lording】の文字。画面の隅では、マスコットキャラクターがくるくると踊りながら待機しているユーザーに退屈を感じさせないようにと楽しませている。暫くその画面を眺めながら、口の開いた缶の中身を飲んでいると、ここで予想外の出来事が起こってしまった。「……え?」 Now lordingが消え、画面が一瞬真っ白になった瞬間だ。「嘘だろ!!」 突然真っ黒になった液晶画面。何が起こったのか分からず保護シート越しの画面を高速でタップするのだが、一向に携帯が反応することは無い。「何で!?」 これはバグだろうか? つい数秒前までは正常に動いていたはずの機械に裏切られ、軽い絶望に襲われながらも、必死に原因を探ろうと藻掻く。「げっ!」 ただ、幸いなことに、どうしてそうなったのかという原因は直ぐに見つかった。「電池ぃぃっっ!」 電源ボタンをおしたことで表示されたのは大きな電池マーク。残量が無いことを示す赤いラインが、電池マークの下部に細く表示されている。流石にこうなってくると非常に拙いと感じるのは、現代人の性だろうか。これを機にデジタルデトックスをだなんてそんなことは一切考えられるはずも無く、慌てて席を立つとカバンの中を漁り充電器を取り出し配線用差込接続器を探す。「うあぁあ……」 机の近くにある差し込み口は、既に全て埋まってしまっている。蛸足配線のテーブルタップまで全て埋まっているため、残念ながら充電器を
last updateLast Updated : 2026-09-03
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1st stage:11

「これって」 一体いつから中身が回収されていないのだろうか。最早引き抜くことさえ困難に思えるほどみっちりと詰まった紙の束を見て、嫌な予感が過ぎり飲み込んだ唾。 それでも、この紙束の中には欲しいと求める情報がある可能性が非常に高い事も分かってはいる。「…………よし!」 意を決してポストへ手を伸ばすと、適当に掴んだ一通の封書を思いっきり引っ張ってみた。「うわっ!!」 無理に隙間を埋めていたことが悪い方に働いたらしく、一枚引き抜いた時の反動で、大きく後ろに傾く身体。足を踏ん張りなんとか転倒を回避すると、やっと手に入れたアイテムをまじまじと眺める。「化粧品メーカーのDMか?」 料金後納郵便のため、この封書がいつポストに投函されたのかは不明。厚みは思ったよりあるが堅さはそれほどなく、軽く振っただけで大きく湾曲してしまう。「まぁ、こんなこと気にしても仕方ないか」 この辺りは特に重要な情報では無いため、中身にこれ以上の興味は湧かなかった。そんなことよりもまずは住所である。 他人の個人情報を勝手に見る事に躊躇いはある。ただ、今の状況を考えると、少しでも得られる情報は多い方が有り難いのが正直なところ。「ごめんなさい!」 誰も居ない空間で、ポストに向かってそう叫ぶと、覚悟を決めて宛名の書かれたシールを確認する。 「…………え?」 しかし、そこにあったものは予想とは全く逆のものだった。「住所が……消えて……る?」 確かに宛名シールには文字情報が印字されていた形跡はあった。ただ、不思議なことにその文字は、酷くかすれて判別が不可能になってしまっている。 それは何も住所だけではない。郵便番号や名前に関しても文字が掠れ、歯抜けになってしまっているため、元々はなんと書いてあったのかを瞬時に把握することは不可能だ。「他は!?」 しかし、ここで諦めたら何一つ情報は得られないだろう。個人情報がどうだとか、そんなことを言っている場合では無いと自分に言い聞かせ、一つ一つポストの中から紙や封筒を引き抜いていく。「これも駄目、これも見えない、これも……」 次々にポストの外へと出てくる大量の配達物で個人情報が書かれている物だけを分別し、一つ一つ確認していくのだが、どれもこれも同じように個人を特定出来るような情報には欠如が見られる。不可解なのは情報の消え方で、不規則に文字
last updateLast Updated : 2026-09-04
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1st stage:12

 紙に書かれていた規則では、この時間に掛かってくる電話の内容は、何かしらの【依頼】ということになっている。一体どういうお願いをされるのかが分からないため警戒してしまうのだが、老女は疲れたような声でこう答えた。『申し訳ないんだけれども、家の鍵を入れた牛乳箱をね。エントランスに置き忘れてるみたいなのよ』「牛乳箱……ですか?」『そう』 エントランスに牛乳箱。果たしてそんな物あっただろうか? 記憶を辿ってみるのだが、全く見た覚えが無く首を傾げる。『管理人さん。お手数をおかけして悪いんだけど、その牛乳箱を持ってきて貰えないかねぇ』 声の感じからすると、どうにも切実な頼みに聞こえてくる。とは言え、本当にエントランスに牛乳箱があるのかどうかは疑わしいところ。「少し待っていてくれますか?」 ひとまずは牛乳箱がそこにあるのかと言うことを確認したい。そう老女に告げると、電話を繋げたまま受話器を置き、管理事務室を出てエントランスを見渡す。「あ」 玄関へと歩いて行くと、隅の方に寄せられた牛乳箱が一つ。邪魔にならないようにと誰かが片付けたのだろうか。中身の無い空っぽの箱には黒いマジックで【101】と書かれているようだ。「本当にあったわ」 回収を頼まれた物はこの箱で間違いなさそうなので、取りあえずそれを持って事務室へと戻る。「牛乳箱、確かにエントランスにありました」 そう報告すると、電話の向こうから老女が安心したように『良かった』と漏らす声が聞こえてきた。『すいませんが、これを届けてくれないかねぇ』「はぁ」 勿論、配達自体はそれほど大変な作業でも無いため引き受けることは可能だ。「これって、朝に届けても良いやつですか?」 ただ、時間を考えると真夜中に建物の中をうろつきたくないという気持ちの方が勝ってしまい、どうしてもその申し出を躊躇ってしまう。『悪いんだけれども、朝に使いたいから、できるだけ早く届けて貰えると嬉しいんだけど……』「はぁ」 言われて確かにと納得は出来た。この建物に来る牛乳の配達の時間が何時なのかという正確な時間は不明だが、彼女の言い方からすると早朝である可能性は高い。だとすると、それよりも前に牛乳箱が持ち主に元へと戻っていないと不都合が生じてしまうため、早めに届けて欲しいという依頼は確かに利にかなっている。『それに、鍵が……』「あ。そ
last updateLast Updated : 2026-09-05
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1st stege:13

 非常にスッキリとしない一時間は、思った以上に長く感じられてしまう。 相変わらず監視モニターに変化はないし、管理事務室の中で事件が起こると言うわけでも無い。時間帯が時間帯のため訪問者は当然ゼロ。玄関も施錠してしまっているので猫一匹、紛れ込むことも難しいだろう。 変化があるとすれば、いつの間にか硝子に貼り付いた一匹の蛾に目がとまる。部屋の中に居るわけでも無いためそのまま放置をしているのだが、余り好みでは無い珍客に些か気分は悪くなった。 それでもこの虫を追い払うことをしないのは単純に、部屋の外へ出たいと思わないからである。「早く朝になんねぇかなぁ」 101号室から電話が掛かってきた時刻が午前二時。午前四時を回れば、徐々に朝の時間へと切り替わっていくのだろうが、大多数の人間が活動を始めるのは午前六時を過ぎてからだろう。仕事としては大体その頃を目安に次の人への引継ぎ準備を始めるだろうから、勤務時間としてはあと四時間近くは残されている。「はぁ」 一時間前までは、ゲームにログインしてストーリーを進めたりもしていたのだが、電池の消耗の問題と、何となくゲームをやる気持ちにはれなくて、今は止めてしまっている。 こうなってくると真剣に夜という退屈さと戦わなければならないのだが、そもそも起きた瞬間、訳も分からないまま業務がスタートしているのだから、そう簡単に娯楽が手に入るほど現実は甘く無い。「攻略方法でも見るか」 とは言え、目の前には、一応ネットに繋がるパソコンはある。スペック自体が最低限のものの為、ゲームアプリを起動するなどの使い方は望めないものの、情報を検索したり動画を見る程度のことは可能だろう。試しにサーチエンジンの入力フォームにゲームのタイトルを打ち込み検索してみると、切り替わったページに関連情報がずらりと表示される。「ふむ」 トップに表示されるものは、最もアクセスが多い情報なのだろう。有名な攻略サイトの名前が表示されているから間違いは無いはずだ。 適当にリンクをクリックし、興味の湧いた情報だけをかいつまんで見ていく。そうやってのんびりネットサーフィンをしている間に、時間はどんどん進んでいき、いつの間にか時刻は二時五十五分にまで到達。「はぁ」 あと五分もすれば、置物のような黒電話が煩く鳴り始めるのだと思うと、一気に気分が重く、憂鬱になってしまう。
last updateLast Updated : 2026-09-07
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1st stage:14

『自分で言いに行けりゃあいいんだろうが、現場に早めに入らないといけねぇんで、一分でも長く寝ておきてぇんだよ、こっちは。だからさぁ、管理人さん』 そいつらに、静かにしろって言ってきてくんねぇか? 依頼内容はそこまで複雑なものではない。男性の言っていることは尤もなので、そこは管理業務で対応する仕事としては理にかなっているように思える。「……はぁ」 そうは言っても時間が時間だ。こんな真夜中に人の迷惑を顧みない行動を行う奴なんて、絶対まともな神経をしているはずが無いだろう。『んだよ、その言い方は』 望んでいた返答を得られなかったと感じた男性が、口にする不満。『それがお前の仕事なんだろうが。舐めてんのか?』 一段と低くなった声に思わず背筋が凍り、無意識に声が裏返ってしまう。「そっ、そんなことは!」『じゃあ、注意しに行ってくれるんだな?』 容赦なく絶たれていく退路。結局、最終的に用意されている選択肢は拒否を許さない「イエス」。ただ一つとなってしまった。「……分かりました」 どうすることも出来ずそう答えると、電話の向こう側の男は嬉しそうに笑い声を上げる。『そうか、そうか』 欲しい答えを引き出せたからだろう。先ほどまで不機嫌だった男の声は、随分と軽く弾んで上機嫌な物へと変わった。『それじゃあ、よろしく頼んだぞ』 一方的に伝えたいこと伝え終わったら、あとはもう用がないらしい。もう寝ると言い残すと男は勝手に電話を切ってしまった。「あっ」 電話が切れる寸前に聞こえてきたのは暢気な欠伸の音で。彼はきっとこの後床に就き、朝まで目覚めるつもりは無いのだろう。「……はぁ」 話す相手が居なくなってしまったことで役割を終えた受話器を戻すと、一度廊下を見て溜息を吐く。 依頼を受けた以上、頼まれたことは実行に移さねばならない訳で。非常に気が乗らないではあるのだが、仕方が無いと気を引き締める。 持って行く物は必要最低限。貴重品と連絡を取るための手段。念のための懐中電灯だけを持ち管理事務室の扉を開けて外へ。防犯のためにと鍵は施錠し、ノブを回して開かないことを確認してから廊下進んで行く。薄暗い廊下では電気の切れかかった電灯が、不規則に点滅を繰り返していた。 エレベーターの前に立つと上向きの矢印を押して暫く待つ。「…………ん?」 しかし、幾ら
last updateLast Updated : 2026-09-10
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1st stage:15

 銀色の鍵の中に確かに存在する屋上と書かれたアイテム。これにより、屋上へと上がるためには、そこに繋がるドアを開ける必要があるということが分かる。「…………」 もう一度303号室の扉を照らした後ゆっくりと階段へ移動し、手だけを動かして段上にある向こう側の境界へと光を向けると、そこに現れたのはみすぼらしい一枚のドアだ。「これ、開ける……のか?」 闇の中にぽつんと在る扉がまるで、地獄への入り口の様に感じて足が竦む。「音。確認出来なかったからもう良いかなぁ」 出来る事なら厄介毎には巻き込まれたくない。そう思ってしまうのは人間として間違ったことでは無いだろう。 確かに注意して欲しいという依頼は受けたが、電話を切ってからここに来るまでに、迷惑行為をしていた相手がその場に留まっている保証はどこにも無い。エレベーターが使えなかった以上、どこかですれ違っている可能性も考えられるだろう。「そういえば、エレベーター」 思いついた可能性を確かめるべくエレベーターへと向かうと、三階で止まっていたはずの機械はいつの間にか一階へと移動しているようだった。「何だ。じゃあ、屋上には誰も居ない……よな?」 犯人がその場を離れたのなら、注意する相手は消えてしまっているはずだ。嫌な思いをしてまで上のフロアに移動しなくて良くなったことに胸を撫で下ろすと、303号室へと小声で謝りエレベーターを呼び戻すために押したボタン。今度は素直に反応し、頭上の数字が切り替わっていく事に安堵を覚える。 この箱が三階に着けば今回のミッションは終わり。 そう思い気が抜けた瞬間だった。「…………ん?」 ポン。 突然聞こえてきた音に思わず肩が跳ねた。「え?」 一体どういうことかと懐中電灯を動かすと、再び聞こえてくる妙な音。 ポン、ポン。 普段ならば
last updateLast Updated : 2026-09-11
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1st stage:16

 見つかって欲しいと願ったわけじゃ無い。だからこそ、簡単に鍵が見つかってしまったことは非常に残念に感じ気が重くなってしまう。 鍵穴に吸い込まれていく銀色。それを眺めながら、口に溜まった唾を飲み込む。カラカラに乾いた喉を湿り気が通ると直ぐに感じるのは痛みだ。そこに混ざる鉄の味に自然と額に汗が滲んでしまう。 自分の鼓動の音がこれほど大きく感じることなど、生きている内にどれくらい在るのだろうか。この緊張感は決して心地好いものなどではなく、どちらかというと不必要なもので。 怖い。 ただそれだけが頭を占拠し思考を掻き乱す。「…………」 小さな音を立てて外れる錠。これで、こちら側と向こう側を遮る障害が一つ、消えたこととなる。「…………はぁ」 震える手でノブに触れると、ざらついた不快感に思わずそれを離してしまいそうになった。「うぅ……」 触れた感触が消えていかない。対して特徴の無い己の手を懐中電灯で照らしながら付いた汚れを確かめる。朽ちて剥がれやすくなった朱い鉄屑。それが汗に吸い付くようにして皮膚の上に留まり続け、まるで、細かく付けられた傷跡のように見えたことで、幻の中に棲まう痛みを感じてしまう。 今すぐここから逃げ出したい。 誰も助けてくれないという事実が、より一層心細さを引き立てる。 それでも仕事はしなければならない。 何故そう思うのかは分からないが、強い義務感がここから逃げ出す事を許さない。「……よし」 いつまでもここで留まっていたって仕方が無い。未だに扉に触れる事が怖いが、軽く確認さえしてしまえば【仕事をしなかった】ことにはならないはずだ、と。そう自らに言い聞かせゆっくりと扉を開く。 …………ギィ。 建て付けの悪いドアは、不快な音を立てて向こう側へと開けていく。それはもう、ゆっくりと、ゆっくりと。 そして、完全に完全と屋上の境界がなくなった瞬間、頬を撫でるようにして生温い風が通り過ぎていった。「……すいません」 まずは一声。灯りを向けながら声を掛ける。「誰か、居ますか?」 この時点で人の存在を確認出来るのならば、こちら側に来るように促し注意をすることが可能だろう。「誰か」 しかし、目の前に広がる闇の向こう側から帰ってくるのは、耳が痛むほどの静寂だけだ。「…………はぁ」 どうやらこれで問題は解決。とは、ならないようで、
last updateLast Updated : 2026-09-13
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1st stage:17

「いい加減にしてくれっっっっ!!!!」 遂に耐えきれなくなりそう叫べば、奇妙なことにあれほど五月蠅かったボールの音がピタリと止まった。「……はぁ……はぁ……」 額に滲む脂汗。緊張から乾いた喉が引き攣り痛みを訴える。まとわりつく湿度は依然として高く、嫌な意味で気持ち悪さに拍車をかけている状態で。そこに重なるようにして感じたのは、なんとも言えない程の吐き気を覚える強烈な臭いだった。「うっ……」 一体この臭いは何なのだろう。余りの臭気に思わず口元を押さえ吐き気を必死に堪える。逆流する胃酸が食道を焼き、痛みに滲むのは涙だ。 早くこの場を離れたいと願っても、中々上手く身体を動かすことが出来ない。それでも必死にドアにしがみつき、漸く建物の中へと移動したときだった。『どうしたの?』 直ぐ背後から聞こえてきた声。反射的に強張る身体が動きを止めてしまう。『もしかして、遊びにきたの?』 何も答えられず黙っていると、声の主が少しずつ此方へと近付く気配を感じ悲鳴が上がる。『もしそうだったら、うれしいなぁ』 気配が動く度、鼻を突く異臭も強くなる。それがまとわりつく湿度と混ざり合い、独特の臭気を放ち目眩がしそうだ。『だれも来ないから、つまんなかった。ねぇ、いっしょに遊んでくれる?』 そしてそれは、いつの間にか直ぐ後ろに立って返事を待っていた。『ねぇ。いっしょに遊ぼうよ』 遊ぼうよと言われても、そうだねなんてとてもじゃないが言えるはずが無い。背後のそれが期待している返事は分かり切っているが、その言葉を意地でも言いたくないと見せるのは必死の抵抗で。左手で口を覆い、絶対に振り返らないように注意しながら、少しずつ足を動かして前へ、前へと歩き出す。『ねぇ。遊ぼうよぉ』 此方が動く度、それも後を追うようにして一緒に付いてくるのが分かる。『ねぇ。遊ばないの?』 話しかけられる度、それが顔を覗き込もうとしているのが分かるのが恐ろしくて、徐々に視界が滲んでしまう。『ねぇ。聞こえてないの?』 指の間から零れる嗚咽は、非常に情けなくか細いものだ。『ねぇ。聞こえてるんだよね?』  それでも【ソレ】は、諦める事無く此方に話しかけ続けてきた。『ねぇ。聞こえているんだよね?』 足を動かす度にここに来た目的について考えてしまう。『ねぇ。聞こえているんだよね?』 受けた
last updateLast Updated : 2026-09-14
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